ETCグループ 論文 2003年4月
小さなことではないU:全世界でモラトリアム
サイズが問題だ!


情報源:ETC Group Occasional Paper Series Volume 7, No. 1 April 2003
No Small Matter II: The Case for a Global Moratorium
Size Matters!
http://www.etcgroup.org/upload/publication/165/01/occ.paper_nanosafety.pdf

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2006年4月18日
更新日:2006年4月22日(本文全訳)



 産業界と政府規制当局は、ナノスケール物質の特異なサイズと特性が潜在的に健康、安全及び環境に及ぼす影響をよく精査しないままに放置している。この論文では、ETCグループはなぜサイズが問題なのかを説明する!
ETC Group, P.O. Box 68016 RPO Osborne Winnipeg MB R3L 2V9 CANADA
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サイズが問題
論点: 実験室及び消費者製品中にナノ粒子が出現してから十年以上経過して、ある科学者らはそのように価値ある化学的反応特性と量子力学的特性を持つこれらのナノ微粒子が我々の健康と環境に有害響を及ぼす可能性について調査すべきではないかと考え始めた。産業界はカーボン・ナノチューブについての研究は十分ではないのにナノ粒子の生産拡大と商業化を推進しているが、ヨーロッパ又は北米では労働者と消費者の安全を確保するための政府の規制はなんらないように見える。ナノ粒子は、すでに日焼け止め(幼児用のものもある)、化粧品、創傷被覆材、その他の製品やプロセスで日常的に使用されている。規制当局は、同一成分でもマクロ又はマイクロ−サイズのものが既に承認されていれば、ナノサイズのものの健康、安全、及び環境への影響をテストしない。

影響: ナノ粒子の現在の市場規模は小さいが、アナリストは2005年には9億ドル(約1,000億円)を超えるであろうと予測している。世界の大会社(デュポン、BASF、L'Oreal、Hewlett-Packard、ミツビシ、トヨタ、及び IBM)から世界の小さな会社(NanoProducts, Nanophase, Altair)にいたるまで、ナノ物質の研究に大急ぎで取り組んでいる。ナノ粒子は新たな産業革命の第一期を代表しており、アメリカ国立科学財団は2015年までに1兆ドル(100兆円)の市場規模となるとしている。アトミック技術(又は産業界が好んで使うナノテク)は全ての産業分野にいきわたり国家経済のあらゆる面に影響を与える。ナノテクノが環境と人の健康に与える潜在的な”良い”影響も”悪い”影響も莫大である。ナノ粒子を超えて、ナノ・バイオ技術の分野でも長足の進歩を遂げている。分子製造のような不可能又は数十年先のことと多くの人々が信じていた様なことが、今ではもっと現実的になり手の届くところにある。もし産業側をナノ粒子の安全な開発という点で信頼することができないなら、分子自己組み立て(参照:ETCグループコミュニケ#77, ”グリーン・グー:ナノ技術が活気づく!”ETC Group Communiqu #77, " Green Goo: Nanobiotechnology Comes Alive!")のようにナノテクがもっと繊細な応用に適用されるようになった時に、産業側は信頼されなくなる。もし、科学界がモラトリアムの要求対応しないなら、この新たに出現している技術は取り返しのつかないダメージをこうむるであろう。

政策: ナノ技術を監視し規制する任務を負った政府内組織はひとつもない。いくつかの政府はナノテク規制のある領域について検討を開始し始めたが、社会経済(特に労働)、環境に及ぼす影響の全てに対し十分な考慮をしている政府はない。アメリカ国家毒性計画はクラスとしてのナノ技術への取組に着手していない。[1]。イギリスのベター・レギュレーション・タスクフォースは、”政府は、ナノテク研究を継続させつつ、個人、動物、及び環境の安全を確実にする明確な政策を持っていることを示す必要がある”−と述べている[2]。ある初期の研究がドイツとブリュッセルで行われているように見える。4分の1世紀以上の間、実験室での活動が行われているにもかかわらず、ナノ物質の実験室での研究、又は商業製品への導入を統制する国際的に認められた科学的基準が存在しない。この驚くべき怠慢に照らして、また消費者はすでに人工ナノ粒子に暴露しているという理由のために、強制力のあるモラトリアムの要求は唯一の合理的な対応である。

意見: 最終的に、政府は法的強制力のある”新規技術の評価のための国際条約(ICENT)”を交渉しなくてはならない。

柔に生まれついている(Born to be mild): 進化の途上で、ヒト(ホモサピエンス)は海岸に這い上がり一息ついて、それから剣歯トラやマンモスを遺伝的にはるかに追い越した。最終的に我々は火を得てくつろぐことができ、我々はやっと手に入れた肺に若干の短所となるススを吸い込んだ。我々の肺は、煙の中や、後には産業汚染や車の排気ガス中に見出される非常に小さい粒子に対応するようにはできていない。微粒子が非常に、非常に小さいと、我々の肺によくないというだけのことではなくなる。分子が十分に小さいとそれらは我々の呼吸器系の防御機能を通り抜け、皮膚を通して細胞中に入り込み、時には血液脳関門を通過することができる。ヒトの自然な体にとって、ナノスケールは”不自然”である。

再び微粒子を帯びる(Borne again):サイズが100nm以下の著しく大量の大気浮遊粒子が大気汚染という形で、高温な産業プロセスの意図しないが避けることもできない副産物として、産業革命とともに出現してきた。前世紀の最後の四半期に科学者らは、ナノ粒子のあるもの(超微粒子又はUFPsと呼ばれ、そのサイズが100nm以下の粒子)は汚染”廃粒子(effluent)”というクラスに属するという考えを探求し始めた。ナノ粒子は、同一成分でもっと大きな物質では示さない望ましい特性を示すことがある。例えば、日焼け止めに用いられているニ酸化チタンと酸化亜鉛のナノ粒子は、もっと大きな二酸化チタンと酸化亜鉛粒子と同じ分子構造(TiO2 及び ZnO)を持っており、これは水泳場の見張りの鼻に白くべっとり塗られていたが、ナノ粒子の二酸化チタンと酸化亜鉛粒子は透明である。また、通常は導電性のある物質もナノスケールでは絶縁性となり、またその逆もある。

