Times Colonist 2020年5月15日
普通の難燃剤で消防士が死んでいると
ビクトリア大学の報告書

ステファン・ヒューム
情報源:Times Colonist, May 15, 2020
Common fire retardants killing firefighters, UVic report says
By Stephen Hume / Vancouver Sun
https://www.timescolonist.com/news/local/common-fire-retardants-
killing-firefighters-uvic-report-says-1.24136288


訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2020年6月2日
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http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/kaigai/kaigai_20/200515_TC_
Common_fire_retardants_killing_firefighters.html



 一般的な家庭用品に日常的に添加されている難燃剤は、安全性を大幅に向上させることなく、消防士を死に至らしめ、子どもや妊婦を危険にさらし、環境を汚染している。

 「警報の発令:カナダにおけるより優れた難燃性規制の事例(Raising the Alarm: The Case for Better Flame Retardant Regulation in Canada)」は、ビクトリア大学環境法センターによって、ビクトリア消防局の消防士を代表する国際消防士協会ローカル 730 のために作成された。 それは、科学的文献、公衆衛生の専門家、および米国の規制政策の枠組みで使用される法的意見を調査した。

 それは難燃剤とそれらが使用されている家庭用品のカナダの規制を早急に改革することを要請している。

 報告書は、すべての推奨される改革を実施するよう求める消防士からの要請とともに、連邦環境大臣ジョナサン・ウィルキンソンと保健大臣パティー・ハイドゥに送られることになっていた。

 消防士らの血流中には高いレベルの化学物質が存在し、精巣がん、悪性黒色腫、脳腫瘍、及び食道がんの発症レベルが異常に高いと報告書は述べている。

 他にも既知の健康への影響があるが、生殖機能障害、子どもの知能検査スコアの低下、記憶障害、学習障害、運動行動の変化、多動、内分泌かく乱、及び免疫障害が特に関連することをアメリカの研究は示している。

 ”消防士が最も怖い建物は燃えている建物ではない。怖いのは、がん検査/治療の医者のいる建物である”と述べた消防士トム・オコナーの発言を環境法センターの報告書は引用している。カリフォルニア州消防士の地元責任者であるオコナーは、2017年にサンフランシスコでは 50歳未満の女性消防士の乳がん発症は、米国の平均乳がん発症の 6倍であったと指摘した。

 カナダの消防士の間では、がんは労働災害および死亡の主な原因となっている。 報告書は、ブリティッシュ・コロンビア州の労働者の 10年間の補償請求に関する 2018年の研究を引用しているが、それによれば消防士の死亡の 86%以上ががんによって引き起こされている。

 カナダには約 25,000人の常勤消防士と約 125,000人のボランティア消防士がいる。

 幼児はまた、難燃剤の血中濃度が高いことを示していると、環境法センターの報告書は述べている。 妊娠中の女性や胎児もまたリスクが高い。この報告書は、カリフォルニア大学とコロンビア大学の小児科および環境保健の専門家を引用している。

 難燃剤は、マットレス、子ども用おもちゃ、ベビーベッド及びベビーベッドの付属品、カーペット、厚手のカーテン、椅子張りなどに添加された後、ゆっくりと外部にしみ出す。フォームクッションは、1キログラムの難燃剤を含むことができる。家電ケース、キャンプ用品、車の内装、建設資材にも含まれている。

 激しい火災の間、燃焼物は有毒ガス、煙、粉塵粒子を噴出する。

 難燃剤には 3つの広いカテゴリーがあると報告書は述べている。 有機ハロゲン系は炭素が臭素または塩素と結合し、有機リン系は炭素がリン酸塩と結合し、無機系難燃剤は、ホウ素、アルミニウム、チッソ及びカルシウムを含む。

 カリフォルニア大学リバーサイドの研究チームが特定した消費財中で使用されている、又は使用可能な 83種類の有機ハロゲン難燃剤があると、環境法律センターの報告書は述べている。 研究者らは 58%を”有毒で使用すべきではない”、31%を”懸念が高く、避けるべきである”と分類した。 残りの11%は中程度の懸念を引き起こし、研究者たちはより安全な代替品を見つける必要があると述べた。

 化学物質は、内装材や家財の燃焼を遅らせることによって住宅をより安全にすることを意図しているが、消防士によると、火災は実際にはより高温により速く燃える。

 カナダ消防局長協会のディレクターであるビンス・マッケンジーは、2018年に住宅の火災が”フラッシュオーバー(部屋の温度がすべての可燃性物質を同時に発火する状態)”に到達するのに15分かかるのを観察した。その時間は、現在は、わずか 3分である。

 ”今日の火災はかつてないほど高温で、速く燃える”とブリティッシュ・コロンビア州の職業消防士協会の会長ゴード・ディッチバーンは言う。 同協会は州全体の 4,000人の専門消防士を代表しており、そのうち約 3,000人がメトロ・バンクーバー地区とグレーター・ビクトリア地区に配属されている。 州全体でさらに10,000人のボランティア消防士がいる。

