The Guardian 2016年8月20日
企業のグリーンウォッシングの厄介な進展
ブルース・ワトソン

情報源:The Guardian, 20 August 2016
The troubling evolution of corporate greenwashing
by Bruce Watson
https://www.theguardian.com/sustainable-business/2016/aug/20/
greenwashing-environmentalism-lies-companies


訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会
掲載日:2016年9月1日
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http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/kaigai/kaigai_16/
160820_Guardian_corporate_greenwashing.html

 ”グリーンウォッシング(greenwashing)”とは、企業のとんでもない環境主張を言い表すために1980年代に造られた言葉である。30年後の現在、企業やり方はますます如才ないものになってきた。

 1980年代中頃、石油会社シェブロンは、公衆に企業の環境的誠意を主張するために、高価なテレビや印刷物による一連の広告を打った。”People Do” と銘打ったキャンペーンは、クマやチョウチョ、ウミガメ、そしてあらゆる種類のかわいい動物を保護しているシェブロンの従業員達を示した。

 その広告は非常に効果的で、1990年にシェブロンはエフィー広告賞(Effie advertising award)を受賞し、その後ハーバード・ビジネススクールにおける事例研究の対象となった。シェブロンはまた環境活動家の中で悪名高くなり、彼らはシェブロンをグリーンウォッシングの究極的基準(the gold standard)−疑問ある環境的履歴を覆い隠すために持続可能性という主張にそらす企業のやり方−であると宣告した。

 グリーンウォッシングという言葉は、1986年に環境活動家ジェイ・ウェスターベルドにより造られた言葉であり、ほとんどの消費者がニュースをテレビ、ラジオ、及び印刷メディアから得ていた時代、すなわち法人組織が定期的に高価でもっともらしいコマーシャルと印刷広告をあふれさせていた時代、にさかのぼる。公衆の限られた情報アクセスと無制限に見える広告により会社は、環境的に持続可能ではないやり方に関与しているのに、自分たちをあたかも環境保護者のように見せることが可能であった。

 しかしグリーンウォッシングは、もっと早い時期にまでさかのぼる。アメリカの電機事業の怪物であったウェスティングハウスの原子力発電部門はグリーンウォッシングの開拓者でもあった。安全性と環境への影響についての疑問を投げかけた1960年代の反原発運動に脅かされて、同社は原子力発電のクリーンさと安全性を宣言する一連の広告で逆襲した。きれいな湖のかたわらにたたずむ原発を配したひとつの広告は、”我々は皆さんにもっと多くの電力を提供するために原子力発電所を建設しています”と宣言し、さらに原発は、”無臭 、こぎれい、クリーン、安全”であると続けた。

 これらの主張のあるものは、真実であった。1969年にウェスティングハウスの原子力発電所は、競合する石炭火力発電所に比べて大気汚染がはるかに少ない安い電力を大量に生成していた。しかし、その広告がミシガンアイダホで起きたメルトダウンの後に出たことを考慮すれば、”安全”という言葉は議論の余地がある。ウェスティングハウスの広告はまた、現在も続いている問題である核廃棄物の環境的影響についての懸念を無視した。

タオルが盗まれたという神秘的な事件

 1983年、ジェイ・ウェスターベルドが初めてグリーンウォッシングという言葉のアイディアを得た時に、彼は原発については考えておらず、タオルについて考えていた。サモアに研究旅行中の大学生であった彼はサーフィンを楽しむためにフィージーに立ち寄った。ビーチコンバーアイランドリゾートで彼は、客は自分のタオルを持参するよう求める注意書きを見た。”それは基本的に、海やサンゴ礁は重要な資源であり、タオルの再使用は生態系へのダメージを減らすと述べていた”ことをウェスターベルドは思い出す。”注意書きはこんな風に結んでいた。’我々の環境を守るために協力してください’”。

 ウェスターベルドは、実際にはそのリゾートに泊まっておらず、近くの”汚れた”ゲストハウスに宿泊していた。そして何枚かのきれいなタオルを頂戴しようとこっそり忍び込んだだけであった。例えそうであっても、彼は注意書の皮肉に衝撃を受けた。それはビーチコンバー島の生態系は保護されるべきことを主張していたが、”南太平洋で最も人気のある”と彼ら自身が述べているように、今日のビーチコンバーは拡大していると彼は言う。”私は彼らがサンゴ礁について実際にはそれほど気にかけているとは思わない”と彼は言う。”そこは当時は拡大の真っ最中であり、多くのバンガローが建設中であった”。

