ピコ通信/第147号
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シックスクール対策
栃木県と宇都宮市の取り組み
シックスクール対策連絡会(宇都宮市) ■はじめに 「シックスクール対策連絡会」は、平成13年(2001年)にその基盤を立ち上げ、各省庁、県、市、専門家、NPO、市民団体等が主催する様々なシンポジウムや勉強会に足を運び、化学物質問題について学ぶと同時に、栃木県および宇都宮市の関係各部・学校等に資料や情報を提供してきました。 さらに、すべての児童・生徒が安心して学習できる学校環境維持のために、シックスクール問題に関する共通認識を図り、シックスクールからファインスクールへ向けての対策を講じることの重要性を伝えてきました。そして、より良い環境を整えるために「相談と提案」を重ねてきました。結果的に、県および市の教育委員会がマニュアルを作成し、さらにポスターが掲示されるようになり、シックスクール問題は学校だけの問題ではなく、社会への提案へと発展しました。 これまでのすべての取り組みがバックアップとなり、確実な「証拠」を待つことより「環境改善型予防医学」の視点から、すべての子ども達を守り育てようという機運が熟し、今年1月の乳幼児施設に関するマニュアルの作成に繋がりました。 また、平成20年度の行政の機構改革により、「子ども部」が新設されたことも大きな要因ではないかと考えます。 シックハウス症候群・化学物質過敏症を発症した児童・生徒とその保護者は、それぞれが学校での対応について学校長・養護教諭・担任等と話し合いながら、出来るところから取り組みを進めてきました。 ■栃木県および宇都宮市の取り組み―マニュアル等の作成について― 栃木県および宇都宮市は、すべての子ども達がより良い環境で心身ともに健やかに成長することを願い、シックスクールに関するマニュアル等を作成しました。 (1)栃木県教育委員会の取り組み 平成14年6月 県議会にて初めて「シックスクール問題」について質問 県教育委員会は対処するとの回答をされましたが、特に進展はありませんでした。 平成17年3月 県議会にて「学校におけるシックハウス対策について」質問 これを受けて「栃木県学校環境衛生対策検討委員会」を設置。検査データの分析や対応方法の検討を行う。 (委員 独協医科大学小児科助教授、栃木県医師会学校保健部会副会長、栃木県学校薬剤師会会長・副会長、栃木県立南那須養護学校長、栃木県立益子高等学校教諭、栃木県薬剤師会検査センター所長、宇都宮大学工学部建設学科助教授) 平成18年3月「健康的な学習環境のために―シックハウス対策マニュアル―」作成 検討委員会の報告と「学校環境衛生基準」に基づき、児童・生徒が健康で安心して学校生活が送れるよう、学校における日常管理や対応と学校での体制作り等に関するマニュアルを作成しました。シックハウス問題の対応には、教職員だけでなく保護者、地域関係者、児童・生徒本人の連携が必要であるとしています。 <配布先>県立高校・県立養護学校・県内小中学校・県立教育関連施設・庁内関係各部等 平成18年10月 養護教諭特別講座開催 <対象>県内の養護教諭約600名 「化学物質とこどもの健康」 講師 北里大学名誉教授 宮田幹夫氏 (2)宇都宮市教育委員会の取り組み 平成17年度 小中学校で実施される「保健調査票」の既往症の項目に、新たに「化学物質過敏症」を追加。自己申告による発症児童・生徒の人数を把握する。 平成17年10月 「シックスクール問題対策マニュアル作成委員会」設置 (委員 教育委員会内の関係課および学校長、養護教諭、保健所) 平成17年10月 「シックスクール問題対策アドバイザー会議」設置 (委員 宇都宮市医師会理事、アレルギー専門医、宇都宮市薬剤師会学校薬剤師、足利工業大学建築学科講師) 平成17年12月 「第一回シックスクール問題連絡会議」開催 発症児童・生徒の在籍する学校14校の学校長・養護教諭・発症児童生徒の保護者が、一堂に会し、各学校の取り組みや課題等について意見交換を行う。 