 カーボン・ブラック(すなわち、天然ガスの燃焼時に生成されるスス)は20世紀の初頭から大量に製造されてきたが(車のタイヤの強化剤として使用)、望ましい特性を求めて化学的に精密なナノ粒子が意図的に製造されるようになったのは1970年代の中頃からである。マサチューセッツにあるハイペリオン・キャタリシス社は1983年以来カーボン・ファイバーを製造しており、もうひとつのアメリカの会社ナノフェーズは様々な金属酸化物のナノ粒子を1980年代中頃から販売している。過去には廃粒子(effluent)は一般的に非意図的な望ましくない産業副生物であるとみなされていたが、”人工ナノ粒子”の場合、廃粒子(effluent)は産業生成物である。

豊富な廃粒子(Affluent Effluent):世界中でナノ粒子製造会社がすでに140社を超える[3]。2005年までに、ナノ粒子の世界市場は10億ドル(約1,000億円)近くになるであろう[4]。周期律表中の少なくとも44元素はナノスケール形状で商業的に入手可能である(下記参照)。コロラド州のナノプロダクトという小さな新会社は近い将来はさらに20元素を販売することを期待している[5]。地球上の残りの50くらいの元素は放射性、ガス状、又は半減期が非常に短いので、フェデックス(訳注:米国の宅配便会社)は空の包みを届けることになる。”大量ナノ”の爆発的な増加は、現在、ナノ粒子はポピュラーな日焼け止めやサングラスから L'Oreal の化粧品まで日常使用する何にでも使われているということを意味している。銀ナノ粒子処理の火傷帯(Burn dressings)が北アメリカの主要な火傷センター120の内100で使用されている[6]。バボラト社は、重量を増さずに強度を上げるために、カーボン・ナノチューブをテニスラケットに導入した。あなたがナノチューブ・ラケットで打つボールがウィルソン・ダブル・コアなら、それはナノ・クレイで処理されている。多くのアメリカ及びヨーロッパの車の燃料系、トヨタのある車種の車体、及びルノーのプラスチック・サイドパネルは全てナノ粒子物質を導入している。(12〜13ページのナノ粒子製品の表を参照。注意:製品/会社のリストはナノ粒子に関する安全性又はリスクを示す意図ではない。単にナノ粒子を含む製品のリストの一部である。)クラフト社(訳注:アメリカの食品会社 Kraft Foods)とアメリカ農務省((USDA)は食品放送容器におけるナノ粒子の使用、最終的には食品そのものでの使用を研究している。そのように多くの消費者製品中に目に見えないナノ粒子が存在するようになったことについて何か心配するような理由があるのか? ナノ粒子のある適用は安全でその他のものは安全ではないのか?

クラフト社(と米農務省)は驚くに違いない!
結局、我々はナノテクを食べるよう勧めているわけではない。
1996年ノーベル賞受賞のリチャード・スマレイが
バイオテクとナノテクノ類似点が誇張されるべきではないと勧告。
The Times Higher Education Supplement, Mar 21, 2003

”年間、12,000件もの論文引用がある分野で、ナノ物質リスク評価モデルの開発における優先的研究もなければ、人工ナノ物質に特化した毒性研究もないことを知って我々は驚愕した。”

ビッキー・コルビン Vicki Colvin
責任あるナノ技術:よい話の向こう側を見る

"Responsible Nanotechnology:
Looking Beyond the Good News"
http://www.eurekalert.org
出発します お乗りください(All Aboard): ナノ粒子毒性の分野における研究が緊急に求められることについては誰も否定しない。ライス大学(テキサス州ヒューストン)生物環境ナノ技術センターのディレクター、ビッキー・コルビンは次のように書いている。”年間、12,000件もの論文引用がある分野で、ナノ物質リスク評価モデルの開発における優先的研究もなければ、人工ナノ物質に特化した毒性研究もないことを知って我々は驚愕した。[7]” アメリカの国立環境健康科学研究所の環境毒物学計画のジョーン・ブッチャーは最近、”[ナノ物質の毒性に関連した質問に対して]我々はその答えを知らない。我々はその質問をし始めたところだ。[8]” 残念ながら、国立科学財団のナノ技術に特化した数百万ドル(数億円)研究を実施する6つの施設のひとつでり、環境及び、生物学と物質ナノ技術とのインターフェースに特化した唯一のものであるライス大学のコルビンのセンターは、研究領域に毒物学を含めていない。この分野の科学者らがデータが欠如していることを認めることは重要であるが、ナノ粒子はすでに消費者に販売されているのだから、その認識は不十分である。健康と環境への影響の調査のために費やされれる公共資金もまた不十分である。例えば、アメリカでは、国家ナノ技術イニシアティブ(NNI)のための予算7億1,000万ドル(約780億円)の内わずか2.9%が、応用を含んだ環境影響への研究に使われている[9]

針小棒大?(Mountains and Molehills?) 車の排気ガスのような汚染物質中のナノスケール粒子は有毒であるということを示唆するデータは山のようにあるが、ある科学者らは、”偶然にできた”汚染物質中の粒子と意図的に製造されたナノ粒子とでは大きな違いがあると主張する。彼らは、ナノ粒子の毒性についての結論は、産業汚染物質の過去の研究から推定することはできないし、また推定すべきではないと主張する。しかし、人工ナノ粒子に関する研究はほとんど行われていないので、”偶然の”と”意図的な”ナノ粒子の毒性の差は、ほとんど仮定の問題である。あるナノ技術者は、人はかならずしもほとんどの人工ナノ粒子と常に接触するわけではない−車の排気微粒子のように大気浮遊するわけではない−ので、その毒性は関連性がないと指摘する。

 しかし、ドラッグ・デリバリー・システム(あるものは血液脳関門を通過するよう設計されている)でのナノ粒子の使用も、生体細胞の追跡(トラッキング)での使用も、食品容器での使用も、さらには食品そのものでの使用ですら研究は途上である。例えば、二酸化チタン(TiO2)は多くの透明日焼け止め中の成分であり、これらはある形状では有害であることを示唆するデータがある(下記の議論を参照)。

