cat  Jane −旅路の果てに− 


 Journey's End−旅路の果て荘−モードがその人生を終えた家の名前です。Norvalの牧師館で暮らした後、夫のユーアン・マクドナルドが病気でその職を離れることになり、モードが初めて手に入れた自分の家がトロントのダウンタウンの西の外れ、地下鉄のJane駅の近くに有ります。1935年から1942年までの7年間をここで暮らし、「パットお嬢さん」「アンの幸福」「丘の家のジェーン」「炉辺荘のアン」などの作品を出版しました。唯一トロントとPEIの両方が舞台になっている「丘の家のジェーン」の主人公、ジェーンの名前はもしかするとこここの道の名前から由来しているのかもしれませんね。

 オンタリオ湖畔の公園で Crowford's で買ったマフィンとコーヒーで遅めのランチのあと、旅路の果て荘を探しに行きました。Bloor St. westに出て西に向かい、Jane St.とのT字路を過ぎてすぐの細いOne wayの道に左折してなんとかRiverside Dr.に入ることができました。商店などの多い目抜き通りのBloor St.と違い、Riversaide Dr.は大きめのお屋敷の多いとても静かな住宅街でした。
  Yukaさんのサイトでモードの「旅路の果て荘」の存在を知った時、以前読んだ「丘の家のジェーン」を思い出しました。トロントの描写がいろいろ出てきますが、その中でトロントの郊外にジェーンがみつけた小さな石造りの家が出てきます。



 ジェーンがその家を見たのは五月の最後の週だった。ある夕方、母は新しい家へ引っ越したばかりの知り合いを訪ねていった。その家はハンバー川の岸にできた新開地にあり、湖水に近かった。

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 レークサイド・ガーデンズはいいところだとジェーンは思った。気に入ったわけはこの街路が曲がりくねっているからであった。親しみ深い道であり、家々は相手を見下した態度でお互いに眺め合ったりしていなかった。

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 ジェーンは念入りにそれらの家を眺めながら歩いていったが、通りの外れ近くの、湖水へと曲がりくねって続く道へ折れるところに、ジェーンはその家をみつけたのである。

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 それはレークサイド・ガーデンズにしては小さな家であったが、ランタン丘の家よりもずっと大きかった。灰色の石造りであり、開き窓があった−思いがけないところに美しくついているものもある−そして屋根板は焦茶色だった。家は谷のへりに樹木の梢を見晴らして立っており、すぐうしろに松の大木が五本そびえていた。
「なんて可愛い家でしょう!」と、ジェーンはつぶやいた。
 それは建てたばかりの新しい家で、芝生に『売家』の札が立っていた。ジェーンはひと回りして菱形ガラスの窓一つ一つをのぞき込んだ。家具がはいったらさぞ居心地がよさそうな居間、ドアを開けばサンルームに出られる食堂、それにまたとなく楽しい朝食の小部屋は薄黄色ではめ込みの戸棚があった。椅子もテーブルも黄色にしなくてはいけないし、くぼみ窓のカーテンは金と緑の中間の色にすれば、陰気な空模様の日でも日光のように見えることだろう。そうだ、これはあたしの家だ。

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L.M.モンゴメリ著 村岡花子訳「丘の家のジェーン」32章より(新潮文庫刊)


 

 「旅路の果て荘」がある「リバーサイド・ドライブ」とジェーンの見つけた家の「レイクサイド・ガーデンズ」は名前の雰囲気が似ていることもあって、もしかしたら、モードはジェーンの中で「旅路の果て荘」を描写したのではないかと想像していました。そしてその想像通り、「リバーサイド・ドライブ」はオンタリオ湖に向かって曲がりくねって降りて行く道でした。
 車をゆっくり走らせ、偶数の番地の並ぶ右手の家をずーとたどって見ていきました。そしてそこに「旅路の果て荘」が在りました。



journy'send



 個人の住宅なので敷地に入ることはもちろんできません。車を降りて道路からそっと写真を撮らせていただきました。夫のユーアンが牧師の職を離れる時にPEIへ帰るという選択肢もあったことでしょう。が、子供たちの教育のためとオンタリオに留まったという話を何かで読んだ覚えがあります。モードが初めて手に入れた“自分の家”。ジェーンに「そうだ、これはあたしの家だ。」という科白を与えた家。家を愛する沢山の主人公達を書いてきたモードがやっと手に入れた家が目の前に在りました。オンタリオのモードの足跡を訪ねた私のそぞろ歩きの最後にこの家に出会えてうれしいような、寂しいような複雑な気分でした。


 「旅路の果て荘」をあとにし、Riverside Dr. をそのままオンタリオ湖の方へ下っていくと道の右側の家が切れてHumber Riverに沿うようになりました。路肩に車を止めて渓谷の下の方にある川面を眺めながら、数枚の写真を撮りました。




river


 後でデジカメの写真を整理したところ、ちょうど下流から上流へ3枚の写真がつながりました。写真の左手の2棟のコンドミニアムのすぐ向こうには、オンタリオ湖がFreewayに隠れながらもほんの少しだけ見えていました。モードが「旅路の果て荘」に住んでいたころは、きっと何も障害物が無く、オンタリオ湖の青い湖水を眺めることができたのでしょう。川は緩やかにカーブして流れていて、中洲にも沢山の植物が茂っていました。右手の上流の方は、「旅路の果て荘」の裏手の渓谷になります。トロントの街は周囲に高い山は全く在りませんが、街全体が丘陵地帯で、なだらかな丘の坂道が沢山在りました。オンタリオ湖が近くても湖畔から意外とすぐ丘になっているので、川の下流域でも周囲は高い土手に囲まれた渓谷の雰囲気があるのでしょう。またもう一つモードの見た風景を心に留めて、この地を離れました。




Last Update: 12 Mar. 2000
冬☆ Leaskdale ☆ Norval ☆ Uxbridge   春☆ Uxbridge ☆ Leaskdale ☆ Uxbridge
夏☆ Leaskdale ☆ Bala   秋☆ Uxbridge ☆ Norval ☆ Jane


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