EHP オンライン2006年4月24日
大気中の多環芳香族類(PAHs)への胎児期暴露が及ぼす
都市部の生後3年までの子どもの神経発達への影響

概要、背景説明、結論の紹介
情報源:Environmental Health Perspectives Online 24 April 2006
Effect of Prenatal Exposure to Airborne Polycyclic Aromatic Hydrocarbons
on Neurodevelopment in the First Three Years of Life Among Inner-City Children
Frederica P. Perera et al.
Columbia Center for Children's Environmental Health (CCCEH), Mailman School of Public Health, Columbia University, New York, USA
http://www.ehponline.org/docs/2006/9084/abstract.html
Original (PDF File)

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会
掲載日:2006年4月28日

  概要

 ニューヨーク市の非喫煙アフリカ系アメリカ女性及びドミニカ女性の母親と子どもを対象とした我々のコホート調査は、多環芳香族類(PAHs)、環境たばこ煙(ETS)、及び農薬を含む都市汚染物質への胎児期の暴露が果たす神経行動的障害病因への役割を評価するものである。
 我々は、個人携帯サンプリング装置によって妊娠中に監視された大気中のPAHsへの胎児期の暴露による子どもの精神及び精神運動性の発達に与える影響を評価するために幼児発達ベーレー尺度(BSID-II)を使用した。行動発達の評価にはは、子ども行動チェックリスト(CBCL)を使用した。
 我々は、社会人口統計的要素、及び環境たばこ煙(ETS)と農薬クロルピリホス(CPF)への胎児期暴露を含む潜在的な外乱要素を調整した。
 PAHsへの胎児期暴露は、精神運動性発達指標(PDI)又は行動障害とは関連しなかった。しかし、PAHsへの高いレベルでの暴露(上位四分位点)は3歳児において低い精神発達指標(MDI)と関連していた(beta=-5.69, 95% CI=-9.05, -2.33, p<0.01)。同様に認識発達の遅れもまた、高い胎児期暴露の子どもたちに著しく多く見られた((OR=2.89, 95%CI=1.33, 6.25, p=0.01)。General Estimated Equation(GEE)分析は、著しい年齢別精神発達へのPAH影響を示し、年齢別遅れの結果を確認した。鉛の影響の調整は関連性に変化を与えなかった。民族性のサイズによる影響はなかった。
 本調査の結果については確認が必要であるが、現在のニューヨーク市の環境中のPHAsレベルは3歳までの子どもの認識発達に有害影響を与え、学齢期になった時の能力懸念される。。


  背景説明(Introduction)

 子どもの健康に及ぼす環境有害物質の影響は、その顕著さがますます認識されている(Faustman 2000; Greater Boston Physicians for Social Responsibility 2000; Landrigan et al. 1999; Perera et al. 2002)。ヒト及び実験での調査研究において、胎児及び幼児は、鉛、水銀、環境たばこ煙(ETS)、多環芳香族類(PAHs)、農薬などを含む多様な環境有害物質に対し、大人よりも感受性が高いことを示している(National Academy of Sciences 1993; Neri et al. 2006; Perera et al. 2005b; Whyatt and Perera 1995; WHO 1986)。
 都市部の少数民族集団は健康と発達に対するリスクの高い集団である(Claudio et al. 1999; Federico and Liu 2003; New York City Department of Health 1998; Perera et al. 2002)。これらの集団は屋内及び屋外の空気汚染及び農薬により厳しい暴露を受けやすい(Brysse et al. 2005; Olden and Poje 1995; Perera et al. 2002)。すでに報告されている通り、妊娠中に様々な汚染物質に暴露しているが(erera et al. 2003; Rauh et al. 2004; Whyatt et al. 2002)、今回の調査では対象者の100%が妊娠中に空気中のPAHsと農薬に汚染され、40%が環境たばこ煙(ETS)で汚染されていた。今回の非喫煙者の都市コホートにおけるPAH暴露は大部分が交通とETS(分析時にコントロールされた)である。
 我々が知る限り、胎児期のPAHsへの暴露が子どもの発達に与える影響に関する研究は今までになかった。しかし、ETSへの胎児期暴露は胎児の発育と認識機能に有害影響を与えることが報告されていた(Martinez et al. 1994; Rauh et al. 2004; Schuster and Ludwig 1994; Sexton et al. 1990; Windham et al. 1999; Yolton et al. 2005)。農薬クロリピリホス(CPF)への胎児期暴露と神経発達への影響との関係は実験的に観察されていた(Aldridge et al. 2005)。鉛と水銀は発達有毒物質であり、胎児の発達に影響を与えることがことが知られている(Agency for ToxicSubstances and Disease Registry (ATSDR) 1999; Canfield et al. 2003; Grandjean et al. 1997; Lanphear et al. 2000).
 ベンゾ(a)ピレン(BaP)のような PAHs は、遺伝子毒性及び発がん性に加えて、内分泌かく乱性もある(Bui et al. 1986; Bostrom et al. 2002; Kazeto et al. 2004)。中欧及びニューヨーク市の以前の実験室及びヒトでの研究は、胎盤を通じてのPAHsへの暴露は有害な出産結果と関連することを示している(Barbieri et al. 1986; Bui et al, 1986; Dejmek et al. 2000; Legraverend et al. 1984; Perera et al. 1998, 2005a)。今回の分析で、我々は妊娠中の母親から個人的サンプリングを行い、物理的、生物学的、及び心理社会的な決定要因を管理しつつ、大気中のPAHsへの胎児期暴露が36か月齢までの子どもの精神と精神運動性発達に与える影響を評価した。


  結論

 結論として本研究は、最近のニューヨーク州の大気中で遭遇するレベルの環境中の多環芳香族類(PAHs)は子どもの認識発達に有害影響を与えるかもしれないという証拠を提供するものである。この結果は確認が必要であるが、就学前の精神的能力が低いことはその後の学業成績の重要な指標となるので、潜在的な懸念となる。
 PAHは化石燃料の燃焼の結果、世界中で都市の環境中に広がっている。幸いなことに大気中のPAHは現在の汚染防止規制を通じて、より高いエネルギー効率と代替エネルギーの使用により、削減することができる(Wong et al. 2004)。


化学物質問題市民研究会
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