ピコ通信/第144号
発行日2010年8月23日
発行化学物質問題市民研究会
e-mailsyasuma@tc4.so-net.ne.jp
URLhttp://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/

目次

  1. EUが警告表示を義務づける 食品中の着色料が子どもの多動性行動に影響の可能性
  2. 環境省/エコチル調査の進捗状況 ユニットセンターの選定が終わり、いよいよ参加者募集へ
  3. スペイン/化学物質に過敏な若い女性が農薬散布に苦しんで助けを求めている
  4. 調べてみよう家庭用品(37)化粧品 (1)
  5. 海外情報:Beyond Pesticides  2010年8月18日 農薬による病気に関するデータベース
  6. 環境問題の動き
  7. お知らせ・編集後記


EUが警告表示を義務づける
食品中の着色料が
子どもの多動性行動に影響の可能性

 EUでは7月20日から、食品中(飲料を含む)の6つの合成着色料について、「この色素は子どもの行動と注意力に影響を与えるかもしれない」という表示をすることが義務付けられました。6つの合成着色料とは、以下のものです。
名前日本語名
Tartrazine (E102)
タートラジン
食用黄色4号
Quinoline Yellow (E104)
キノリンイエロー
日本では未認可
Sunset Yellow (E110)
サンセットイエロー
食用黄色5号
Carmoisine (E122)
カルモイシン
日本では未認可
Ponceau 4R (E124)
ポンソー
食用赤色102号
Allura Red (E129)
アルーラレッド
食用赤色40号

 この措置は、2008年のEU指令によって決定されていましたが、この7月20日から施行されたものです。
 これは英国食品標準局(FSA)が委託したサウサンプトン大学の研究報告に従うものであり、報告は6種類の食用着色料の摂取と子どもの多動症との関連を示唆しています。この報告によって、英国では、2008年にFSAが業界に対して自主的に使用を中止するよう、またEUに対して段階的に廃止することを勧告しました。英国では、これを受けて食品業界が自主的に使用をやめてきたという経緯があります。

■英サウサンプトン大学研究報告
 300人の子どもたちが任意に、3種類の中のひとつの飲料を与えられた。その飲料は子どもたちが日々摂取する添加物の平均と概ね一致するよう、複数の着色料と保存料(安息香酸)を混ぜたもの2種類と、添加物のない"プラセボ(偽薬)"1種類であった。
 子どもたちの多動レベルは飲む前と飲んだ後に測定され、最も高いレベルの添加物の入った飲料は、プラセボ飲料に比べて有害な影響を及ぼすことが分かった。
 この研究は、用いられた着色料と子どもの多動性を増やすことの関連性を示しているが、それが、ある特定の食品添加物に限られたものなのか、それともそれらの組み合わせによるものなのかは特定出来ていない。
この研究で多動性行動とは、over-activity(過活動)、不注意(inattention)および衝動性(impulsivity)の3つの行動が同時に起きることを意味している。

■研究報告についての情報
アポネットR研究会(注)のホームページから
http://www.watarase.ne.jp/aponet/index.htm
 地元の3歳児153人と8〜9歳児144人に、着色料・保存料を含んだジュース(mixA:1袋56g入りのお菓子2袋分相当の着色料、mixB:お菓子4袋分相当、保存料の量は同じ)を実際に飲んでもらい(左下表参照)、親や先生や第3者(心理職の人)が子どもの行動観察を行ってこれを点数化し、評価が行われた。8〜9歳児については、コンピュータによる客観的評価(編集注:注意力試験)も行われた。

英名(Eナンバー)日本名mixAmixB医療用
医薬品で
含有
一般用
医薬品で
含有
Tartrazine (E102)食用黄色4号 23598
Ponceau 4 R (E124)食用赤色102号 10086
Sunset Yellow (E110)食用黄色5号  
Carmoisine (E122)日本では未許可  
Quinoline yellow (E104)日本では未許可   
Allura Red AC (E129)食用赤色40号 00
Sodium benzoate (E211)安息香酸ナトリウム116721
出典:アポネットR研究会ホームページ
http://www.watarase.ne.jp/aponet/topics/0709topics/070903.html
「医療用・一般用医薬品で含有」の項はアポネットR研究会の調査

