デンマークEPAの報告書
多種化学物質過敏症、MCS
Annex A - Annex H


情報源:Danish EPA / Environmental Project no. 988, 2005
Multiple Chemical Sensitivity, MCS
Version 1.0 March 2005
http://www.mst.dk/udgiv/publications/2005/87-7614-548-4/html/helepubl_eng.htm

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会
掲載日:2005年5月11日

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Annex AMCSの定義のための提案概観(Interagency report, 1998)
Annex B1991年NRCワークショップの3ワーキング・グループの勧告(Interagency report, 1998)
Annex C1996年MCSの実験的研究に関するNIEHS会議の主要提案(Interagency report, 1998)
Annex DMCS研究のための勧告リスト(Interagency report, 1998)
Annex EMCS関連公共活動1979年〜1996年(アメリカとカナダ)(from Hileman, 1991)
Annex FデンマークMCS組織
Annex GデンマークMCS組織のメンバーによる記述の概要
Annex Hドイツ環境省と保健省のMCSに関する活動の概要(from: Umweltsbundesamt fur Mensch und Umwelt, Dr. J. Durkop, Berlin, 2001)

Annex A
MCSの定義のための提案概観(Interagency report, 1998)

1985カナダ、オンタリオ州保健省 特別委員会(1985):
3ヶ月間以上、多種システム障害、
多くの人々には一般的には耐えられる濃度で、食品、化学物質、環境中物質に不耐性
客観的な身体的変化なし、一貫したラボテストなし、症状は曝露除去で消える、曝露で再発
1987カレン Cullen (1987):
多種化学物質過敏症は、一般の人々に有害影響が出るレベルよりはるかに低い濃度で、多くの化学的に関連性のない化合物への明白な曝露に対して起きる、多種器官での再発症状による獲得性障害である。症状に関連することを示すことができる広く認められた生理学的機能テストはひとつも存在しない。
1991アシュフォードとミラー Ashford and Miller (2. ed. 1998):
多種化学物質過敏症の患者は、疑いのある攻撃物質を厳重に管理された環境下で適切な間隔の後に除去及び曝露させることで発見することができる。攻撃環境を除去すると症状が消え、特定物質を曝露することで症状が再発することにより因果関係を推論することができる。
1992アメリカ環境医学会 American Academy of Environmental Medicine (1992):
環境病は、環境的刺激物への有害な反応によって引き起こされ、個人の感受性と特定の適応性に症状が依存し、通常多くの症状を伴う慢性的多種器官障害である。刺激物は空気中、水中、食品中、薬剤中、及び我々の居住環境中に存在する。
1992国家研究評議会 National Research Council(NRC)、多種化学物質過敏症に関するワークショップ、臨床的評価のための研究プロトコールに関するワーキング・グループ:
IgE 介在の急性過敏反応、接触皮膚炎、過敏性肺炎のような、よく知られた過敏症状で特徴付けられる、多くの人々の間では耐性のあるレベルでの化学物質曝露に関連した症状又は兆候。
過敏性はひとつ又はそれ以上の器官系における症状と兆候として表現されるかも知れない。
症状と兆候は曝露に依存して増大又は減少する。
状態の兆候開始に関連する化学物質曝露を特定する必要はない。
既往症又は現在症状がある(例えば、ぜん息関節炎、身体化障害、うつ病など)ことをもって、患者を考慮の対象から外すべきではない。
1992労働環境診療所協会 Occupational and Environmental Clinics(AOEC):
多種化学物質過敏症に関するワークショップ、”患者特性化”に関するワーキング・グループ(1992):
患者によって特定される健康状態の変化、多種の刺激によって規則正しく誘発される症状、症状は少なくとも6ヶ月間継続、患者が報告する1組の定義された症状、3つ又はそれ以上の器官で起こる症状、他の医学的症状を持つ患者は除く(精神医学的状態は除外しない)
1993ネザーコット Nethercott (1993):
症状は曝露により反復性がある。状態は慢性的である。低濃度曝露で主要な症状が出る。刺激物が除去されると症状は改善又は解決する。反応は多種で化学的に関連性のない物質に対して起きる。
1995クルツ Kurt (1995):
症状は、低濃度での”匂い誘発”及び”曝露知覚”であるが、パニック障害として容認されている定義に対応する多くの神経行動症状を示す。
1996国際化学物質安全プログラム International Program on Chemical Safety (IPCS) (1996):
多くの人々には耐性のある有害環境要素に関連する、既知の医学精神医学障害では説明できない、再発性の多種症状のある獲得性障害


Annex B
1991年NRCワークショップの3ワーキング・グループの勧告(Interagency report, 1998)

