エンバイロンメンタル・ディフェンス 2005年11月
汚染された国:カナダ人の汚染に関する報告書
(エグゼクティブ・サマリーの紹介)

情報源:Environmental Defence, November 2005
Toxic Nation: A Report on Pollution in Canadians
http://www.environmentaldefence.ca/reports/Toxic%20Nation%20Report_English_110605.pdf
Environmental Defence
http://www.environmentaldefence.ca/protecting/toxicnation.htm

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会
掲載日:2006年3月1日

内容
エグゼクティブ・サマリー
■概要
 ・ケミカル・カナダ
 ・化学物質汚染と人の健康
   がん、神経発達系疾患:行動障害と学習障害、
   生殖障害、呼吸器系疾病、
   化学物質と健康への影響との関連性
 ・カナダの有害化学物質政策
   カナダの有害化学物質へのアプローチ
   カナダ環境保護庁(CEPA)の有害化学物質レビューと
   国際的行動
■手法
■結果と議論
  重金属、PBDEs、PCBs、PFOS、PBDEs、PCBs、PFOS、
  有機塩素系農薬、有機リン系農薬、VOCs
  個人の履歴と化学物質曝露
■結論と勧告
■参照
■用語
■Appendix 1. Sampling and Analytical Methodology
■Appendix 2. List of Chemicals Tested
■List of Tables
■List of Figures


■エグゼクティブ・サマリー

汚染された国:カナダ人の汚染に関する報告書

 エンバイロンメンタル・ディフェンスによって実施された人体汚染に関するカナダ全土にわたる調査において、テストされた全ての人々から有害な化学物質のカクテルが検出された。『汚染された国:カナダ人の汚染に関する報告書』 は、人がどこに住んでいようと、何歳であろうと、何を職業としていようと関係なく、彼らは、がんや呼吸器系障害を引き起こし、ホルモンをかく乱し、生殖系や神経系の発達に影響を与える化学物質によって検出できるレベルで汚染されていることを確認した。

 アメリカとヨーロッパで実施された調査(訳注1)は、どのような職業の人でも有害化学物質の混合物で汚染されていることを明らかにしたが、カナダ人の汚染に関する情報は現在まで限定されていた。我々の報告書で述べられる調査は、カナダ全地域をカバーする平均的カナダ人について広範な化学物質のテストを行ったカナダで最初のものである。

訳注1
Body Burden: The Pollution in People by Environmental Working Group in Washington D.C
Bad Blood? A Survey of Chemicals in the Blood of European Ministers by World Wildlife Federation

 カナダの産業は我々がテストした化学物質の多くを放出している。2003年、カナダの産業から放出された大気汚染物質は合計41億キログラム(kg)以上であり、それらは、発がん性物質、ホルモンかく乱物質、呼吸器系有害物質、そして生殖系/発達系有害物質などを数百万キログラム含んでいる。この報告書にある科学的調査は、有害化学物質への曝露が最近数十年間でカナダで増加している多くの疾病と関連付けており、それらは、いくつかの種類のがん、生殖障害、先天性障害、ぜんそく、神経発達系障害などを含んでいる。

 この『汚染された国』報告では、エンバイロンメンタル・ディフェンスはカナダ人の体内で検出される広範な汚染物質を検証するために、カナダ全地域をカバーする11人をテストした。我々は、産業及び農業プロセスを通じて我々の土地、大気、及び水に放出されたが88種類の化学物質について血液及び尿をテストした。人々はまた、消費者製品への接触又は使用を通じてこれらの化学物質に曝露することもあるであろう。テストされた化学物質には重金属、ポリ臭化ジフェニル・エーテル類(PBDEs)、ポリ塩化ビフェニル類(PCBs)、パーフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)、有機塩素系農薬、有機リン系殺虫剤の代謝物質、そして揮発性・準揮発性有機化合物(VOCs)が含まれる。

 この調査の目的は下記の通りである。
  • 汚染物質が検出可能なレベルでカナダ人の体内に存在するかどうか決定すること
  • 産業先進国の人々に見出される化学物質の種類と濃度に関する知見を増大する知識ベースに加えること
  • カナダ人の健康に影響を与えるかもしれない懸念ある化学物質を特定すること
  • 人々がそのような化学物質への曝露を削減するために取ることができる戦略を作り出すこと
 エンバイロンメンタル・ディフェンスの『汚染された国』報告は、有害化学物質を規制するカナダの包括的な法律であるカナダ環境保護法(Canadian Environmental Protection Act(CEPA))の法で定められた5年毎の見直しと時を同じくして行われた。カナダ人の体内汚染に関する我々の調査結果は、カナダ環境保護法(CEPA)は人々を有害な汚染物質から保護するためには不十分であるということを示した。

主要な調査結果

  • 実験室において、11人の協力者に88の化学物質をテストしたが、そのうち60化学物質が検出された。それらには、重金属 18、PBDE類 5、PCB類 14、パーフルオロ化学物質 1、有機塩素系農薬 10、有機リン系殺虫剤代謝物 5、VOC類 7 が含まれる。

  • 協力者1人当たり平均44化学物質が検出されたが、それらには発がん性物質 41、ホルモンかく乱物質 27、呼吸器系有害物質 21、生殖系/発達系有害物質 53 が含まれる。

