飼い犬による危険性は大丈夫?
ペットが殺虫剤を運ぶ

情報源:NIEHS Environmental Health Perspectives
Volume 109, November 2001
(NIEHS 月刊誌「環境健康展望」2001年11月号)

How Risky Is Rover?
Petting Transfers Pesticides

Julian Josephson

http://ehpnet1.niehs.nih.gov/docs/2001/109-11/ss.html

掲載日:2001年12月2日



 子ども達は、カーペット、家屋内のホコリ、化学物質を使用した芝生や庭など、様々な経路で農薬に曝されるが、見逃せない重要な曝露源は害虫駆除剤を施されたペットである。アメリカ獣医学協会によれば、犬がアメリカで最もポピュラーなペットであり、1998年には5,360万匹の犬がアメリカでペットとして飼われていた。数百万人の子ども達がこれらの犬に直接に接触しているので、子ども達はこれらの犬を通して害虫駆除剤に曝らされることになる。さらに、害虫駆除剤を施された他のペットや動物も子ども達にとって大きな曝露源となっている。
 寄生虫駆除剤には、しばしばカルバミン酸エステル、ピレスロイドあるいは有機リン酸エステルが含まれている。ペットから子ども達が受ける残留寄生虫駆除剤の量を推定するために、ミシシッピー州立大学のJ.スコット・ブーンと彼の仲間は、最近まで犬や猫のノミやダニ退治用に使用されていた市販の駆除剤に含まれる有機リン酸エステルについて調査した。彼ら研究者達は、小さな子ども達はクロロピリホスをアメリカ環境保護局(EPA)の基準用量、すなわち、その量以下なら人間が生涯にわたって毎日浴びても健康障害が起きないとしている量、とほぼ同等用量、浴びているということを見出した。クロロピリホスはその後、市場からは姿を消したが、人間がペットや家畜を通して他のノミやダニ駆除剤に曝露することには変わりない。

 12匹の同種で同程度の体重の犬を、処方箋なしで購入したノミ駆除剤に、製造者の使用法に基づいて3週間に1回浸し、これを連続4回繰り返した。その間は体を洗わなかった。他の12匹はその間、体を洗った。駆除剤に浸す前後に木綿の手袋で犬をこすってにその毛からクロロピリホス試料を採取した。

 駆除剤に浸してから、4時間後、7日後、14日後、21日後のそれぞれに試料を採取したが、体を洗わなかった犬のクロロピリホスの平均値は、それぞれ、971、157、70、 26 μg であった。残留クロロピリホスの量は1週間後に急激に減り、3週間後にはほとんど消えていた。

 従って、駆除剤処置の直後が、人間にとってクロロピリホスを浴びる危険性が高いということになる。特に子どもはペットと過ごす時間が多く、また大人よりも駆除剤に対し敏感なので、妥当な曝露レベルの推定値を得るためには危険性の計算が必要である。研究者達は、もし子どもが犬と、駆除処置後24時間以内に5分間遊び、80平方インチを撫でたりさすったりすると、平均0.9〜1.9mg/kg(訳者注:この数値及び単位は疑問) のクロロピリホスを浴びることになる。もし、子どもの体重が25kgなら、吸収量は0.0011〜0.0023 mg/kg である。(EPAのクロロピリホス曝露基準用量は0.003 mg/kg/day である)。一方、80kgの大人の場合には、吸収用量は0.0003〜0.0007 mg/kgとなる。

 犬の血漿中のブチルコリンエステラーゼ (BChE) とアセチルコリンエステラーゼ(AChE) は、クロロピリホスのバイオマーカとして使用される。コリンエステラーゼ(ChE)は神経伝達物質アセチルコリンエステラーゼ(AChE) を分解する。これにより、頭痛や無気力を引き起こす自律神経系の過重を防ぐことになる。人間も犬も血漿中にほぼ同程度の比率でブチルコリンエステラーゼ (BChE) とアセチルコリンエステラーゼ(AChE) が存在するので、犬のバイオマーカとしての結果は人間にも適用できる。

 調査を通じて、BChE は50〜75%に抑制された。AChE は、体を洗わなかった犬では11〜18%であり、体を洗った犬よりも少い比率であった。4時間後よりも7日後により大きな血漿中のChE 抑制が見られた。これはクロロピリホスが代謝物に変わる生体反応を示していると思われる。驚くべきことに、犬の血漿ChE 活性は21日間では正常なレベルに戻らなかった。実際に血液中のChEの活性抑制は 60〜80%に維持されていることが実験をを通じて判明した。

 現在、ペットや家畜からノミやダニ駆除剤に人間が曝露する量を測定することや、付随するリスクを評価するための完全な技術は存在しない。使用されている駆除剤が多ければ、木綿の手袋で行う方法は、早くて、信頼性があり、潜在的な害虫駆除剤への曝露を評価するのに有用である。

(訳:安間 武)

化学物質問題市民研究会
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