 ”これらの難燃性化合物の毒性を考えると、私は非常に心配である”と彼は言う。 ”消防士が遭遇する事実上すべての火災は、これらの難燃剤への暴露と我々の体へのそれらの致命的な影響を伴う”。

 ”率直に言うと、住宅の火災の 3〜4日後にシャワーを浴びても、防護具をすべて着装しているにもかかわらず、毛穴から黒い滲みが出て、鼻をかむとすすが出てくる。 これらは何日も私の体に留まる”。

 ディッチバーンによると、この問題は全国的的なものであり、防護具の進歩にも関わらず、”北米では平均して4日毎にひとりの消防士が亡くなっている”。

 ”これらの問題は、ハリファックスやその間のすべてのコミュニティと同様に、ビクトリアでも致命的である”と彼は言う。 「率直に言って、私はこれらの燃焼する構造物に含まれる化学物質に起因するがんで亡くなっている姉妹や兄弟の葬式に出席するのにうんざりしている”。

 フレーザー・バレー大学の公安・刑事司法研究センターの 2019年の研究によると、2005年から 2018年半ばにブリティッシュ・コロンビアでは、31,582件の住宅火災があった。

 難燃剤化合物はさらに広い影響を与えると環境法センターの報告書は述べている。 高温で燃焼するとダイオキシン類が生成され、それらは煙から降下して環境に残留し、生物蓄積して、食物連鎖を上昇してより強い毒性になる。

 海洋食物連鎖の頂上には、絶滅危機種のサザン・レジデント・シャチの個体群があり、これらのシャチは現在、ワシントン州とカナダ連邦政府による 10億ドル以上の保護回復プログラムの対象となっている。

 これらのシャチはダイオキシン類をたっぷり含んでいるので、カナダの指導的海洋哺乳類毒性学者であるピーター・ロスは、2006年の研究でそれらを”耐火性のシャチ”と呼んだと報告書は述べている。

 ”難燃剤を適用しても住宅火災の防止や火災の安全性の向上に関して実際に大きな違いはないという証拠が広く受け入れられているにもかかわらず、消費者製品に添加され続けているということは驚くべきことである”と、環境法センター法学部学生チーム(ハーリーランドハーワ、カイトリン・ストックウェル、ルーベン・ティルマン−監修ビクトリア大学法学部教授カルビン・サンドボーン)が作成したレポートは結論付けている。

 この研究は、環境法センターの元議長であったビクトリア州議会議員マレー・ランキンが、ビクトリア州消防士協会から、より優れた法的保護を求めてアプローチされた後に立ち上げられた。 ランキンはビクトリア大学センターが問題を研究することを提案した。

 ”残念ながら、科学文献や公衆衛生機関は、多くの一般的な難燃剤がこれらの化学物質に日常的にさらされている一般大衆に深刻な長期的な健康リスクをもたらすことを確認した”と報告した。

 ”あなた自身が今、自分の家で空気中に静かに放出されている有毒ガスにさらされている”とディッチバーンは言う。

 サンドボーンは、カリフォルニア州議会は難燃剤は火災安全のために必要ではないと結論付けたと言う。

 ”火災の安全性は、数キログラムの難燃性化合物を製品中に添加するよりも、家具、布地、詰め綿などの製品設計によってよりよく達成できる”と彼は言う。

 報告書は、連邦政府は、有機ハロゲン系難燃剤が使用されている子ども用品、室内装飾品、マットレス、プラスチック・ケースはもちろん、家庭用電化製品の製造、販売、流通、輸入を禁止すべきであると述べている。

 また、有機ハロゲン系ではない難燃剤は、人間の健康に害を及ぼさないこと、安全な代替手段が存在しないこと、および実際にそれらの使用が必要であることを証明するよう命じられるべきであるとしている。

 また、報告書は、すべての難燃剤とそれらの健康リスクの公開オンライン登録システムの構築を求めている。

 低所得世帯の幼児のリスクは、おそらく彼等が利用できる住宅ストックと家具の質の違いにより増大していると報告書は述べている。

 たとえば、報告書は、低所得層はしばしば古い住宅ストックで、古い換気装置と古い家庭用品をより長く使用し、古いカーペットの掃除とほこり除去するという課題に直面している。 ほこりを除去するための高品質の真空掃除機は、多くの場合、貧しい家族には手が届かない。

 我々は連邦政府に対し、カリフォルニア州や他の米国の管轄区域の例に従い、マットレス、家具、子ども用製品から危険で不要な化学物質を取り除くよう求めているとサンドボーンは言う。

 ワシントン州は、これらの化学物質がシャチにもたらす脅威を認めている。 米国連邦政府は、それらが妊娠中の女性、胎児及び子どもたちにもたらす脅威を認識している。 また、化学物質は燃焼すると非常に有毒なダイオキシン類を生成するため、消防士に不必要なリスクをもたらすことは広く認識されている。

「科学は明確であり、オタワ(カナダ政府)は行動する必要がある。

 ステファン・ヒュームは元バンクーバー・サン紙のコラムニストである。



化学物質問題市民研究会
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