EHN 2014年1月15日
難燃剤はマウスの肥満に関連する
解説:EHN スタッフ

情報源:Environmental Health News, Jan 15, 2014
Flame retardant linked to obesity in mice
Synopsis by EHN Staff
http://www.environmentalhealthnews.org/ehs/newscience/2014/Jan/flame-retardant-obesity/

オリジナル:R Yanagisawa, E Koike, T Win-Shwe, M Yamamoto and H Takano. 2014. Impaired lipid and glucose homeostasis in hexabromocyclododecane-exposed mice fed a high-fat diet. http://dx.doi.org/10.1289/ehp.1307421

訳:安間 武(化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2014年1月18日
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http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/research/ehn/ehn_140115_HBCD_linked_to_obesity_in_mice.html


 日本の新たな研究によれば、高脂肪の食物を高用量の難燃剤とともにマウスに与えると、難燃剤なしに同じ食物を食べたマウスより約30%の体重増があった。

 それは、臭素系難燃剤が体重の増加を促進し、血糖値を上げ、糖尿病のような代謝機能障害をもたらすことを示す最初の研究である。

 難燃剤ヘキサブロモシクロドデカン(HBCD)は、建築材料や断熱材として使用されている。それは動物とヒトの組織中に堆積し、これまでの動物実験はホルモン系、代謝系、及び免疫系をかく乱するかもしれないことを示していた。

 過剰なカロリーと運動不足が主要な肥満要因であるが、あるホルモンかく乱物質への特に発達初期における暴露もまた、ある役割を果たすかもしれないことを示す新たな証拠が出現している。そのほとんどが動物実験による証拠であり、これらの”肥満物質”への胎児期の暴露が代謝系を再プログラムすることができ、より多くの脂肪細胞をもたらし、後の生活において、高カロリー又は高脂肪の食物を摂取することにより肥満のリスクを高めることを示唆している。

 先週、オンライン環境健康展望誌(the journal Environmental Health Perspectives)に発表された研究の中で著者らは、これらの発見は、”HBCD は食物誘引による体重増加と代謝系障害”に寄与するかもしれない”と示唆している。

 この研究で、研究者らは46匹のオスの成ラットを、高脂肪食物又は通常の食物で難燃剤を含むものと含まないものを与えるグループに分け、15週間、これらの食物を与えた。

 高脂肪で高用量難燃剤を含む食物を与えられたマウスは、平均21グラムの体重増加があったが、同じ食物で難燃剤を含まないものを与えられたマウスは約16グラムの体重増加であった。5グラムという値はマウスにとって大きいようには見えないが、その差は重要である。開始後マウスは平均21グラムの体重増加があった。そのことは、高脂肪の食物と高レベル難燃剤を与えられたマウスは、その体重が倍増したことを意味する(訳注1)。

 しかし通常の食物を摂取したマウスは、たとえ難燃剤が含まれていても、肥満との関連はみられなかった。”対照的に、通常の食物を与えられたマウスには、体及び肝臓の重量の変化は、HBCDを含んでも含まなくても、みられなかった”と著者らは書いている。

 体重増加に関連する一日のHBCDの用量は見積もられるヒトの平均食物摂取量よりはるかに高かった。ヒトは屋内ダスト及び空気を通じても曝露するが、食物がヒトにとって最も重要な暴露経路であると考えられていると、この研究の著者らは書いている。

 難燃剤を与えられたマウスはまた、難燃剤に暴露しなかったマウスより血糖値及びインスリンのレベルが高かった。肝臓も重く、脂肪組織は炎症を起こしていた。グルコーストランスポーター(糖輸送体)(訳注2)の遺伝子発現にもまた変化が認められた。著者らはこの代謝機能障害は肥満を促進することができると述べた。”これらの結論は、食物の相互作用を通じてHBCDが代謝機能障害に寄与するかもしれないことを示唆している。すなわちHBCDは’肥満要因強化物質’かもしれない”と、彼らは書いている。

 高脂肪食物摂取のマウスは、日々のカロリーの60%以上を脂肪から得ていた。人間は、日々のカロリーの20〜50%を脂肪から得ることが推奨されている。高脂肪食物はまた通常の食物よりカロリーが高かった。

 米国はHBCDの代替物質を調査しており、国連はその廃止を勧告している。しかし、まだ大量に使用されている。米・環境保護庁は、2005年には1,000〜5,000万ポンド(訳注:約4,500トン〜22,500トン)が米国で製造又は輸入されていると見積もっている。(訳注3

 ヒト又は動物の研究で肥満又は糖尿病に関連するその他の化学物質には、フタル酸エステル類、過フッ素化合物、ビスフェノールA、ヒ素、トリブチルスズ、及びダイオキシン、PCB類及びDDTのような塩素化合物が含まれる。

訳注1:マウスの体重
マウスはネズミ科ハツカネズミ属ハツカネズミ種に属し、生時体重は1g前後、成熟体重は18-40g
薬品と切っても切れない関係、マウス、ラット、モルモット

訳注2:グルコーストランスポーター(糖輸送体)
グルコーストランスポーター/ウイキペディア
 グルコースは、ほとんどの細胞の代謝に不可欠な基質である。グルコースの分子は極性を有するため、生体膜を通過するのには特別な膜輸送タンパク質を必要とする。

訳注3:日本のヘキサブロモシクロドデカン規制
経済産業省お知らせ(平成25年10月4日)
化審法の第一種特定化学物質に指定するエンドスルファン及びヘキサブロモシクロドデカンについて具体的な規制措置が決まった。
エンドスルファンは残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約第5 回締約国会議(2011 年4 月)において、ヘキサブロモシクロドデカンは同条約第6 回締約国会議(2013年4〜5 月)において、それぞれ廃絶対象に決定された。



化学物質問題市民研究会
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