 非意図的微粒子(UFPs)と”意図的”ナノ粒子との間には仮定の上で二つの相違がある。ひとつは、人工ナノ粒子の表面科学特性は一様であり、管理することができる。もうひとつは、粒子のサイズは均一に作るよう管理することができる。言い換えれば、もし、特定のナノ物質の表面の化学的特性が健康問題を引き起こすことが分ったら(例えば、大きな表面積が毒性のある反応をもたらす)、化学者らはその問題を軽減するために表面の化学的特性を変更することができる。もちろん、我々が問題を知るまでは、その問題を排除するために表面化学特性を管理することはできない。

サイズによる分類
粒子の分類サイズ
粗粒子
(Coarse)
平均径10μm以下
微粒子
(Fine)
平均径2.5μm以下
超微粒子
(Ultrafine)
(ナノ粒子)
平均径100nm以下
超微粒子
(Ultrafine)
概略寸法通過できるもの[10]
 70nm肺の気泡表面
 50nm細胞
 30nm中枢神経
 20nm以下科学的データ
なし
粒子の毒性に対するサイズの寄与と物質成分の寄与は明確に確立されていない。粒子を構成する物質よりもサイズの方が寄与が大きいという見方もある。(Annex 参照)

 一様な粒子サイズに関しては、もし特定のサイズ範囲に問題があることがわかったなら、科学者らは、ナノ技術者らがそのサイズを健康に問題を起こさないようなサイズに調整して製造することができると主張している。約70nmのサイズは肺に問題を起こし、30nmのサイズは中枢神経系に問題を起こし、50nmのサイズは細胞を通過してグリーンライトを点灯することができる(訳注:細胞を通過させてナノ粒子をグリーンに点灯させた実験)[11]。ここでもまた、人工ナノ粒子に関する毒性研究を行い、どのサイズが問題で、どのサイズなら問題ないかが示されるまで、ナノ粒子のサイズを管理することはできない。実際、ナノ粒子を一様のサイズで作った場合、もしそのサイズが細胞に、肺に、あるいは中枢神経に問題があるのなら、全ての粒子が問題を引き起こすことになるのだから、一様サイズのナノ粒子は非意図的汚染物質UFPよりはるかに危険である。例えば、アメリカで化粧品として販売され始めている二酸化チタンのナノ粒子の急ぎの調査で、そのサイズは精密には管理されておらず、20〜50nmの範囲にあり、それらは中枢神経系にも細胞にも入り込めるサイズであることがわかった。


 単独又は複合金属ナノ粒子製造に使用されている元素 近い将来使用されるであろう元素

 もっと根本的な問題は、現時点では粒子サイズを決定するための標準化された手法がないということである。アメリカ国立標準技術研究所のロバート・シュル博士は最近、粒子サイズを測定するために5〜10の手法が用いられていると述べた[12]。測定結果は測定に用いられる手法によって2倍の相違があり得る。シュル博士は、これは”実際に深刻な問題である”と認め、彼の研究所は様々な測定技術を評価し確定的な手法を求めることでこの問題に対応するであろうと述べた[13]

 科学界がこの初期の段階でこれらに対する全ての答えを持っているとは期待していない。しかし、全ての消費者は、科学者と規制当局がナノ製品が販売され、又は環境中に放出される前に、そして実験室と製造工場の労働者の健康を危険にさらす前に、その答えを正しく理解することを期待している。ETCグループは特に問題ある二つの事例を見つけている。

無罪の推定T カーボンナノチューブの場合: カーボン・ナノチューブは純粋にカーボン分子でできたストロー形状の分子で1991年に日本の飯島澄男博士によって発見された(訳注:カーボン・ナノチューブ解説:フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』)。それらは”奇跡の分子”と呼ばれているが、それは鉄よりも100倍強く、6倍軽いためである。ナノチューブは径が1nm位、長さが100,000 nm位である。それらはストローのような単層構造もあるし、紙筒の中の書類に似た多層構造もある。それらはどのような構造に形成されるかによって半導体にも、導体にもなる。世界には16の主要なカーボン・ナノチューブ製造会社があると推定される[14]。世界の市場は2002年には1,200万ドル(約13億円)と見積もられていたが、2004年には4億3,000万ドル(約470億円)となると予測されている[15]。日本の二つの会社がナノチューブを大量生産するために創設された。フロンティア・カーボン社(Frontier Carbon Corporation/三菱商事と三菱化学の共同出資)は今年(2003年)は40トンのナノチューブを生産する計画であり、カーボン・ナノテク・リサーチ研究所(Carbon Nanotech Research Institute)は年間生産量120トンを目指している。アメリカでは、カーボン・ナノテクノロジー社(Carbon Nanotechnologies, Inc.)が単層ナノチューブ年間生産量150〜300トンの新工場を建設する計画を持っている[16]。電子産業の巨人 NEC は、ラップトップ・パソコン及び携帯電話用のナノチューブ燃料電池の販売を1年以内に、またその直ぐ後にナノチューブ・フラット・スクリーン・ディスプレーの販売を開始する計画である[17]

 ナノチューブは高い縦横比(aspect ratio)、すなわち針のような形状をしているので、もしそれらが空気中に浮遊し、吸入されるとアスベストのように振舞うのではないかという推測が初めからあった[18]。今年(2003年)までに、カーボン・ナノチューブの毒性の問題に着目した研究はひとつしか発表されていない。ワルシャワ大学の研究者らは、モルモットの気管にナノチューブを注入するテストで4週間後にはナノチューブは ”どのような健康影響とも関連しないように見える” と結論付けた[19]

 二番目のナノチューブ毒性研究はジョンソン宇宙センター(NASA)で昨年から実施中である。ファイナンシャル・タイムズ紙が早まって(しかも間違って)読者に対し ”近々発表予定の NASA の研究によればナノチューブは全く安全である” と請合った時には、NASA の研究者らはまだほとんど研究に着手していなかった[20]。その後2月に、全てが良いというわけではないという噂が出回った。研究チームはアメリカ化学学会のウェブサイトに研究報告書のアブストラクトを投稿した[21]。研究報告書のほぼ全文は3月24日のニューオリンズでの同学会の全国会議で発表された。それはカーボン・ナノチューブの安全宣言ではなく、研究者らは、彼らがテストしたカーボン・チューブ(異なる3種類)は石英ダスト(鉱山労働者や鉄道労働者らにケイ肺症を引き起こす物質)より有毒であると警告した。研究者の一人は最近『ニュー・サイエンティスト』に、”メッセージは明白である。人々は用心すべきである。ナノチューブは非常に有毒である”−と述べた[22]

