憂慮する科学者同盟(UCS) 2023年3月17日
我々はまだ地球温暖化を 1.5℃に 抑えることができるのか? クリスティ・ダール、主任気候科学者 情報源:Union of Concerned Scientists, March 17, 2023 Can We Still Limit Global Warming to 1.5°C ? Here's What the Latest Science Says Kristy Dahl, Principal Climate Scientist https://blog.ucsusa.org/kristy-dahl/can-we-still-limit- global-warming-to-1-5c-heres-what-the-latest-science-says/ 訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会) http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/ 掲載日:2023年3月22日 このページへのリンク: http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/kaigai/kaigai_23/230317_UCS_Can_We_Still_ Limit_Global_Warming_to_1-5C_Heres_What_the_Latest_Science_Says.html
これらの評価は、理論的には、将来の温暖化を 1.5°C 以下に抑えることを可能にする道筋がまだあることを示している。 現実には、その道のりは危険なほど遠く、今後 10〜15 年で 1.5°C の制限を超える可能性がある。 ただし、1.5°C の制限を超えて温暖化すると、危険なティッピング・ポイント(訳注1)に近づき、深刻な気候への影響が加速することになる。したがって我々はその制限を超えそうであることを知っても、我々はそれを超えないことを目指し続けなくてはならない。 政策立案者側の何十年にもわたる不作為と、化石燃料会社側の何十年にもわたる欺瞞と妨害のために、私たちは今、1.5℃の制限からわずか10分のいくつかしか離れていない地点にいる。 世界中の子どもたちにふさわしい住みやすい未来を確保するために、私たちは力を倍増させ、政府への圧力を強め、化石燃料産業の力を打破しなければならない。 なぜ 1.5°C が地球温暖化の重要な限界なのか? 将来の気温上昇を産業革命以前と比較して 1.5°C 以下に抑えるという制限は、パリ協定の基礎となっている(訳注2)。この協定は、世界の小島嶼諸国と後発開発途上諸国(the least developed countries)との同盟によってやっと実現したものであり、彼らは、直面する経験に基づく脅威を考えると、この協定は将来の温暖化に対して比較的十分に安全な限界であると考えた。 1.5°C の温暖化と 2°C の温暖化の間の影響の違いに関する研究は、その見解を大部分確認している。 1.5°C の地球温暖化に関する IPCC の特別報告書で最初に報告されたように、この 0.5 度の増分は、世界のサンゴ礁の 70% を失うことと 99% を失うことの違いを表している。 100 年に 1 回又は 10 年に 1 回、北極海が氷のない状態になる。 2億 7,100 万人又は 2億 8,800 万人が水不足にさらされる。 現在の温暖化レベル (約 1.1°C) でさえ、世界中で人命、家屋、生活、生態系に大きな打撃を与えている。 1.5°C を超える温暖化に伴う影響の深刻化と、気候危機への寄与が最も少ない国々の人々への影響が最も深刻であることから、1.5°C は私たちの気候にとって意味のあるガードレールであり、気候行動の擁護者のための強力な結集点でもある。 最新の科学は、1.5°C 目標について何を教えてくれるか? 将来の温暖化を 1.5°C に抑えることが賢明かどうかは疑問の余地がない。 ただし、可能かどうかは、「可能」をどのように定義するかによって異なる。 IPCC の作業部会 III 報告書(訳注:2022版)で強調されているモデリングは、将来の温暖化を 1.5°C に抑える可能性を約 40% にするには、世界の排出量は 2025 年までにピークに達し、2030 年までに 2019 年のレベルと比較して 43%減少する必要があることを示している。 しかし、排出量はまだ増加している... これらのモデリング経路は、2020 年には直ぐに排出削減が始まることを前提としている。COVID-19 パンデミックの結果、2020 年に世界の排出量は減少したが (約 7%)、2021 年には元に戻った。2021 年から 2022 年の間に、エネルギー源からの及び産業プロセスからの世界の排出量はほぼ 1%増加し、予備データ(preliminary data)は、米国の排出量が推定 1.3% 増加したことを示唆している。 言い換えれば、これらのモデリング経路が必要とする即時の行動はとられていない。 …そして、より強力な政策がなければ、世界の排出量は増加し続ける可能性がある。 パリ協定の下で、世界中の国々は、自国の排出量を削減するために、自国が決定する貢献 (Nationally Determined Contributions / NDC) と呼ばれる自主的な公約を発表している(訳注3:日本)。 国連環境計画 (UNEP) は、[各国の]NDC に基づき、潜在的な結果を評価する最新の排出ギャップ 報告書(訳注4)で、1.5°C の制限内にとどまるには、排出量を 2030 年までに年間約 33 GtCO2e(訳注5)に削減する必要があることを示した。 