Earth Island Journal 2016年5月24日
難燃剤への暴露は
女性にかなりの健康リスクを及ぼす

エリザベス・グロスマン

情報源: Earth Island Journal, May 24, 2016
Flame Retardant Exposure Poses A Significant Health Risk to Women
By Elizabeth Grossman
http://www.earthisland.org/journal/index.php/elist/eListRead/ flame_retardant_exposure_poses_a_significant_health_risk_to_women/

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2016年6月9日
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http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/research/news/
160524_Flame_Retardant_Exposure_Health_Risk_to_Women.html

新たな研究によれば、これらの有害な化学物質への暴露は、特に閉経後の女性の甲状腺障害に関連する
 アメリカでは、難燃化学物質は消防安全基準に準拠して最近まで使用されていたので、それらへの暴露は殆ど全ての場所で起きている。このことは、発泡体家具、マットレスやカーペットの詰め物、その他多数の消費者製品、そして建材に難燃剤が添加されているということを意味する。今回、ジャーナル『 Environmental Health (環境健康)』に発表された新たな研究は、最も広く使用されている難燃剤の一種であるポリ臭素化ジフェニルエーテル類(PBDE 類)は、女性、特に閉経後の女性に甲状腺障害のリスクを高めるかもしれないことを示唆している。

 PBDE 類 は、最も広く使用されており、また製品から漏れ出すことが知られている難燃剤である。それらは家庭内のダスト食品動物、そしてその他どこでも科学者らが調べた場所で検出された。PBDE 類 は、環境中に残留し、体内の脂肪組織中に蓄積するために、そしてあるものは動物研究でがんに関連付けられているために、以前から健康懸念が提起されていた。追加の研究は PBDE 類 が甲状腺を含む内分泌ホルモンを阻害することを示した。

 多くの研究が生命の早い時期の PBDE 類 への暴露影響を調べているが、ハーバード公衆衛生大学院(Harvard T.H. Chan School of Public Health)の研究者らによって実施されたこの新たな研究は、これらの化学物質は暴露した人々に後の人生でどの様に影響を与えるかを調べた最初のものである。

 そして研究者らの調査結果によれば、男性より女性の方が多く甲状腺障害にかかるのだから、また年配の女性の方が不釣り合いにかかりやすい甲状腺がんもまた上昇しているのだから、公衆健康への可能性ある大きな影響が懸念される。

 ”閉経後の女性の50%は、ある時点で甲状腺障害を持つであろう”と、研究著者であり、マサチューセッツ大学アマースト校の生物学教授である R. トーマス・ゾエラーは述べた。”このデータを無視するなら、それは間違いであると思う”。

 研究者らは、米・疾病管理センターの米国全国健康栄養調査(National Health and Nutrition Examination Survey)の一環として収集された全米の約2,500人の血液サンプルから4つの異なるポリ臭素化ジフェニルエーテル類(PBDEs)を検出した。そして研究者らはこれらの結果を同じ調査で甲状腺障害についての質問への回答と比較した。これらの関連性を歪めるかもしれない潜在的な交絡因子を考慮した後、研究者らは女性の高い PBDE レべルと、報告された甲状腺障害との間に明確な関連性を見出した。特に、最も高い PBDE 類 血中濃度をもつ人々の上位25%の女性たちは甲状腺障害になる最も高い可能性があることを見つけた。

 ”PBDE 類 のより高い血中濃度をもつ女性たちもまた、甲状腺障害になる可能性が高い。そしてその影響は閉経後の女性により強かった”とこの研究を率いたハーバード公衆衛生大学院の暴露評価科学准教授ジョセフ・アレンは述べた。

 PBDE 類 は内分泌化合物を包み込む又は自身を結合するので、この関連性は極めてありそうなことであり、甲状腺ホルモン機能を阻害することが知られているとアレンは説明した。”我々は、このことをもっと早く実験室での研究で知っていた”と彼は述べた。”構造的に PBDE 類 は、内因性ホルモン[体が生成するホルモン]に非常に似ている。そして我々の体にとってこれらの化合物は全て同じに見える”。このことは一旦体内に入り込むと、PBDE 類 は容易に正常なホルモン機能をかく乱し、病気や他の健康障害をもたらす有害影響を引き起こす可能性があることを意味する。加えて、PBDE 暴露と甲状腺障害の関連性は、鳥類魚類、及びホッキョクグマを含む野生動物中ですでに観察されている。