 物事をもっと複雑にしたのは、ナノチューブの毒性に関する三番目の研究である。デュポン社のハスケル健康環境科学研究所によるこの研究もまたアメリカ化学学会のニューオリンズ会議で NASA のプレゼンテーションの直ぐ後に発表された[23]。この研究はナノチューブは石英ダストより毒性は低く、その有害影響は2ヶ月後には小さくなるように見えるとする結論であった。3つのボールのスープを味見したゴールディロックスのように(訳注1)、我々は、可能性ある結論の全範囲をカバーする 3つの研究から ”非常に毒性がある”、”少し毒性がある”、”毒性がない” という3つの結論を得た。どの研究も90日以降の健康影響を見ていない。3つの研究すべては同じようなプロトコールを使用している。ナノチューブは吸入ではなく、注射でげっ歯類に投与された。この方法についてはニューオリンズで発表した二人は共に、劣る方法であったと認めた。吸入による研究はとにかく技術的に実施が難しいが[24]、カーボン・ナノチューブの場合には、値段がグラム当たり750ドル(約82,000円)するので、いかに献身的な研究者であってもマウスに暇なときにナノチューブを吸入させることには顔が歪む。真珠の餌を与えるようなものだ! 3つの研究の限定された範囲を考えるとさらに人を素面にさせる。3つの研究は全て、単層構造のカーボン・ナノチューブだけで毒性を検討したが、そのことはバッキーボール、多層カーボン・ナノチューブ、ナノホーン、及び他の元素から作られたナノチューブの可能性ある毒性はいまだに答えが得られていないということを意味する。3つの全ての研究は、ただひとつの器官、肺だけを検討した。体内中での移動は現実の懸念であるが、他の器官の損傷への移動の可能性は検討されなかった。

訳注1:英国の有名な童話 『ゴールディロックスと3匹のクマ』 からの言葉。留守中のクマの家に上がりこんだ少女 Goldilocks が3つのボールのスープを味見して、それぞれに too hot、too cold、just right と言った。解説

無罪の推定U 二酸化チタン及び酸化亜鉛の場合: 今日、最も広いナノ粒子の用途は化粧品である。二酸化チタン(TiO2)及び酸化亜鉛(ZnO)の大きい粒子はともに効果的に紫外線を含んで光を散乱させるので数十年間日焼け止めに使用されてきた。それらは、物理的な”ブロッカー(遮断)”又は”リフレクター(反射)”として作用し、日焼け止めを不透明の白色にした。しかし、その結晶をナノスケールにまで小さくすると、二酸化チタンも酸化亜鉛もともに白色の特性がなくなって透明になり可視光線は通過させるが、紫外線はやはり遮断する。このナノスケールの特性変化を利用して、BASF や La'Oreal などの会社はこれらの酸化金属ナノ粒子を導入して日焼け止めと耐紫外線の化粧品を作り出した[25]

 しかし、残念ながら透明性だけがこれらナノサイズの酸化金属に関連した変化ではない。一般的に、二酸化チタンも酸化亜鉛もともにサイズが大きい時には不活性であるが、両物質のナノ粒子は紫外線の存在下では非常に光反応性が高くなり、紫外線は粒子中に吸収される[26]。その結果、例えばナノ・ニ酸化チタンは有機分子を攻撃する強力な酸化力を及ぼすことができ[27]、フリーラ・ディカル(すなわち非常に活性が高い不安定な分子片)(訳注:ラジカル解説:フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』)を生成することができる。ナノ・ニ酸化チタンの多くの適用はこの光反応特性を利用しようとするするものであり、それれらの中には、太陽電池研究、水の浄化技術、さらには自然の紫外線の存在下で汚れをはじく窓ガラスの自動洗浄などが含まれる。アルゴン国立研究所(Argonne National Laboratory 訳注:シカゴ大学が運営するエネルギー省の研究所)において、科学者らは光反応性の二酸化チタンを使って精密な遺伝子技術としてDNA鎖を切る方法を開発した。他の科学者らは、ある形状で二酸化チタンはがん又は炭疽病の治療に使用できると提案している[28]

透明性が問題となる時

 ナノ粒子を導入した透明な日焼け止めは安全ですか? 『Technology Review』誌2003年4月号でのインタビューでライス大学のビッキ・コルビンは次のように述べた。

コルビン: ”私はナノ物質がすでに日焼け止めの中で、また化粧品の中で使用されていることをよく知っている。それらがこのようなの状況で使用されているという事実は興味あることであり、私は最終的にはこの産業に対する規制要素ができるであろうことを強く感じる。”

TR誌: 日焼け止めや化粧品の中で使用されているナノ粒子はテストされているのですか? あなたはこのような消費者製品のリスクについて人々に何と言いますか?

コルビン: 私が知る限り、それらはテストされていない。私が日焼け止めを使うかって? 使う。そのことで悩んで夜遅くまで寝られないか? そんなんことはない。なぜなら、他のもっと大きな微粒子について見れば、それによる病気は通常、その物質に数十年以上激しく暴露した労働者に起きているからである。だから私は、時たま使う日焼け止めが私や家族の健康を損なうチャンスがあるとは感じていない。しかし、完全なテストを実施する方がよいであろう。

 もちろん、問題は厄介なオゾン層ホールにある。紫外線が皮膚がんを引き起こすことがますます知られてくると、日焼け止め産業界にますます恩恵をもたらす。例えば、オーストラリアの両親は、子どもたちに透明の日焼け止めを塗らないのは”時たま”だけである。太陽光の豊かな地帯の人々の多くは幼少の頃から毎日、年間を通して日焼け止めを塗っている。主要な日焼け止めメーカーは年間900億ドル(約10兆円)の化粧品産業のささやかな(しかし莫大な)一部であるが、スキン・モイスチャーやその他の美用品中に紫外線予防を組み込もうとしている[29]。ヨーロッパ人は年間10億ユーロ(約1400億円)以上を日焼け止め製品に費やしているが[30]、アメリカでは2006年までに7億5,000万ドル(約730億円)費やすと予測されている[31]

