Beyond Pesticides 2006年4月17日
著名な科学者が現在の農薬規制は不十分と警告 農薬の神経発達系への有害影響から 公衆を適切に守ることはできない−テオ・コルボーン 情報源:Beyond Pesticides / Daily News, April 17, 2006 Renowned Scientist Warns Pesticide Regulation Is Inadequate http://www.beyondpesticides.org/news/daily.htm 抄訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会) http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/index.html 掲載日:2006年4月18日 このページへのリンク: http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/kaigai/kaigai_06/06_04/060417_bp_Colborn.html Endocrine Disruption Exchange, Inc.のディレクターであり、『奪われし未来』の共著者であるテオ・コルボーン博士は、環境健康展望(EHP)2006年1月号で、現在の農薬規制システムでは農薬の神経発達系への有害影響から公衆を適切に守ることはできないと警告している。 下記は、テオ・コルボーン博士による『農薬の安全性を再考するための状況:神経発達系を精査する』(環境健康展望2006年1月号(Environmental Health Perspectives Volume 114, Number 1, January 2006))からの抜粋である(全文)。コルボーン博士は、”第25回全国農薬フォーラム祭”に招待され講演を行う予定である。 この記事の中で発表されているヒトの研究における農薬の神経発達系への影響について非常に多くの不確実性がある。市場には数百の農薬活性成分があり、同じような影響を与える産業化学物質の背景暴露によって紛らわしくなるので、農薬暴露は非常に複雑になる。さらに、機能的な変化は連続的に表れるので、ダメージを報告することは難しくなり、異なる間隔又は異なる発達段階で、しばしばひとつ以上の病変として表れる。 情報は入手できるのにEPAはそのリスク評価において公開の文献を使用せず、一般的に製造者によって提出されたデータだけを使用してきた。産業界は機能的評価項目について今日知られていることに照らして、全て普通の評価項目であるがん、生殖影響、突然変異、神経毒性などをテストする従来の毒物学的プロトコールを使用し続けている。EPAは化学物質の毒性を決定するためにガイドラインにはない、公開された文献を受け入れるべきである。例えば、ブルッカー・デービスが発表した公開文献の包括的なレビューの中には、彼女が見つけた甲状腺系に害を与える63種の農薬がある。それなのに、EPAは甲状腺系への障害に基づき農薬に対して措置をとったことはない。 一連のクロルピリホス研究で発見された有害なメカニズムの驚くべき状態は、クロルピリホスとその他の有機リン系農薬(OPs)の安全性だけでなく、今日使用されている全ての農薬の安全性について深刻な疑問を提起する。最も驚くべきことは、クロルピリホスの毒性の大部分はコリンエステラーゼ活性阻害(訳注:動物の副交感神経や運動神経の末端で不活性化することで死に至らしめる(用語解説:EICネット))の結果ではなく、新たに発見された脳と中枢神経の多くの部位の発達と機能を変更させるメカニズムの結果であるという事実である。これらの発見は、クロルピリホスのような有機リン系農薬(OPs)は、コリンエステラーゼ活性阻害の結果として急性毒性の非常に高いEC50(訳注:ミジンコ遊泳阻害試験でミジンコの50%が遊泳(影響を受ける)しなくなる化学物質の濃度(用語解説:EICネット))を持つかもしれないが、それはコリンエステラーゼ活性阻害よりもはるかにひどいその他の有毒性を持つかもしれない。 この10年間にクロルピリホスと 2,4-D の研究から得られた知識は、クロルピリホスと 2,4-D の危険な特性を示しただけでなく、農薬又はその他のどのような人工化学物質の安全性を決定するための現在の標準慣行における弱点を実証した。EPAの発達神経毒研究の分析ですら、EPAの現状の発達神経毒テスト・プロトコールは、”子孫に対する毒性についての感度の高い指標ではない”−と述べ、EPAは”文献データを使用するかどうかさらに検討すること”−と促している。クロルピリホスと 2,4-D の場合には、これらのデータをレビューした人々はその重要性を理解できないか、あるいは、それを無視する何か他の理由を持っている様に見える。EPAは、これらの研究が、登録に使用することができるかどうかを決定するために適用可能かどうかレビューする独立専門家委員会を招集する必要ある。 ほとんどの動物テスト研究で、農薬は、経口又は皮下に高用量で投与され、多くの場合、ほとんどの人間や野生生物が、長期間、低容量で皮膚や呼吸を通じて暴露するということを反映していない。EPAは現在、慢性毒性研究を要求しているが、それは影響を引き出すために高用量での使用に限定され、慢性又は自然環境中での暴露、又は低用量での影響を検出することの困難さを克服していない。さらに、農薬暴露のヒト薬物動態学は、個々の変動に依存する健康影響を強化する又は低減することができるかもしれない。 将来は、最も効率的で包括的な分析が、ほとんどの化学物質がひとつの系でひとつ以上の影響を及ぼすという事実を利用するであろう。全ての有機組織が注意深く検証されるようこれらの分析を設計するために、分野横断的なチームが必要であろう。そして、最も重要なことは、このことがテストに必要な動物の数を大幅に削減するであろうということである。しかし、実験動物を使用しての改善された神経発達テストも、子どもの機能障害を検出するためのより良い一連のテストによって裏付けられないなら、最大の能力を発揮したことにならない。 人の健康を守るために、科学的研究に伴う不確実性が予防的措置をとることの障害とならないようにしつつ、農薬の神経発達影響についてのこの広範で新しい知識を考慮するという新たな規制へのアプローチが必要である。 |