現在の[各国の] NDC が完全に達成されても、2030 年の年間排出量は 50 GtCO2e を超え、温暖化は約 1.8°C に達するであろう。 しかし、各国は NDC の公約を達成するための軌道から大きく外れている。これは、示された公約と実施された政策との間にギャップがあるためである。 現在の政策では、2030 年の排出量は全世界で約 58 GtCO2e になる。 しかも、エアロゾルがある... これらの推定では、1.5°C の制限内にとどまることをさらに難しくする重要プロセスが省略されている。 化石燃料を燃やすと温室効果ガスの放出に加えてエアロゾル(訳注:化石燃料を燃やしたときに放出される微粒子)が放出され、実際に地球に冷却効果がある(訳注6)。 これらのエアロゾルがなければ、これまでに経験した温暖化はさらに大きかったであろう。 また、化石燃料からの CO2 排出量を減らすと、結果として生じるエアロゾルも減少するため、その冷却効果は減少すると予想される。そのプロセスは、排出量削減が地球規模の気温変化にもたらす利益を弱める。 IPCC と UNEP の報告書は、1.5°C の制限内にとどまるわずかな可能性を維持するために何が起こらなければならないかを正確に説明している。 もちろん、わずかなチャンスでもチャンスであり、今後 2 年以内に即時かつ大幅に持続的な排出削減が定着し、この 10 年間で世界の排出量がほぼ半減するような世界があるかもしれない。 しかし、歴史、実際の政治、そして現在までの取り組みは、そのような未来はありそうにないことを示唆している。 我々1.5℃の温暖化の瀬戸際にいるのはなぜか? 最初の IPCC 報告書が発表されてから、ほぼ 33 年が経った。 しかしそれは世界中の政策立案者らに対する警鐘とはならず、それ以来世界の排出量はなんと 54% も増加した。この不作為につながるのは、情報の欠如や実用的な科学の欠如ではない。 むしろ、この不作為は、政策立案者の無関心と、長期的なニーズよりも短期的な利益を優先すること、そして十分に資金のある化石燃料業界の欺瞞と妨害の産物である。 もちろん、これら 2 つの不作為の力は、化石燃料会社が政策立案者に自由にアクセスできることから、まったく別物ではない。 はっきり言えば、30 年以上の間、科学に関する明確なコミュニケーションが行われてきたにもかかわらず、すでに気候変動の影響を受けている地域社会はもとより、世界中の政策立案者ら、特に米国などのより裕福な国の政策立案者らは、科学者らによる行動の呼びかけに応じなかった。化石燃料産業はまた、化石燃料の継続的な使用の原因と結果について意図的に国民をだまし、地球に大混乱をもたらすように作られたビジネスモデルを倍増させ、気候変動対策にどのようなレベルにおいても断固として反対することにより、重要な役割を果たしてきた。 我々は何をするか? 1.5°C を超えてさらに温暖化すると、影響の指数関数的な加速に関連する危険なティッピング・ポイント(転換点)、不連続性、及び影響の指数関数的な加速をもたらすフィードバック ループ(訳注:例えばマイクとスピーカー)に近づくことになる。 これらの多くは、1.5°C から 2°C の温暖化(気温上昇)の経路に沿って開始されるため、温暖化を可能な限り 1.5°C 近くに制限することを目指し続けることが不可欠である。 つまり、温暖化を 1.5°C 以下に抑えることができそうにないとわかっていても、我々が過去に吹き飛ばした地域社会をもっと危険な世界に備えさせつつ、1.5°C 以下に抑えることができるかのように行動する必要がある。 これが意味することは、この 10 年以内に、すべての分野でグローバル経済全体にわたって急速で変革的な変化が必要だということである。 私たちは排出量を迅速に削減しなければならず、米国のような裕福な国々は、排出量の削減と、低・中所得諸国が低炭素でクリーンなエネルギーの軌道に乗るのを支援するための財政支援の両方でリードしなければならない。 IPCC 第 3 作業部会の報告書は、特に発展途上国において、排出削減目標を達成するために”現在の資金の流れは必要なレベルに程遠い”ことを明らかにした。 また、将来の排出量を固定する化石燃料ベースの追加の社会的基盤施設(インフラ)の構築も停止する必要がある。 バイデン政権がアラスカで数十年にわたる大規模なウィロー石油掘削プロジェクトを承認してからわずか数日後に、私はこれを書いている。 これは、私たちがもうこれ以上がまんができないようなことである。 化石燃料業界は、何十年もの間、気候変動に対する有意義な行動に反対し、妨害してきた。 激しい主張にもかかわらず、業界は、気候への害を最小限に抑えるために必要であると IPCC が主張するものにビジネス モデルを合わせると公約することを拒否してきた。 産業界は、世界の子どもたちが当然受けるべき未来への障壁であり続けている。 クリーン エネルギーの未来への道を開くことを拒否し、その未来に可能性を見出している他の人々に従うことを拒否した化石燃料業界に対し、私たちは邪魔なものをどかし、何十年にもわたる欺瞞と妨害の責任を負わせなければならない。 著者について クリスティーナ・ダール(Kristina Dahl)は、憂慮する科学者同盟(Union of Concerned Scientists)の気候・エネルギー プログラムの主要な気候科学者である。 彼女の役割では、気候チームだけでなく、UCS のキャンペーンやプログラム全体に対して、科学的方向性、戦略的思考、技術的及び分析的専門知識を提供してる。 彼女の研究は、気候変動、特に海面上昇と極端な暑さが人や場所に与える影響に焦点を当てている。 訳注1:ティッピング・ポイント(tipping point)
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