ES&T 2006年8月2日
鉛のホイール・バランス・ウェイト
脱落してヒトと環境の健康を脅かす

アメリカ地質調査所(USGS)の報告

情報源:Environmental Science & Technology: Science News - August 2, 2006
Tires and lead: A weighty issue
http://pubs.acs.org/subscribe/journals/esthag-w/2006/aug/science/kc_tires.html

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2006年8月9日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/kaigai/kaigai_06/06_08/060802_est_tires_lead.html

 車のホイール・バランス・ウェイトの材質として鉛が使用されたてきたが、新たな研究がいかにしばしばバランスウェイトがホイールから脱落し、ヒトと環境の健康を脅かしているかを示している。

 タイヤは、道路の縁にぶつかったり、急ブレーキをかけたり急に向きを変えたりした時に衝撃を受ける。この時に、ホイールに固定されていたいくつかのホイール・バランス・ウェイト(ホイール当たり平均30グラム)が外れて道路に投げ出されるかもしれない。アメリカ地質調査所(USGS)が5月に発表した見積りによれば、2003年だけでも2,000トンの鉛がこのようにして車から脱落した。

写真:Ecology Center
米地質調査所(USGS)は、自動車のホイール・ウェイトに使用されている鉛が2003年だけで2,000トン環境中に放出されたと見積っている。
 USGS の調査は、鉛のホイール・ウェイトがその製造から使用、回収、そして廃棄までの流れを追跡している。この調査は、2003年にアメリカではホイール・ウェイトの製造に28,000トンの鉛が使用され、65,000トンがアメリカの道路を行き交う2億3,200万台の登録された車、軽トラック、及び商用車に取り付けられていることを示している。しかし、脱落の多くは発車−停車が頻繁に行われる都市におそらく集中している−と USGS の鉱物材料専門家でこの報告書の著者であるドナルド・ブレイワズは言及している。さらに、鉛のホイール・ウェイトは70年近く使用されており、このようにして環境中に蓄積した鉛の量は膨大なはずである。

 それが及ぼす環境問題の大きさは、ホイール・ウェイトが脱落した後に何が起きているかによる。それらは往来する車によって砕かれるのか? 削り取られて空気中に浮遊するのか? 大雨がそれらを道路から押し流すのか? それらは近くの土壌中に吸い込まれるのか? あるいは都市の池や地下水に流れ込むのか? それらは道路清掃人らよって拾われるのか? 趣味人が拾って鋳型に流して他のものに姿を変えるのか? 釣り人によって錘として使われるのか?

 ”私はその疑問に答えることはでいない”−とブレイワズは告白するが、しかしホイール・ウェトは、”都市環境中の土壌中に含まれる残留鉛の存在に寄与している可能性がある”と述べている。歴史的にはアメリカの土壌中の鉛の主な発生源は加鉛ガソリンによるものであり、1973年初頭に廃止されて以来著しく減少した。

  USGS の研究は、”それが、鉛の量と潜在的な問題の範囲を把握するための初の公式な試みである”という点で重要である−と環境団体であるエコロジーセンターのキャンペーン・ディレクター、ジェフ・ギアハートは述べている。彼の団体は車に使用されている有害物質に目を向けるプロジェクトを支援している。”ホイール・ウェイトは、鉛−酸バッテリーに次いで車における最大の鉛の用途であり、他のどのような用途よりも多く環境中へ鉛を放出し続けている用途である”−とギアハートは指摘している。(訳注1

 欧州連合(EU)は新車及びタイヤ・ホイール交換時の鉛使用は昨年から禁止しているが、それは走行中の脱落とタイヤ小売業者や回収業者による不適切な廃棄についての環境的な懸念のためである(訳注2)。アメリカでは現在、鉛ホイール・ウェイトの使用に関する連邦政府の規制はないが、アメリカのほとんどの会社を含む車メーカーは他の代替物質に徐々に移行し始めているとギアハートは言及している。亜鉛と鉄が最も一般的な代替物質である。(訳注3

 しかし、ホイール・ウェイトの大部分(80%)はタイヤ交換時に一緒に出される−とギアハートは述べている。皮肉なことに、鉛を使用しないウェイト付きの新車を買っても、タイヤを取り替える時には再び鉛のウェイトがついてくる。

 米EPAはタイヤ小売業者に、自主的取組により鉛を使用しないウェイトを使うよう促しているが、エコロジーセンターが昨年、鉛ウェイトの使用を禁止するよう要請した請願書をEPAはもっと多くの調査が必要であるとして拒絶した。それにもかかわらず、環境を懸念して鉛ウェイトを使用しない方向に向かう州、市、及びタクシー会社の数は増大している。2004年、ミネソタ州は、同州の公用車の鉛ウェイトを鉛を使用しないものに代替し始めた最初の州となった。

 ”我々のこのアプローチは汚染防止のためである”−とミネソタ汚染管理局の主席企画官ジョーン・ギルクソンは述べている。”我々は鉛の害を知っている。我々はウェイトがホイールから脱落することを知っている。もし代替物があるなら、それを使用しよう。”

クリス・クリステイン(KRIS CHRISTEN

訳注1:
■ELV指令/日経エレクトロニクス用語
http://techon.nikkeibp.co.jp/article/WORD/20060315/114917/

訳注2:
■EUでは廃自動車指令(ELV指令) 2000/53/EC によって乗用車に使用される鉛ウェイトは禁止され、ほとんどのウェイトメーカーは亜鉛合金のウェイトに移行した。
Directive 2000/53/EC of the European Parliament and of the Council of 18 September 2000 on end-of life vehicles  (全文/英語版)
http://europa.eu.int/smartapi/cgi/sga_doc?smartapi!celexplus!prod!DocNumber&lg=en&type_doc=Directive&an_doc=2000&nu_doc=53

訳注3:
■日本ではウエイトの原材料として鉛を禁止する法律はない。バッテリーなどはマニュフェスト導入による回収の仕組みがあるが、ウエイトはまったく野放し状態である。(亜鉛製バランスウエイト・メーカー株式会社アムテックス )http://www.amtecs.co.jp/Zn.html



化学物質問題市民研究会
トップページに戻る