Beyond Pesticides 2006年6月23日
モスボールやエアーフレッシュナー中の農薬成分に発がん性
コロンビア大学科学者が発見

情報源:Beyond Pesticides / Daily News, June 23, 2006
University of Colorado Scientists Find That Pesticides in Mothballs Are Carcinogenic
http://www.beyondpesticides.org/news/daily.htm

抄訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/index.html
掲載日:2006年6月25日
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http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/kaigai/kaigai_06/06_06/060623_bp_Mothballs.html



 コロンビア大学(ボールダー)が先陣を切った新たな研究が、モスボール(防虫剤)やエアーフレッシュナーのような家庭用製品に含まれている化学成分が正常のプロセスである生体組織中での”細胞の自殺(訳注:アポトーシス)”を妨げることにより、がんを引き起こすことができる−ということを発見したと Science Daily が伝えている。アポトーシスは、がんの様な腫瘍の形成の引き金となるプロセスに似た細胞の激増を防ぐための”ブレーキ”として働く、ある細胞グループの正常な機能である。

 モスボール中に見られるナフタレンや、あるエアーフレッシュナー中に見られるパラジクロロベンゼン(PDCB)(訳注:パラジクロロベンゼン)は、プログラム化された細胞死(アポトーシス)を起こす酵素を阻害することが示されたとコロンビア大学分子細胞発達生物学部準教授ディン・キュー博士は述べた。

 ナフタレンと PDCB は、げっ歯類でがんを引き起こすことが示されており、米国国家毒性計画(NTP)及び国際がん研究機関 (IARAC)によって潜在的なヒト発がん性物質として分類されているが、その生物化学は十分には分っていないとキュー博士は述べた。しかし、C.エレガンスという名前で知られているまつ毛ほどの虫を使って、同研究チームはナフタレンが、細胞を酸化することで細胞自殺を制御する caspases として知られる酵素のグループを不活性にすることができることを示した。

 この研究はジャーナル『 Nature Chemical Biology 』6月号に掲載されている。キュー博士とともに、この研究はコロンビア大学の分子細胞発達生物学部のデービッド・コケル及び、ヒューストンのベイラー医科大学のイェフア・リ及びジュン・キン博士らによって著された。

 ”この研究は、なぜモスボールや、あるエアーフレッシュナー製品が人に有害であるかを示している。そして我々は初めて、人に影響を与えるかもしれない事実上どのような潜在的発がん性物質をも検査する動物モデルとして線虫を用いた体系的な方法を開発した”−とキュー博士は述べた。

 この研究で、線虫及びヒトの caspase 酵素は、ナフタレンに暴露させると線虫とヒトの”薬理学的同等性”を示しつつ、阻害されたとキュー博士は述べた。

 発がん性化合物がどのように腫瘍の成長を引き起こすきっかけとなるかを理解することは、有害化学物質へのヒト暴露を取り扱う連邦政府規制機関にとって重要であるとキュー博士は述べた。この研究によれば、年間100万トン(約450トン)のナフタレンと PDCB が使用されている。

 線虫は、この虫には無害であるがナフタレンと PDCB 類を溶解することができる大豆油でコートした培養体で生育したとキュー博士は述べた。これらの化学物質がこの培養体に加えられると、 caspase 酵素は不活性となり、通常はアポトーシスによって排除される小さな線虫の”余分な”細胞が生き残る結果となったとキュー博士は述べた。
 アポトーシスは動物の発達における重要なプロセスであり多くの組織中で起こるとキュー博士は述べた。両生類では、オタマジャクシがカエルになるときにアポトーシスは尻尾を取り除き、ヒトでは、胎児の発達期に手指と足指の間の”ひも webbing”組織を構成する細胞を取り除く−と彼は述べた。

 ”アポトーシスは、体内で正当な数の細胞が生成されることを確実にするためのチェック機構として機能する”−とキュー博士は述べた。アルツハイマー病とパーキンソン病はアポトーシス過多で起こり、がんと免疫障害はアポトーシス過少で起こる−と彼は述べた。


訳注(参考資料)
詳細リスク評価書 p -ジクロロベンゼン −小野 恭子(産業技術総合研究所)



化学物質問題市民研究会
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