Multiple Sclerosis News Today 2024年3月27日
家庭用化学物質への暴露は ミエリン(髄鞘)生成細胞に悪影響を与える その化合物は、新型コロナウイルス感染症の発生以来、 使用されている消毒剤から検出される マリサ・ウェクスター/MS シニア科学記者 情報源:Multiple Sclerosis NEWS TODAY March 27, 2024 Exposure to household chemicals harms myelin-making cells Compounds are found in disinfectants in use since COVID-19 outbreak By Marisa Wexler, MS senior science writer https://multiplesclerosisnewstoday.com/news-posts/2024/03/27/ ms-other-disorders-with-myelin-impairment-linked-chemical-exposure/ 訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会) http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/ 掲載日:2024年4月15日 このページへのリンク: http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/research/flame_retardants/ 240327_Exposure_to_household_chemicals_harms_myelin-making_cells.html
家庭用消毒剤と家具に含まれる2種類の化学物質が、ミエリン(myelin/髄鞘)の生成を主に担う脳細胞であるオリゴデンドロサイト(oligodendrocytes/希突起膠細胞)の発達を妨害する可能性があることが、新たな研究で示された。 (訳注:脳脊髄を支える「ミエリン」:ミエリン(別名、髄鞘)はオリゴデンドロサイトの細胞膜が延長しバウムクーヘンのように巻き付いた構造物です。このミエリンによって、軸索を流れる信号の速度が約100倍加速されることが知られています。さらにミエリンは軸索を通じて神経細胞に栄養も供給しています。ヒト脳のミエリンの大半は出生後に構築されますが、例えばピアノの練習をすると、その分だけミエリンも増えることが知られています。KOMPAS/慶應義塾大学病院)) (訳注:オリゴデンドロサイト:中枢神経系内のグリア細胞の一つで、ミエリン(髄鞘)形成を担う。オリゴデンドロサイトは、ミエリン形成により跳躍伝導を誘導し活動電位の伝導速度を高めることが主な機能である。脳科学辞典) (訳注:跳躍伝導とは、髄鞘という絶縁体が軸索に何重にも巻きつき軸索を電気的な絶縁状態とし、髄鞘間のくびれ(ランビエ絞輪)から隣のくびれに跳躍して電気信号を伝える様子から名づけられました。中枢神経系ではオリゴデンドロサイトという脳細胞が、末梢神経系ではシュワン細胞がこの髄鞘を形成します。日本脳科学関連学会連合) この発見は、これらの化学物質への暴露が、多発性硬化症(multiple sclerosis / MS)などのミエリン関連疾患の危険因子である可能性があることを示唆している。多発性硬化症(MS)では、免疫系が炎症性攻撃を開始してミエリンに損傷を与え、希突起膠細胞(オリゴデンドロサイト / oligodendrocytes)の損傷修復能力を限定する。 (訳注:多発性硬化症(MS)の特徴:MSは、脳や脊髄、視神経のあちらこちらに病巣ができ、様々な症状が現れるようになる病気です。MSになると多くの場合、症状が出る「再発」と、症状が治まる「寛解」を繰り返します。多発性硬化症 jp) ”希突起膠細胞の喪失は、多発性硬化症やその他の神経疾患の根底にある。 今回、消費者製品に含まれる特定の化学物質が、これまで認識されていなかった神経疾患の危険因子である希突起膠細胞に直接害を及ぼす可能性があることを示した”と、この研究の共著者であるオハイオ州ケースウェスタンリザーブ大学医学部のポール・テサール博士はニュースリリースで述べた。 ネイチャー・ニューロサイエンス(Nature Neuroscience)に掲載された『Pervasive environmental chemicals impair oligodendrocyte development(まん延する環境化学物質が希突起膠細胞の発達を阻害する)』という研究結果は、”一部の神経疾患がどのように発生するかについて不明であった関連の説明に役立つかもしれない”と、ケースウェスタン大学の大学院生で筆頭著者のエリン・コーンは述べた。 