ニューヨーク市立大学ハンター校 2021年11月10日
最近の研究が食品中のフタル酸エステル類
についての懸念を提起する

情報源:Hunter College, November 10, 2021
Recent Studies Raise Concerns About Phthalates in Foods
https://www.nycfoodpolicy.org/phthalates-found-in-foods-raise-health-concerns/

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2021年11月22日
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http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/research/Phthalates/211110_Hunter_
Recent_Studies_Raise_Concerns_About_Phthalates_in_Foods.html



 最近の 2つの研究で、アメリカの食品サプライチェーンにおけるフタル酸エステル類のまん延に関する健康上の懸念が提起されている。これらの広く使用されている可塑剤化学物質は、シャンプーからガーデンホースに至るまで何百もの製品に添加されている。その主な機能のひとつは、ビニール、水道管、シュリンク・ラップ、ボトルなどに使用される合成プラスチックであるポリ塩化ビニル(PVC)の耐久性を高めることである。しかしそれらのまん延は健康上のリスクをもたらす。フタル酸エステル類は、ホルモン機能を阻害し、糖尿病、心臓病、肥満などの症状の原因となることが示されている。これらの化学物質は、子どもの神経発達障害や成人男性と女性の生殖問題にも関係している。

 フタル酸エステル類は、米国の食品システムに広く普及しており、産業機器、食品包装、および食品安全手袋に含まれている。その結果、工業的に処理されたり、レストランで調理されたりした食品は、フタル酸エステルの供給源と接触する可能性がある。浮遊粒子は、触れる食品に容易に移動し、容易に摂取または吸入される。汚染された食品はフタル酸エステル類への暴露の主な原因である。

 フタル酸エステル類の毒性に関連する証拠の増加に対応して、米国は 2008年以来、玩具やその他の子ども向け製品での使用を事実上禁止している。欧州連合の禁止は食品容器にも適用されるが、米国はまだそれには追随していない。したがって、先月発表された 2つの研究で示されているように、加工食品からのフタル酸エステル類への暴露は、依然としてアメリカの消費者に健康上のリスクをもたらしている。

ファーストフード中のフタル酸エステル類

 ジョージ・ワシントン大学(GWU)の研究者ら及び教職員ら によって実施され、2021年10月27日に公開された最初の研究では、チーズピザ、チキンブリート 、チキンナゲット、フレンチフライ、ハンバーガーなどの一般的なファーストフードに検出可能な量のフタル酸エステル類が含まれていることが示されている。調査員らは、これらの化学物質が、全国のファストフードチェーンであるバーガーキング、チポトレ、ドミノ、マクドナルド、ピザハット、タコベルから購入した食品の 80%以上に含まれていることを発見した。サンプルに含まれるフタル酸エステル類(DnBP 及び DEHP と呼ばれる)は、呼吸器系の問題生殖に関する健康上の問題のリスクの増加に関連している。

 研究者らは、ファーストフードチェーンからサンプルを採取して、アメリカのフードシステム全体でのフタル酸エステル類の遍在性に光を当てることにした。テストの結果、フタル酸エステル汚染のせいにされることが多いプラスチック製の手袋のこの化学物質の含有レベルは食品自体よりも低いことがわかった。その結果、研究者たちは、加工食品はサプライチェーンに沿った複数のフタル酸エステル含有表面との接触を通じてフタル酸エステルを吸収するに違いないと結論付けた。米国食品医薬品局(FDA)の科学者らによる最近の研究でも、ファストフードの包装および食品加工材料に検出可能なレベルのフタル酸エステルが含まれていることがわかり、コンベヤーベルトやチューブがフタル酸エステル汚染の潜在的な原因であることが示唆されている。

 ジョージワシントン大学(GWU)の研究は、全国的に代表的なデータを使用して、超加工食品(訳注1)の日常的な消費をフタル酸エステル暴露の増加に関連付ける以前の研究に基づいている。これらの以前の研究では、事前に準備されたファーストフードの食事を定期的に摂取する人々は、通常自宅で調理する人々よりも 35〜40パーセント高いフタル酸エステルレベルを示すことがわかった。

 ファーストフードに含まれる高レベルのフタル酸エステルも、健康の公平性の観点から懸念を引き起こす。米国疾病予防管理センター(CDC)が発行した 2018年のレポートでは、他の人種または民族グループと比較して、米国の黒人のファーストフード消費率が高いことがわかった。 2016年に完了した初期の研究では、白人およびヒスパニック系アメリカ人と比較して、黒人アメリカ人のファーストフード消費量とフタル酸エステル暴露との間に大きな相関関係があることが示された。

