FSN (Food Safety News) 2022年2月16日
FDA の新長官は
食品安全化学に関して大忙しである

トム・ネルトナー(EDF 化学物質政策ディレクター)

情報源:FSN (Food Safety News) February 16, 2022
New FDA commissioner has a full plate
when it comes to chemistry of food safety

By Tom Neltner
https://www.foodsafetynews.com/2022/02/new-fda-commissioner-
has-a-full-plate-when-it-comes-to-chemistry-of-food-safety/


訳:安間 武(化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2022年2月22日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/eu/usa/news/220216_FSN_New_FDA_
commissioner_has_a_full_plate_when_it_comes_to_chemistry_of_food_safety.html


意見

 本年 2月15日の米国上院は、公衆衛生の保護に重要な役割を果たす FDA (米国食品医薬品局)に必要なリーダーシップをもたらすためにロバート・カリフ博士を FDA 長官に復帰させる(訳注1)ことを可決した。

 カリフ博士は、COVID-19 のパンデミック(感染症の世界的大流行)とオピオイドのエピデミック(麻薬性鎮痛薬の過剰摂取問題)という形で歴史的な課題に直面しているが、食品中の危険な化学物質から一般市民を保護するという FDA の重要な役割を高める絶好の機会でもある。

 我々は、カリフ博士と FDA が、問題のある化学物質を我々の食品から遠ざけるために今すぐに行う権限を持っている 3つのことをリストにまとめた。
  1. 食品中の有害な化学物質を制限するための請願に基づいて行動する。 FDA は、過塩素酸塩(perchlorate)、フタル酸エステル類、及びほとんどの PFAS 類を禁止し、食品に接触する包装及び加工機器での BPA 及び鉛の使用を制限するよう当局に求める EDF 及びその他のグループからの多くの請願に直面している。 FDA はこれらの請願を解決するために迅速に行動する必要があるが、それらのあるものは数年間、未処理のままである。

    • 過塩素酸塩。ロケット燃料に適していても、食品包装/機器には適していないかもしれないのに、過塩素酸塩は両方に使用されている。過塩素酸塩への曝露は甲状腺の機能をかく乱し、発達の遅れや学習能力の低下に関連しており、妊娠中の女性、乳児、幼児にとって特に危険である。我々はこの化学物質を食品から取り除くよう FDA を訴えたが、訴訟はまだ係属中である。

    • フタル酸エステル類。このクラスの化学物質は、ホルモンをかく乱し、脳の発達を損なうことが知られている。 EDF と他の 9つのグループは、2016年に食品包装及び加工機器でのフタル酸エステル類の使用を禁止するよう FDA に請願した。 FDA は、今年 5月に決定を下すことを示した。

    • PFAS。パー及びポリフルオロアルキル物質(PFAS)を、発達上の問題からがんまで、さまざまな深刻な健康への影響に関連するとする証拠がますます増大している。ワシントン州からメイン州までの州は、食品接触材料中での PFAS の使用を制限する措置を講じている。 FDA は、2021年6月の請願に基づいて、ヒトに生体内蓄積する化学物質を禁止するよう行動すべきである。

    • BPA。ビスフェノール A(BPA)は、非常に低いレベルで免疫毒性を引き起こし、内分泌系をかく乱する可能性がある。 FDA 自身の推定によると、アメリカ人は、安全であると欧州食品安全機関(EFSA)の専門家委員会が最近述べたよりも 5,000倍多くのBPAにさらされている。 FDA は、免疫系の損傷を保護するために、プラスチック食品包装/機器の BPA を制限するための2022年1月の請願に基づいて行動する必要がある。

    • 。この重金属は、子どもの脳の発達を害し、大人に心臓病を引き起こす可能性がある。我々は2020年12月の請願に参加し、食品に接触する材料に鉛を添加することを禁止し、米国小児科学会の推奨事項と一致するボトル入り飲料水の制限を採用するよう FDA に求めた。

  2. 科学と意思決定を近代化する。消費者は食品中の化学物質について引き続き懸念を抱いている。FDA は、化学成分が安全であり、その決定において透明性があるかどうかを積極的に検討する必要がある。FDA は次のことを行う必要がある。
    • FDA に申告することなく、企業が当該化学物質は食品に対して安全であると自己認証することを許す”一般に安全と認められている(Generally Recognized as Safe / GRAS)訳注2の抜け穴を閉じる。
    • 新しい証拠がそれらが安全でないことを示すとき、以前に承認された化学物質を再評価する。新しい科学的原理に照らして、数十年前に承認された化学物質は再評価する必要がある。
    • 食品中の複数の関連物質の累積的な影響を考慮する。食品中のひとつの化学物質だけにさらされる人は誰もいない。当局は、2020年9月の請願に基づいて行動し、化学物質の安全性を単独で分析することをやめ、法律に従う必要がある。

  3. 子ども向け食品に含まれる重金属をゼロに近づける。 FDA は、子ども向け食品に含まれる神経毒性金属を減らすための特定の行動と期限を当局に約束する、ゼロに近づける行動計画で大きな前進を遂げた。我々はこの努力を称賛し、ゼロに近づける計画を強化するために FDA がとることができる追加のステップを推奨した
著者について:Tom Neltnerは、環境防衛基金(EDF)の化学物質政策ディレクターである。彼は、横断的政策イニシアチブを通じて、製品や市場から有害化学物質を除去または最小化する取り組みを主導している。彼の主な関心は、食品添加物の安全性であり、企業のとの共同の取り組み、公衆衛生と環境を改善するための連邦規制の取り組み、並びに鉛への曝露を減らすための立法、規制及び共同の取り組みを推進している。彼は、化学物質の安全性、特に鉛、ホルムアルデヒド、危険物の管理に関する EDF の作業を支援している。


訳注1:歴代FDA長官 訳注2一般に安全と認められている(Generally Recognized As Safe)
  • 米国食品医薬品庁(FDA)「GRAS」について解説(食品安全総合情報システム)
     「GRAS」はGenerally Recognized As Safe(一般に安全とみなされている)の略語。連邦食品医薬品化粧品法の201条及び409条に基づき、食品に意図的に添加する物質は食品添加物であり、販売前にFDAの審査と認可を受けなければならない。ただし、所期の条件下で使用する限り安全であることが十分示されていると有資格専門家が認めるか、その使用が食品添加物の定義から外れる場合はこの限りでない。
     上記201条及び409条に準拠して、FDAは21CFR(連邦規則:Code of Federal Regulation)170.3及び21CFR170.30を施行し、科学的手続を経るか、又は1958年よりも前から食品に使用されていた物質については、食品への一般的な使用経験を通じて、食品物質の使用をGRASとすることができると定めている。


化学物質問題市民研究会
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