 使用量の増大とともに、見えないこと(透明)が重要なセールス・ポイントとなる。消費者は日焼け止めとして透明なクリームを望む。二酸化チタンと酸化亜鉛のナノ粒子は透明という性質を与える。しかしテストされていないナノ粒子を毎日、一年中、肌に塗ることは安全であろうか? 誰にも分らない。

 1997年、オックスフォード(イギリス)とモントリオール(カナダ)の科学者らは、対象とする日焼け止めから二酸化チタン・ナノ粒子を分離し、ヒトの細胞に導入された時の挙動を観察した。彼らは、これらのナノ粒子は酸化されて水酸基ラジカル(訳注:解説リンク)を生成し、細胞のDNAにかなりの損傷を与えることを発見した[32]。皮膚がんを避けるということよりも、これらのナノ粒子を使用することでむしろ懸念は大きくなった。皮膚の上層では問題なくてもナノサイズの粒子は、特に毛穴、及び皮膚が動いている間に曲げられたり怪我をしている場合には、皮膚のもっと奥深くまで浸透する[33]

 二酸化チタンの肺への影響を検討する研究で、二酸化チタンの超微粒子は毒性を示すことがすでにはっきりしている。アメリカ軍による二酸化チタンの煙毒性の包括的なレビューで、二酸化チタンの超微粒子煙を吸入すると、もっと大きな粒子では起きない有毒影響と関連があることが見出された。彼らは、二酸化チタンのナノ粒子の安全暴露限界は通常の二酸化チタン粒子の少なくとも8倍以下に設定するよう勧告した[34]

 政府の規制当局と産業界の当事者らは示されたリスクに対し異なる方法で対応しているように見える。一方では、あるナノ粒子製造者らはフリーラジカルの生成を低減するか排除するために、シリカのような有機又は無機成分で粒子を表面処理(コーティング)するか、又はフリー・ラジカルを拭い取るために抗酸化剤とビタミンを加えることによって、粒子を替えた[35]。それとは対照的に、各国政府はナノ粒子に関連するサイズ依存のリスクを無視しようとする傾向があった。化粧品業界との議事録なしの会議の後に、欧州連合(EU)の消費者用化粧品及び非食品のための科学委員会は、日焼け止め中の二酸化チタンのナノ粒子は”様々な処理(コーティング、ドーピング等)がなされていようといまいと”、粒子サイズに関係なく、安全であるという意見を発表した[36]。アメリカ食品医薬品局もまたナノ粒子とそれより大きな物質とを区別しないという決定を慎重に行っている。日焼け止め成分に関する最終論文で、FDAは次のように裁定した。”FDAは、日焼け止め製造者らが、透明で美的で皮膚に心地よい高度なSPF(sun protection factor 日焼け止め指数)を生成するために微小の二酸化チタンを使用していることを知っている。FDAは微小の二酸化チタンが新規の成分であるとは考えていないが、それは委員会によって当初レビューされた二酸化チタンの特別な等級のものである。”微細物(fines)”は、数十年間商業的に使用されている二酸化チタン粉の一部であると指摘して、FDAはナノ粒子は単に”粒子径分布の改良である”と決定した[37]。このアプローチを取ることで、アメリカ政府と欧州連合はあいまいな仮定に基づいて ”実質的同等性” の原則(下記の囲み記事参照)を不注意にも確立したかも知れない。ナノ粒子・二酸化チタンのいくつかのメーカーによってなされた変更は日焼け止めの使用を安全にしたかもしれないが、これを評価する独立機関は存在せず、毒性調査研究のためのどのような要求もなく、製造者が変更されていないナノ粒子を使うことを防止するどのような規制も存在しない。さらに、光反応二酸化チタン・ナノ粒子には、窓ガラスの自動洗浄からフラット・スクリーン・ディスプレー技術にいたるまで、規制されないままに市場に出現しようとしている他の多くの商業的用途がある。これらのナノ粒子が製品のライフタイムにわたり、又は製造中、又は廃棄中に環境中に放出されるのであろうか? それらを製造する労働者の健康にリスクを及ぼさないのだろうか?

実質的同等性: また責任逃れ?
Substantial Equivalence: Ducking Responsibility Again?

 遺伝子組み換え生物(GMO)の安全性についての議論に通じている民間社会の人々にとって、新規のナノ粒子はもっと大きな物質に”実質同等”であるという仮定は、以前にも経験したことがあるように感じる(deja vu)であろう。

 オーストラリアから北アメリカ、東南アジアまで、注意深くでっち上げた実質同等性の煙幕は、巨大GM企業が遺伝子組み換え作物を合法的に我々の畑に、我々の食糧供給系に、そして我々の食物に十分な毒物学的評価をせずに解き放つことを許した。本質において、実質同等性は、遺伝子組み換え技術によって生産された新たな作物は通常、従来の植物育種によって栽培された作物と同等に安全であるとみなされる−と述べている。世界中の GMO 規制に注意深く挿入された実質同等の概念は、ほとんどの場合、部分的な化学的分析よりほんのわずか多くのことを GM 食品の規制官に提供することを求めるだけである。組み換え及び非組み換えのトマト、トウモロコシ、又は大豆の主要な栄養及び毒性を比較する研究だけで、GM 医薬品が受けるべき完全な安全研究を拒否するのに十分であるとしている。リスク評価ツールとして、”実質的同等性”はアメリカ食品医薬品局(FDA)内のある専門家らによってはじめから批判され[39]、『ネイチャー』誌に ”まがいの科学概念で...生物化学的又は毒物学的テストを要求しないための言い訳を与えるために作り出された”−として非難された[40]。2001年、カナダ王立協会(Royal Society of Canada)専門委員会もまた、実質同等性は GMO 安全規制にとって ”科学的に正当性がない”−として片付けた[41]。彼らの報告書『予防の要素(Elements of Precaution)』の中で、王立協会は実質同等アプローチを”欠陥品”(duck/アヒル)のように見え、アヒルのようにガーガーうるさいので、我々はそれを”欠陥品”であると想定し−又は、少なくとも我々はそれを”欠陥品”のように扱う−としている[42]

