EHP 2006年7月号 サイエンス・セレクション
有害物質排出目録(TRI)対象化学物質の取扱施設 胎児期の近接性と小児期の脳腫瘍との関連 情報源:Environmental Health Perspectives Volume 114, Number 7, July 2006 Science Selections Near and Not-So-Dear TRI Facilities / Prenatal Proximity and Later Brain Cancer http://www.ehponline.org/docs/2006/114-7/ss.html Original Report: Potential Residential Exposure to Toxics Release Inventory Chemicals during Pregnancy and Childhood Brain Cancer http://www.ehponline.org/docs/2006/9145/abstract.html 訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会) 掲載日:2006年7月13日 子どもの脳腫瘍の最も明確に確立された環境リスクは治療用放射線暴露(診断用 X 線は含まない)である。新たな研究は、母親が妊娠中にEPA有害物質排出目録(TRI)化学物質の取扱施設の近くに住んでいた子どもたちは、特にその施設が発がん性物質を排出している場合、後に脳腫瘍にかかりやすいかもしれない−ということを示唆している。[EHP 114: 1113-1118; Choi et al.] 胎児期の化学物質への暴露は、成人の場合には血流脳関門によって妨げられる有害化学物質のあるものも胎盤を通じて胎児に到達するかもしれないので、深刻で長期的な影響を及ぼすことがある。いくつかの以前の研究は TRI 化学物質排出に関連して、ある出生傷害がわずかに増加するということを示唆していたが、この研究は子どもの脳腫瘍と潜在的な TRI 化学物質排出への暴露を特に検証した最初のものである。 EPA によれば、有害物質排出目録(TRI)にリストされている 650 以上の有害化学物質のうち、193 は既知又は疑いのある発がん性物質である。既知の(known)、まず確実な(probable)、又は、ありそうな(possible)45種の発ガン性物質がこの研究調査参加者の2マイル(約3.2km)以内の範囲で実際に排出されていた。しかし、TRI 排出への暴露を正確に評価することは非常に難しい。 TRI それ自身は、ある年に排出された化学物質のタイプと量だけを示すものであり、その化学物質がどこに行くのかや正確にいつ排出されたのかはわからない。これらのデータの使用には不確実性があるので、このような研究は注意深く解釈する必要がある。 この研究は、10歳以前に脳腫瘍であると診断された 382 人の子どもたちとコントロールとしての同数のがんではない子どもたちとその母親を含む。10歳以前に脳腫瘍であると診断された子どもの母親は妊娠時に TRI 物質施設から1マイル(1.6km)以内に住んでいた割合がコントロール群に比べて約50%高く、5歳以前に診断された子どもの母親は約75%高かった。 しかし、二つの主要な小児脳腫瘍のタイプ、星細胞系腫瘍(astrocytoma tumor)と初期中枢神経系腫瘍(neuroectodermal tumor)のリスクを見ると、相違はない。 この研究チームは、排出される合計量を発がん性の証拠の重みとがん能力要素を含む有毒性要素で結合した EPA Region III の慢性毒性インデックスを使用した。この研究では吸入と経口がん能力要素は含まれるが、妊娠中の母親の職場での暴露、子どもの出生後の暴露、及び汚染飲料水を通じての暴露などの他の能力要素は考慮されなかった。したがって著者らは、彼らの結果は決定的なものではなく、改善された暴露測定を使用して再現をはかり拡張されるべきであると注意を促している。 バレリー J. ブラウン(Valerie J. Brown) |