PLoS Medicine 編集者による掲載論文解説 2006年8月
PCB 類に暴露した子ども達は ワクチン接種に対する抗体反応が低下する PLoS Medicine Volume 3, Issue 8, August 2006 掲載論文を PLoS Medicine 編集者が解説したものです 情報源:Editors' Summary, August 2006 Reduced Antibody Responses to Vaccinations in Children Exposed to Polychlorinated Biphenyls http://medicine.plosjournals.org/perlserv/?request=get-document&doi=10.1371/journal.pmed.0030311 オリジナル論文:PLoS Medicine Volume 3, Issue 8, August 2006 Reduced Antibody Responses to Vaccinations in Children Exposed to Polychlorinated Biphenyls http://medicine.plosjournals.org/perlserv/?request=get-document&doi=10.1371/journal.pmed.0030311 Carsten Heilmann1, Philippe Grandjean2,3*, Pal Weihe2,4, Flemming Nielsen2, Esben Budtz-Jorgensen2,5 1 Paediatric Clinic II, National University Hospital, Rigshospitalet, Copenhagen, Denmark, 2 Institute of Public Health, University of Southern Denmark, Odense, Denmark, 3 Department of Environmental Health, Harvard School of Public Health, Boston, Massachusetts, United States of America, 4 Department of Occupational Medicine and Public Health, Torshavn, Faroe Islands, Denmark, 5 Department of Biostatistics, Institute of Public Health, University of Copenhagen, Copenhagen, Denmark 訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会) http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/ 掲載日:2006年8月29日 このページへのリンク http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/research/plos/06_08_plos_antibody_pcb.html 背景 近頃、母親らは、子ども達ちのワクチン接種の副作用についてと同じくらい、ワクチン接種が子ども達を感染症から完全に守ってくれるのかどうかについて心配しているらしい。しかし、健康な子ども達でもワクチン接種の効果は異なる。例えば、破傷風やジフテリアのワクチン接種後、ある子ども達においてはこれらの深刻な細菌性感染症から守ってくれる抗体が大量に生成されるが、他の子ども達は免疫反応が弱いか時には不適切である。 何がこの違いを引き起こすのかは不明であるが、ひとつの可能性は、ある赤ちゃんについて出生前及び出生後に母乳を通じてポリ塩化ビフェニル類(PCBs)のような”免疫毒素に暴露することによって、発達中の免疫系がダメージを受けるということである。 前世紀まで電気機器での絶縁材や難燃材として広く使用されたこれらの安定な人工化学物質は環境中に蓄積し残留し動物や人の健康に影響を与える。 PCB に暴露した赤ちゃんは、しばしば小さな胸腺(免疫系細胞が成熟する腺)を持ち、抗体の量が少なく、小児の感染症にかかりやすい。 なぜこの研究は行われたのか? これらの所見があるなら、PCB 類への暴露は子ども達のワクチン接種に対する免疫学的反応の変動に部分的に関与しているのではないか? もしそうなら、そして環境中の PCBレ ベルが高く保たれているなら、全ての子ども達が適切に感染症から守られるようもっと徹底的なワクチン接種プログラムを採用する必要があるかもしれない。 この研究では、研究者らは出生前及び出生後の PCB 類への暴露が子ども時代のワクチン接種に対する抗体反応に影響を与えるかどうかを検証した。 研究者らは何を実施し、何が分ったのか? 研究者らは、北大西洋のフェロー諸島(訳注:イギリスとアイスランドの中間にあるデンマーク領の諸島)の子ども達を二つのグループに登録した。ひとつは1994〜1995年に生まれたグループ、もうひとつは1999〜2001年に生まれたグループである。そこでは人々は PCBで 汚染されたクジラの脂身を食べることにより高いレベルの PCB 類に暴露している。 全ての子ども達は通常通り、破傷風とジフテリアのワクチン接種を受けた。バクテリアは”トキソイド(oxoid)”を生成して感染症を引き起こすので、防御的抗体反応を刺激するためにこれらの有毒タンパク質を無毒化したものが注射される。 年長のグループでは、7歳半の時にジフテリアと破傷風のトキソイドに対する抗体を調べるために血液サンプルが採取された。年少グループでは、血液サンプルは18ヶ月の時点で採取された。子ども達の PCB 類への暴露は母親の妊娠中の血液中、出産直後の母親の母乳中、及び、抗体がテストされた時の子ども達自身の血液中の PCB 類を測定することによって評価された。 研究者らは、年少グループのジフテリア・トキソイドへの抗体反応は、PCB 類への合計暴露においてほとんど4分の1低下していたことを見いだした。 年長グループにおける破傷風トキソイド反応も出生前の PCB 類への暴露により同程度低下していた。ほとんど子どもたちは両方のトキソイドに対する保護に十分な抗体を生成していたが、年長グループの主に PCB 類への暴露が最も高い子ども達からなる約5分の1は、懸念に値するほどにジフテリアトキソイド抗体が低かった。 これらの発見は何を意味するか? これらの結果は、PCB 類への暴露、特に出生直後、と子ども時代のワクチン接種後の免疫効果の低下との関連性を明らかにするものである。しかし、その影響が正確にどの位大きいのかは明らかでない。これは二つの理由のために不確実である。 第一に、PCB の二重暴露によって低下する抗体反応がどの位かの見積りは不正確である。年少グループの子ども達について、暴露のこの変化はジフテリのアワクチン接種に対する反応に対しほとんど影響を与えないかも知れず、又は反応を半減するかも知れない。 第二に、PCB 類暴露の見積りは体液の3つのサンプルだけに基づいており、したがって大まかな暴露の指標を与えるだけである。 それにもかかわらず、高いレベルの PCB 類に暴露した子ども達のこれらの結果は、子ども達の免疫機能が世界中のどこにでも見いだされるもっと低いレベルの PCB 類によっても有害影響を受けるかもしれないことを示している。 免疫機能の変化は微妙であるが、それらは臨床的に重要であり、子ども達の一般的健康及びワクチン接種の感染症からの保護の程度の両方に影響を与えるかもしれないと研究者らは書いている。 最後に、これらの発見は、小さい子ども達の敏感な免疫系をこれらの潜在的な免疫毒素から保護すルために PCB 暴露レベルを低減するための取組がさらに行われなくてはならないということを示唆している。 追加情報 この概要のオンライン版からウェブサイト http://dx.doi.org/10.1371/journal.pmed.0030311 にアクセスしていただきたい。
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