 ナノ技術産業は実質同等性の原則を奉じてナノの安全性の論点から身をかわそうと(duck)しているのだろうか? 二酸化チタンのナノ粒子は、塗料や食品漂白剤に使われている二酸化チタンのもっと大きな粒子と全く同じ原子であるが、すでに比較は終わっている。ナノ粒子は小さく、通常もっと活性で異なる色、強度、形状、及び導電性を持つかもしれない。
 しかし米 FDA は依然としてナノ粒子を単に”粒子サイズの分布の改良”として片付けている[43]。ETC グループのヨーロッパ、カナダ、及びイギリスの研究所の安全に責任ある当局への問い合わせ、及び、ナノ粒子を製造している会社との討議から、どこの研究所ガイドラインも国の化学物質政策もナノ粒子の扱いとマクロ粒子の扱いを区別していないことが明白である[44]
 実際、ナノスケール物質への現在の規制アプローチは全く不適切なので、欧州連合(EU)は遅ればせながらナノセーフ(Nanosafe)と呼ぶコンソーシアムにもっと区別すべきかどうかについてチェックするよう委託した[45]。しかし、コンソーシアムが2005年に報告するまで、暫定的なアプローチとして、”もしそれが欠陥品(duck/アヒル)とは異なる色なら、もしそれがあひるのようにガーガー鳴かなかったら、そしてアヒルが行くことができない場所に行ったなら、とにかくそれを欠陥品(アヒル)として扱おう!”

脳関門を突破: この科学的混乱に直面して、ETCグループはリバプール大学人間解剖学細胞生物学部門発達毒物病理学のビビアン・ハワード博士に連絡をとった。1999年、ハワード博士は王立顕微鏡学会の会長としてナノ粒子の毒性を検証するための初めての論文集(1999)の共著者となった[38]。それらの論文は大気汚染と粒子毒物学の指導的科学者らによるものである。我々はハワード博士にナノサイズ粒子のヒトの健康に及ぼす影響とナノ粒子が人体に入り込む経路に関連する文献調査をお願いした。彼の報告書全文が添付されている。(訳注:Annex 日本語訳省略)
 ハワード博士の最も重要な結論は、もっと多くの研究が緊急に必要とされており、超微粒子が人間の体内に入り込んで人の健康を脅かしている可能性があることを示す多くの兆候があるということである。次は彼の結論の一部である

 ”通常は無害な大量の物質でも超微粒子になると、それらは毒性を持つ傾向があることを研究が示している。一般的に、粒子が小さければ小さいほど、それらはより高い活性とより強い毒性影響を持つようになる。このことは、プロセスにおいて化学的反応を高めるために触媒が作られるのと同じであり、驚くべきことではない。原子の数が数百足らずの粒子を作ることによって、莫大な表面積を得ることができ、それは荷電され、従って化学的に反応性がが高まる。”

 ナノ粒子が肺や消化器系を通じて体内に入り込むという懸念以上に、ハワード博士はまた超微粒子が皮膚を通して体内に入り込むリスクを指摘した。”最近の調査が、径が1μmまでの粒子は(すなわち微粒子のカテゴリーでは)、皮膚に十分深く浸透しリンパ系に入り込むが、それを超える大きさの粒子はそうはならないことを示した。その意味するところは、超微粒子は皮膚を通して体内に入り込むことができるということである。”処方箋不要の化粧品や医療用品でのナノ粒子の広範な使用はもとより、ポピュラーな肌の手入れ用品中の二酸化チタンが規制のないままに広範に使用されるなら、この結論は政府機関と消費者に緊急の懸念をもたらすことになる。”生体細胞の試験管中での研究は、超微粒子が細胞を損傷するフリーラジカルを生成する能力を持つことを確認した”−とハワード博士は付け加えた。

 ハワード博士の調査の結論で最も驚くべきことのひとつは、”現在の知識に照らして、サイズの影響は、物質の実際の成分より超微粒子にとってはるかに重要である”ということである。言い換えれば、ナノ粒子がカーボンであろうとチタンであろうと、あるいはラテックスであろうとサイズに比べればそれほど重要ではない。

 ハワード博士は、次のようなコメントで調査を締めくくった。”超微粒子は、吸入、摂取、そして皮膚を含む多くの経路によって体内に入り込むことができるという証拠がある。超微粒子が有毒であり従って潜在的に有害であるという多くの証拠がある。”この毒性のベースは完全には解明されていないが、ひとつの主要な候補はサイズが非常に小さいことに関連する活性の増大である。超微粒子の毒性は粒子が作られる物質のタイプには非常に深く関連しているようには見えないが、この疑問に完全に答えるにはもっと多くの研究が必要である。

規制によるモラトリアム: ナノ粒子の安全性に関する我々の初期の研究に基づき(ETCコミュニケ ”小さなことではない No Small Matter, May/June, 2002 を参照”)、ETCグループは、研究室及び新たな商業製品における人工ナノ粒子の使用に対し規制によるモラトリアムを要求した。この動きは例外なく産業界によって非難された。ある人々は、もし研究所でテストを実施することができないならナノ粒子の安全性を証明することは不可能であると主張する。他の人々は、モラトリアムは、研究を地下に潜らせ、そのことはもっと危険であると懸念する。それはとんでもないことで、ETCグループは、モラトリアムは当座の措置であり、長期的に続ける必要はないと強調している。研究者たちは、国際的に認められた予防原則の概念の下に研究所の労働者のために可能な限り”最善の実施”を提案するために参集すべきである。科学界において直ぐに合意に達することができるという前提の下に、研究が行われている国の政府によって”最善の実施”が採用されるべきである。”最善の実施”は、政府が科学者と連絡を取りながら新たな情報が得られたら研究所プロトコールを修正することができるような明確な監視メカニズムと報告手続きを含むべきである。同時に、国際的共同体は、予防原則に基づき、ナノスケール技術の健康、社会経済、及び環境へのより広い影響を検討するために研究所での研究レベルを超えて、ナノ技術を統制する法的拘束力のあるメカニズムをに関して作業を開始すべきである。このプロトコールは、国連環境計画(UNEP)、国際労働機関(ILO)、世界保健機関(WHO)又は国連食糧農業機関(FAO)のような関連する国連機関のひとつ又はそれ以上に取り込まれるべきである。最終的に、ナノ技術のための国際的規制は、新たな”新技術評価のための国際条約(International Convention for the Evaluation of New Technologies (ICENT))”の下に統合されるべきであるとETCグループは信じている。