 閉経中起きる女性ホルモン(エストロゲン)のレベルの変化のために、”閉経後の女性は内分泌かく乱物質に脆弱である”と、デューク大学ニコラス環境校の准教授ヘザー・ステープルトンは述べた。そして甲状腺障害が上昇しているので、内分泌学を専門とする医学専門家らはもっと多くの甲状腺検査を求めていると彼女は述べた。”特にかなりの医療コストがかかるのだから、甲状腺障害が上昇していることを理解し、これらの症状への環境の役割に注意を払うことが重要である”。

 しかし我々は、 PBDE 暴露が甲状腺障害を引き起こすかどうかを分かっているであろうか? まだまだである。この研究は、”これは非常に横断的な研究なので因果関係を見つけることは難しいということを強調している”とこの研究のもう一人の共著者であり、米国立環境健康科学研究所(NIEHS)及び国家毒性計画(NTP)のディレクターであるリンダ・バーンバウムは述べた。

 次の研究ステップは、ゆっくり時間をかけて人々を追跡し、同じ質問をすることであろうと述べた。

 我々は PBDE 類 について何かを知っているのなら、これらの新たな発見はまじめに注意を払うに値する。”これらの物質は環境中に信じられないくらい長い期間存在する”とバーンバウムは述べた。この研究で測定された PBDE 類 はアメリカでは 2014年に製造が中止されたが、これらの難燃剤が使用されている製品−例えば、布張り家具や絨毯の詰め物−は長期間使用するよう設計されている。化学物質自身が”非常に長い寿命を持っている”とバーンバウムは述べた。このことは製品と PBDE 類 の両方が我々の家の中に、オフィッスに、そして環境中に長期間存在することを意味する。

 それらは”自主的に市場から撤去されたが、我々は対処しなくてはならない遺産を持つことになった”とバーンバウムは述べた。

それでは我々は何をすることができるか?

 ソファーや絨毯を買い替えるのはお金がかかるので、多くの人々はそれらの家具類を長期間使用しつづけ、したがって PBDE 類 を使用した製品から逃れることはできないかも知れない。しかし、暴露を減らす他の方法もある。バーンバウムとステープルトンの両者は”手を洗う”ことを推奨した。PBDE 類は屋内ダストに蓄積する傾向があるので、”ダストの残留を低くすること”は PBDE 暴露を減らすために良い方法である”と、ステープルトンは付け加えた。

 バーンバウムは、 PBDE 類 は植物や動物の組織内に蓄積し、従って食物連鎖中に入り込む能力があるので、食物もまた PBDE 類 の暴露源であると警告した。彼女はまた、PBDE 類と、もう一つの有害で残留性のある化学物質類であり、アメリカでは絶縁液体として使用された PCB 類との化学的類似性を指摘した。PCB 類は1970年代に禁止されたが、それらは依然として環境中に見出されている。”かつて製造されたこれらの PCB 類の70%が未だに環境中に存在している”と、彼女は述べた。”あなた方は、化学物質は市場に出される前に適切にテストされていれば良いのにと思うであろう。

 この研究は、”川下影響”について我々が知っていること、すなわち暴露がいかに病気に関連するかということに加えて、”我々は、PBDE 類がどの製品中に存在し、それらがどの様に空気やダスト中に移動し、我々がどの様にそれらを吸収するかについての理解を高めてきた”と彼は述べた。”この研究の最大の貢献は、ぜい弱な集団、すなわち年をとってから甲状腺障害の影響を受け、それが高まることが知られている集団に目を向けたことである”と、彼は述べた。

Elizabeth Grossman, Contributing Writer, Earth Island Journal
Elizabeth Grossman is the author of Chasing Molecules: Poisonous Products, Human Health and the Promise of Green Chemistry, High Tech Trash: Digital Devices, Hidden Toxics, and Human Health, Watershed: The Undamming of America, and other books. Her work has appeared in Scientific American, Salon, The Washington Post, The Nation, Mother Jones, Grist, Earth Island Journal, and other publications.



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