CEC プレスリリース 2006年5月17日
北アメリカのTRIデータに基づく報告書
有害化学物質の産業排出と子どもの健康との関連を示す

情報源:Commission for Environmental Cooperation (CEC), May 17, 2006
Report profiles data on industrial releases and children’s health
http://www.cec.org/news/details/index.cfm?varlan=english&ID=2704

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会
掲載日:2006年5月30日

 【モントリオール 2006年5月17日】 環境協力委員会(Commission for Environmental Cooperation (CEC) 訳注:アメリカ、カナダ、メキシコの政府間委員会)は、本日、”子どもたちの健康に影響を及ぼす産業化学物質の汚染源、暴露レベル、及びリスクを特定するための取組を求める”−というアピールを発表した。

 このアピールは、『北アメリカにおける有害化学物質と子どもの健康(Toxic Chemicals and Children’s Health in North America)』という報告書の中で述べられているが、この報告書は、北アメリカにおける産業化学物質の排出の相対的な危険性を記述するために、初めて、公認されている手法(毒性等価能力 Toxic Equivalency Potentials - TEPs)を使用した。

 この報告書は、2002年のカナダ及びアメリカの汚染物質排出移動登録(PRTRs)によって報告された発がん性物質、発達系及び生殖系有害物質、及び疑いある神経系有害物質の排出に焦点を合わせている。それは、鉛、水銀、PCB類、ダイオキシンとフラン類、フタル酸エステル類、そしてマンガンが顕著な又は新規に出現している懸念物質であることを示している。

 ”我々の環境中への化学物質排出によって及ぼされるリスクに適切に目を向けるために、我々は暴露と有害性についての的確な情報を必要としている。この報告書は、有害性という観点から、それらを実際に比較するために化学物質排出の順位を単純に並べる以上のことを試みている”−と、この報告書の主著者であり、ジョーンズ・ホプキンス大学ブルームバーグ校公衆健康学教授リン・ゴールドマン博士は述べた。

 カリフォルニア大学バークレー校の科学者らは、TEP(毒性等価能力)アプローチを開発したが、それはひとつの化学物質1ポンドの排出によって及ぼされるリスクを参照化学物質(発がん性物質はベンゼン、非発がん性物質はトルエン)と比較することによって計算する手法である。しかし、このモデルは、これらのリスクと、子どもの学習行動障害や神経系又は発達系障害をもたらすことがある実際の暴露とは直接的には関連がない。

 これらのリスクをさらによく理解するために、同報告書は、”排出削減と汚染防止の優先順位を特定するにあたり、子どもの健康は、PRTRデータを解釈する上で重要は要素のひとつとすべきである”−と、勧告している。同報告書はまた、移動(車)汚染源、農業汚染源(農薬使用)、小さな汚染源、消費者製品、又は自然の汚染源からの化学物質への子どもたちの潜在的な暴露の様子をもっと完全に描き出すために、国のPRTRデータはバイオモニタリング(生態監視)調査と組み合わせて用いられるべきであると提案している。三ヶ国国間の共同作業は、化学物質が我々の子どもたちと将来の世代に及ぼすかもしれない影響に関する現在のデータの欠如に目を向ける重要な方法である”−と、CECのPRTRのプログラム・マネージャであるキース・チャノンは断言した。

 北米大陸において比較可能なデータの増大したことにより、我々は北アメリカにおける化学物質の排出と移動についてもっと完全な全体像を得ることを期待し、それにより子どもと環境を保護するための効果的な政策を促進することを期待する。

 社会経済的状況、死亡原因、環境汚染に関連する疾病に関する子ども時代のデータが北米三ヶ国について報告書に含まれている。しかし、メキシコには報告年の2002年には比較可能なデータがなかったので、同報告書はメキシコの化学物質排出移動の分析を含んでいない。メキシコ政府は、新たな法的強制力のある報告プログラムの下に2004年度に収集した公衆が入手可能なデータの最初のセットを間もなく発表することが期待されている。

 この報告書の詳細については、ウェブサイト http://www.cec.org を見るか、Spencer Tripp at (514) 350-4331 に連絡してください。


背景

 報告書『北アメリカにおける有害化学物質と子どもの健康』は、化学物質排出の相対的危険性を記述するために、毒性等価能力(TEPs)を使用している。この毒性等価能力(TEPs)は、ひとつの化学物質1ポンドの排出によって及ぼされるリスクを参照化学物質(発がん性物質はベンゼン、非発がん性物質はトルエン)に比較することによって計算する手法である。この報告書はまた、もっと標準的な特性である排出される化学物質の重量による方法も示している。

 両方の方法による主要な結果(原注)には下記を含む:

発がん性物質
  • カナダとアメリカの汚染物質排出移動登録を合わせたデータによれば、472,600トンの発がん性物質がカナダとアメリカの産業施設から排出及び移動されている。
  • 既知の発がん性物質の排出量は、1998年から2002年間でに26%削減された。
  • 大気中への排出量が最大の発がん性物質はスチレンとアセトアルデヒドであった。毒性等価能力(TEPs)で換算すると、四塩化炭素(Carbon Tetrachloride)が第1位であり、鉛とその化合物が第2位である。
  • アメリカとカナダの州で発がん性物質の排出が最大なのは、テキサス、オハイオ、及びインディアナである。テキサス、オハイオ、及びインディアナはまた、大気への発がん性物質の排出についても上位3位の州である。
既知の発達系及び生殖系有害物質

  • 2002年に既知の発達系及び生殖系有害化学物質については、50万トン弱(482,600トン)が排出又は移動された。
  • 既知の発達系及び生殖系有害化学物質の排出量は1998年から2002年間でに28%削減された。
  • 大気中に最大量が排出された既知の発達系及び生殖系有害化学物質はトルエンと二硫化炭素であった。毒性等価能力(TEPs)で換算すると、水銀と鉛およびその化合物がそれぞれ第1位と第2位であった。
  • 毒性等価能力(TEPs)で換算すると、既知の発達系及び生殖系有害化学物質の中で、水銀と鉛は大気中及び水中への排出量が著しく多い。
  • アメリカとカナダの州で既知の発達系及び生殖系有害化学物質の排出が最大なのはテネシー、オンタリオ、及びテキサスである。
疑いのある発達系及び生殖系有害物質

  • 2002年、225万トン以上の疑いのある発達系及び生殖系有害物質が排出、移動された。それらはカナダとアメリカで排出、移動された化学物質の合計量(325万トン)の3分の2以上である。
  • 疑いのある発達系及び生殖系有害物質の排出量は1998年から2002年間でに7%削減された。
  • 疑いのある発達系及び生殖系有害物質で最大量が大気放出されたものは、メタノール、フッ化水素、キシレン、スチレン、n-ヘキサンである。
疑いのある神経系有害物質

  • 250万トン以上の疑いのある神経系有害物質が2002年に排出、移動された。
  • カナダとアメリカで疑いのある神経系有害物質の排出量は1998年から2002年間でに11%削減された。大気放出は27%削減された。

原注:このデータは、報告された施設による排出と移動の推定値であり、人の暴露あるいは環境影響のレベルとして解釈されるべきではない。



化学物質問題市民研究会
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