ドイチェ・ヴェレ 2017年7月13日
環境活動家を殺害する金融システム
アイリーン・バノス・ルイス
情報源:Deutsche Welle, July 13, 2017
The financial system killing environmental activists
by Irene Banos Ruiz
http://www.dw.com/en/murder-world-bank-
asian-development-bank/a-39645233


訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会
掲載日:2017年7月26日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/kaigai/kaigai_17/
170713_DW_The_financial_system_killing_environmental_activists.html

 グローバル・ウィットネス(訳注1)の新たな報告書は、2016年を環境保護活動家らが最も多く殺害された年であることを明らかにしている。国際的な機関投資家(訳注2)らは、抵抗する数百人の人々が殺害されたプロジェクトに融資していることを非難されている。

 我々の多くが地球を守るために日々の生活の中でとる行動は、リサイクルのための分別の煩雑さ、あるいは食事の楽しみや遠方での休暇に先立っての(環境について少しは考えなくてはならない)余計な悩みを伴うかもしれない。しかし我々のほとんどにとって、環境のための行動は自分たちの命に関わるリスクを意味しない。

 しかし世界中でもっと多くの人々にとって、それは、訴訟、脅し、殺害脅迫、誘拐、性的暴行、そして殺害をもたらす現実的な可能性がある。

 新たなグローバル・ウィットネスの報告書は、殺害された環境活動家は 2015年には 185人であったが、2016年には 200人に増えており、最悪の年であったことを明らかにしている。暴力はまた地理的にも広がっている。2016年には環境活動家らは 24か国で殺害されたが、それは 2015年の 16か国より増えている。

 これらの犯罪の 60%はラテン・アメリカで起きており、そこは環境活動家らにとって世界で最も危険な場所である。ブラジルはこのような殺害が最も多く、アマゾンやセラード(熱帯サバンナ)のような自分たちの生息場所を守る人々 49人が殺された。人口当たりではニカラグアの殺害率が最も高い。

ここをクリック記事中の地図 ”200 environmentalists killed worldwide in 2016 (2016年には世界で 200人の環境活動家が殺害された)”をご覧ください。

 もしこれらの犯罪が現在あなたがいる場所から遠く離れているように見えるなら、グローバル・ウィットネスはあなたにこのようにお伝えしよう。問題は、そこで行われている非難されるべき道義に反する政策や実施だけではない。それらは、世界中の金融機関につながるシステムの中で、有名な国際的な機関投資家の支援によってはじめて可能となるということである。

殺人に投資する

 人々は常に地方政府が責任を取るよう要求していると、同報告書の著者の一人であるベン・レザーはドイチェ・ヴェレ(DW)(訳注:ドイツの国際放送事業体/ウィキペディア)に述べた。”しかし機関投資家らはしばしば、世間の注目と批判から逃れている”。

 生息場所の防衛で虐待や暴力の対象となるのは、しばしば、国際的に資金調達された大きなプロジェクトと戦っている人々である。

 ”殺害される防衛者の大部分は、国際的な投資家らの金融支援がなければ存立することができない大きなプロジェクトに反対している人々である”とレザーは述べた。

 ジャイビー・ガルガネラはフィリピンでの搾取的な採鉱のやり方に反対運動を行っており、そこでは 2016年だけで 28人の運動家が殺害された。

ここをクリック記事中の棒グラフ ”Activities linked to environmental activist murders (環境活動家の殺害に関連する開発行為)”をご覧ください。鉱山、材木切り出し、農業ビジネス、密猟、水とダムが上位。

 世界銀行やアジア開発銀行(ADB)のような開発銀行は、国立銀行に資本を提供し、その国立銀行は、例えば炭鉱や発電プラントに投資するが、それらは暴力をもって地域住民の反対を抑圧していると、ガルガネラは述べた。

我々の手は汚れていないのか?

 開発銀行は、高いレベルの環境的及び社会的基準(standards)を持っていると公言する。しかし彼らは間接的に融資するプロジェクトがそれらの基準に合致することを保証する責任はないと、ガルガネラは付け加えた。

 世界銀行の環境破壊及び人権侵害に関連するプロジェクトへの金融に関して、世界銀行の国際金融公社(IFC)(訳注:ウィキペディア)の報道官フレデリック・ジョーンズは 、 IFC は”石炭関連プロジェクトに融資する金融機関顧客にはクレジットライン(信用供与枠)又はローン(貸付)を与えない”と DW に述べた。

 しかし、彼らが資本を投入する銀行は、これらの諸国での主要な経済活動にしばしば密接に関連しているので、石炭を取り扱うかもしれない。

 ジョーンズは、 IFC は顧客の環境的及び社会的実績を全体的に改善するために、彼らが融資構成(financing mix)をもっと再生可能エネルギーの方向に移行するのを支援していると述べた。