  • 我々が知る限り、この報告書はカナダ全土をカバーする人体のPFOSレベルを測定した最初の調査であり、我々の調査結果 はPFOS 汚染はカナダ人全体に広がっているらいしいことを示している。
  • 我々の協力者の一人、北部ケベックのカナダ先住民族(ファースト・ネーションズ)のリーダーの調査結果は、水銀とPCB類や有機塩素系農薬のような残留性有機汚染物質(POPs)の汚染レベルが最も高いことを示した。これらの結果は、汚染点源から遠く離れていても、多くの化学物質は大気、水の流れ及び気象条件のために、”北部”に蓄積する傾向があるということを示した以前の調査と一致している。

  • PCB類は1970年代に禁止されているにもかかわらず、それらは、1980年代初期に生まれた人々を含んで全ての協力者から検出された。しかし、我々の調査結果は、人々の曝露を減少させる努力が成功していることを示唆している。この調査は、若い協力者に比べて年を取った協力者に多くのPCB類を見出した。例えば60歳以上の協力者のサンプルからは12〜14のPCB類が検出されたが、25歳以下の協力者のサンプルからは5種類のPCB類が検出された。
 この調査の結果は、カナダ人の中に広がる心配な健康の傾向が有害化学物質への曝露だけに起因するということを証明したわけではない。しかし、全ての潜在的な不健康の原因は検証されなくてはならないし、有害化学物質の悪影響の可能性は無視することはできない。

勧告

 カナダ人は、彼らの国が人の健康と環境の保護においてリーダーであることを期待している。『汚染された国』報告は、カナダ政府に対し、この調査と他の司法管轄区の政策的取組を認め、カナダ人は有害化学物質からの保護を少なくともヨーロッパ及びアメリカと同じレベルで受けることを確実にすることを要求している。
 欧州連合(EU)の新たな化学物質規制案 REACH(化学物質の登録、評価、及び認可 Regulation, Evaluation and Authorisation of CHemicals)は、もし現状の通り成立すれば、化学物質の最も厳格な規制と人の健康の最も高いレベルの保護をもたらすことになるであろう(訳注2)。アメリカでは、提案されている子ども、労働者、及び消費者安全化学物質法がヨーロッパの先行をを追う潜在力を持っている(訳注3)。欧州連合とアメリカのいくつかの州は、臭化難燃剤、過フッ素化合物とその前駆物質、及びフタル酸エステル類を含む、最も有害な化学物質のいくつかを禁止するための措置をとっている。

訳注2
EU 新化学物質政策 REACH の紹介 (当研究会ウェブサイト)
訳注3
米子ども安全化学物質法案/子ども、労働者、及び消費者の有害物質への曝露を低減するための有害物質規制法(TSCA)を修正する法案(当研究会訳)

 カナダ環境保護法(CEPA)の見直しは2005年秋に開始され、それはカナダの有害化学物質規制を国際的基準のレベルまで上げる機会でもある。エンバイロンメンタル・ディフェンスはその見直し作業に参画しており、この法律を著しく改善するために、下記を含む勧告を行っている。
実質的に有害化学物質の使用を廃止するスケジュールを確立すること:
  • 全ての発がん性物質の大気及び水への放出の実質的な廃止を2008年までに実現すること
  • 呼吸器系有害物質、内分泌かく乱物質、及び生殖系/神経系有害物質の使用、放出、生成、廃棄、及びリサイクリングの実質的な排出のスケジュールを確立すること
  • 最優先事項として臭化難燃剤、過フッ素化合物とその前駆物質、及びフタル酸エステル類を禁止すること
 産業界にその化学物質に対し責任を持たせること:
  • 化学物質を市場に出す、又は使い続ける前に、その安全性を証明する責任を産業側に移行すること
  • 有害な物質をより安全な又は害のない物質に置き換えるための安全代替方針を採用することを産業側に義務付けること
消費者製品中の有害化学物質を規制すること:
  • 消費者製品の使用中又は廃棄中に放出するかもしれない有害化学物質を規制するようカナダ環境保護法(CEPA)を拡張すること
五大湖地域での汚染を削減すること:
  • カナダの全有害大気汚染の45%が五大湖地域で放出されているなら、カナダ環境保護法(CEPA)にこの汚染地域に特化した一章を設ける必要があること
 エンバイロンメンタル・ディフェンスはまた、カナダ人は可能な限り有害化学物質への個人的曝露を削減する努力を払うよう力説する。有害物質の曝露源は様々で数も多く、ライフスタイルや購買習慣のわずかな変化が各人が被る汚染のレベルに違いを与える。エンバイロンメンタル・ディフェンスは人々に『汚染された国(Toxic Nation)』ウェブサイト http://www.ToxicNation.ca/pledge を訪問し、有害な化学物質への曝露を削減する少なくとも5つの行動を約束してほしい。

 しかし、個々のカナダ人がそのような行動を選んでも、カナダ政府はこの『汚染された国(Toxic Nation)』で明らかにされた人の汚染の証拠を戻すことはできない。産業によって放出され、また消費者製品への接触又は使用を通じて放出される有害化学物質はカナダ人の体内で検出されている。今日の人々守るために、そして将来の世代の健康を守るために、カナダ政府は、全ての市民が、どこに住んでいようと、何歳であろうと、職業が何であろうと、有害物質に曝露しないことを確実にするよう方針を定めなくてはならない。



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