食物がダイオキシンへの暴露源 ベトナム ビエンホア市
−枯葉剤の後遺症− 情報源:Our Stolen Future New Science 2003-0805 http://www.ourstolenfuture.org/NewScience/oncompounds/dioxin/2003/2003-0805schecteretal.htm Schecter, A, HT Quynh, M Pavuk, O Papke, R Malisch and JD Constable. 2003. Food as a source of dioxin exposure in the residents of Bien Hoa City, Vietnam. Journal of Occupational and Environmental Medicine 45:781-788 訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会) 掲載日:2003年8月16日 ベトナムに枯葉剤エージェント・オレンジが散布されてから30年後、科学者調査団は、ベトナム人が今日食べている食物の中のあるものは高濃度のダイオキシン類で汚染されていると報告した。この報告結果は、最初の暴露から数十年を経た後も、なぜ高濃度のダイオキシン類がベトナム人の体内から検出され続けるのかということに対する理解の助けになる。 調査団はまた、今日のベトナムの子どもたちは散布により直接暴露したわけではないのに、彼らが食べる食物中のダイオキシンにより健康への悪影響の危険に曝されていると警告している。 全ての食物に問題があるというわけではないが、アヒルは例外的に高濃度であり、ニワトリや魚類も健康への脅威のしきい値をはるかに超えていた。ただし、牛や豚は比較的汚染が少なかった。汚染された家畜の肉では脂肪部が最も高濃度であったが、これはダイオキシンの化学的特性から予想されたことであった。しかしベトナムでは脂肪部が好まれるので、健康への影響が心配される。 調査団は何をしたか? シェクターらは、高濃度のダイオキシン汚染地域として知られるビエンホア市の市場で様々なタイプの食物のサンプルを入手してドライアイスを詰めて、最新の化学分析を行なうためにドイツに空輸した。分析した16サンプルは、放し飼い及び養鶏場のニワトリ、放し飼いのアヒル、豚、牛、そして魚と食用カエルであった。測定された成分は、 TCDD、ジベンゾフラン、PCB 類を含む一連のダイオキシン類と、 DDT や HCB を含む有機リン系農薬であった。ドイツの試験場で高濃度ダイオキシンが検出されたので、確認のため、3種のサンプルが同じくドイツにある独立の試験場で分析された。 何がわかったか?
いくつかのサンプルがきわだって高い TEQ 値を示しているが、特に 2 つのサンプル、放し飼いのアヒルが著しい。高濃度のものとしては、放し飼いのニワトリ 2 サンプル、食用カエル及び魚の各 1 サンプルである。養鶏場のニワトリは少し低く、牛と豚は比較的低く、魚 4 サンプルとともにヨーロッパ基準に合致している(基準値以下)。 シェクターらはダイオキシンの中で最も毒性の強い TCDD が TEQ 毒性全体の大部分を占めていることに注目している。これは棒グラフ中に示されている (白:TCDD、紫:非 TCDD、赤:PCB 類) アメリカの典型的な食物中の TEQ レベルと比較してみると、下表 TABLE 5-1 に示す通り、アメリカの食物は 1 TEQ ppt より十分低い(出典:アメリカ科学アカデミー Dioxins and dioxin-like compounds in the food supply, 2003, p97)。 明らかに、ベトナムの食物中の濃度はアメリカの食物に比べると、事実上 ”表からはみ出す” ほどの高濃度である。アヒル、食用カエル、ニワトリや魚の一部はイギリス及びヨーロッパ基準 (肉:1-3ppt、魚:4ppt、油脂:0.75-3ppt) 比べても著しく高い。 何を意味するか? これらの結果は、ビエンホア市の住民が枯葉剤オレンジ・エージェントの散布後 30 年経た今日でも高濃度のダイオキシンを体内に持っている理由を明確に説明している。高濃度のダイオキシン類が環境中に広く残留しており、ベトナム人にとって重要な食物の内のあるものの中に非常に高濃度に蓄積している。 シェクターらは、一つの地域から採集した食物中の TEQ レベルが、牛の 0.11ppt TEQ から放し飼いのアヒルの 343 ppt TEQ まで広い範囲の数値になっていることについて論評している。これらのデータは人間の暴露を減らすための食物摂取ガイドラインを開発することができると示唆している。そのようなガイドラインを信頼のおけるものにするためには、異なる食物からの多くのデータが必要であるが、すでに放し飼いのアヒルとニワトリは避けるべきであることが現状のデータからわかっている。5 種類中、 4 種類の魚類は比較的汚染されていなかった。高濃度の 1 種類は、汚染の激しい湖の湖底の泥中に棲んでいた魚である。今後の調査により、どの魚類が比較的安全に食することができるかが明らかになるであろう。 地域の食物の TEQ レベルに広い範囲のばらつきがあるので、枯葉剤散布の地理的パターンに基づく比較的粗い暴露推定をダイキシンの疫学的リスク評価のベースとして使う作業が複雑なものになる。食物の多様性もまたこのような調査を難しくしている。特に、地域の中での人々の食事内容が異なるので、人々のダイオキシン摂取量にも大きな相違が出てくる。
(訳: 安間 武 /化学物質問題市民研究会) |