 これらの不均衡は、人種的な居住の分離をもたらし栄養価の高い食品へのアクセスが制限される周辺地域を作り出す都市住宅政策に関連している可能性がある。そのような地域は一般に”食の砂漠”と呼ばれているが、食の正義運動の多くは、それらを”食品アパルトヘイト”の産物として説明することを好む。食の正義の指導者たちは、”食の砂漠”という用語がこれらの地域の文化的活気を覆い隠し、食糧不安が食糧システムの自然な特徴であると誤って示唆していると主張する。対照的に、「食品アパルトヘイト」は、体系的な人種差別、経済学、地理学が交差して食の不正義を生み出す方向に注目する。

フタル酸エステル汚染の健康への影響

 2番目の研究では、ニューヨーク大学グロスマン医学校の研究者らが、プラスチック製の食品容器や化粧品に含まれるフタル酸エステルが、年間 10万人もの早死につながる可能性があると報告した。研究者らは、米国国民健康栄養調査 2001-2010(NHANES)の一環として、55〜64歳の成人 5,303人から収集した尿サンプルを分析した。フタル酸エステル類のサンプルをテストした後、調査員らはその結果を 2015年までに NHANES 参加者から収集された死亡率データと比較した。

 研究者らは、暴露量が少ない人と比較して、フタル酸エステル濃度が最も高い人の心臓病による死亡リスクが高いと報告した。これらの結果は、フタル酸エステル類の暴露を心臓細胞の遺伝子発現の変化不整脈などの心臓病の症状に関連付ける初期の研究を裏付けている。

 この研究はまた、フタル酸エステル類への暴露による早期死亡の経済的損失についての新しい洞察を提供した。研究者らは、55〜64歳のアメリカ人の健康老化研究所の生涯経済生産性推定値にフタル酸エステルによる死亡を掛けた。この計算を使用して、研究者らはこれらの死亡がアメリカ人に390億ドル(約4兆3,00億円)以上の経済生産性の損失をもたらしたと評価した。彼らの調査結果は、テストステロン(訳注:男性ホルモンの一種)レベルの低下による成人男性の年間 10,000人以上の死亡をフタル酸エステル類に関連付けた2015年の研究に基づいている。調査員らは、これらの死の結果として失われた経済的生産性をほぼ90億ドル(約 9,900億円)と位置づけた。

 ”我々の研究は、この化学物質の社会への被害が我々が最初に考えたよりもはるかに大きいことを示唆している”と、ニューヨーク大学ランゴーンの環境ハザード調査センターの所長であるレオナルド・トラサンデ博士はプレスリリースで述べた。 有害なフタル酸エステル類への暴露を制限することが、アメリカ人の身体的および経済的幸福を保護するのに役立つという証拠は明白である。”

食品中のフタル酸エステル類の未来

 食品からのフタル酸エステル類への暴露を大幅に減らすには、米国食品医薬品局(FDA)が化学物質の規制を強化する必要があるであろう。子ども向け製品のフタル酸エステル類に対する禁止の影響を評価する研究は、規制の取り組みがフタル酸エステル類への暴露を抑制するのに役立つことを示唆している。しかし、FDAは、これらの化学物質が人間の健康に悪影響を与えるという十分な証拠をまだ確認していないと主張している。その結果、FDAは、”一般に安全と認められている(Generally Recognized as Safe)”(訳注2)フタル酸エステルを含む食品包装を引き続き使用して差し支えないとしている。

 ”新しい情報が安全性の問題を提起する場合、許可された使用による害がないという合理的な確実性がもはやないと FDA が結論付けることができなくなった場合、食品添加物の承認を取り消す可能性がある”とジョージワシントン大学(GWU)の研究結果に関して、FDA はワシントンポストの記者らに語った。

 米国が規制を拡大するまで、国民の意識向上キャンペーンは、食品システムにおけるフタル酸エステル汚染を減らす別の手段を提供することができる。化粧品からフタル酸エステル類を除去するという推進力は、化学物質の使用反対の主張の成功例を示している。過去20年間で、安全な化粧品キャンペーン及びエンバイロンメンタル・ワーキング・グループ(EWG)などの公衆健康擁護団体は、フタル酸エステル類への暴露に関連する健康リスクについて多くの消費者に警告してきた。 EWG のスキンディープ・データベースは、約 65,000の化粧品および衛生製品の成分に関する詳細な毒性および健康被害情報を消費者に提供している。非営利団体の毒物学者、化学者、疫学者のチームも、EWG VERIFIEDTMマークを付けるために潜在的に有害な成分がないと見なされる製品を承認する。

 彼らの努力は、フタル酸エステルを含まない製品を化粧品セクターで最も急速に成長している分野に変えるのに役立っている。食品の買い物客や食事客の間での同様の抗議は、食品メーカーやファーストフード会社にサプライチェーンからフタル酸エステル類を取り除くよう促す可能性がある。

更なる情報

 ■本記事で引用されている研究
 ■フタル酸エステル類に関する一般情報
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訳注1:超加工食品

訳注2:Generally Recognized As Safe/GRAS


化学物質問題市民研究会
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