EHN 2014年5月13日
カエルの免疫系が 難燃剤PBDEs により弱められる 解説:ブライアン・ビエンコースキー、EHN スタッフ・ライター 情報源:Environmental Health News, May 13, 2014 Frogs' immune systems weakened by chemicals, study finds By Brian Bienkowski, Staff Writer Environmental Health News http://www.environmentalhealthnews.org/ehs/news/2014/may/frog-immunity 訳:安間 武(化学物質問題市民研究会) http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/ 掲載日:2014年5月18日 このページへのリンク http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/research/ehn/ ehn_140513_frogs_immune_systems_weakened.html 難燃剤に暴露した若いカエルは免疫系が弱められているが、そのことが世界中で両生類を激減させている疾病にさらにぜい弱にしている。 新たなラボでの実験が、難燃剤とカエルの免疫系の問題を初めて関連付け、汚染物質がカエル個体数の世界的な減少の一因かもしれないという証拠に加わった。 北方ヒョウガエルのオタマジャクシを、泳ぎ始めてからカエルになるまでの間、エサを通じてポリ臭化ジフェニルエーテル類(PBDEs)に暴露させた。その後、科学者らは若いカエルに異種タンパクを注射したところ、暴露させていないカエルより最大92%少ない抗体を生成することを発見した。 ”病原体を取り除く抗体を作ることは、病気の発生を防ぐためのカエルの能力にとって重要なことである”と、ウィスコンシン州マディソン市にあるウィスコンシン大学生物学教育研究所の博士号取得後学者であり、この研究の主著者であるターニャ・ケーリは述べた。 世界の両生類の3分の1近くにあたる、カエル、ガマ、サンショウウオ、イモリなど 1,800以上の種が絶滅の危機にある又はすでに絶滅している。もちろん生息場所の破壊、紫外線照射、寄生虫など他の脅威もあるが、カエルツボカビ(chytrid fungus)(訳注1)が多くの個体群を激減させる犯人として挙げられている。 このひどいカビによる被害が拡散することのひとつの仮説は、”汚染物質が動物の免疫機能を変更し、そのために動物は病原体に適切に対処することができない”ということであるとケーリは述べた。 オタマジャクシがカエルになる期間−変態と呼ばれる−は、”非常にぜい弱な時”であると、バンダービルト大学の病理学、微生物学、及び免疫学の准教授であり、この研究には関わっていないルイズ・ロリンズスミスは述べた。 ”免疫系を含んで、ほとんどすべての臓器がこの変態の期間に再編する”と彼女は述べた。”それらは、この期間に既にこれらの小さな免疫系を持っており、病気やウイルスに対処しなくてはならない。抗体を生成しないことは、このクリティカルな時期のもうひとつのハンディキャップになる”。 研究者らは、環境中で一般的に見いだされる難燃剤のレベルでカエルの抗体が低減していることを発見した。そのような免疫系の抑制はカエルを病気に対してもっとぜい弱にするようであるが、この研究ではこの論理をテストするために感染病原体を対象とする資金手当はしなかった(訳注:研究対象とはしなかった)とケーリは述べた。 ”我々の発見は、環境的に現実的な PBDEs の濃度でカエルの免疫系を変更することができることを実証しているが、これらの変更が病気に罹りやすくなることにどのように影響するかを調査するためにさらなる研究が必要である”と、Environmental Science & Technology 誌に発表された研究の中で著者らは書いている。 しかし、化学物質の最も高いレベルは、抗体のもっとも大きな減少には対応しなかった。 カエルがオタマジャクシンの時に、食物1グラム当たり634ナノグラムという最大量の PBDEs に暴露させると、暴露させていないカエルより抗体の生成が66%少なかった。しかし、もっと低い濃度、 1.1 及び 71.4ナノグラムで暴露したカエルはもっと大きな影響を示した。すなわち、89%及び92%の減少であった。他の動物研究によれば、ホルモンかく乱汚染物質は高いレベルにおいてよりも低いレベルにおいてもっと大きな又は異なる影響を及ぼすことができることが示されている。 ケーリは、難燃剤がオタマジャクシのホルモンのじゃまをし、そのことが免疫系の発達を異常にする原因となり得ることはありそうなことであると述べた。以前の研究によれば、PBDEs は、免疫系を発動するカエルの受容体に結合する。 この新たな研究のカエルの抗体を抑制した同じ化学物質混合物はまた、マウス、ミンク、そしておそらく人間の免疫系を弱めていた。 カエルは、泥、植物、昆虫の摂食を通じて難燃剤に暴露する。 PBDEs は数十年間、家具のクッション・フォーム、プラスチック、電子機器中で使用された。研究者らが使用した混合物は、アメリカでは10年前に廃止されたが、この化学物質は、廃水及び下水汚泥からはもとより、家具のような長寿命の製品を通じて未だに環境中に入り込んでいると、バージニア海洋科学研究所の海洋科学教授ロバート・ヘイルは述べた。 北方ヒョウガエルはアメリカの北部及び西部、及びカナダ南部で見つかっている。この種は、特に西部で個体群の減少と生息地の消滅を経験しているが、2011年に絶滅危惧種としての保護を拒絶された。 なぜカエルの病気が悪化したのか謎のままであるが、ある専門家らは汚染物質と気候変動を疑っている。昨年発表されたあるラボ研究は、除草剤アトラジンに早い時期に暴露したカエルはカエルツボカビによって死亡することが多いということを発見した。しかし、他の研究では、農薬類がそのカビへのカエルの感受性を高めているということは発見されていないと、サンフランシスコ州立大学の環境研究の教授で生物学者のカルロス・デービドソンは述べた。 ”気候変動で、現在はこの病原体に好都合な温度に変化したことにより、カエルの生息場所が変化している”という可能性はあるが、研究で証明されているわけではないと彼は述べた。 両生類は、水を吸収する薄い多孔性の皮膚を持っているので、汚染物質のような環境的要因に特にぜい弱である。 ”この研究は、間違いなく、どのようにこれらの有毒物質がカエルの発達に影響を及ぼすかを正確に理解しようと試みる我々の難問に対するひとつの見解である”とロリンズスミスは述べた。 両生類についての記事のための我々のアーカイブをお調べください。 訳注1 カエルツボカビ症/ウイキペディア カエルツボカビ症は、ツボカビの一属一種の真菌カエルツボカビ によって引き起こされる両生類の致死的な感染症である。野生の個体群でのこの疾病に対する効果的な対策は存在しない。ただし、カエルの種によって感受性は異なり、アフリカツメガエル (Xenopus laevis) やウシガエル (Rana catesbeiana) は感染しても発症しない。 |