CHE 有害物質と疾病データベース
情報源:CHE Toxicant and Disease Database Sarah Janssen MD, PhD, MPH University of California, San Francisco http://database.healthandenvironment.org/intro.cfm Gina Solomon MD, MPH Natural Resources Defense Council; University of California San Francisco Ted Schettler MD, MPH Science and Environmental Health Network; Boston Medical Center 訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会) http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/ 掲載日:2006年6月15日 人の病気は遺伝子と環境との複雑な相互作用によってもたらされる。化学的、物理学的、及び生物学的な因子は、感受性の高い人々に病気を引き起こす又はその原因の一部となるかもしれない。食事、喫煙、アルコール、運動、紫外線暴露のような生活スタイル要因は、病気の予防可能な原因を検討する時に、最初に目を向けられる。しかし、職場、家庭、屋外、さらには子宮中における化学物質汚染への暴露は、人の病気の重要なそして防ぐことのできる要因としてますます認められるようになってきている。これらの暴露が本プロジェクトの中心である。 過去50年間に80,000以上の化学物質が流通し、環境中に廃棄されてきた。それらの大部分はテストされておらず、人や動物に潜在的な影響を与えてきた。これらの化学物質のあるものは、大気、水、食物、家庭、職場、そして地域において、普通に見出される。ひとつの化学物質でさえ完全には理解できていないのに、化学物質の混合物への暴露影響の理解ははもっと不完全である。化学物質は反対の、相加的な、そしてある場合には相乗的な影響を持つかもしれない。相乗的な影響のひとつの例は喫煙にアスベスト暴露が加わった場合であり、肺がんのリスクがそれぞれの因子のリスクの合計よりも25%高くなる。 化学的因子の影響は医療関係者や一般大衆に必ずしもよく理解されていない又は認められていない。アスベスト、塩ビ、そして鉛のようなある化学物質は人の病気の原因として明確になっている。また、がんのあるもの、ぜん息、そして発達障害の発生の増加は、化学物質への暴露、特に小さな子どもたちの暴露、に起因するかもしれないことを示唆する妥当な証拠がある。ALS(筋萎縮性側索硬化症)や湾岸戦争症候群のようなその他の病気は化学物質への暴露と関係があるとの仮説が設けられているが、その証拠は限られている。 人体実験は倫理的に実行可能ではないので、人の化学物質暴露の影響を研究することは難しい。事故による暴露、過剰投与、又は労働者の職業的暴露などによって得られた限定されたヒトのデータがあるだけである。一般集団における環境暴露調査もまた有用であろうが、それらもしばしば限界がある。がんなどの多くの病気は暴露してから数十年経過しないと発現しないので、因果関係を特定することは難しい。環境的疫学調査における重要なステップである暴露評価は難しい。過去に遡っての(後ろ向き)暴露評価は通常、推定と多くの判断が必要であり、著しいな誤差を生じやすい。個人の暴露は時とともに変わり、また家と職場の両方での複合化学物質暴露が起こる。個人が何に暴露したのか思い出すことは難しいし、さらに、ほとんどの人々は何かに暴露したことにさえ気が付かない 。 化学物質暴露の影響は、暴露した年齢(子宮内、子ども時代、成人)、暴露経路(食物摂取、呼吸、皮膚)、暴露の量と期間、そして、遺伝子変異を含む個人の感受性によって異なる。 これらの課題のために、ほとんどの毒物学研究は動物での研究に基づいている。このデータベースは動物での研究を強調するするものではないが、動物での研究は重要な毒物学的情報に寄与しており、作用のメカニズムが妥当なら人の疫学的研究がなくても病気の強い証拠を提供することができる。化学物質の使用を制限する又は禁止する多くの法的決定は動物データに基づいている。さらに、ヒト疫学的研究はしばしば関連性が動物データに基づいて仮定が設けられた後に実施されている。 ここに示すデータベースは、化学物質汚染と180種までの人の病気との関連又は条件を要約したものである。我々はこのデータベースを病気のカテゴリー毎に、有害物質と人の病気についての最先端の知見を反映して設計した。このデータベースは主にヒト疫学的研究に焦点を合わせており、動物データの包括的な検証はこのプロジェクトの範囲を超えているので、動物データはわずかな病気に対してのみ含まれている。 データベースのデータは、環境医学と毒物学のトピックスに関する下記の3つの主要な教科書から入手した。
