Environmental Health News 2018年9月2日
ピーター・ダイクストラ: 石に刻み込まれる(強固な思い込み)
気候変動否認は、消すことが難しい、あるいはそれが恐らく不可能な、多くの間違った信念と結びつく
ピーター・ダイクストラ 情報源:Environmental Health News, Sep 02, 2018 Peter Dykstra: Etched in stone Climate denial joins a long list of errant beliefs that are hard - or maybe impossible - to kill. By Peter Dykstra https://www.ehn.org/climate-change-denial-2600707946.html 訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会) 掲載日:2018年10月3日 このページへのリンク: http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/eu/usa/ehn/ 180902_EHN_Peter_Dykstra_Etched_in_stone.html 1980年代の早い時期、ワシントン DC に住んでいた時に、私は、当時は新しかったベトナム戦争戦没者慰霊碑を見るために、時には国立公園であるモール地区にまで足をのばした。 旅行者や遺族は、愛する人の名前を見つけるために、あるいはアメリカの最も悲劇的な戦争について思索するために、V字型の壁に目を凝らした。 その場所にいた別の人々は、40代のベトナム退役軍人であり、ぼろぼろの本物の戦闘服を着て、彼らの友人のある者はまだハノイの虎の檻に入れられていると強調していた。 私が 2010年に仕事でワシントン DC に戻った時に、多くの同じ退役軍人がまだそこにいたのを見て驚いたが、彼らは現在は 70代であり、彼らの友人はまだ生存しており、半世紀近くも投獄されたままであると彼らは確信していた。この数十年間、彼らの信念を支える証拠は出ていないが、彼らはその生存を主張し続けている。 それはアメリカの銃規制の戦いと何ら違いはなく、この国で一貫して悲劇的な銃乱射事件が起きても、実は彼らに問題があるのかもしれない数千万の人々の銃に対する信念を動かすことはできない。あるいはバラク・オバマ大統領についての多くの偽情報;例えばオバマは、ケニア生まれであるとする国籍陰謀論、イスラム教の学校(マドラッサ)で教育されたモスレムであり、ナチであり、共産主義者であるとするなど(訳注1)。あるいは、全く疑わしい一人の研究者により発表され後に撤回された論文に基づく反ワクチン運動(訳注2)。 教訓: 強固な思い込みはなかなか消えない、あるいは全く消えない。 これらと時を同じくする数十年間、気候変動否認は、科学の重み、実際の証拠、そして単純な常識によって粉砕されるでろうという根強い論理的な信仰があった。否認は幾分衰退したかもしれないが、過激な主張は、フォックスニュース(訳注:FOXニュース/ウィキペディア)を除いて、テレビのネットークに載ることはなくなった。それでもその信仰は広く定着している。 根強い誤った主題を反映して、ウェブ出版の Business Green は 2017年12月に、”2017年は気候否認が死んだ年”と宣言する年末の評論を発表した。 しかし、私はそのようには思わない。 議会の逆の動き 2018年中間選挙(訳注3)で、民主党は議席を多少増やし、議会で多数を回復することにより、トランプ政権のロールバック(訳注4)を恐らく打ち壊すことができるかもしれないが、気候は要因ではない。 トランプの政策と個性に対する一般的な反感は、トランプ嫌いとトランプ支持という大きく分断された領域にアメリカを固定している。しかし、これらの政策と個性は、アメリカ国民の 40%の支持と共和党員の 90%近くの支持のもとに、比較的安定した状態を保っている。共和党下院議員又は上院議員のほとんどは、トランプに異議を申し立てるつもりはないように見える。 何人かの主要な議会の否認者は年末に引退することになっている。とりわけ下院科学委員会の議長職を科学に対する鈍器として利用してきたラマー・スミス、そして 2010年のかつてない最大の BP メキシコ湾原油流出事故に対するオバマ政権による厳しかったとうわさされる取り扱いを 2010年に謝罪したテキサス人の”スモーキー・ジョー”・バートン等である。 しかし、もっと、多くの議員が残る。元気な 83歳のジム・インホフェは 2020年に再び出馬するかどうかまだ述べていない。もし彼が出馬するなら、上院の気候否認の王者が、2014年の彼の 40%獲得勝利を再現しないと信じる理由はない。 ジョン・バラッソの議席は安泰である。ワイオミング州の炭田地域(訳注:採掘可能な炭層の分布地域)出身のこの紳士は 2期目の選挙を 3対1 の票差で勝ち抜き、現在、11月の 3期目の選挙に向けて活動中である。もし民主党が上院の支配をもぎとって政治の世界を唖然とさせない限り、バラッソは上院環境・公共事業委員会の議長を続けるようである。 インホフェとバラッソは、上院と下院に考えを同じくする数十人の仲間を持っている。気候変動はありえないとする証明として『創世記』を引用することに熱中するジョン・シムカスは、 2014 年の選挙で 3対1 の票差で勝ち、2年後には無競争で選ばれた。今年は競争相手候補がいるが、その候補者に勝ち目はない。 非政府側では、気候科学者や活動家を「ユナボマー」(爆弾テロリスト セオドア・カジンスキー)(訳注5)やウサーマ・ビン・ラーディンに関連付ける広告看板を掲げたことで悪名高いハートランド研究所(訳注6)の職員は、トランプ政権に助言するためにホワイトハウスの金属検知器を通り抜けた(インチキ科学の象徴である)アルミホイルのヘルメット(訳注7)を脱がなくてはならない。 インホフェの元副官マーク・モラーノはメディアでの露出が減っているいることを知っているが、それでもまだ彼は、気候科学者らをお金のためにその中にいるだけであると非難する否認者らの中核を率いている。アメリカ内国歳入庁(IRS)の最近の書類によれば、モラーノの雇い主は彼に基本給として 188,000ドル(約2,100万円)を払っている。 したがって、この物語の教訓は、気候変動否認は今後高まることはないかもしれないが、それがすぐに消えてしまうとは考えられない。気候変動は我々に毎日、真のコスト(犠牲)を示しており、クリーンエネルギーが最終的にはうまく動き始めているが、否認論がアメリカ政府の最高レベルにある。したがって、否認は進歩を挫折させ続けるか、少なくとも遅らせ続けるであろう。 ウェブ上の関連記事
訳注1:オバマ元大統領に関する偽情報
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