ケムセック(ChemSec)2016年2月24日
ハザードかリスクか? 化学物質を評価する場合にどちらが最良か? 情報源:ChemSec News, 24 Feb 2016 Hazard vs. Risk ? What is best practice when assessing chemicals? http://chemsec.org/news/news-2016/january-march/ 1538-hazard-vs-risk-what-is-best-practice-when-assessing-chemicals 訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会) 掲載日:2016年3月5日 このページへのリンク: http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/kaigai/kaigai_16/160224_Chemsec_Hazard_vs_Risk.html あなたは化学物質を評価するときにハザードに基づくか(ハザードベース)、リスクに基づくか(リスクベース)? それは多くの議論を引き起こす質問である。しかしこの二つの間には本当に矛盾があり、これらのアプローチのどちらかが”最も科学的”なのであろうか? 昔から人々は、ハザード特性に基づき有害な化学物質の使用を評価する方が良いのか、あるいは、実際にははどのような害をも及ぼすであろうリスクに基づく方が良いのか議論してきた。 しかしこの反目を解決しようとする前に、この二つのアプローチが化学物質管理という脈絡で実際には何を意味するのかについてよく見てみよう。ハザード(hazard)という用語は化学物質の固有の特性、害を及ぼす潜在的能力をさす。リスク(risk)はハザードと暴露の組み合わせである(リスク=ハザード×暴露)。リスクは、ハザードと暴露という構成要素のどちらか一方又は両方を変えることにより排除したいとあなたが望むものである。純粋に数学的には、もし片方がゼロになれば、リスクもまたゼロになる。 リスク評価はハザード特定をしてからおこなう 二つのアプローチは実際には連結され、リスク評価は二つの部分(ハザードと暴露)からなるので、一方又は他方がより”科学的”であるというのはよくある誤解である。 実際に何についての議論なのかと言えば、化学物質の規制と管理のためのベースとしてどちらの情報を我々は使用すべきかということであり、ここが意見の分かれるところである。ある物質のハザード特性の知識はその物質を制限するために十分であるのか? 又は我々は、暴露を管理することで制限することができるリスクがあるかどうか見るために、まず最初に暴露を評価すべきなのか? リスクに基づくアプローチのひとつの長所は、”問題となる物質”、すなわち問題を引き起こすことが証明されている物質及び害を引き起こす可能性が単純には証明されていない物質に我々が注力するのに役立つということである。それはまた、化学物質の中から選択しなければならないという状況の中で最良の選択肢を示すとともに、厳しい状況でリスクを低減することができるであろう措置を我々が特定するのに役に立つ。例えば、もし二つの代替物質がある時に、そのうちの一方は少量で望ましい結果を達成することができるが有害性は大きいという場合と、他方は有害性は小さいが大量に使用しなくてはならないという場合、どちらが最良であろうか? リスク評価は、この種の疑問に答えるのに非常に有用である。 規制におけるリスクとハザード EU の規制では、両方のアプローチが使用されている。REACH はハザードとリスクのそれぞれに基づく要素の混合からなる世界の先端を行く規制の例である。まず最初に化学物質はハザードの特定が行われ、純粋にそれらのハザード特性に基づき、ある化学物質は非常に高い懸念のある物質(SVHC)”として特定され、候補リストに掲載される(訳注1)。そのメッセージは、これらの有害化学物質は可能な限り回避されるべきということである。しかし、もしそれらを代替することがまだ可能ではない場合には、そして引き続き使用することの便益がリスクを上回るなら、特定用途での継続的使用のための認可が与えられることができる。 ケムセックの SIN リスト(訳注2)は、全面的に REACH と候補リストの基準に基づいており、したがってもちろんハザードに基づいている(ハザード・ベース)。 