EHNニュース 2011年8月8日
グライムに目を向けるべき時である EPAは消費者製品中の知られていない化学物質に取り組む 情報源:Environmental Health News, Aug. 8, 2011 It's glymes time: EPA takes on obscure chemicals in consumer products. By Jane Kay http://www.environmentalhealthnews.org/ehs/news/2011/epa-takes-on-glymes 訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会) http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/ 掲載日:2011年8月21日 このページへのリンク: http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/eu/usa/ehn/110808_ehn_glymes_time.html ほとんどの人が知らないけれど、数百万ポンド(数百トン)のグライム(訳注1)がアメリカ中で家庭用品を製造するために毎年使用されている。グライムを少なくとも消費者製品で新たに使用することは、間もなくできなくなりそうだ。 米環境保護庁は、7月に、広範な産業で使用されているが、ほとんど知られていない、これらの成分を規制することを計画していると発表した。溶剤として最も多く使用されているグライムは、リチウム電池、インクジェット・カートリッジ、ブレーキ用液体、塗料、カーペット洗浄液などに見出される。それらはまた、処方薬、回路基板、マイクロチップなどの製造にも広く用いられている。 EPAは、生殖影響又は発達影響を持っているので、3種類のグライムが”労働者、消費者、子どもたちに高い懸念”を及ぼすと決定した。10年以上前のアメリカのある研究が、半導体製造に従事する労働者の流産に関連することを見つけている。 EPAは、連邦政府の有害物質規正法(TSCA)により権限を与えられた数少ない武器のひとつとして、グライムに新規利用規則(訳注2)を適用することを提案した。もしそれが採用されれば、EPAは米国市場にある14種のグライムの新規利用を制限することができる。 グライムは、製造業で溶剤として典型的に使用される”グリコールエーテル(訳注3)”と呼ばれる化学物質の一族に属する。そのうち2種類−モノグライムとジグライム(訳注4)は、げっ歯類の研究で生殖系及び発達系にダメージを引きこした。3番目のグライムであるエチルグライムに関する動物実験は、潜在的な遺伝子変異とともに発達毒性を示している。 他の11種類については、健康影響は報告されていないが、それらは同じような化学構造なので、EPAは予防のためにそれらを新規利用規則に含めた。 生化学者であり、環境団体エンバイロンメンタル・ディフェンスの上席科学者リチャード・デニソンは、グライムのことを”極めてたちの悪い化学物質”と呼んだ。 ”それらは潜在的な生殖毒素及び発達毒素であり、多くの消費者製品中で使用されている。用途の範囲は、通常の顧客が使用して曝露するであろう製品を含んでいる”とデニソンは述べた。 グライムは、米政府の精査を受けるようになったが、それは半導体、印刷用インク、自動車部品、塗料、薬剤の製造に従事する人々を含む労働者に対する特別の有害性が懸念されるからである。1980年代後半及び1990年代の初めにカリフォルニア大学(UC)デービス校の研究者らによって実施された14工場の6,000人の労働者に関する研究が、グライム混合物と半導体製造労働者の流産との関連を示した。 その研究者等は、ジグライムを含むエチレン系グリコールエーテルの混合物に曝露した女性の中に流産増加のパターンを見出した。半導体産業協会の資金で実施されたこの多年間研究の結果は、『アメリカ産業医学ジャーナル』で1995年に発表された。 ”この化学物質は10年前より毒性が低いということはないのだから、このことに注意が向けられたことを私は喜んでいる”と、この研究を実施したUCデービス校の医学部教授であり、公衆衛生科学部門の議長であるマーク B. シェンカー博士は述べた。 