DW(ドイチェ・ヴェレ), 2020年11月10日
脱成長について知るべき 5つのこと
ルビー・ラッセル
情報源:Deutsche Welle, November 10, 2020
Five things you need to know about degrowth
By Ruby Russell
https://www.dw.com/en/five-things-you-need-to-know-about-degrowth/a-55539458

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2020年11月17日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/kaigai/kaigai_20/
201110_DW_Five_things_you_need_to_know_about_degrowth.html


 GDPの拡大は本当に健全な経済の認定書なのであろうか? 一部の経済専門家らは、”惑星の健康(planetary health)”(訳注1)のために、私たちは成長を止める必要があると信じている。その理由がここにある。

 私たちは、政治屋や政治おたくが経済成長について話をし、経済成長が上昇すると祝い、成長を後押しするための要としての彼らのお気に入りのプロジェクトや政策を宣伝するのを聞くことに慣れている。

 問題は、経済が拡大するにつれて、私たちの資源の消費も必ず拡大することである。廃棄物、排出物、その他の汚染も増加する。多くの人々が問うているのはそのことである。限りある資源の惑星で経済を本当に無限に拡大し続けることができるであろうか?

 これとは全く異なるアプローチを主張する人々の中には、生態学者、経済学者、活動家がおり、彼らの中心的な関心事は、環境だけでなく社会正義である。

 ここに経済成長を捨てる時期かもしれない理由がある。

1. GDP に対する私たちの執着はそれほど前からのことではなかった

 国民総生産(GDP)が経済的成功の達成度を示す尺度となり、資本主義と共産主義の間の競争の指標を提供したのは、20世紀半ばになってからのことであった。

 しかし1972年、国家元首、経済学者、ビジネスリーダーのグループであるローマクラブは、”成長の限界(The Limits to Growth )”というタイトルの大ニュースとなるような研究を発表し、抑制されていない経済拡大が資源の枯渇、経済崩壊、環境災害につながると予測した。

 これらの予測は、石油不足が石油の価格を高騰させ、経済成長を鈍化させた 1970年代のエネルギー危機の間に共感を得た。しかし、新しい石油源が見つかったことにより、研究によって提起された議論は終わりを告げた。 GDPの拡大は、経済政策だけでなく、世界をより良い場所にすることを目的としたほぼ全ての世界規模のプロジェクトの中心になった。

 「働きがいと経済成長(目標 8)」は、国連の 17の持続可能な開発目標の中で”飢餓ゼロ”と”気候変動対策”と並んでいる。気候変動に関する政府間パネルでさえ、世界経済の規模は今から世紀半ばまでにおよそ2倍になると仮定して、排出削減シナリオをモデル化している。

 しかし、抑制されていない経済拡大に反対する議論は消えておらず、研究によると、資源使用とその生態学的影響に関する成長の限界の予測は、その間の数年間で大部分が裏付けられている。

2. 技術修正だけでは世界を救えない

 それでも、経済成長と環境への害との関連を断ち切ることができるかどうかについては、議論が激化している。

 ”グリーン成長”の支持者は、化石燃料エネルギーを再生可能エネルギーに置き換え、全体としてより少ないエネルギーを使用し、より多くのリサイクルを行うことで、現在と同じように経済システムを運用し続けることができると主張している。

 しかし、脱成長者は、現在の工業化された生産量と使い捨て消費量を循環システムに変換することは単純に不可能であると言う。

 そして恐らくもっと根本的に、拡大し続けるように設計されたシステムでは、エネルギーと資源の使用の節約は生産と利益の増加につながる傾向がある。つまり、全体として、環境への影響は同じままであるか、さらには上がる可能性があるということである。

3. 経済成長はすべての人を助けるわけではない

 私たちが資源を枯渇させ、生物多様性を破壊し、地球を熱くすることによる生態学的および経済的崩壊の実存的な脅威は別として、経済成長が一般的に私たち全員をより良くするという仮定はますます疑問視されている。

 より多くの人々が可処分所得を持ち、より多くの市場が消費財のために開かれているため、発展途上国は高い成長率を示す傾向がある。しかし、先進工業国では、成長は一般的に遅くなり、それを加速するための努力は、必ずしもほとんどの人々のより良い生活水準をもたらすとは限らない。

 ”21世紀の資本”の著者であるトーマス・ピケティ(これまでの富の格差に関する最も包括的なデータを編集したことで賞賛されただけでなく、その著書は驚きのベストセラーでもあった)のような経済学者の仕事は、最近何十年もの間、米国のような先進工業国の通常の賃金は、生産性と成長に合わせて上昇を止めてきたことを示した。

 経済成長の恩恵はますます超富裕層に偏り、金持ちと貧乏人の間の格差はかつてなく広がっている。

4. 脱成長経済はより多くの自由時間を意味する可能性がある

 脱成長(degrowth)、ポスト成長(post-growth)、または定常経済(Steady-state economy)の支持者は、工業化された経済の成長を後押しすることは生活の質を改善するための答えではないと主張する。実際、自然の制約の中で生活することは、私たち全員を幸せにする可能性がある。

 消費量を減らし、より慎重に消費し、電化製品を共有して修理し、自動車ではなく自転車に乗り、飛行機の代わりに電車に乗る必要があることを私たちは知っている。しかし、これらのことは、個々にはほとんど影響を与えない大きな犠牲のように感じることがある。

 脱成長経済では、環境に有害な生産の需要を減らすために消費者の力に頼るのではなく、逆の方法で行う。つまり、半狂乱のシステム全体をまとめて減速し、生産と消費を減らすことは、私たちも仕事を減らすことができることを意味する。

 私たちは物質的には貧しいが、時間は豊富であり、消費主義の興奮(sugar-rush)を、芸術であれ、私たち自身の食べ物を育てることであれ、コミュニティや創造的な仕事などのより深い喜びに置き換える。私たちは、進んで資源を共有し、直接民主主義に従事し、利益主導型経済の代替案を開発する時間がある。

5. 一部の分野はシャッターを閉めるであろうが、他の分野は繁栄する

 これは、環境に有害な業界全体の閉鎖を暗示しているかもしれない。しかし脱成長とは経済全体にブレーキをかけ、痛みを伴う不況に陥ることではない。

 代わりに、焦点は、純粋に利益を生み出すという理由で投資を引き付けるものではなく、人間と生態系の幸福を改善する介護、教育、再生可能エネルギー、公共交通機関などの分野に移る。

 ロンドンのゴールドスミス大学の経済人類学者であり、脱成長の主要な支持者であるジェイソン・ヒッケルが指摘するように、私たちの民営化医療(privatizing health care)は GDP にとってよく、借主保護(rent controls)はよくないかもしれない。利益ではなく人々のために形作られた経済では、より良い公共サービスとより公平な富の分配は、私たちのより多くがより少ない費用でうまく生きることができることを意味する。

DW 推奨記事

訳注1


化学物質問題市民研究会
トップページに戻る