しかし、ハザードに基づくアプローチを用いることの優位性は、リスクに基づくものに比べて何か? ハザードに基づくアプローチの主要な優位点は、それが失敗の余地がないフールプルーフであるということである。化学物質を禁止することは、リスクをもはや及ぼさないことを100%確実にする唯一の方法である。ハザード評価は複雑であるが、暴露評価にはもっと高いレベルの複雑性が加わる。化学物質のライフサイクルを通じて、すなわち製造に関わる作業者の暴露、製品使用期間中の使用者の暴露、そして廃棄物及びリサイクルを通じての幅広い可能性ある暴露を正確に見積もることは極めて困難な仕事である。多くの場合、暴露評価を加えることは単純に不確実性を加えることになる。正確なリスク評価はまた、非常に高価になり、時間もかかる。この現代の科学時代であっても、化学物質が長いバリューチェーン(訳注3)の中のどこで使用されるかを決定することは極めて難しい。世界的な規模となった産業にハザード特性と安全指示を徹底的に伝えることは容易ではない。 暴露を制限するるために多くの可能性ある措置がある。しかし、それらの多くは”人的要素”に依存する。ラベル表示はひとつの例である。あなたは、”屋外使用”と表示されたケーブルを屋内で使用することに正直なところ躊躇するであろうか? そのラベル表示の理由が有害化学物質に暴露しないようにすることであったと想像するであろうか? あなたは幼児に”おもちゃ”と表示されたもので遊ばせるだけであろうか? ラベルで注意を喚起されている時には常に保護手袋と安全メガネを着用するであろうか? 常にごみを正しく分別して出しているであろうか? あなたは溶剤を下水には決して流さないであろうか? 会社内での化学物質管理 会社として、あなたはもちろん規制を順守しているに違いない。しかし、もしあなたがもっと保護的になり、一歩先を行きたいと望むなら、 あなたは化学物質管理にハザードに基づくアプローチをとるのか、あるいはリスクに基づくアプローチをとるのか? 我々は会社に対してREACH と同じ論理を用いるよう勧める。すなわち、SIN リストにある物質ような規制的ハザード基準に合致する化学物質は代替することである。そのことが非常に難しい場合には、あなたの製品を通じてどのくらいの人々と環境が当該化学物質に暴露するのかを特定し、あなたの研究開発部門がより安全な代替物質又は代替プロセスを見つけるまでの間、可能な限りこの暴露を低減するよう試みることである。代替は、最初は難しく見えるかも知れないが、最終的にはあなたの顧客と社会に対して、環境的汚染と有害健康影響を低減するより良い製品を提供することになる。さらに、有害化学物質の代替に取り組まない会社は、金融資産の評価とブランドをリスクにさらすことになる。一度落ちた評判−それは今日のようにニュースの伝達がかつてなく早い社会的メディアの時代においては簡単にそのような状況になる−を取り戻すためには、いかにコストがかかり、大変であるかということを我々は再三再四、見てきている。 もし、あなたが代替の追加的便益をもっと知りたいなら、我々の報告書 『The Bigger Picture 』 をご覧いただきたい。 The Bigger Picture: Assessing economic aspects of chemicals substitution (より大きな展望:化学物質の代替の経済的側面を評価する) ・・・代替はプロセス中又は製品中の化学物質の置き換え又は除去を意味する。多くの場合、有害かもしれない化学物質がある機能を達成するために製品に添加される。代替の目的は、その化学物質なしに同じ機能を達成することであり、それは多くの異なる方法で行うことができる。最も直接的な代替は、ひとつの物質を有害性がより低い他の物質に置き換えることであるが、それはしばしば複雑な作業である。有害化学物質の置き換えは材料を変えること、プロセスを変更すること、又は新たな技術を利用することにより達成できるであろう。代替は革新のための真の推進力であり、追加的な便益をもたらすことができる。・・・ 訳注1 認可対象候補の SVHC(高懸念物質)リスト/化学物質国際対応ネットワーク ECHA(欧州化学物質庁)が公表している SVHC 全物質(168 物質)リスト(2015年12月17日時点) 訳注2 Chem Sec SIN-List ケムセック(ChemSec)REACH SIN List/当研究会による紹介 訳注3 バリュー・チェーン/ウィキペディア |