Chemosphere 2025年5月号
循環型経済と子どもの健康の交差:
プラスチック製の育児用品と玩具に含まれる
過去の臭素系難燃剤の文献レビュー

【アブストラクト】
レベッカ・ムレルワ&ハンナ・アンドレア・ロザー
ケープタウン大学、南アフリカ
情報源:Chemosphere Volume 377, May 2025, 144354
Intersecting circular economy and child health:
A scoping review of legacy brominated flame retardants
in plastic childcare products and toys

Rebecca Mlelwa, Hanna-Andrea Rother; University of Cape Town
School of Public Health, University of Washington, Seattle, WA 98195, USA

https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0045653525002966

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会
掲載日:2025年4月8日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/research/ScienceDirect/Chemosphere_May_2025_
Intersecting_circular_economy_and_child_health_A_scoping_review_of_legacy_
brominated_flame_retardants_in_plastic_childcare_products_andd_toys.html

ハイライト

  • 電子機器からリサイクルされたプラスチックには、段階的に廃止された PBDEsと HBCDD が含まれている可能性がある。
  • 過去の PBDE と HBCDD は、リサイクルされたプラスチックで作られた子ども用製品に含まれている。
  • リサイクルされたプラスチックで作られた子ども用製品は世界中で販売されている。
  • PBDEs と HBCDD は、内分泌かく乱、がん、神経発達障害を引き起こす。
  • これらの過去の POP-BFR (訳注:POPs に指定されている臭素系難燃剤)から子どもを守るには、より厳しい規制が必要である。

アブストラクト

 ポリ臭化ジフェニルエーテル類 (PBDEs) とヘキサブロモシクロドデカン (HBCDD) は、内分泌かく乱、神経発達障害、がんなどの深刻な健康影響を引き起こすため、ストックホルム条約で禁止されている残留性有機汚染物質 (POPs) である。これらの化学物質は、歴史的に電気電子機器(EEE)、車、家具、建築材料などに使用されており、リサイクルプラスチックに残留し、子ども用製品にも含まれている。

(訳注:ポリ臭化ジフェニルエーテル(略称:PBDE)は、ポリブロモジフェニルエーテルとも呼ばれる。ジフェニルエーテル(化学式:C6H5-O-C6H5)の水素が臭素に置換した構造をもつ化合物の総称で、置換臭素の数や位置によって多数の異性体が存在する。 POPs条約においてテトラ(4臭素化体)、ペンタ(5臭素化体)、ヘキサ(6臭素化体)、(7臭素化体)ブロモジフェニルエーテルが附属書 A(製造・使用・輸出入を禁止する措置を取るべき物質)に追加された。これを受け、化学物質審査規制法においても、これら 4物質が第一種特定化学物質に指定され、製造・輸入が原則禁止となった。(EIC ネット

(訳注:ポリ臭化ジフェニルエーテル類 (PBDEs) とヘキサブロモシクロドデカン (HBCDD)はともにストックホルム条約における”附属書 A 廃絶”対象物質(残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約 2019年改正版〈仮訳〉/ 環境省

 私たちの文献レビューでは、子ども用製品に含まれるこれらの化学物質の程度を評価するために、新しい文献を統合した。799件の初期結果のうち、重複を除去し、除外基準を満たしたものを除外した後、28件の研究が私たちの包含基準を満たした。(訳注1

 28件の研究により、チョコレートに埋め込まれたおもちゃを含むプラスチック製の育児用品やおもちゃに、過去(legacy)の PBDEs と HBCDD が広く存在し、その濃度はバーゼル条約の低 POP 含有量制限を超えることが多いことが明らかになった。この広範囲にわたる汚染は、循環型経済におけるリサイクル慣行の規制が弱いこと、リサイクルされた、または汚染されている可能性のある未使用プラスチック(バージンプラスチック)の使用、及びリサイクルプラスチックや子ども用製品に含まれる POP-BFR 含有量に関する特定の基準がないことなどから生じている。

(訳注:(分解処理が求められない「POPs の含有量が少ない場合」として、各 POPs の濃度水準となる LPC(低 POP 含有量)は暫定的に表3を適用すべきであること:(POPs 条約上の POPs 廃棄物に関する規定環境省 資料2-1、4ページ、表3、LPC 一覧))

 子ども特有の脆弱性により、この問題は重大である。したがって、この問題に対処するには世界的な行動が必要である。バーゼル条約は、PBDEs および HBCDD レベルの高いプラスチックのリサイクルを防止するため、より厳しい POP 含有量制限を採用する必要がある。ストックホルム条約とバーゼル条約の両方で、リサイクルプラスチックのこれらの化学物質の安全制限を設定し、子ども用製品における汚染されたリサイクルプラスチックを禁止して、より安全な循環型経済を確保する必要がある。今後の研究では、ライフサイクル アプローチを適用して、子ども用製品における従来の PBDEs および HBCDD のすべての発生源を特定し、軽減する必要がある。

(訳注:バーゼルガイドライン:分解処理以外の環境上適正な処分が認められる「POPs の含有量が少ない場合」として、各 POPs の濃度水準となる LPC(低 POP 含有量)は暫定的に表3(POP-BDEs;50ppm or 1,000ppm)を適用すべきであること:環境省 POPs 条約上の POPs 廃棄物に関する規定、資料2、4ページ


訳注1(参考情報):論文内の 2.2. Eligibility criteria(適格基準)紹介

2.2. 適格基準
 適格基準は、プラスチック製の育児用品や玩具に含まれる過去の POP-BFR に関する研究が進行中であり、査読済みの研究が限られている可能性があることを考慮して設定された。そのため、政府、非政府組織、国際機関からの報告書などの査読済みのジャーナル記事や灰色文献を含めた。
 適格な証拠の範囲が広いため、問題の大きさを包括的に理解するために必要なすべての情報を収集することができた。
 POP-BFR を測定した研究を含めた。つまり、食器、洗面器、プレイマット、便座、ヘアアクセサリーなどのプラスチック製の玩具や育児用品に含まれる PBDE と HBCDD である。
 子ども向けおよび大人が使用する製品に焦点を当てた研究は適格であったが、レビューは子ども向け製品に焦点を当てていたため、それらのアイテムの POP-BFR 濃度に関するデータのみを抽出した。
 プラスチック以外の材料や POP-BFR 以外の測定化学物質類に焦点を当てた研究は除外した。英語で書かれた研究のみを含め、出版日に制限は設けなかった。除外された研究には、英語以外の出版物、レビュー論文、意見、解説が含まれる。



化学物質問題市民研究会
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