★50周年記念誌



  あいさつ

 ことし、金沢大学フィルハーモニー管弦楽団は創立50周年を迎えました。「半世紀」と口にするのは簡単なことですが、戦後の復興期から高度成長期、昭和から平成へと目まぐるしく変化する時代の中、数々の困難に直面しながらも歴代の先輩方によって素晴らしい音楽が絶えることなく生みだされ続けてきました。
  いままでに開かれた定期演奏会は60回。練習室の片隅に大切に保存されている歴代のパンフレットを手に取ると、当時の先輩方の熱い想いや苦労がひしひしと伝わって来ます。同じベートーベンの交響曲のプログラムでも、あるものは出演者名簿が1ページにも満たなかったり、あるものは1ページでは収まりきらず見開きになっていたり、時代を感じさせる広告が載っていたり‥・。使う譜面が同じでも、そこで奏でられる音色は全く違うものだったでしょう。しかし、演奏する人や背景とする時代が変わっても、それはベートーペンの交響曲であり、そして「金大フィルの音楽」なのです。学生という限られた時間のなか、古都金沢の街でさまざまな喜びや挫折を経験し、友情を育みつつ練習に励み、若々しい情熱で全てをぶつける金大フィルの音楽。それはいまも伝統として、わたくしたちまで引き継がれています。
  くわえて、いま、わたくしたちは、年2回素晴らしい演奏ホールで演奏会ができ、常に練習場が確保され、整備された楽器で演奏できる、このような恵まれた活動環境をあたりまえのように享受しています。しかし、それらは先輩方が創意工夫を重ね、莫大なエネルギーで生み出され、遺してくださった伝統の一部に他なりません。
  伝統ということばはとても抽象的なことばです。文章に置き換えるということは不可能なことかも知れません。しかし、それを節目ごとに何らかのかたちで未来に遺すことが、わたくしたちの使命です。まだ見ぬ、10年先、20年先の金大フィルのために。


          平成11年度団長    樽見 哲史

50周年記念誌表紙