ピコ通信/第118号
発行日2008年6月23日
発行化学物質問題市民研究会
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クジラの汚染はどうなっているか?第2回
60検体すべてが水銀暫定許容量を超えていた

 今回は、2005年に発表された研究「日本の食品市場で流通している小型鯨類の赤身の総水銀、メチル水銀およびセレンによる汚染レベル」(原題:Total Mercury, Methyl Mercury, and Selenium Levels in the red Meat of Small Cetaceans Sold for Human Consumption in Japan)」( 北海道医療大学:遠藤 哲也、第一薬科大学:原口 浩 他)から抄訳(原文は英語)してご紹介します。

【調査結果】
 今回の調査(検体数160)における10種類の小型鯨類の赤身の全ての総水銀とメチル水銀濃度は、日本政府が水産食品について設定した総水銀の暫定許容レベル(0.4μg/湿重量g)、メチル水銀の暫定許容レベル(0.3μg/湿重量g)を超えていた。
 最も高い濃度を示したのはスジイルカのサンプルの26.2μg/湿重量gで、これは許容値の87倍の高さであった。タッパナガ(南方系コビレゴンドウ)、バンドウイルカ、およびオキゴンドウの多くの製品で10μg/湿重量gを超える濃度であることがわかった。体重60キログラムの人がこれらの製品をわずかな量(4〜10グラム)食べただけで、政府が改定した週間許容摂取レベル(当時の)を超えてしまう。
 もっとも汚染の少なかった種(イシイルカ)のメチル水銀の平均濃度は1.0μg/湿重量gで、サメやメカジキ、マグロなどの肉食性の魚に関するコーデックスのガイドラインと同等であった。調査時点で得られている情報の範囲では、スジイルカの26.2μg/湿重量gとバンドウイルカの98.9μg/湿重量gが、小型鯨類の赤身肉から測定された汚染レベルとしてはこれまでで最高である。

表 日本沿岸のハクジラ類の赤身に含まれる総水銀とメチル水銀*
クジラの種類サンプル数総水銀の濃度分布
(ug/wet-g)
メチル水銀濃度分布
(ug/wet-g)
イシイルカ90.83-2.390.68-1.95
マゴンドウ80.79-2.240.50-1.88
タッパナガ341.21-37.60.93-17.2
ツチクジラ220.75-6.460.56-3.47
マダライルカ44.28-5.322.01-3.16
ハナゴンドウ171.71-9.211.33-8.78
シワハイルカ51.22-9.981.11-6.06
スジイルカ201.04-63.40.97-26.2
バンドウイルカ370.59-98.90.58-15.4
オキゴンドウ417.4〜81.09.02-13.3
* 原論文中のTotal Mercury, Methyl Mercury, and selenium Concentrations in Odontocete Redmeats (Muscles)Caught around Japan.より抜粋しました。

【政府の勧告と人間の健康リスクについて】
 これらのレベルでは、小型鯨類の赤身肉を食べることは、一般および妊婦などハイリスク群において、健康に問題を生じうる。
 日本政府は、魚と小型鯨類の赤身肉の独自の調査を行っており、その結果として、妊婦に対して特別な注意事項を発表している。ハクジラ類に関する政府のデータによれば、イシイルカの総水銀とメチル水銀の濃度の中央値(検体数4)は、それぞれ1.0μg/湿重量g、0.37μg/湿重量gであった。
 日本政府は独自調査にもとづいて、妊婦に対して、ツチクジラとコビレゴンドウの赤身の摂取を1週間に1回以下、バンドウイルカの肉は、2ヶ月に1回以下に制限するよう注意喚起した(当時)。しかしながら、この助言は、先に採択された週間許容摂取レベルの3.3μg/体重kg/週(1週間当たり体重1キロあたり)に基づくものであり、また、その他一般市場で入手される小型鯨類種については考慮していない。そして、日本の厚生労働省が注意事項を発表した直後に、FAO/WHO合同食品添加物専門家会議「FAO/WHO Joint Expert Committee on Food Additives (JECFA)」は、週間許容摂取レベルを1.6μg/体重kg/週に引き下げた。厚生労働省は、妊婦への週間許容摂取レベル勧告を一刻も早く改定し、また対象とする小型鯨類種を広げるべきである。
(抄訳 関根彩子)



 その後、厚生労働省は、妊婦の鯨肉を含む魚介類の摂取についての「注意事項」を改定しましたが、この論文の著者の一人によれば、FAO/WHOの引き下げの程度と比較して、厚生労働省の改定は緩く、対応としては不十分ということです。この部分は次回詳しく取り上げたいと思います。

※ 南極産の鯨肉と調査捕鯨について
 南氷洋のクジラの方が汚染の度合いが低いという傾向がありますが、「南氷洋産ならいい」という安易な議論には注意が必要です。
 日本は、毎年「調査」という名目でクジラを南極海で捕獲しています。「調査」捕鯨は20年間も行われ、データが蓄積されているにもかかわらず、依然として絶滅危惧種を含む1000頭近くを殺して捕獲する方法によって続けられています。この捕獲数は、「商業」捕鯨を行うノルウェーを上回る規模で、「調査」捕鯨でとった肉が、「南氷洋産」として国内の市場で売られています。こうした「調査」法は、科学的な必要性や、生物多様性保護の観点からも疑問視されています。

(関根彩子/化学物質問題市民研究会)



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