Environmental Health News, 2021年10月8日
ALS リスクに関連する高い推定農薬暴露
新しい研究は、クロルピリホス、グリホサート、ペルメトリン、
パラコートなどの農薬を米国の致命的な病気に関連付けている
ファンジエ・チャン
情報源:Environmental Health News, Oct 08, 2021
Higher estimated pesticide exposures linked to ALS risk
New study links pesticides-including chlorpyrifos, glyphosate,
permethrin, and paraquat-to the fatal disease in the US.
By Huanjia Zhang
https://www.ehn.org/pesticides-als-2655248546.html

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2021年10月11日
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http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/research/ehn/ehn_211008_
Higher_estimated_pesticide_exposures_linked_to_ALS_risk.html


 米国では毎年、約 5,000人が筋萎縮性側索硬化症(Amyotrophic Lateral Sclerosis / ALS)(訳注1)またはルーゲーリック病と診断されている。

 病気は神経細胞の発火(訳注2)を消し、我々の脳と筋肉の間の高速道路を切断する。人々は、2〜5年以内に、歩く、話す、食べる、そして最終的には最後の息をする能力も徐々に失う。誰も原因も治療法も知らない。

 しかし、9月にジャーナル NeuroToxicology に発表されたひとつの研究は、この病気の潜在的な原因である農薬暴露に光を当てている。 ALS 患者と農薬使用に関する入手可能な全国データを統合することにより、研究者は神経毒性農薬暴露が ALS の危険因子である可能性があるという新しい裏付けとなる証拠を発見した。

 科学者たちは、米国で主張されている 16,000以上の ALS 症例のわずか 5%から 10%が遺伝のみによるものであり、残りは遺伝的要因と環境要因の相乗効果によって引き起こされている可能性が高いと考えている。”問題は、それらの環境要因は何か?”であるとダートマス・ヒッチコック医療センターの神経学教授であり、新しい研究の筆頭著者であるアンジェリーン・アンドリューは、EHN に語った。

 明確な関連性は確立されていないが、以前の研究では、重金属、微量元素、放射線、農薬などの環境暴露がこの病気に関連している可能性があることが示唆されている。過去の疫学研究はまた、自己申告または職業農薬暴露が ALS 発症の増加と一致することを示した。ただし、ALS リスクの増加の原因となる可能性のある個々の農薬は依然として不明である。

 このギャップを埋めるために、新しい研究の研究者たちは、26,000人の ALS 患者を含む全国的な医療請求データベースを利用して、個々の農薬とそれに関連する ALS リスクを調査するという、これまでで最も包括的な研究のひとつを実施した。全国の 423 種類の農薬の散布に関する郡レベルのデータを含む米国地質調査によって暴露を推測し、ALS の発症を作物に散布された化学物質への推定住民暴露と比較した。その分析は、ALS と診断された患者は 2,4-D、グリホサート、カルバリル、クロルピリホスなどの農薬や除草剤への暴露が推定される可能性が 1.25倍高く、これらの化学物質への暴露が ALS の潜在的な危険因子であることを示している。

 ハーバード大学 T.H. Chan 公衆衛生校の神経疫学者であり、研究には関与しなかったマーク・ワイスコフは、”農薬が ALS のリスクに関連しているのではないかという疑いが確かにあった”と EHN に語った。この研究の結果は、2つを結びつけることにおいて”ずば抜けた自信”を提供したと彼は言った。

 さらに、この研究では、ALS の発生率が高いことに関連していると思われる約 20 の除草剤、殺虫剤、および殺菌剤を絞り込んだ。いくつか挙げると:MCPB;ターバシル;カルバリル;クロルピリホス;2,4-D;グリホサート;ペルメトリン;4パラコートなどである。

 これらの化学物質が ALS リスクをどのように増加させるかはまだ不明であるが、以前に人間や動物に神経毒性の影響を示し、ある程度運動神経系を損なう可能性があるものもある。たとえば、グリホサートは、蠕虫(ぜんちゅう)のミトコンドリア(細胞の原動力)の機能を妨げることがわかっている。一方、ペルメトリンはペトリ皿中の神経細胞の”スイッチ”を妨げ、培養された脊髄神経細胞に繰り返し発火を引き起こすことが分かった。米国で人気のある市販の殺菌剤であるマンコゼブも、マウスのミトコンドリア機能を破壊することによって神経細胞を弱体化できることが発見された。

限られた ALS データ

 この研究には限界がある。たとえば、使用された ALS 統計は、医療請求データベースから取得されたものであり、全国の ALS 症例を包括的に表していない可能性がある。さらに、このデータベース内の ALS 患者の地理情報は、郵便番号の最初の 3 桁に制限されていた。つまり、一部の患者は、同じ郵便番号範囲内の別の居住者を指した可能性がある。同様に、米国地質調査所の作物農薬散布データは郡レベルのみであった。郡に散布された農薬は、化学物質が誰かの家の隣に散布されたことを必ずしも意味しない。

 アンドリューは EHNに、この研究は”新しいアイデアを開発することを目的としており、必ずしもどのような疑問にも答えることを意図していない”と述べ、”この特定の農薬が間違いなく ALS を引き起こすという因果推論(訳注3)は正しくないだろう”と強調した。

 ミシガン大学の臨床神経内科医で、プランジャー ALS クリニックのディレクターで、ALS の原因も研究しており、この研究には関与していなかったスティーブン・ガウトマン博士は、この研究はこの分野に”有用”であり、制限は、ALS 研究の欠点を反映していると EHN に語った。

 現在、米国は国レベルでの ALS 報告を義務付けておらず、マサチューセッツ州だけがこの病気の登録を義務付けている。米国疾病予防管理センターには国家 ALS 登録があるが、臨床医や患者からの参加と入力は任意である。

 ガウトマンは、ALS 患者とその病歴のより包括的なデータベースを構築し、研究者がその情報にアクセスできるようにすることで、将来の研究に役立ち、この冷酷な病気の理解を促進できると考えている。

 ”これは本当に重要な研究だと思う”とガウトマンは語った。”それは ALS の危険因子としての農薬の役割について語り続けている。


訳注1:筋萎縮性側索硬化症(ALS)
訳注2:神経細胞の発火
訳注3:因果推論


化学物質問題市民研究会
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