Harvard T.H. Chan 2021年3月10日
なぜフタル酸エステル類は消費者製品から
制限又は禁止されるべきなのか

ラス・ハウザー教授との Q&A
カレン・フェルチャー

情報源:Harvard T.H. Chan School of Public Health, March 10, 2021
Why phthalates should be restricted or banned from consumer products
Russ Hauser, Frederick Lee Hisaw Professor of Reproductive Physiology and
professor of environmental and occupational epidemiology
By Karen Feldscher
https://www.hsph.harvard.edu/news/features/the-big-3-
why-phthalates-should-be-restricted-or-banned-from-consumer-products/


訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2021年7月20日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/research/Phthalates/210310_HARVARD_TH_CHAN_
Why_phthalates_should_be_restricted_or_banned_from_consumer_products.html


 【2021年3月10日】この「ビッグ 3 Q&A」で、フレデリック・リー・ハイソウ教授記念生殖生理学及び環境・労働疫学のラス・ハウザー教授が、Project TENDR(Targeting Environmental Neuro-Development Risks)の同僚と共同執筆したオルトフタレート(フタル酸エステル類)と呼ばれる化学物質の健康上の危険性を概説し、消費者製品からのそれらの排除を求めている最近の論文に基づいて解説している。

Q:オルトフタル酸エステルとは何ですか?どこで使用されていますか?

A:これらの化学物質(一般に「フタル酸エステル類」と呼ばれます)は、50年以上にわたって広く使用されている化合物の一群です。それらは多くの様々な消費者製品でそれらに役立つ多くの特性を持っています。それらの一般的な用途のひとつは、ビニールプラスチックを柔らかくすることです。シャワーカーテン、ブーツ、静脈注射用チューブ(IVチューブ)などは、配管工が使用するのと同じ硬いプラスチックで作られていますが、特定のフタル酸エステルを約 30重量%加えると、柔らかくしなやかなビニールプラスチックになります。フタル酸エステル類は、コロン、香水、石けん、シャンプーなどの多くの身体手入れ(パーソナルケア)用品、一部の医薬品(錠剤)のコーティング、食品加工に使用されるビニールチューブにも使用されています。フタル酸エステル類は、数千とは言わないまでも数百の様々な製品に使用されていると推定します。

 人々がフタル酸エステル類にさらされる可能性のある主な経路のひとつは飲食です。たとえば、これらの化学物質は、ビニールプラスチック製の機器や材料、食品調理用手袋、食品包装材料から食品に浸出する可能性があることが示されています。フタル酸エステル類は、ビニール床材や壁材などの製品から室内の空気や家庭のほこりにも移動する可能性があります。多くの研究により、身体手入れ用品の使用と尿中のフタル酸代謝物の濃度との間に関連性があることがわかっています。そして、フタル酸エステル類は妊娠中に母親から胎児に移行します。

Q:これらの化学物質の健康への影響について説明してください。

A:フタル酸エステル類は動物モデルで非常によく研究されています。 それらは抗アンドロゲン性(抗男性ホルモン)であることが示されています。言い換えれば、それらはテストステロン(アンドロゲンに属する男性ホルモン)を減少させます。 ラットを使った研究では、妊娠中の母ラットに投与すると、子孫に男性器の欠陥があることが示されています。 男性器の発達に対する抗アンドロゲン作用を発見したヒトでの研究もあります。

 過去10年間の疫学研究では、フタル酸エステル類への出生前暴露が子どもの神経発達及び神経行動の結果に影響を与えることも示されています。 それが新しい論文の焦点であり、妊娠中の母親のオルトフタル酸エステル類への暴露が子どもの脳の発達を損ない、学習、注意及び行動の障害に対する子どものリスクを高める可能性があることを示した 12以上の研究をレビューしました。

Q:オルトフタル酸エステル類の使用を減らすために米国でこれまでに何が行われてきましたか?さらに何をすべきですか?

A:2017年、米国消費者製品安全委員会は、子どものおもちゃや育児用品への 8種類のオルトフタル酸エステル類の使用を禁止しました。しかし、ビニールプラスチックや身体手入れ用品での使用に関しては、現在、他の政府機関による特定の法律はありません。これらの他の製品でのフタル酸エステル類の使用を削減または排除するという製造業者の決定は、主に任意です。したがって、まだ長い道のりがあります。

 一部の製品では、オルトフタル酸エステル類の使用を排除することは大いに実行可能です。たとえば、ビニールプラスチックを軟化させるための可塑剤として使用できる他の化学物質があり、メーカーはすでにいくつかの製品で代替品を作っています。ただし、代替化学物質に何を使用しているか、リスクを伴う可能性のある他の化合物を使用しているかどうかを調査する必要があります。

 身体手入れ用品には、フタル酸エステル類以外にも使用できる化学物質があります。たとえば、マニキュアにはフタル酸ジブチル(DBP)と呼ばれるフタル酸エステルのひとつが含まれていることが多く、マニキュアがもろくなるのを防ぎました。現在、DBPを含まない配合があります。

 消費者製品からのフタル酸エステル類の除去という目標は達成可能だと思います。私たちが排除を推進している理由の一部は、消費者がオルトフタル酸エステル類がどの製品、特にどの身体手入れ用品に含まれているかを知ることが非常に難しいためです。製品に含まれるフタル酸エステル類が香りの配合の一部と見なされる場合、香りは独自のものと見なされるため、成分リストに記載する必要はありません。一部の製品にはフタル酸エステル類が記載されていますが、消費者がこれらの長い化学名のラベルを読むのは非常に困難です。非常に知識のある消費者でさえ、製品を購入してフタル酸エステル類を避けることは非常に困難です。


訳注:日本での情報


化学物質問題市民研究会
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