臨床評価ワーキング・グループ

  • 曝露に基づく事象の将来の長期的な調査は非常に重要であり、実施されるべきである。
  • 研究の優先事項は、適応−非適応仮説の調査であり、その調査はECU(Environmental Control Unit 環境チャンバー)を用いて実施されるべきである。さらに、各個人は通常の環境の中でも評価されるべきである。
  • 研究課題の選択は、テストされるべき特定の仮説に基づくべきである(例えば、症状に基づく、曝露に基づく、そして母集団に基づく)。
  • MCSに関連して報告される化学物質、食品、薬剤、そして兆候と症状のデータベースの開発が重要である。

曝露と機序ワーキング・グループ

  • 調査は、曝露、身体的診察、及び適切なラボテストを含む、総合的な病歴を含むべきである。成果には、免疫学的、神経学的、内分泌学的、心理学的、社会的、及びその他のマーカー又は基準が含まれるべきである。
  • 用量反応関係が検証されるべきである。
  • 人間の症状を模する動物モデルが開発されるべきである。
  • 患者、動物及びそれらのコントロールの生検(バイオプシー)と解剖から得られる組織について、生理学的変化の兆候が評価されるべきである。

疫学ワーキング・グループ

  • 一般の人々の中でMCSによって引き起こされる問題の程度が決定されるべきである。
  • 労働環境医学診療所における多点臨床症例比較研究が早期に着手されるべき優先事項である。
  • 様々な症例定義の柔軟性ある構築を可能とする広範な症状発症データが利用されるべきである。
  • 調査の道具の構造を含む母集団ベースの手法が、MCSに関連する多器官障害の基本的な記述的疫学を決定するために用いられるべきである(例えば、全身皮膚結核、強皮症、多発性硬化症、身体化障害)。
  • 環境化学物質に関連する過敏症候群の初期及び平常の病歴を評価するために、不連続突発性化学物質曝露を受けた定義された母集団の早急な調査が実施されるべきである。
  • スクリーニング技術とバイオマーカーの感受性及び特異性を含む新たなテスト・モダリティー(test modalities)のための正常範囲が決定されるべきである。

Annex C
1996年MCSの実験的研究に関するNIEHS会議の主要提案(Interagency report, 1998)

主要勧告:

  • MCS患者の兆候的組織に炎症が存在するかどうか、そしてそれが高められた知覚反応かどうかを決定しつつ、非神経性炎症の領域における仮説をテストすることから、調査は着手されるべきである。
  • 仮説をテストするための長期的調査を実施すること。
     (1) 心理神経免疫的要素は、相関的に又は原因的にMCSの進展に関連している。
     (2) ストレスは、慢性的機能障害としてMCSに関連している。
  • 主観的及び客観的反応の両方の厳格な文書を備えた、環境的に管理された病院施設での二重盲検プラセボ調査を実施すること。
  • MCS患者の症状の解釈の理解の整合性を確かめるためにMCS患者と面談をすること。
  • MCSにおける化学的影響から化学的期待( chemical expectation)の影響を分離するために、均衡の取れたプラセボ調査を実施すること。
  • 更なる研究を通じてMCS患者の嗅覚過敏の可能性を評価すること。
  • MCS疾患の治療としての系統的脱感作(desensitisation)の効果を体系的に評価すること。
  • 被験者、症状、及び化学物質曝露の不均質があるとすれば、グループ比較に対する代案として単一症例計画(single-case designs)を考慮すること。
  • 患者の症状の共通のパターンに基づく一般的に認められた構造的面談を展開すること。
  • MCS患者の感作のための取り組みとテストのための計画設計は同じ感作手順を用いることができるが、マスキング及ぶアンマスキングの条件の下で結果を比較すること。
  • MCS患者は、コントロール被験者よりも状況依存感作の誘因に感受性が高いという仮説をテストすること。
  • 反復測定を伴う長期的調査は時間経過による変動の評価を可能にするであろうこと。
  • 時間依存神経感作機序を評価するために実験動物調査を実施すること。


Annex D
MCS研究のための勧告リスト(Interagency report, 1998)

勧告NRC
1991
AOEC
1991
ATSDR1
1993
ATSDR2
1994
CDHS
1994
NIEHS
1995
EOHSI
NIEHS3
1996
基本的疫学XXXXX X
症例比較調査XX XXXX
定義開発XXXXXX 
難題調査XXX  XX
曝露集団調査 発症率XX  X X
環境チャンバー(ECU)調査XXX   X
神経学的調査 XXX   
嗅覚調査 X X  X
臨床環境仮説の調査XX    X
症例登録 XX    
関連条件の疫学的決定X  X   
動物実験X     X
連邦政府関与  X    
免疫研究   X   
療法調査 X     
原因要素目録X      