人々は現代生活の一部として何千もの異なる化学物質にさらされているが、そのほとんどの安全面は完全には分かっていない。 これらの化学物質への暴露の増加は、特定の脳疾患の有病率の上昇に関連している可能性があるが、これは遺伝的要因やその他の環境要因だけでは説明できない。 一般的に使用される化学物質で、環境化学物質への暴露に非常に脆弱である希突起膠細胞(oligodendrocytes)への影響についてテストされたものはほとんどないので、研究者らはこの研究でミエリン(髄鞘)生成細胞を1,800種類以上の化学物質に暴露させて希突起膠細胞の生成に干渉するものがないかどうかを調べることにした。 多発性硬化症(MS)おける化学物質への暴露の「毒性影響」 この種のスクリーニングは”懸念される化学物質に優先順位を付け、関連する神経細胞タイプに対する毒性効果に基づいて[病気]の環境誘因を特定するための強力なツールである”と研究者らは書いている。 ほとんどの化学物質類は希突起膠細胞(oligodendrocytes)に影響を与えず、22 物質はこれらの細胞の増殖を刺激したが、300 を超える化学物質類が細胞に有害であるか、細胞の増殖を阻害することが確認した。 最も強力な化学物質の毒性効果はさらなる実験で検証され、一般的な化学物質のうち 2つのクラスがマウスやヒトの細胞モデルの希突起膠細胞(oligodendrocytes)に最も影響を与えるように見えた。それは、多くの消毒剤や身体手入れ製品に含まれる第4級アンモニウム化合物と、家具や電子機器で使用さている有機リン系難燃剤である。 ただし、これらの化学物質は、テストした他の種類の細胞に対して特に毒性はなかった。 (訳注:第四級アンモニウム化合物とは何か。長鎖の第四級アミン。長鎖(親油性)とイオンの部分(親水性)が結合した化学構造により界面活性剤であるため洗剤として用いられることもあるが、主な作用は消毒である。/食品安全関係情報詳細) ”我々は、他の脳細胞ではなく、希突起膠細胞が第四級アンモニウム化合物や有機リン系難燃剤に対して驚くほど脆弱であることが分かった”とコーンは述べた。 (訳注:参考情報/グリーン科学政策研究所(GSPI)2023年5月9日 人気の新型コロナウイルス消毒剤について科学者らが懸念を表明/当研究会訳) これまでの研究では、有機リン系難燃剤が小児の血液やその他の体液から検出されることが多いことが示されている。 実際、米国疾病管理予防センター (CDC) が収集した 3歳から 11歳までの 1,700 人以上の子どもに関するデータでは、99% 以上の子どもの尿中に、有機リン酸系難燃剤(TDCIPP )への暴露のバイオマーカである BDCIPP と呼ばれる化学物質が含まれていた。 (訳注::参考情報/カリフォルニア大学デービス校 2024年1月24日 難燃剤への暴露は早産、出生体重の増加と関連している/当研究会訳) この研究の分析により、尿中 BDCIPPが高い子どもたちは、学校での特殊教育支援が必要など、神経学的問題の兆候を示す可能性が大幅に高いことが示された。 これらのデータは、”有機リン系難燃剤への暴露と異常な神経発達との間に正の関連性があることを示す強力な証拠”を示していると研究者らは書いている。 一方、第四級化合物は、新型コロナウイルス感染症のパンデミックが始まって以来、はるかに多く存在するようになった。 これらの化学物質は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の原因となるウイルスを殺すために登録されている消毒剤の半数以上に含まれている。 これらの化合物は、これらの消毒剤に暴露された子どもの血液中に予想されるレベルと同様の、非常に低いレベルでも希突起膠細胞に対して毒性効果を示した。 マウスを使ったさらなる実験では、これらの第四級化合物が血液から脳に移行する可能性があることが示され、研究者らは”神経発達毒性に対する重大な健康上の懸念を引き起こす”と述べた。 科学者らは、リスク軽減政策を知らせるにはリスクに関する確かなデータが不可欠であると指摘し、化学物質への暴露によって起こり得る影響についてさらなる研究を求めた。 ”我々の調査結果は、これらの一般的な家庭用化学物質が脳の健康に及ぼす影響について、より包括的な精査が必要であることを示唆している”とテサールは述べた。”我々の研究が、化学物質への暴露を最小限に抑え、人間の健康を守るための規制措置や行動介入に関する十分な情報に基づいた決定に貢献することを願っている。” |