平成18年1月 「第二回シックスクール問題連絡会議」開催 平成18年1月 宇都宮市保健所が「化学物質低減・シックハウス対策の手引き」作成(平成21年3月改定) <配布先>庁内関係各部に配布 平成18年3月 「シックスクール問題対策マニュアル」作成 市教育委員会は、化学物質過敏症の申し出のあった児童・生徒への対応のみならず、学校が把握していない患者が存在することや、本人・家族も気づかない場合のあることも視野に入れ、さらにすべての子ども達の健康影響を未然に防ぐことを考慮し、この問題を一部の学校の問題と捉えるのではなく、全小中学校の問題と捉え、学校内の化学物質低減などにより、より健康的な学習環境の整備に努めるためのマニュアルを作成しました。 シックスクール問題は、学校の新築・改築・改修等の施設整備の問題にとどまらず、学校施設の維持管理、極微量な化学物質に過敏に反応してしまう児童・生徒への配慮など、統合的な対策が必要であるとしています。また、この対策マニュアルを教育委員会や各学校等が有効に活用し、一人ひとりの児童・生徒が安心して学習できる学校環境づくりに努めたいとしています。 <配布先>市内小中学校・庁内関係各部等 平成18年9月 シックスクール対策連絡会主催による講演会開催 「今子供たちに何が起きているのか―シックスクール問題から―」 講師:弁護士/ダイオキシン・環境ホルモン対策国民会議事務局長 中下裕子氏 「シックスクール問題対策マニュアル作成の背景と今後の展開について」 講師:宇都宮市教育委員会事務局 学校健康課学校保健体育グループ 指導主事 横嶋 剛氏 (3)宇都宮市保健所および宇都宮市教育委員会の取り組み 平成20年9月 市議会にて「香料等自粛についてのポスター掲示」について質問 平成21年1月 「香料自粛のお願いポスター」 作成 化学物質による健康リスク低減のため、市民や学校来訪者への啓発や周知を目的として、香料等の化学物質に関するポスターを作成しました。<掲示場所>市内小中学校・保健所・公共施設等 (4)宇都宮市子ども部の取り組み 平成21年3月 市議会にて「乳幼児施設に関するシックスクール問題対策」について質問 平成21年8月 「シックスクール問題(化学物質過敏症等)に関する実態調査」を実施 平成22年1月 「幼稚園・保育所のシックスクール問題対応マニュアル―すべての子ども達の健康を守るために―」 作成(末尾参照) 乳幼児は、脳や身体が作られる発達期にあり、化学物質に対する感受性が高く、特に注意が必要と考え、未来を担う「すべての子ども達」がより安全に生活できる環境づくりを進めるため、予防を第一に考え作成しました。シックハウス症候群や化学物質過敏症などを正しく理解し、人の健康や環境へのリスクを低減することなどについて、乳幼児施設長や教職員、保育士等が留意すべき事項をまとめています。 教職員・保育士が基礎知識を持ち、共通認識を図ることと、園だより、保育だより等により保護者等に情報を提供し、理解を深めることにも言及しています。 <配布先>公立民間を問わず市内のすべての保育所71園、幼稚園49園、保育ママなど合計124箇所・庁内関係各部等 平成22年8月 シックスクール研修会開催<対象>乳幼児施設職員 「シックスクールについて」 講師 北里大学名誉教授 宮田 幹夫氏 *本マニュアルに関する記事が、毎日新聞に掲載されました。また、教育医事新聞では、全国初の「乳幼児施設に対するシックスクール対応マニュアル」として紹介されました。 ■取り組みに関する基本的な考え方 ―学校・行政とともに― 化学物質問題は、平成15年の環境白書にあるように、「人類や生態系にとって、化学物質に長期間曝露されるという状況は、歴史上はじめて生じている」問題です。 