半導体産業は、彼の研究及び、同様な発見をしたIBMの研究が発表された後に、製造法を変更したとシェンカーは述べた。他の産業は、これらの溶剤を半導体製造業よりも大量に使用しているが、同じ管理は導入しなかったと、彼は述べた。 消費者製品及び環境中への放出を通じて、公衆がどのくらい曝露しているのかについては、ほとんど知られていない。 EPA担当官は、新規利用をすれば皮膚吸収又は吸入を通じて人々の曝露が増大するであろうと述べている。ジグライムは飲料水中でも検出されており、従ってそれは曝露源になると彼等は述べている。リチウム電池は密閉されているので、この電池中のモノグライムへの曝露は限定されるが、研磨布又は印刷物の取扱いや、家庭用塗料缶、自動車排気ガス、又は工場からの排出の吸引により、曝露する可能性がある。 ”グライムは、人々が日常的に曝露するかもしれない広い範囲の用途で使用されているので、我々は、これらの追加的な使用によりもたらされる結果、特にモノグライム、ジグライム、及びエチルグライムの生殖系及び発達系への影響を懸念している”と、EPAの化学物質安全汚染防止局の副局長スティーブ・オーエンスは環境健康ニュース(EHN)に述べた。 EPA の文書によれば、動物実験においてモノグライムは、胸腺萎縮(thymus atrophy)(訳注5)、骨髄抑制(bone marrow suppression)(訳注6)、睾丸萎縮(testicular degeneration)(訳注7)を引き起こした。ジグライムは、精子生成数の減少、胎児の成長不良、赤血球数の減少、骨髄、脾臓及び胸腺の萎縮(wasting away)を引き起こした。エチルグライムは、器官や骨のダメージを含んで、げっ歯類胎児の奇形増加に関連していたと、EPA文書は述べている。 オーエンスは、EPAはまた、毒性と曝露に関する情報がないこともひとつの原因で、”他の11種類のグライムの潜在的に有害な影響について懸念している”と述べた。 連邦法の下では、EPAは、ある物質の追加的な使用がヒト曝露又は環境的分解の著しい増加により有害性を引き起こす懸念があるときには、重要新規利用規則(SNUR)(訳注2)を採用してもよい。過去10年間にEPAは、これらの規則を47件、360種の化学物質について適用した。 この新たな提案は、14種のグライムの製造者、輸入者及び加工者が新たな用途に着手する前にEPAの承認を入手することを求めるであろう。そしてEPAは、それらが労働者及び公衆に追加的な害を及ぼすかどうか決定するであろう。 この規則は、消費者製品中の新たな用途をなくすだけである。例えば、あるグライムをリチウム電池、塗料剥離剤、印刷インクなどに使用する既存の用途は、この規則から免除される。 毎年、モノグライム及びジグライムがそれぞれ最高1,000万ポンド(約4,500トン)、アメリカで製造又はアメリカに輸入されている。それらは一般的に溶剤として、または他の化学物質の製造のために使用される。 新たなEPAの規則は、”塗料とコーティング、家庭用電池、印刷用インク、密封剤、接着剤、自動車などに関連する会社に大きな影響を与えるであろう”と、環境法の法律事務所 Alston + Bird のエリーゼ・リンフレイシュは同事務所のウェブサイトに書いた。 提案された[規則]の対象となる会社が広範囲にわたるだけでなく、対象となる活動範囲もまた広範である”と、彼女は書いた。 Clariant社、Novolyte Technologies 社及び Dow 社を含んで、アメリカ及びヨーロッパの製造者らは環境健康ニュース(EHN)によるインタビュー要求を受け入れなかった。これらの会社は、グライムを含む製品の商品名を明らかにすることを拒否した。 しかし、データベースの検索により、Duracell Procell Lithium 9-Volt Battery, Energizer Lithium-Iron Disulfide Battery 1.5 Volt, Ultralife Lithium Manganese Dioxide Cells and Batteries 及び Wagner DOT 4 Brake Fluid などの電池やブレーキ用液体にグライムが用いられていることがわかった。 