NRDC, 2021年10月11日
環境の不正義と解決策の最前線にいる
先住民族のリーダーたち

より健康な地球のための戦いは、先住民の権利と密接に結びついている。
分野や生態系を横断して、先住民族のリーダーシップは、
公正で持続可能な未来への道を示している。
ジュリア C.S.グッドステファニー(弁護士)

情報源:NRDC, 14 January 2021
Indigenous Leaders at the Frontlines of
Environmental Injustice and Solutions

The fight for a healthier planet is inextricably bound up with
Indigenous rights. Across sectors and ecosystems, Indigenous leadership
is charting the way toward a just and sustainable future.
By Giulia C.S. Good Stefani
https://www.nrdc.org/experts/giulia-cs-good-stefani/
indigenous-leaders-frontlines-environmental-injustice-and-solutions


訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2021年10月22日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/kaigai/kaigai_21/211011_NRDC_Indigenous_
Leaders_at_the_Frontlines_of_Environmental_Injustice_and_Solutions.html




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 部族連合体であるユーマティラ族インディアン居留地若手指導者協議会のメンバーであるキーエン・シンガー・グリーンとニゾーニ・トレディは最近、コロンビア川流域の鮭の生息地を回復するよう行政に要請する手紙をバイデン大統領に送った。”アメリカは取引を行い、私たちが永遠に漁業を行なうことができると約束した。鮭が残っていなければ漁業をできない”と書いた。
Michael Hanson for NRDC
 米国及び世界中で、先住民社会は、気候変動と生物多様性の喪失という相互に関連する危機との戦いを主導している。先住民のリーダーシップ、知識、革新は、危険にさらされている野生生物の保護、化石燃料との戦い、公正で持続可能な経済への移行、破壊的な環境の劣化後退への対抗、地球上で最も炭素が豊富な場所(森林など)のいくつかの保護に不可欠である。

 今日、私たちが直面している生態系の危機は、先住民社会に対して行われている社会的不正義と切り離せないものである。アメリカのほとんどどこにいても、この土地は、太古の昔からヨーロッパの植民地主義のずっと前からここに祖先がいた先住の人々を差別し、犠牲にして採掘し、体系的に強制退去させ、そして消し去る行いの物語として語ることができる。先住民の文化は、植民地の開拓者によって軽視されたり、政府の代理人によって激しく攻撃されることがよくあった。しかし、より明るい共同体の未来への道は、和解と先住民の主権に必然的に結びついていることを認識しなければならない。

 ここに、先住民が気候変動と生物多様性の危機に対する影響の最前線と解決策の最前線に同時にいる多くの場所と方法のいくつかがある。

【動画】: Land Needs Guardians

汚い抽出エネルギー・サイクルとの戦い

 非常に長い間、化石燃料やウラン産業を含む採掘エネルギー部門は、地域社会を破壊し、自然環境全体を汚染し、地球を気候危機に追いやることが社会的に許されていた。しかし、先住民社会のリーダーたちは、社会の健康と福祉、天然資源、文化的に重要な場所を保護するために、全国の先住民主導の組織、非営利団体、水の保護者の間の協力を進めている。これには、フロリダエバーグレーズグランドキャニオン北極圏国立野生生物保護区、ベアーズイアーズ国定公園スタンディングロックなどの非常に重要な場所を保護するための最前線の取り組みが含まれる。これらの戦いの多くは、聖地を保護するために活動している社会を称え、団結させ、力を与えるために、ラミ・ネーション(先住民ラミ族の居住区)の”涙の彫刻家の家”(he House of Tears Carvers )が率いる”ワシントン DC に向かう赤い道”をたどるトーテムポールの旅の道中で強調された。

【動画】2分強のビデオ
Red Road To DC: Totem Pole Journey for the Protection of Sacred Places

