EPA 化学物質の曝露人体実験を規制せず

情報源:Environment NEWS SERVICE, February 8, 2005
EPA Avoids Regulation of Chemical Experiments on Humans
http://www.ens-newswire.com/ens/feb2005/2005-02-08-04.asp

抄訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/index.html
掲載日:2005年2月9日


 ENS(2005年2月8日)によれば、農薬やその他の化学物質を意図的に人間に曝露させる実験が、ケースバイケースではあるが、アメリカ環境保護庁(EPA)によって承認されるであろうとアメリカ政府官報での告示でEPAは述べた。
 EPAは、2月2日付け、農薬有毒物質予防局次官スーザン・ヘイゼン署名の告示の中で”人間を対象とした実験のケースバイケースでの考慮”に関するパブリック・コメントを求めている。
 EPAが提案した指針は、被験者、EPA、又は公衆全てに対し自主的なもので、法的な拘束力はない。この告示は、アメリカ厚生省が管轄する全ての医薬品テストの対象から幼児、胎児、妊婦、及び囚人を法的に保護することの採用を延期するものであり、将来のいつか、"適用規則を提案する意図がある"とEPAは表明した。

 告示の中で、EPAはその全体の目標は、EPAが関与する研究で人間を実験対象とするものは倫理的に扱われ、EPAの政策決定に関連する全ての科学的データは、EPAの下で適切に考慮され使用されることであると述べた。

 しかし、"環境に責任を持つ公務員(PEER)"を率いる弁護士ジェフ・ルッチは、EPAのやり方は倫理性と安全性を欠くとして、"EPAの姿勢は驚くほどに非道徳的である。化学会社がより高い曝露規制値を正当化しようとして求める要求に対し、EPAは、幼児、妊婦、そしてその他の脆弱な人々に市販の有毒物質を人体実験として投与すること是認している"−と述べた。

 農薬による毒性の人体実験についての公開論争及びいくつかの司法への提訴があり、それらの結果のひとつは2003年の裁定でEPAに差し戻された。そこで、EPAは人体実験による研究の評価に用いるためにケースバイケースの手法の概要を官報で示した。

 EPAによって実施または支援される人体実験は、共通規則として知られる1979年のベルモント報告の原則に基づくとEPAは述べている。 これらの原則は、実験手法、目的、リスク、期待される便益を事前に説明して同意を得るとともに、被験者が質問し、実験中に参加を撤回できることを明記している。

 しかし、連邦政府の資金援助を受けていない団体による第三者の研究には、この共通原則が適用されない。EPAは、その研究が"基本的に非倫理的である"、すなわち、"その研究が実験への参加者に重大な損傷を与えることを意図している、あるいは、事前同意を得ていない・・・"ということを示す"明白な証拠"がない限り、科学的に有効な第三者の研究を容認するであろうと述べている。

 EPAは、企業が、事前同意、適切な証言、倫理規範の遵守を立証することは求めない。EPAは、人体実験を伴う研究を計画している企業の研究者たちが、研究に着手する前にEPAに手順書を提出することを推奨はするが、要求するつもりはないと述べている。

 EPAのケースバイケース手法は、科学者及び化学会社に広い裁量範囲を与える。"世間への公開は要求されないので、外部からは倫理的に疑義がある企業の実験についてうかがい知ることはできない"とPEERのルッチは述べ、"化学会社が倫理の枠組から外に出る"ことを許すことで、多くの企業の研究が発展途上国で行われることになるであろうと警告した。

 昨年11月、EPAは、家庭における子どもたちの農薬曝露を測定するという"子どもの健康環境曝露リスク研究(CHEERS) "に関し、この研究の倫理規範の遵守に疑問を提起した報告書が出たことで生じた世間の懸念のほとぼりが冷めるのを待つために、EPAはこの研究を延期した。EPAは60家族に対し、2年間の研究に参加する報酬として、各家族に1,000ドル(約10万円)を支給する予定であった。

 エンバイロンメンタル・ワーキング・グループやPEERなどからの批判は、そのような人体実験でのデータを集めることは、研究への参加者に有毒物質を曝露させることを奨励し、農薬やその他の化学物質に関する規制を緩和させようとする産業側の圧力を許すことになる−というものである。EPAはこの研究を審査するための委員会を設置しようとしているがエンバイロンメンタル・ワーキング・グループは委員会の構成は"公正でバランスの取れたもの"とするよう要求している。

 エンバイロンメンタル・ワーキング・グループらの組織は、幼児や小さな子どもたちに農薬を高濃度曝露させ、何が起きるか調べるような研究を傍観し観察することを提案するような基本的に非倫理的な"子どもの健康環境曝露リスク研究(CHEERS)のあり方"に反対している。

 拘束力のない公開指針としての官報告示は、人体実験を正当化するための基本原則のお膳立てをしようとするEPAの試みである。 精度の高い曝露限界を極めるために、動物実験よりも信頼性のあるデータが得られる人体実験を支持する農薬製造者らは、この規則を長年の間、待ちわびている。


化学物質問題市民研究会
トップページに戻る