EPAの文書によれば、モノグライムは、密閉リチウムイオン電池中で電解液の溶剤として使用されている。それはまた、電子産業における電子回路基板のエッチング、耐性を高めるためのアルミの表面処理、坑エイズ剤の合成で使用されている。 ”グライムは、入手可能な最強の溶剤のひとつである”とClariant 社はウェブサイトで述べている。”それらは非常に高い熱的及び化学的安定特性を持っているので、様々な薬品製造反応で使用されている”。 EPAへの手紙は、Clariant社の代表がモノグライムは医薬品中には存在しないことを請合ったことを示している。 ジグライムは、印刷用及びインクジェット・インク及びインクジェット・カートリッジ中で溶剤として使用されている。またそれは、ブレーキ用液体、塗料とその他のコーティング材、プラスチック、接着剤と密封材の中で、及び高血圧、ぜん息、坑うつ剤の製造過程で溶剤として使用されている。Novolyte Technologies 社の代表も同じくEPAにジグライムは薬品中に存在しないと告げている。 エチルグライムは、消費者用には使用されていないとEPAが確認した。しかし、EPAは、それが塗料、接着剤、コーティング、セラック、樹脂、洗剤、染料、ポリカーボネート製品中で溶剤として使用されているという報告書を受け取っている。その生産量は上昇しており、オハイオ州、イリノイ州、及びカナダのオンタリオ州の水源中で検出されている。 欧州連合では、モノグライム又はジグライムを含む製品はすでに規制されている。ラベルには、”生殖能力に有害かもしれない”又は”生まれてくる赤ちゃんに有害かもしれない”と表示しなくてはならない。 もしアメリカの規則が採用されるなら、EPAは会社に対し、EPAがその化合物の新たな用途を承認する前に、不合理なリスクを除外するためにテストを実施するよう求めることができる。EPAはまた、グリーンな化学的代替物を見直し、すでにエチレン系グリコールエーテルを毒性がより低いプロピレン系グリコールエーテルに代替する傾向にあることを観察していると述べている。 EPAは、35年前の古い有害物質規正法(TSCA)は危険な化学物質を廃絶するための他の有効な手段を提供しないので、重要新規利用規則(SNUR)(訳注2)を使用することにしたと、エンバイロンメンタル・ディフェンスのデニスは述べた。 長年、環境活動家はTSCAの改正を求めてきたが、1976年に採択されて以来、議会による変更はない。 環境団体によれば、新たなグライム規則は、米行政管理予算局(OMB)に6ヶ月間、留め置かれたが、これはレビューのために許される期間の2倍の長さであった。EPAは、この提案に対するコメントを9月9日まで求めており、その後、この提案を最終レビューのために米行政管理予算局に送り戻すであろう。 ”立法プロセスでこの提案を通過させるのにEPAは苦労している”とデニソンは述べた。 訳注1:グライム グライム(対称グリコールジエーテル) グライム/日本化学物質辞書Web 訳注2:重要新規利用規則(SNUR) TSCAの概要と改正に向けての動向(1)/J-Net21 特定の用途が人や環境に悪影響を及ぼすと判断される場合にPMNに記載された届出以外の用途での使用に係る届出義務、事業所ごとの取扱量制限、排水基準設定、MSDS作成やラベリング、使用者への注意義務などの規制がされます。 同意指令は申請者に対して発せられますが、公平性の観点から当該化学物質を取扱う全事業者に対して同意指令と同等の制限を規制するのが重要新規利用規則です。 訳注3:グリコールエーテル グリコールエーテル/日本乳化剤株式会社 訳注4:モノグライム、ジグライム 製品情報:グライム類・丸善石油化学 訳注5:胸腺萎縮(thymus atrophy) トキシコゲノミクスを利用した環境汚染物質の免疫毒性評価法/国立環境研究所 少し難しいけれど免疫システムの勉強です 訳注6:骨髄抑制(bone marrow suppression) がん化学療法と症状管理@骨髄抑制 訳注7:睾丸萎縮症(testicular degeneration) 睾丸の萎縮 |