電子廃棄物の爆発的増加(その6/最終回)
法的側面

情報源:Environmental Health Perspectives
Volume 110, Number 4, April 2002
e-Junk Explosion / The Legal Environment
Charles W. Schmidt
https://ehp.niehs.nih.gov/doi/epdf/10.1289/ehp.110-a188
訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
https://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2002年10月20日
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https://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/kaigai/kaigai_02/02_10/e-junk-6.html



 発展途上国におけるコンピュータ廃棄物の取り扱いに関しては、中国のグイユの状態は氷山の一角であり、どこでも全て同じような状態であるとバーゼル・アクション・ネットワーク(BAN)のジム・パケットは述べている。確実な数字ではないが、BANによれば、”リサイクル”とリストされたアメリカの電子機器の80%は実際には輸出されており、その行き先は主にアジアである。
 使用済み電子機器を出した会社はスタッフをリサイクル業者に監査のために派遣し、スタッフは皆、暖かく迎えられ、上機嫌で帰ってくる。しかし小さな会社の多くはリサイクル業者を監査せず、従って、いったん電子機器が自分達の手を離れると、その先どうなったのかわからなくなる。

 アメリカの会社は資源保護回収条例(RCRA)により古いパソコンを廃棄することは禁じられているが、”リサイクル業者”がそれらを回収することはなんら法に抵触しない。すなわち、会社が古いパソコンをリサイクル業者であると名乗る組織に渡せば、それで会社の責任はなくなるということである。時には古いパソコンを出した会社はリサイクル業者から”リサイクル証書”を受け取ることもあるが、そのような証書は法的には何の役にもたたない。
 EPAのワシントンD.C.事務所上席科学者、固体廃棄物担当のロバート・トネッティは、リサイクル業者としての免許制度がないことが現実とのギャップを生じる原因となっているということを認めた。「しかし私はそれを法のギャップと呼ぶべきかどうかわからない。確かにNGOの人たちはそうだというだろうし、産業界は違うというだろう」と彼は述べている。現在ニューヨーク州アルバーニにある、国際電子機器リサイクル業者協会(IAER)は、リサイクル業者が環境と安全に配慮した最善の取り扱いを保証する自主的な認証制度を検討中である。

 トネッティは中古電子機器の輸出市場は、アメリカ産業界でだけでなく中古コンピュータを再整備して引き続き使用したいという貧しい国のためにも必要であると述べている。
 さらに 、2002年2月25日付のニューヨークタイムズ紙にBANの報告書が掲載された時に、トネッティは、中古電子機器の輸出が増大しているのは、アメリカの環境規制のためにリサイクル用金属精錬設備が閉鎖される傾向があるからだと述べた。しかし、彼はIAERによるリサイクル業者認証制度を認めながらも、輸出されたリサイクル用機器まで監視することは難しいであろうとして「海外のリサイクル業者にも認証制度を要求するのか? それは高価な提案だ。最終的には認証制度は国際的な標準にする必要はあるが、それはまだ先の話であろう」と述べた。

 一方、EPAにより有害廃棄物と認定されたカラーCRTを含む全ての電子機器廃棄物を輸出することは、廃棄物処理ではなく、リサイクルである限り、アメリカの法の下では完全に合法的である。
 これら廃棄物輸出の合法性は、有害廃棄物が国際的に、特に発展途上国に拡散することを制限することを目的とした、いわゆるバーゼル条約の観点からは幾分問題がある。この条約は国連環境計画(UNEP)によって1989年にスイスのバーゼルで取りまとめられたものである。〔参照:EHP 107(8) 410-3, 1999]
 この条約への批准を意志表示して署名した国々の中で、アメリカ、ハイチ、アフガニスタンだけが批准しなかった。バーゼル条約で定義された廃棄物の取り扱いに合意した国々は”環境的に健全な取り扱い”に基づく基準書を作成し関連各国に回覧した。〔バーゼル条約は有害廃棄物リストを自身で持っており、あるものはRCRAのリストと重複し(例えばカラーCRT)、あるものはRCRAのリストに含まれていない。〕
 このことは、アメリカはカラーCRTを中国に対し、グイユへの輸出に代表されるように環境に及ぼす影響について責任をとることなく、自由に輸出できることを意味している。
 「我々の義務は、条約締結国のバーゼル条約への義務を留意することだけで、締約国は主権国家であるのだから、自国の廃棄物政策は自国が決めればよい」とトネッティは述べた。

 電子機器リサイクルについての議論が熱をおびてくるにつれ、それぞれの立場の団体の当事者達は解決策を真剣になって求めている。アメリカに電子機器リサイクルの仕組みを根付かせるために、製造者が使い古し電子機器を買い戻す案、販売時に廃棄処理税を課税する案など各種案が、地方、州、連邦政府の各レベルで検討されている。〔参照:Environmental Health Perspectives Volume 110, Number 4, April 2002 Spheres of Influence, p. A196]。
しかし、本質的な戦略はまだ見えてこない。一方、世界は電子技術における”大問題”を当分抱えたままなので、それらは地下室、屋根裏、そして発展途上国を倉庫代わりにして、当分保管されることとなる。

(訳: 安間 武)



化学物質問題市民研究会
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