シックスクール問題・化学物質過敏症に関して未解明な部分が多いというその本質は、そもそも人体に関して未解明な部分が多いのだから当然と捉えています。科学的な証明は、実験デザインや様々な背景によっても結果は変わります。 このような現状の中、何よりも大切なことは、今苦しんで助けを求めている子ども達の声を聞き、必要な対応をすることと、すべての子ども達が認め合い助け合い、未来に希望を持つことの出来る環境を整えることだと考えます。さらに、発症した児童・生徒への対応のみならず、すべての子ども達の将来を慮り健康影響を未然に防ぐ予防を第一に考え、大人として人として責任を果たしていくという共通認識のもと、学校・行政とともに取り組んできました。 様々な子ども達が集まる場所が学校です。我子を守りたい一心で、行政・学校と対立すれば、我子の心を傷つけます。今まで楽しく通っていた学校の信頼していた先生と、自分の両親が対立する姿を見ることはどれ程悲しいことか…。化学物質過敏症を発症した児童・生徒の在籍する学校の教職員等が「面倒な子どもがいる、対応しなければならない」という意識で子ども達と向き合えば、「いじめ」などの二次的な問題を生み出しかねません。 また、場合によっては、「ちょっとくらい我慢できないの?」という問いかけが言葉の暴力にもなってしまいます。病気や症状その ものよりも辛いことは、病気や症状を理解されないことだと多くの子ども達は言います。子ども達を追い詰め、傷つけてはいけません。生きる希望を失わせてはいけません。そのためにも、学校・行政・保護者の連携は重要です。 発症した児童・生徒本人も家族も、多くの場合、発症するまで化学物質過敏症・化学物質問題を知りませんでした。ですから、被害者、加害者を超えて、これまでの自分たちの生活を振り返り、家庭の中を改善すると同時に、学校や行政等に対して「してもらうこと」ばかりを主張するのではなく、学校やクラス全体を考慮し、場合によっては子どもに学校を休ませる、除草剤の使用を中止するにあたっては草むしりに行く、教室の掃除をさせていただき、石鹸・水拭きだけで十分きれいになることを見てもらい納得してもらうなど、保護者も出来ることをしてきました。 現在、行政は周知を図ろうと様々に努力しているのですが、残念ながら十分とは言えません。人々の意識が変わるには時間がかかります。とはいえ、幾多の紆余曲折を経て宇都宮市が現況にあるのは、この問題に取り組むすべての皆様のおかげと深く感謝しております。皆様の取り組みが大きなバックアップになっています。今後も皆様のお力をお借りしながら真摯に課題に向き合っていきたいと思います。すべての子ども達の心身の健康を守るために・・・。 幼稚園・保育所のシックスクール問題対応マニュアル「すべての子ども達の健康を守るために―」 宇都宮市子ども部保育課 作成1 <マニュアルの目次> Tシックスクールに関する基礎知識 1.シックスクール問題とは 2.化学物質の定義 3.シックハウス症候群 4.化学物質過敏症 5.シックハウス症候群と化学物質過敏症の違い 6.代表的な化学物質 U.幼稚園・保育所におけるシックスクール問題の予防と対応 1.保育施設の新築・改築・改修等 2.施設内の環境について 3.園庭等の環境について 4.備品等の購入について 5.業者への対応 V.教職員・保育士等の意識啓発 1.幼稚園・保育所 資料1.改正建築基準法に基づくシックハウス対策の概要 資料2.保育環境チェック表 資料3.シックスクール問題(化学物質過敏症等)に関する実態調査結果 ※宇都宮市のHPで、「幼稚園・保育所のシックスクール問題対応マニュアル」で検索して読むことができます。 http://www.city.utsunomiya.tochigi.jp/dbps_data/_material_/localhost/kodomo/hoiku/sickscoolmanyual.pdf |