 1 専門家委員会会合
 2 化学物質と神経生物学的過敏性会合
 3 環境労働衛生科学研究所/国立環境健康科学研究所会合


Annex E
MCS関連公共活動1979年〜1996年(アメリカとカナダ)(from Hileman, 1991)

1979: ハワイ司法区のアメリカ地方裁判所はMCS障害に判決を下し、保健教育福祉省は、社会福祉障害手当てを個人に支給するよう命令した(Slocum vs. Califano)。

1984: MCSに関する研究を求めるカリフォルニア州の法案は州上下両院を通過したが、カリフォルニア医学協会によって反対され、州知事デュークマジアンは拒否権を行使した。

1985: カナダのオンタリオ州保健省によって作成された”環境過敏性障害に関する特別委員会報告書”はMCSに関する研究とMCS患者の支援を要求している。

1986: オレゴン州控訴裁判所は、MCSに罹った家具店の従業員に労災補償手当てを支払うよう命じた(Robinson vs. Saif Corp.)。

1987: アメリカ国立科学アカデミー(NAS)のワークショップは、基本的な提案の開発を確実なものとするために医学協会及び国立健康研究所の支援を得たMCSに関する研究を勧告している。環境科学毒物学に関するNAS理事会はこの勧告に対してなんら行動を起こしていない。

1987: カリフォルニア州控訴裁判所は、長期間PCBに曝露した結果、MCSになったことが判明した従業員に労災補償手当ての支給を認めた(Kyles vs. Workers' Compensation Appeals Board)。

1988: メリーランド州はR. Bascomによる化学物質過敏症研究に資金を提供した。

1988: アメリカ社会保障庁は障害決定のための同庁プログラム運用マニュアルにMCSに関する章を加えた。

1989: アシュフォードとミラーはニュージャージー州保健省のためにMCSに関する報告書を作成した。

1989: 上院に導入された屋内空気質法はMCSに目を向けた。

1989: オハイオ州控訴裁判所は、オハイオ公民権委員会によるMCS患者の従業員解雇に関する不法な雇用差別の認定を覆した(Kent State University vs. Ohio Civil Rights Commission)。

1990: カナダ健康福祉省は、MCS研究の優先度を決定し、MCS患者の健康上の必要を特定するために、MCSに関するワークショップを召集した。報告書は1991年に発行されている。

1990: ペンシルベニア州人権委員会は、一人のMCS患者に対し、殺虫剤の使用削減を含む調停措置をとった(Atkinson vs. Lincoln Realty)。

1990: 技術評価局は免疫毒物学研究の必要性に関する報告書の中にMCSの問題を含めることを拒否した。

1991: EPAの屋内空気部門の要求で、NASはMCSに関する専門家を招いてワークショップを開催し、研究勧告を出した。

1991: ATSDRの後援の下に労働環境診療所協会 Occupational and Environmental Clinics(AOEC)は状態の臨床学的側面に主に目を向けて会議を開催した。

1992: 住宅都市開発省は、公正住宅法修正及び1973年の社会復帰法の下に、合理的なサービスを求める障害としてMCSを認めた。

1992: 1993年度予算案策定で、議会は ATSDR に250,000ドル(約2,500万円)を ”化学物質過敏症/低濃度化学物質環境曝露ワークショップ” で使用するよう予算を付けた。

1994: ATSDR は化学物質過敏症の神経生物学的側面を検討するためにボルティモアで全国会議を開催した。

1995: ワシントン州は化学物質関連の病気の研究資金として150万ドル(約億5,000万円)を割り当てた。

1996: 国際化学物質安全プログラム(IPCS)によって組織されたワークショップがベルリンで開催された。参加者の多くはMCSという用語に替えて”突発性環境不耐症(idiopathic environmental intolerances(IEI))”という用語を推奨した(Interagency Report, 1998)。


Annex F
デンマークMCS組織
デンマークMCS組織(1994年2月設立)


組織の主要な目的 (組織規約から)

  1. 匂いと化学物質過敏症に関する情報と知識を広めること
  2. 匂いと化学物質過敏症の人々にアドバイスと指針を与えること  (自身を助けるために仲間を助ける)
  3. きれいな環境ときれいな空気のために闘うこと
  4. 国家保健委員会/立法者に対して、匂いと化学物質過敏症研究の重要性について説得すること
  5. 我々の屋内環境問題、特に匂いを排除した待合室、病棟、看護室、などに向けて長期的な解決のために闘うこと、そしてアレルギーの人に住みやすい家の建築を推進すること
  6. 我々の病気の認知と働くことのできない人々に対する完全な手当ての支給を求めること
  7. 診断と治療センターの設立に貢献すること

病気について

 多種化学物質過敏症はアレルギーとは異なり、皮膚や粘膜、又は血液中に抗体の痕跡を見ることはできない。従って、超過敏症( hypersensitivity)あるいは化学物質不耐症という用語の方がより適切である。