 3年後の1986年、ウェスターベルドは多文化主義に関する学期末レポートを書いているときに、その注意書きを思い出した。”私は最終的に次のようなことを書いた。’それは全てグリーンウォッシュの中に現れている’。私のクラスの男友達が文芸雑誌のために働いており、それについての随筆を私に書かせた”。そしてその雑誌はニューヨーク市周辺で多くの読者を得ていたので、その言葉が広くメディによって取り上げられるのに時間はかからなかった。

 ウェスターベルドの随筆が発表されたのは、シェブロンが”People Do”キャンペーンを立ち上げてから1年後のことであった。批評家が後に指摘したように、シェブロンがそのキャンペーン中に推進した環境プログラムの多くは、法律によって義務付けられていた。それらはまた、シェブロンの広告予算のコストに比べると比較的安価であった。環境活動家ジョシュア・カーライナーは、シェブロンのチョウ類保護コストは年間の運用費5,000ドル(50万円)であるが、一方それを推進する広告費は、企画し放映するために数百万ドル(数億円)かかると見積もった。

 ”People Do”キャンペーンはまた、シェブロンの矛盾ある環境履歴を無視した。シェブロンは広告を打っている間に、大気浄化法、水質浄化法に違反し野生生物保護区に石油を漏えいした。しかし、グリーンウォッシングの汚水溜めまで深堀する会社はシェブロンだけではなかった。1989年、化学会社デュポンはその新たな二重殻石油タンカーをベートーベンの歓喜の歌に合わせてヒレと翼を動かす海洋動物を表現する広告で発表した。しかし、非営利環境団体である地球の友はその報告書 Hold the Applause の中で、デュポンはアメリカにおいて単一では最大の汚染会社であると指摘した。

 他の会社の主張は同様にとんでもないものであった。林業界の巨人ウェアーハウザーは、森林のある場所で木を切り倒し鮭の生息場所を脅かしているにもかかわらず、魚の保護に”真剣である”と主張する広告を打っていた。

状況を複雑にして見えにくくする

 1990年代の初めまでに、消費者らは持続性の懸念に気が付いていた。世論調査は会社の環境的履歴が消費者の購買の大部分に影響を与えていることを示した。この環境への関心は、グリーンウォッシングについての意識向上をもたらした。その10年間の終わりまでに、その言葉はオックスフォード英語辞典に含められて公式に英語の言葉となった。それ以来その傾向は増した。2015年のニールセン世論調査は世界の消費者の 66%が、環境的に持続可能な製品にもっと金を払う意思があることを示した。ミレニアルズ(訳注:1980年くらいから、2000年初めに生まれた人々)の間ではその数は 72%に飛躍した。

 ”人々は、地球の希少性と我々の行動が地球に及ぼす影響を知るようになった”と、持続可能な家の修繕小売り業者 TreeHouse の CEO ジェイソン・バラードは言う。同時に彼はグリーンウォッシングはますます複雑になっていることに言及する。”それは非常に肯定的な発展の暗い側面である”と彼は言う。

 ひとつの変化が見える。 多くの会社は、例え彼らの中核事業モデルが環境的に持続可能ではなくても、彼らのわずかな持続可能な取り組みに客を関与させるよう働いている。例えば Home DepotLowes の両社は、コンパクト蛍光灯やプラスチック袋を含んで、いくつかの製品の現地リサイクルを提供することにより、客がそれぞれの役目を果たすよう働きかけている。一方、彼らは、有害成分を含み有害ガスを放出する塗料のような環境にダメージを与える製品を年間数十億ドル(数千億円)販売し続けている。

