EURACTIV 2020年7月3日
議論ある遺伝子ドライブ生物の
環境放出の一時停止を NGOs が求める

ナターシャ・フーテ (EURACTIV.com)
情報源:EURACTIV, July 3, 2020
NGOs call for moratorium on controversial 'gene drive organisms'
By Natasha Foote (EURACTIV.com)
https://www.euractiv.com/section/health-consumers/news/ngos-call-for
-moratorium-on-controversial-gene-drive-organisms/?ct=t


訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2020年7月15日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/kaigai/kaigai_20/200703_EURACTIV_
NGOs_call_for_moratorium_on_controversial_gene_drive_organisms.html





合成遺伝子ドライブは、野生状態で個体群を又は生物種の全体を永久に改変する又は根絶することを意図する遺伝子工学の新しい形態である。Photo: [SHUTTERSTOCK]

 78を超える環境および農業組織が今週、遺伝子ドライブ(訳注1)技術の一時停止(モラトリアム)を求める書簡に署名したので、EURACTIV は、論争の的となっているその技術について、それが何であるのか、そしてそれがどのような意味を持つのか理解するするために、詳しく調べた。

 火曜日(6月30日)に欧州委員会に送付されたその書簡は、いわゆる”遺伝子ドライブ生物(GDO)”の環境への放出を禁止するよう要請し、この技術は委員会が提案する生物多様性保護に関する EUの戦略(訳注2)と”両立しない”と主張した。しかし科学者たちは、この技術が世界で最も致命的な病気のいくつかを根絶するための大きな可能性を秘めていると言う。

 合成遺伝子ドライブは、遺伝子工学の新しい形態であり、遺伝子工学手法 CRISPR / CAS9 (訳注3)を介して作成され、野生の個体群または種全体を永久に改変または根絶することを目的としている。

 それら(遺伝子ドライブ)は現在、遺伝的要素または遺伝的形質が、遺伝を受けている生物に利益をもたらすか害を与えるかに関係なく、遺伝する可能性が通常の 50%を超えるシステムとして定義されている。

 遺伝子ドライブ技術のアイデアは、有害な遺伝的形質を強制的に継承させることである。このようにして科学者らは、病気を媒介する昆虫や侵入種などの種を再プログラムまたは根絶することを望んでいる。

 これは、遺伝子ドライブ生物(GDO)と遺伝子組み換え生物(GMO)の重要な違いである。これらは、改変された特性の伝搬を含むように明示的に設計されている。

 GDO を安全に使用できるかどうか、またどのように使用できるかについての議論が進んでいる。 現在のところ、GDO は EU GMO 指令に該当するが、委員会が委任する EFSA 専門家作業グループは、2020年末までに予想される遺伝子ドライブ改変生物に関する規制に関する勧告を現在策定中である。

 こじつけに聞こえるかもしれないが、これは単なる推測からはほど遠いもので、EU や他の地域ですでに実験が進んでいる。

 ごく最近、ロンドンのインペリアル・カレッジは、実験室でマラリアを媒介する蚊の個体数を排除することができる改変を作り出した(訳注4)。 この研究は、ターゲット・マラリア・プロジェクトの下に、ビル&メリンダ・ゲイツ財団から資金提供を受けた。

 世界保健機関によると、毎年 2億件を超えるマラリアの新たな症例が報告されており、2000年以来、各国はマラリアの症例数と死亡者数を劇的に減らしているが、近年の進歩は停滞している。

 インペリアルの生命科学部の主任科学者であるアンドレア・クリサンティ教授は、この研究は”科学者がマラリアの遺伝的ベクター制御を開発して病気の根絶を目的として開発するための新しい道を開く重要なマイルストーン”であると述べた。

 共同主著者のドリュー・ハモンド博士は、まだ実験段階にあるが、遺伝子ドライブ技術は”マラリア撲滅のための流れを変える”可能性があると付け加えた。

 しかし、遺伝子ドライブは、GDO とその影響について、独立した情報に基づく分析の緊急の必要性を強調する特定の環境保護団体からの激しい反対に直面している(訳注5)。

 署名した団体は、国連生物多様性条約(訳注6)の次の締約国会議(COP 15)において、GDO の環境への放出に関する世界的な一時的停止を支持するよう EU に要請している。

 欧州議会は、今年 1月の決議でそのような一時停止を要求し、ヨーロッパおよび世界中の 200を超える署名団体からの呼びかけにすでに応じている。

 これは、グリーンズの農業政策スポークスマンであり、欧州議会の環境委員会のメンバーであるマーティン・ハウスリングが”生物多様性のための基本的な段階”と呼び、この技術の長期的な影響は”予測できない”ことを警告していることである。

 ドイツの運動体である”Save Our Seeds(我々の種子を守れ)”のマレイケ・イムケンは、”遺伝子ドライブ技術のリスクはまだ科学的に評価されていないが、すでに損傷を受けている生態系に大きな影響を与える可能性がある”と同意し、”種と生態系を更なるリスクに曝すのは無責任である”と付け加えた”。

 彼女はまた、そのような技術の使用は”生物多様性保全の目的と、国際的および EU の自然保護法の基礎である予防原則と矛盾している”と付け加えた。

 ”グローバルな一次停止(モラトリアム)は、環境と健康のリスクを評価し、この技術を公に評価および議論し、欠けている規制とグローバルな意思決定メカニズムを確立する時間を我々与えるであろう。 一方、世界の誰もこの技術を使用するべきではない”とイムケンは語った。

[Edited by Benjamin Fox]
EURACTIV の論説内容は我々の後援者(スポンサー)の見解から独立している。


訳注1:遺伝子ドライブ技術
訳注2:EU 生物多様性戦略
訳注3:CRISPR-Cas9
訳注4:遺伝子ドライブでマラリア蚊を「絶滅」
訳注5:遺伝子ドライブ蚊の放出に NGOs 反対
訳注6:生物多様性条約


化学物質問題市民研究会
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