EHP 2006年2月号 Science Selections
子どものからだの中の有機リン系農薬 通常野菜と有機野菜の比較 情報源:Environmental Health Perspectives Volume 114, Number 2, February 2006 OP Pesticides in Children's Bodies : The Effects of a Conventional versus Organic Diet http://ehp.niehs.nih.gov/docs/2006/114-2/ss.html 訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会) http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/ 掲載日:2006年2月4日 通常の農業は、野菜、果物、小麦、及びその他の農作物につく害虫を駆除するための農薬を使用しているので、これらの農作物からの食品に残留農薬が含まれていても驚くには当たらない。しかし、問題は、体内汚染という観点から、それらの曝露量がどの位かということである。リスク評価するデータが欠如しており、食事に起因する子どもの体内農薬濃度に関するデータもほとんどない。 このたび、シアトル及びアトランタの研究者らが、通常に栽培した農作物製品の摂取と子どもの体内に入り込んだ残留有機リン系農薬の量との関係を特性化した[EHP 114: 260-263]。 1993年国家調査委員会(National Research Council)報告書『乳児と子どもの食事に含まれる農薬』によれば、食事は、子どもの農薬への曝露の多くを占める。この曝露は大人に比べて子どもにより大きな健康リスクを及ぼすが、それは、子どもは大人に比べて体重当りより多くの食物を摂取し、その結果より高い曝露を受けるというだけでなく、子どもはまだ発達中なので有毒物質への影響に対し大人より脆弱であるからである。 研究者らは15日間の調査計画を立て、いままで、通常の農作物を食ベていた3歳から11歳までの子ども23人の食事を15日の間に有機農作物に切り替え、その後再び通常の食事に戻した。最初の3日間、子ども達はいつもの食事をとった。次の5日間は、通常の植物ベースの食品(生野菜、ジュース、加工した果実と野菜、及び穀物製品を含む)と同等の有機食品に切り替えた。その後の7日間は、いつもの食事に戻った。15日間を通じて毎日、両親が子どもが朝起きた時と夜寝る時に尿サンプルを採取した。 尿サンプルは、いくつかの有機リン系農薬の代謝物について分析された。最も広く検出された代謝物は MDA (マラチオンの代謝物)と TCPY (クロルピリホスの代謝物)であった。前及び後の通常食品の摂取時には、サンプルの60%が MDA を含んでおり、サンプルの78%が TCPY を含んでいた。子ども達が有機食品に切り替えた時に、尿サンプル中の MDA は23%に、TCPY は50%に低下した。 MDAとTCPYの平均濃度もまた通常食品の摂取時に比べて有機食品摂取時は明らかに低かった。前及び後の通常食品摂取時の平均尿中 MDA 濃度はそれぞれ2.9 及び 4.4μg/L であり、それらに比べて有機食品摂取時は 0.3μg/Lであった。平均 TCPY 濃度は、はじめの通常食品摂取時から有機食品時では 7.2 から 1.7μg/Lに減少し、再び通常食品に戻った時には5.8μg/L に上昇した。 代謝物の濃度はサンプルによって大きく変動した。最近の調査は MDA 及び TCPY の留分は親の化合物(訳注:マラチオン及びクロルピリホス)が食品中や環境中で分解して生じるということを示唆している。したがって、子ども達の曝露のある割合は食品中での代謝物そのものであったかもしれない。 今回の研究は、食品中の残留有機リン系農薬が吸収された用量といかに符号するかの洞察を提供しており、研究者らは有機食品の摂取は子ども達を曝露から守ると結論付けた。しかしこの結論を一般の人々にそのまま適用することには注意を促した。もし異なる背景を持ち異なる地域に住む人々が異なったそしてもっと著しい有機リン系農薬の曝露を受けているなら、有機食品への切り替えがこれらの農薬への全ての曝露をなくすと仮定することは誤りである。この研究は、食物摂取は有機リン系農薬曝露の主要な源であるが、しかし、ある子ども達は、家庭で使用される農薬からもっと多くの曝露を受けているかも知れず、さらなる研究が必要であるとする国家調査委員会の結論を支持している。 ジュリア R. バーレット(Julia R. Barrett) |