 ワシントンDCへの赤い道のひとつの立ち寄り場所は、ニューメキシコ州北西部のグレーターチャコ地域であった。この地域には、ディネの人々とナバホ・ネイションの一部にとって神聖な素晴らしい繊細な風景の中にチャコ文化国立歴史公園がある。この地域はかつてウラン採掘の中心地であったが、現在は石油とガスの生産のホットスポットとなっている。この地域のウラン鉱山は現在閉鎖されているが、先住民社会は、健康に影響を与え続ける遺産と戦っている。先住民社会のメンバーが率いる幅広い連合体は、新しい石油とガスの掘削に積極的に反対し続け、「自由意思による、事前の、十分な情報に基づく同意 (Free Prior and Informed Consent / FPIC)」を含む、意思決定のあらゆる段階で地域社会の保護と部族協議を提唱している。 ”最初に構築し、後で法廷で部族と戦うという既存の戦略を継続することは容認できない”と、先住民の組織である Se'Si'Le(ラミ語で祖母の意:ソシラ)の代表ジェイ・ジュリアス (Lummi)は、ワシントンDCへの赤い道の旅の出発時の記者発表で述べている。”影響を受けた部族の同意を得るという条約の責任があるのに果たされていない。このことはアメリカ先住民の共同体に危機を引き起こしており、そこでは私たちの最も神聖な場所が危険にさらされている。バイデン大統領は、この問題を解決するために今日行動を起こすことができるし、行動を起こすべきである。”


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「サンファン盆地」とも呼ばれる地域、ニューメキシコ州北西部のグレーターチャコの公有地での水圧破砕(フラッキング)
WildEarth Guardians via Flickr
きれいな水の保護

 先住民族は、水質浄化法の最近の後退と戦う最前線にいる。ひとつは 6つの部族によって、もうひとつはナバホ・ネーションによってもたらされた これら 2つの訴訟に関して、裁判所は、国の湿地と数百万マイルの小川を危険にさらす「汚水規則(Dirty Water Rule)」を無効にした。 ”適切な連邦規制は、湿地と源流を取り返しのつかない害と破壊から保護する。それはまた、私たちの歴史、文化、そして人々の生き方を保護する”とウィスコンシン州メノミニー・インディアン部族のグンナー・ピーターズ会長は記者発表で述べた。

 同様に、スコーミッシュ族、ピラミッド・レイク・パイウート族、及びオルツアラミュ−イト先住民協議会(Orutsararmiut Native Council)は、パイプライン、水力発電ダム、湿地の埋め立てなどのプロジェクトから水を保護しようとしている州や部族の能力を弱めるある規則について、米国環境保護庁(EPA)を提訴した。”スコーミッシュ族の価値観と伝統を維持するために、太古の昔から生計と文化的及び商業的利用を支えてきスコーミッシュ族の会長であり、北西インディアン部族連合の会長であるレオナルド・フォースマンは述べている。部族の断固たる擁護もあって、バイデン政権は最近、規則を改正する計画を最近発表した。


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スクアミッシュ族のメンバー、レオナルド・フォルスマン、スクアミッシュ族の会長、北西インディアンの関連部族の会長(後列、中央) Washington State DOT
 アラスカ州ブリストル湾では、部族は、地球上で最大の野生のサケ漁業を破壊する巨大な金と銅の露天掘り鉱山であるペブル鉱山のような大規模な採掘事業から貴重な流域を恒久的に保護するための戦いを続けている。彼らは、環境の戦いで最も多様な連合のひとつを主導し、商業及びレクリエーションの漁師、ハンター、企業、信仰の指導者、及び非営利団体と協力して、ペブル鉱山阻止を支援してきた。”鮭は私たちの生活の一部である”と、この地域の 31の部族を代表するブリストルベイ先住民協会のカーユング族協議会のチーフで天然資源ディレクターのゲイラ・ホセスは言う 。 ”それは私たちにとって本当に重要なこと、つまり土地、私たちの文化、私たちの自給自足の生き方についてである。” 部族は、EPAに対し、水質浄化法のセクション404(c)に基づく権限を使用して、この地域に恒久的な保護を発行するよう要請している。