 ” IFC は、活動家に対する全ての暴力を拒絶する。そしてどのような場合でも正義が勝ることを希望する”とジョーンズは DW に述べた。

 グローバル・ウィットネスは、金融機関は現地で起きている彼らが知らないことについて責任を持つことはできないと主張する、と言う。しかし知らないことは理由にならないとグローバル・ウィットネスは言う。

 ”彼らが知らないということは許されるものではない。彼らは必ず知らなければならない”と、レザーは言った。

 米州開発銀行(IDB)は、責任を逃れている機関のひとつであると報告書は述べている。 同銀行は、地域住民に対する脅迫と攻撃について、国連専門家が報告していたコロンビアのハイドロ・イトゥアンゴ水力発電所プロジェクトに融資している。

 IDB グループは、彼らの環境的及び社会的基準に従って、そのプロジェクトを注意深く監視しており、もし、彼らが禁止している行為への違反を示す証拠があれば、”適切な措置をとるであろう”と、 DW に述べた。

 ほとんどの先進国の政府は開発銀行に投資しているのだから、彼らを選ぶ選挙民はそのような情報を知る責任があると活動家らは主張する。

 イギリス、ドイツ、アメリカの政府は世界銀行の株主であると、レザーは指摘する。そのことはこれらの国の市民は彼らの政府に、”我々の税金はこれらの攻撃に関係していないことを確かめるために、政府は何をしているのか”と問いただすことができるはずであると、彼は指摘する。

改善努力は少なすぎるし、遅すぎる

 だんだん、しかし特に昨年、ホンジュラスのゴールドマン環境賞受賞者のベルタ・カセレスが殺害(訳注3)されてから、彼らはそれをやり始めた。

 カセレスの死後、オランダ開発銀行(FMO)とフィンランド開発銀行(Finnfund)は、先住民レンカ族に属する土地を脅かすホンジュラスのアグア・サルカ水力発電所ダムから撤退した。(訳注:カセレスはレンカ族出身である)

 レンカの活動家らに対する脅迫と攻撃を長年非難していた人々は、銀行が行動をおこす前にカセレスが死ななくてはならなかったことに激怒した。

 さらに、アグア・サルカのプロジェクトは、環境活動家が殺害されたということだけでなく、お金が失われ、銀行の評判も損なわれたということを警告している。

 ”今こそ他の機関も、教訓を学んだこと、そして防衛者の保護を改善するために政策を適切に実施することを示さなくてはならない。

 その第一歩は、プロジェクトを実施する前に地域社会と協議するよう報告書は勧告している。

 ホンジェラスの先住民運動 MILPAH の代表フェリペ・ベニテスは、 先住民社会が直面している大きな問題は、意思決定プロセスに、彼ら自身の土地に影響を及ぼすプロセスにすら、参加できないことであると DW に述べた。

 ホンジェラスのダム建設プロジェクトに反対して戦っていたベニテスの甥を含む 3人の MILPAH メンバーが殺された。

刑罰を受けないことが暴力を許す

 環境防衛者に対する犯罪が増加しているひとつの理由は、加害者は許され、通常、彼らは処罰されないことにある。

 そして、国際的な認知が高まっているにもかかわらず、世界銀行(WB)とアジア開発銀行(ADB)は実際に、環境と人権侵害に責任があるプロジェクトへの投資に対する規制を緩和する方向動いている。

 それは、中国によって率いられるアジアインフラ投資銀行(AIIB))のようなライバル機関との競争が増加しているからであるとガルガネラは言う。

 ”我々は、もし彼らが規制をもっと緩めるなら、それは彼らにとって底辺への競争( a race to the bottom)(訳注4)であり、この暴力と人権侵害の循環がが増大し、拡大することを恐れる”と彼は言った。

 そして、犯罪の加害者そのもののような、この二つの巨大な開発銀行は、国連やその他の多国間国際組織のように、彼らは法的措置から免責されるので、法的効果を恐れることなく続けることができるのである。

 命をリスクにさらしていない我々だからこそ、活動家を守るために、我々の政府と金融機関にに圧力をかけることができる。


訳注1:グローバル・ウィットネス(Global Witness) 訳注2:機関投資家
  • 機関投資家/ウィキペディア
     ・・・顧客から拠出された資金を、有価証券(株式・債券)などで運用・管理する法人投資家。運用資産額が大きく、動かす金額も大きいため、金融市場に占める存在感は大きい。
訳注3:ベルタ・カセレスの殺害 訳注4:底辺への競争(Race to the bottom)
  • 底辺への競争 - Wikipedia
     ・・・国家が外国企業の誘致や産業育成のため、減税、労働基準・環境基準の緩和などを競うことで、労働環境や自然環境、社会福祉などが最低水準へと向かうこと。自由貿易やグローバリゼーションの問題点として指摘されている。・・・


化学物質問題市民研究会
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