訳注: データベース・ホームページ http://database.healthandenvironment.org/index.cfm データベースは、データベース・ページの右側のカラムにある器官疾病カテゴリ科目(organ system categories)、 、疾病(disease)、化学物質名(toxicant)、CAS番号(CAS number)、キーワード(keyword)によって検索することができる。例えば、Oncology(腫瘍)に興味があれば、"Browse by disease category"で" Oncology"を選んでクリックすると、この疾病カテゴリーが画面に表示され、その中から例えば Bbrest cancer(乳がん)を選んでクリックすると、Brest cancer に関連する有害物質が画面に表示される。この画面の有毒物質をクリックすると、その物質の関連する疾病が表示される。
主要な科目
その他の科目
証拠の強さ ひとつの病気に関連する化学物質は、関連性の証拠の強さに基づき3つのカテゴリーに分類された。 強い証拠(strong evidence)は、病気との因果関係が確認された化学物質である。これらの化学物質の有害性は医学界で認められており、参照した教科書に、”化学物質xは疾患yを引き起こすことがよく知られている”、又は”化学物質xは疾患yを引き起こす強い証拠がある”と記述されている。他の化学物質は、もっと最近の大規模な前向きコホート研究(prospective cohort study 訳注1)又は後ろ向き研究(retrospective study 訳注2)によって導き出された因果関係により、このカテゴリーに入れた。最後に国際がん研究機関(IARC)によって”グループ1 ヒト発がん性”としてリストされた化学物質もこのカテゴリーに入れた。(訳注3:IARCによる人に対する発ガンリスクの分類) 妥当な証拠(good evidence)は、疫学的研究(断面調査研究(cross-sectional study)、症例シリーズ研究( Case Series)、又はケース・コントロール研究(Case control study))を通じて関連性が得られた化学物質、又はいくつかのヒトでの証拠及び動物での強い関連性の証拠がある化学物質を含む。教科書での、”化合物xへの暴露と疾患yの間の関連性に証拠がある”というような記述も妥当な証拠とした。IARCでのグループ2A、ヒト発がん性の証拠は限られており動物発がん性は十分にある化学物質もまたこの分類に含まれる。 限定された/対立する証拠(limited/conflicting evidence)は、数人の暴露した個人だけからの報告書(症例報告)、混合した又はあいまいな結果、又は少ない症例にによる対立したヒト疫学研究からの報告書、動物では明確に有害性を示しているがヒトについてのデータがない報告書に基づクヒトの病気との関連性が弱い化学物質からなる。また、このカテゴリーにはIARCのグループ2B、及びEPAのグループ2Bの化学物質を含む。これらの化学物質は、ヒト発がん性の限定された又は不十分な証拠、及び動物発がん性の限定された証拠を持つ。 データベース中の化学物質の大部分は、限定された/対立する証拠(limited/conflicting evidence)のカテゴリーに分類される。これは、ヒト疫学研究は、非常に複雑で設計と解釈が難しく、用意には繰り返すことができないためである。農薬や溶剤のような混合化合物への暴露に関連する健康影響は、時には因果関係を示唆し将来の研究の取組を示すことがあるが、通常は強い証拠を、特に特定のひとつの化学物質について、示すことはできない。動物データは、ヒトデータがない、あるいは不十分である時に、個々の化学物質の有害性の証拠となる。もっと科学的な研究がなされれば、ある化学物質は病気の原因としてもっと強い証拠が見出されるかも知れず、新たな化学物質が追加され、あるいは他の化学物質は病気とは無関係であることが分り、リストから完全に除外されるかもしれない。 データベースの限界 このデータベースにはよく頭に入れておくべき重要な限界がある。
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