野生生物の保護と回復

 世界の陸地の約 22%を占める先住民の領土は、世界に残っている生物多様性の 80%を占めている。生物多様性はどこでも脅威にさらされているが、先住民が管理する地域ではゆっくりと減少している。あらゆる方向から見て、種の大量絶滅を食い止める方法は、先住民の知識と実践に深く関わっている。

 たとえば、コロンビア川流域はかつて世界最大の鮭生産河川系であったが、今日ではその鮭の個体の多くがほぼ絶滅している。これがこの地域の先住民に与える影響を誇張することはできない。 ”サケを基盤とする文化として、私たちの生活はすべてこの種に包まれていると、ショショーニ・バンノック族の水産業生物学者であるサミー L.マソー博士は最近の委員会で述べている。しかし、この地域の部族の長年にわたる献身的なリーダーシップのおかげで希望がある。

 コロンビア川部族間漁業委員会(CRITFC)とその 4つのメンバーの部族は、Wy-Kan-Ush-Mi Wa-Kish-Wit(鮭の精神)と呼ばれる修復計画を作成した。 ”この計画は、伝統的な生態学的知識と西洋の科学的原則を統合して、コロンビア川流域の溯河性(そかせい)魚種のライフサイクル全体にわたる生態学的ニーズに総合的に対処する”と CRITFC の暫定会長である アヤ・デコトーは述べている。 ”場所の重要性と、場所に依存する人間の文化や地域社会との関係を認識し、Wy-Kan-Ush-Mi Wa-Kish-Wit は、鮭の衰退を食い止め、コロンビア川流域内の管理を再構築した。” 科学研究から生息地回復プロジェクト、そして法廷に至るまで、北西部の部族は、この文化的及び生態学的に重要な魚(及び他の野生生物)を危機から立ち直らせるための戦いを主導している。

土地管理

 先住民族は、気候変動や種の崩壊と戦うために不可欠な、炭素が豊富で生物多様性のある森林やその他の生態系の保護と回復を主導してきた。 カナダでは、Lutsel K'e Dene 族(Lutsel K'e Dene First Nation)やクリー族(Cree Nation)などの先住民族が、先住民族の自己決定と国造りを中心とした先住民族主導の土地保護の新しいビジョンを推進している。 先住民の保護地域(IPCA)と、先住民の専門家を雇用して伝統的な領土全体の「目と耳」として機能する先住民保護者ネットワーク(Indigenous Guardians Network)の拡大を通じて、先住民の社会組織と指導者らは、亜寒帯林のような気候に重要な場所を保護するために土地管理と任務の中で彼らの知識、法律及び伝統に集中している。 また、アラスカ南東部のトンガス国有林では、先住民社会が、国内最大の温帯雨林を保護及び保存する取り組みを長い間主導してきた。

 気候変動の最悪の影響を回避し、生物多様性の危機に対処するには、知識を尊重し、権利を確保し、先住民たちの機関を強化するために、私たちの社会と世界中で変革を起こす必要がある。 先住民の日(Indigenous Peoples Day)は、土地の最初の市民(先住民)に与えられた過去と現在の不正義を認め、先住民の指導者と、野生生物、水、そしてすべての人にとってより健康な地球に対する彼らの非常に強力な声を支援することを思い出させるものである。

著者について

ジュリア C.S.グッドステファニー
GIULIA C.S. GOOD STEFANI
上席弁護士、海洋哺乳類、海洋部門、自然プログラム
Senior Attorney, Marine Mammals, Oceans Division, Nature Program

 このブログは、Jon Devine、Alison Kelly、Taryn Kiekow Heimer、Jade Nguyen、Helen O'Shea、Caroline Reiser、Garett Rose、Jennifer Sherry、Jennifer Skene、ZakSmith との共著である。



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