 ”それは視点を本筋から脇にそらすことであり、客の注意を会社のひどい行為から他の何か良いことにそらすことを意図している”と、バラードはいう。

ボトル詰め飲料水のとんち問答

 もう一つの傾向は持続可能の主張を、例えば人の健康のような他の問題に関連付けることであると、ブランドをプロデュースする会社 Free Range Studio の CEO ジョナー・サクスは言う。”人の健康と環境的持続性はコインの表裏であるという認識がある”と、彼は言う。”時にはこれは真実であるが、多くの場合はそうではない。ボトル詰め飲料水が良い例である。健康という観点から言えば、それは炭酸飲料や他の飲料よりはるかに良いが、環境と持続可能性という観点からはそれはおかしい”。

 飲料水メーカーは、その製品を売るために、荒削りの山やきれいな湖のイメージに強く依存している。そして、多くの会社、特にネスレ(Nestle)、は、彼らのボトル詰め飲料水は、飲むだけでなく、地球にも良いということを公衆に説得しようとして、数百万ドル(数億円)を費やしている。過去数年間、この飲料業界の巨人は、Eco-Shape の容器はより効率的であること、プラスチック容器をリサイクルした資源は環境的に責任あるものであること、そして植物由来のプラスチックの使用は地球に対するダメージが少ないということを主張している。

 2008年に、ネスレ・ウォーターズ・カナダは、”ボトル詰め飲料水は世界で最も環境的に責任ある消費者製品である”と主張する広告を打った。いくつかのカナダの環境団体はすぐに同社に対して非難を表明した。5年後の2013年アースデイの最中に国際ボトル詰め飲料水協会(International Bottled Water Association)は、同産業界はボトルに少しのプラスチックしか使っておらず、リサイクルされたプラスチックに多くを依存しているので、ボトル詰め飲料水は”積極的な変化の顔”であると発表して、持続可能性の主張を強調した。

 持続可能性の約束はわきに置いても、プラスチックボトルの約31%だけがリサイクルされているということであり、そのことは”積極的な変化の顔”が毎年数百万トンのごみを生成し、その多くが最終的には埋立地や海に行き着くということを意味する。

 そしてボトルに入る水はしばしば同様に持続可能ではない。ネスレのアローヘッドウォータ(Arrowhead water)は、”母なる自然は我々の女神ミューズである”と主張し、責任ある水管理を確実にするために、”我々の13の泉源のひとつづつをそれぞれが監視する専門家チームを持っている”と自慢した。これは、これらの泉が5年間干ばつに苦しむカリフォルニア州にあることを思い出すまでは、頼もしく聞こえる。同社はまた、同じく干ばつに悩むアリゾナ州オレゴン州でも水をボトル詰めしている。

黄金の古強者

 古典的なグリーンウォッシャーのあるものはまた、新たなグリーンウォッシング指南書から学んでいる。2013年、失業についての心配とエネルギー持続可能性についての懸念がある中、ウェスティングハウスはその古い主張を新たなコマーシャルで一新した。”原子力エネルギーは世界で最大のクリーンな大気エネルギー源であることを知っていましたか?”と見る人に問いかけてから、その広告は原子力発電は”清浄な大気を提供し、雇用を創出し、同社が原発を操業する地域を支えるのに役立つ”と主張した。

 そのコマーシャルが言わなかったことは、2年前にウェスティングハウスは、その原子炉設計の欠陥を隠蔽し、規制当局に虚偽の情報を提出したことを米原子力規制委員会によって言及されたことである。そして、2016年2月に、ウェスティングハウスの原子炉を使用するもう一つの原発であるニューヨークのインディアン・ポイント(Indian Point)が、周囲の地下水中に放射性物質を漏えいしたことである。

 グリーンウォッシングは、最近の10年間に新たな装いをしたかもしれないが、それでも相変わらずうさんくさい。


訳注:グリーンウォッシング
ウイキペディア:グリーンウォッシング(greenwashing)
 グリーンウォッシング(greenwashing)は、環境配慮をしているように装いごまかすこと、上辺だけの欺まん的な環境訴求を表す。 安価な”漆喰・上辺を取り繕う"という意味の英語「ホワイトウォッシング」とグリーン(環境に配慮した)とを合わせた造語である。特に環境NGOが企業の環境対応を批判する際に使用することが多く、上辺だけで環境に取り組んでいる企業などをグリーンウォッシュ企業などと呼ぶ場合もある。



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