ボトムアップ・ライン: ナノ技術界は、そのように強力な新技術を扱うときに必然的に生ずる健康と環境についての明白な疑問を把握するのに四分の一世紀を要している。政府は責任ある行動をとっていない。研究所の労働者と消費者は、政府の規制の下での信頼できる科学的評価なしにナノ粒子に暴露させられるべきではない。(例えば、いくつかの研究所にはナノ粒子製造のための安全基準がない。他の研究所では彼らの労働者らは外科医のマスクを被っていると主張し、少なくともひとつの研究所では彼らの労働者らはHIV/AIDS ウイルスを扱うのと同じレベルでナノ粒子を扱っていると主張している。)[46]

 政府が今、行動を起こさないと、強力で潜在的に有益な技術の将来を危うくする。社会と科学の両方を守るために、人工ナノ粒子の使用に関し直ちにモラトリアムを要求することが責任ある選択である。毒物学的研究が実施されていないので、政府はさらに、人工ナノ粒子が皮膚、肺、又は消化器系を通じて消費者に直接接触するような製品にまでモラトリアムを拡張することを早急に検討すべきであるとETCグループは信じる。

 政府は、ナノ技術は次の産業革命をもたらすであろうということに同意しているように見える。あたかも呪文のように彼らはバイオ技術の導入時に犯した過ちを再び繰り返さないと自身に言い聞かせている。彼らは正しい! 量子力学的特性のユニークさを無視して、政府はバイオ技術よりももっと早く推進することをナノ技術に許した。彼らは、テストの行われていないナノ粒子の大量製造を許し、可能性ある健康と環境への影響を真剣に考えずにナノ粒子を含む消費者製品の商業化を許している。

 ナノ技術はまだ揺籃期なので、このまま産業革命に走ることは非常に危険である。モラトリアムを要求することはナノテクをやり込めるための薄いベールを被った策略であろうか? とんでもない。政府が長期にわたり、この”ボトムアップ”技術の基礎を堅固なものにすることを確実にするよう考えることは非常に重要である。ナノテクの毒物学的研究、透明な規制、そして社会経済、健康、及び環境への影響に関する広い公衆との議論がないので、政府は人工ナノ粒子の研究所での使用に関するモラトリアムを採用することにより、責任ある行動をとらなくてはならない。


ナノ粒子製造会社とナノ粒子を含む商業製品の一部





ENDNOTES:
1 The National Toxicology program is not a US government regulatory agency, though Federal and State Regulatory Agencies use the National Toxicology Program study data in considering the need for regulation of specific chemicals to protect human health. See:
http://ntp-server.niehs.nih.gov/main_pages/RegAct2001.HTML

2 Better Regulation Taskforce, “Scientific Research: Innovation with Controls,” January 2003; available on the Internet: http://www.brtf.gov.uk/taskforce/reports/Scientificresearch.pdf

3 According to Scott Mize, “Near-Term Commercial Opportunities in Nanotechnology,” comments made during presentation at the Foresight Conference, October 10, 2002.

4 Business Wire, Inc., “Altair Nanotechnologies Awarded Patent for its Nano-sized Titanium Dioxide,” Sept. 4, 2002. The estimate is based on market research by Business Communications Co., Inc.

5 See http://www.nanoproducts.com

6 http://www.smalltimes.com/document_display.cfm?document_id=5019

7 Vicki Colvin, “Responsible Nanotechnology: Looking Beyond the Good News,” available on the Internet, http://www.eurekalert.org

8 John Bucher, presentation at the symposium, “Nanotechnology and the Environment,” American Chemical Society meeting in New Orleans, LA, March 23, 2003.

9 Tina Masciangioli and Wei-Xian Zhang, “Environmental Technologies at the Nanoscale,” Environmental Science and Technology, March 1, 2003, p. 108 A.

10 See footnote 11.

11 The critical size assessments come from Vivyan Howard’s discussion in the Annex to this document, Vicki Colvin’sinterview in Technology Review (David Rotman, “Measuring the Risks of Nanotechnology,” April 2003, p. 72), Gunter Oberdorster, “Effects and fate of inhaled ultrafine particles,” presentation at the American Chemical Society, New Orleans, LA, March 23, 2003.

12 Robert D. Shull, remarks made at NNI conference, Washington, DC, April 3, 2003.

13 Ibid.

14 Anon. Press Release, Multimedia Research Group, Inc.; available on the Internet:
http://www.mrgco.com/Press_Releases_1.html#Carbon%20Nanotubes%202002%20PR

15 Anon. Press Release, Business Communications Company, February 3, 2003; available on the Internet:
http://www.bccresearch.com/editors/RGB-245R.html

16 News item posted on Nanoinvestor News; available on the Internet:
http://www.nanoinvestornews.com/modules.php?name=News&file=article&sid=1345

17 Paul Kallendar, “NEC Tries to Grab the Fuel Cell Market by the Carbon Nanohorns,” Small Times, March 25, 2003; available on the Internet:
http://www.smalltimes.com/document_display.cfm?document_id=5719

18 Personal communication with Dr. Richard Siegel via telephone, June 17, 2002.

19 Andrzej Huczko et al., “Physiological Testing of Carbon Nanotubes: Are They Asbestos-Like?” Fullerene Nanotubes and Carbon Nanostructures (formerly Fullerene Science and Technology), vol. 9 (2), 2001,p. 253.

20 Victoria Griffith, “Inside Track: Big Risks on a Microscopic Scale,” Financial Times, Sept 25, 2002.

21 ETC Group is limiting its discussion of the NASA study to the information contained in the published abstract (http://www.chemistry.org) and the published article in New Scientist (see note 22). At the New Orleans meeting, chief researcher Chui-wing Lam asked attendees to respect a “media embargo” as the study had not yet been accepted for publication.