 その結果、3歳児では、mixAを摂取した群のみで多動傾向がみられたが、8〜9歳児ではmixA、mixBのいずれの摂取でも多動傾向が見られた。この結果を受け、FSAでは、多動傾向のある子どもを持つ親に対し、いくつもの添加物がふくまれる食品は避けるよう呼びかけている。
 ただ、今回の研究では統計学的有意差が十分認められなかった点、対象が子どもの行動・態度の変化を見るという点、またサンプルが小さく、具体的にどの着色料が影響を与えたかどうかがわからないため、一部の研究者からは現時点では関連付けることはできないとする意見も示されている。
注 アポネットR研究会:
 両毛地区(栃木県南西部の足利市・佐野市を中心とした周辺地域)の現場薬剤師たちが立場の違いを超えて薬剤師共通の問題を考える集まり。

■日本での使用実態は?
(本紙141号 調べてみよう家庭用品(35) 食用色素(着色料) 参照のこと)
 これら6着色料は、すべて合成着色料です。現在、日本では"真っ赤なソーセージ"などの過度な色づけが消費者に嫌われて、どぎつい色の加工食品は少なくなってきています。しかし、それでもまだ真っ赤なタラコや真っ赤な紅しょうがなどは、依然として売られています。
 今回、当会がスーパーマーケット店頭で調べてみたところ、菓子類、ジュース等飲料類などの子どもが食べることが多い加工食品には、天然系着色料が使われていることが多いことがわかりました。

表 食品中着色料の使用例
(化学物質問題市民研究会 2010年8月調査)
商品種類着色料
ふ菓子赤3、黄5、青2、カラメル
カステラ菓子赤3、黄4、青1
一口ゼリー黄4、黄5、赤102、赤106、青1
果汁入り飲料※黄4、赤102、青1、赤2、
(安息香酸Na)
えびせんべい黄5、紅麹
グミキャンディ黄4、赤102、黄5、青1
福神漬け黄4、赤102、赤106
紅しょうが赤102
※凍らせてアイスにするもの。
赤字:今回のEUの対象物質。
その他 赤3:米国等で禁止。赤106:諸外国で不許可。
青1:EUで禁止。赤2:米国で禁止。発がん性。

 EUが警告表示義務化した4着色料(2着色料は日本では未認可)については、大手食品メーカーは調べた商品中では使っていませんでしたが、中小メーカー製品で使っているものがありました。

 サウサンプトン大学の研究では、保存料の安息香酸も実験材料として使われています。安息香酸とADHDの関係については、特には考察されていないようですが、この物質はミトコンドリア※DNAを損傷する、アレルギーを引き起こす恐れがある物質でもあります。
※ ミトコンドリア: 細胞の中で、エネルギーを作り出している細胞内小器官。
 着色料、特に合成着色料(タール系着色料とも言う)は、昔から発がん性やアレルギー性が問題となってきた化学物質です。最近になって、それ以外にも子どもの神経・行動発達に悪影響があることが分かってきています。
 アポネットR研究会が調べたところ、医療用・一般用医薬品でこれらの着色料・安息香酸を含有する製品が、多数にのぼることがわかったということです(赤色40号除く)。
 このことは、大変問題です。同会では「定期的に服用する時にはかなりの摂取量になるのではないか」と述べています。薬に色をつけることが避けられないことであるなら、特に子どもが飲む薬には安全性の分かっている着色料に代えてほしいと思います。
 食品には着色料はできるだけ使わないこと、使う必要がある場合は、多少鮮やかさに欠けても天然着色料のうち安全であることが分かっている物以外は、特に子どもの食べるものには使わないことが求められます。(安間節子)



化学物質問題市民研究会
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