 デンマークではその状態/病気は疾病として認知されておらず、それは多分、診断パラメータが欠如しているためである。従って、関連する保健行政当局に圧力をかけ、鼓舞するために、メディアによく知ってもらうことがこの患者グループにとって非常に重要である。

 病気の特性と程度の大きさはデンマークでは調査されたことがない。しかし、アメリカの医師たちは北アメリカでは人口の約4%がこの病気にかかっていると推定している。大雑把に見積もれば、デンマークで、もし”適切に”曝露していれば、約200,000人が何らかの程度で症状(ひとつ又はそれ以上)を持っているということを意味する。

 症状:疲労、目、鼻、喉の粘膜の痛み、頭痛、めまい、集中力欠如、記憶及び学習障害、呼吸障害、動悸、関節痛、鬱、そしおてもっと多くの症状(患者個人によって変化する)。

原因:我々の周囲の空気を経由して我々の粘膜に達し、”神経系に”激しい反応を作り出す化学物質。

 これ等の物質の濃度は、しばしば、”正常”な人々が感じるよりもはるかに低い値である。

 化学物質は、いわゆる自然な物質であることも、合成物質であることもありえる。

 匂いと化学物質過敏症の症状を誘発することがあり得る日常の要素を例に挙げれば:

 タバコの煙、揚げ物の匂い、木の煙、香水、脱臭剤、髭剃りクリーム、粉石けんと軟化剤、新聞、宣伝用パンフレット、写真現像用機械、自己複写用紙、殺菌剤、など。

 結果:臭いと化学物質過敏症になった人は、バスや列車、事務所、映画館、レストラン、医療ラボ、教会、図書館、公営水泳プール等、など、言い換えれば、人々が会い、匂いを交換し、誰が最もよく匂うかについて議論する場所の全てに存在する匂いに対して困難な状況に陥る。

 多くの人にとって、上述の症状を持つということは社会的に隔絶されることを意味する。

 デンマークMCS組織は、最善を尽くして、社会的に隔離された人々の代弁者として活動し、この疾病を持った人は全てこの組織に参加するよう呼びかけている。

我々の数が多ければ多いほど、我々の日々の問題をより良くより広く理解してもらうための活動を行いやすくなる。同時に、我々は、健康に関するシステムについての取り組みを広げることができる。

 我々は、全てのレベルで理解し意志を通じ合える報道機関と協力することを待ち望んでいる。

 敬意を表しつつ、組織を代表して

 フレミング オブリング (Flemming Obling)


 詳細な情報を得るために組織に連絡したい場合には、あるいは、もし、あなたが我々の困難に関するコメントを受け取りたいならば、下記の人々に連絡いただければ幸いである。

Flemming Obling (board member)
Kappelev Landevej 11
DK-2670 Greve
Denmark
Tel. private:
Tel. work:
Mobile:
E-mail:
+45 43 40 47 61
+45 43 99 17 61
+45 20 62 70 53
fovet@post.tele.dk
Vienni Henriksen (vice-chair)
Borrisvej 22
DK-2650 Hvidovre
Denmark
Tel. private:

E-mail:
+45 36 78 89 20

mcsdk@post.11.tele.dk
Helga Qwist (chair)
Egevej 13, st. th
DK-3300 Frederiksvark
Denmark
Tel. private: +45 47 72 09 04



Annex G
デンマークMCS組織のメンバーによる記述の概要

 ほとんどのメンバーは、疑惑の目で見られ精神病のように見なされることがいかに屈辱的であるかということを経験している。組織とそのメンバーは国際的な情報源からMCSに関する情報を入手している。しかし一般の開業医は、この病気の定義、診察の方法、そして治療について何も知らないのに、この情報を読むことを望まない。彼等は患者たちを病気に”憑かれた”ように見なしている。

 組織はデンマークEPAに上述の出来事の顛末を記したいくつかの症例病歴を送っている。ドイツ北東部のロストク市アンビュランツの一人の医師がメンバーの一人をMCSであるとし、病気の多くの兆候はデンマークでさらに調査され治療されるべきであると診断した。しかし、再び、デンマークの専門家たちはその調査を行うことについて真剣ではなく、ドイツの環境病を専門とする医師によって処方された。彼等はそのような調査の必要性も方法も理解できなかった。

マーティン・シルベシュミット
(Martin Silberschmidt)

2001年10月15日


Annex H
ドイツ環境省と保健省のMCSに関する活動の概要
(from: Umweltsbundesamt fur Mensch und Umwelt, Dr. J. Durkop, Berlin, 2001)

原文(ドイツ語)をご覧ください。
http://www.mst.dk/udgiv/publications/2005/87-7614-548-4/html/helepubl_eng.htm


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