22 Kurt Kleiner, “How Safe is Nanotech?” New Scientist, 29 March 2003, pp. 14-15.

23 David B. Warheit, “Pulmonary-toxicity-screening studies with single-wall carbon nanotubes;” abstract available on the Internet: http://www.chemistry.org

24 http://ntp-server.niehs.nih.gov/htdocs/98AP/9tox.html#particle

25 BASF produces Z-cote for transparent zinc oxide sunscreens and also is intending to use nano-sized TiO2 in its “Ultramid” UV protected sports fabrics. L’Oreal uses nano-sized TiO2 in a selection of its products including its Lancome range of SPF cosmetics.

26 N. Serpone, A. Salinaro, and A. Emelino, “Deleterious Effects of Sunscreen Titanium Dioxide Nanoparticles on DNA.Efforts to Limit DNA Damage by Particle Surface Modification,” Proceedings of SPIE vol. 4258 (2001).

27 Anon., “Argonne Nanotechnology Research May Yield New Sequencing Technology,” October 8, 2002; available on the Internet:
http://www.genomeweb.com/articles/view-article.asp?Article=2002108145653

28 Daniel M. Blake, Pin-Ching Maness, Zheng Huang, Edward J. Wolfrum, and Jie Huang, “Application of the Photocatalytic Chemistry of Titanium Dioxide to Disinfection and the Killing of Cancer Cells,” Separation and Purification Methods Volume 28(1) 1999, pp. 1-50; Emergency Response Technology Programme, Photocatalytic Self Cleaning Nano Layer Process for Neutralizing Chemical and Biological Contaminants for Filtration, Cleaning, and other Environmental Applications. See details online: http://www.nttc.edu/ertProgram/photocat.asp

29 Anon., “The Colour of Money, Unilever and P&G are challenging L'Oreal,” The Economist, March 6, 2003, p.59.

30 Marc Berman, Euromonitor, March 2001,
http://www.in-cosmetics.com/page.cfm/Link=55

31 Datamonitor Corp. October, 2002, from excerpt of report entitled “US Suncare 2002,” available on the Internet:
http://www.theinfoshop.com/study/dc11760_suncare_toc.htmlive

32 Rosemary Dunford, Angela Salinaro, Lezhen Cai, Nick Serpone, Satoshi Horikoshi, Hisao Hidaka and John Knowland, “Chemical oxidation and DNA damage catalysed by inorganic sunscreen ingredients,” FEBS Letters, Volume 418, Issues 1-2, 24 November 1997, pp. 87-90.

33 Sally S. Tinkle, James M. Antonini, Brenda A. Rich, Jenny R. Roberts, Rebecca Salmen, Karyn DePree, Eric J. Adkins, “Skin as a Route of Exposure and Sensitization in Chronic Beryllium Disease,” Environmental Health Perspectives, doi:10.1289/ehp.5999 (available at http://dx.doi.org/); Accessed 24 February 2003.

34 Commission on Life Sciences (CLS), Toxicity of Military Smokes and Obscurants, volume 2, National Academies Press, (1999), pp. 68-96.

35 For example, see Allen Bernard, “Oxonica's Nanopowders Improve Catalysts, Biotags and Sunscreen,” July 10, 2002; available on the Internet:
http://www.nanoelectronicsplanet.com/nanochannels/profiles/article/0,,10500_1383331_2,00.html

36 Opinion concerning Titanium Dioxide, Colipa n! S75 adopted by the SCCNFP during the 14th plenary meeting of 24 October 2000. In several committee discussions previous to this opinion the question of special toxicity from smallerparticles had been raised and a special meeting was arranged between the working group of SCCNFP and industry to resolve toxicology questions over Nano TiO2.That such a meeting was held on 13 June 2000 is recorded in the minutes of the 13th meeting of the SCCNFP (see http://europa.eu.int/comm/food/fs/sc/sccp/out128_en.html), however, no record of the proceedings of the meeting with industry appears to exist.

37 US Food and Drug Administration, HHS, “Sunscreen Drug Products For Over-The-Counter Human Use; Final Monograph,” Federal Register, May 21, 1999 (Volume 64, Number 98), pp. 27666-27693.

38 Howard, C.V. and Maynard, R.L., eds., Particulate matter: properties and effects upon health, Oxford: BIOS Scientific Publishers; New York: Springer, 1999.

39 See, for example, comments from Dr. Linda Kahl, FDA compliance officer, to Dr. James Maryanski, FDA Biotechnology Coordinator, about the Federal Register document “Statement of Policy: Foods from Genetically Modified Plants,” dated January 8, 1992. (3 pages available from http://www.biointegrity.org /FDAdocs/01/index.html).

40 E. Millstone, E. Brunner, and S. Mayer (1999a), “Beyond ‘Substantial Equivalence,” Nature, vol. 401, pp. 525-526.

41 Elements of Precaution: Recommendations for the Regulation of Food, An Expert Panel Report on the Future of Food Biotechnology prepared by The Royal Society of Canada at the request of Health Canada, Canadian Food Inspection Agency and Environment Canada, February 2001; available on the Internet: http://www.rsc.ca/foodbiotechnology/indexEN.html

42 Ibid., p. 181.

43 US Food and Drug Administration, HHS, Sunscreen Drug Products For Over-The-Counter Human Use; Final Monograph, Federal Register: May 21, 1999 (Volume 64, Number 98), pp. 27666-27693.

44 Personal communication with Maureen Meldrum (16 Jan 2003) and Christine Northage (21 Jan 2003) both of UK Health and Safety Executive, Mark Schmahl - European Commission DG Enterprise (21 Jan 2003), Kevin Matthews of Oxonica, (28 March 2003).

45 FP6: Expression of Interest for Integrated Project Priority Thematic Area: Nanotechnology Risk Assessment of Airborne Nanoparticles in the Workplace (NANOSAFE). Available on the Internet:
http://www.tau.ac.il/research/EU/europe/nano/EOIvers2.pdf

46 Representative of South Africa’s National Nanotechnology Program, Leslie Petrik of the University of the Western Cape, Dec 2, 2002, in a presentation to an African Regional Meeting on new technologies, organized by Biowatch South Africa and ETC Group.



化学物質問題市民研究会
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