EHP 2005年12月号 Spheres of Influence
米会計検査院 化学物質規制に関し警告する

情報源: Environmental Health Perspectives Volume 113, Number 12, December 2005
GAO Sounds Off on Chemical Regulation


訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2005年12月13日

 1976年以来、有害物質規制法(TSCA)は連邦政府に対し化学物質が市場に出る前に適切にテスト及び規制され、それらが非合理的なリスクを人と環境の健康に及ぼさないようを求める権限を与えてきた。有害物質規制法(TSCA)は、米環境保護局(EPA)が、溶剤と塗料成分、燃料、及びプラスチックなどをも含んで、化学物質を検証し規制する仕方を統制する法律の主要な部分である。しかし、化学物質の安全性と規制の適切性についての懸念がまだ存在している。

 2005年6月の『化学物質規制:健康リスクを評価し、化学物質検証プログラムを管理するためのEPAの能力を改善する選択肢がある』というタイトルの報告書の中で、米会計検査院(GAO)は、まだ市場に出ていない新規の化学物質のリスクを管理し、市場に出ている既存化学物質のリスクを評価し、そして有害物質規制法(TSCA)の下に化学会社によって供給される情報を公開するための環境保護局(EPA)の取り組みを検証した。この報告書は TSCA とその実施における欠点を指摘し、この法を強化する方法を提案した。

高生産量(HPV)化学物質

 TSCA は EPA に対し、新規化学物質が上市される前に評価することと既に市場に出ている化学物質を検証することの両方の権限を与えている。しかし、この法が発効したときに、既に市場に出ていた数千の化学物質はその適用を除外されていた。”これら62,000種余りの化学物質は EPA のどのようなリスク評価を受けることもなく市場に出ていても”問題なし”として承認された”−とこの報告書の主席アナリストのデービッド・ベネットは述べている。

 これら適用除外の化学物質とは別に、EPA は検証すべき膨大な数の化学物質を抱えているので、EPA はそのアプローチを狭めてきた。”我々は、人と環境への曝露の指標として生産量を用いることとし、高生産量化学物質に業務を集中させることに決定していた”とEPA 汚染防止有毒物質室の室長チャールス・アウアーは述べている。高生産量(HPV)チャレンジ・プログラムは、1990年現在で年間生産量が100万ポンド(約454トン)を超える約2,8000種の化学物質を調査するという目標をもって1998年に開始した。この自主的プログラムは環境保護局(EPA)、エンバイロンメンタル・ディフェンス(米のNGO)、アメリカ化学協会(ACC)、アメリカ石油協会(API)によって、これらの化学物質の基本ハザード・データの欠落を特定し埋めるために、そして2005年までにこれらのデータを利用可能とするために確立された。

 高生産量(HPV)チャレンジ・プログラムから蓄積された情報は、”化学物質に優先順位をつけ、その後、必要ならあるいは管理措置をとるなら追加情報を入手することを可能とする”とアウアーは述べている。アメリカ化学協会(ACC)の健康・製品・科学政策の管理部長ミカエル P. ウォールスは、”高生産量(HPV)チャレンジ・プログラム”を通じて、我々は現在のリスク管理決定が基づく適切な情報が存在することを EPA に保証するメカニズムを提供する”と付け加えた。

 ”このプログラムは、ただ座って暗闇をぼやくよりも、ろうそくの灯りを求める取り組みである”とエンバイロンメンタル・ディフェンスの上席弁護士カレン・フロリーニは述べている。”それは予備的な基本スクリーニング・レベルの情報を収集する。それは明らかに貴重であるが、限定されたものである”。

 たとえそうであったとしても、GAO 報告は、EPA が初期リスク評価を行うために必要であると考える最低限のテスト・データを化学会社が供給することに同意しない高生産量(HPV)チャレンジ・プログラムの化学物質が300種あると述べている。アウアーはこの状態を”未完成のビジネス”であるとみなしている。彼は、EPA はこれらの化学物質をテストするよう産業側に要求するルールを開発していると述べている。”我々は今年の末又は来年早々にこのテスト・ルールを完成させることを望んでいる”。

 EPA のアウアーも、ACC のウォールスも、このテストを産業側が自主的に実施しない様々な理由があると言及している。例えば、ある例では国内の化学物質製造者は、もしアメリカに化学物質を輸出している海外の競争相手がテストのための費用を共有するなら−それはありえないが−喜んで情報を提供するであろうと述べている。しかし、テスト・ルールが発効すれば、化学物質を製造又は輸入する誰でもがそのルールを守りデータを供給しなくてはならない。

新規化学物質

 GAO 報告はまた、EPA の新規化学物質の規制への取り組みについての懸念を表明している。有害物質規制法(TSCA)が施行されて以来 EPA は審査用に提出された約32,000種の新規化学物質の内3,500種について曝露を規制するための措置をとったと述べているが、 GAO はこれらの化学物質が検証された方法について不安を持っている。

 EPA は一般的には提出された化学物質の特性に関し、その有毒性を決定するために十分なデータを持っていない。したがって、EPA は、新規化学物質がハザードを及ぼすかどうか予測するためによく似たモデル化学物質と比較している。”我々は、ある場合にはこれらのモデルは完全には予測的ではないことを見出した。問題は、ある場合には、いかにモデルが予測的であるかを示す多くのデータがないことである”とGAO のベネットは述べている。

 EPA のアウアーは、モデルは想定されたこと、すなわち、将来のテストのための潜在的に有害な候補を特定することを果たしている。すなわち、モデルは有害そうな化学物質を特定し、その後の検証で安全を証明するのに役に立つと反論している。

 GAO 報告はまた、有害物質規制法(TSCA)は新規化学物質の有毒性、曝露経路、又は潜在的曝露の程度に関し、EPA にデータを提出することを化学会社に要求していないことに言及している。”新規化学物質が実際のデータなしに市場に出され得るということは言語道断であると私は考える”とエンバイロンメンタル・ディフェンスのフロリーニは述べている。”PMNs〔原注:製造前届出。新規化学物質製造の少なくとも90日前に EPA に提出しなくてはならない〕の85%は健康に関するデータが提出されず、多くの検証項目、特にがん以外の長期的健康影響のために有効な信頼できるモデルが存在しない”。

 しかし、アメリカ化学協会(ACC)のウォールスは、もし化学物質が残留性、生体蓄積性、及び有毒性の特質を持つなら、化学物質製造者は EPA にデータを供給する準備があるに相違ないと述べている。”アメリカでは新規化学物質申請が情報なしに提出されているというのは正しくない”と彼は述べている。彼は、有害物質規制法(TSCA)が安全と曝露データを要求していないことには同意しているが、もし、人々が曝露する可能性がある化学物質を届け出ているなら、そのような情報を提供しないことは”怠慢”であると付け加えた。

EPA のアウアーは、有害物質規制法(TSCA)によって要求されているように化学物質が実際に製造される前に毒性テストの実施を求めることは産業界の革新を妨げると断言している。彼は、新規化学物質のために EPA が望む情報を提供するコストは100万ドルの4分の1(約2,5000万円)の範囲にあると見積もっている。アウアーは、化学会社が化学物質に対する需要があるかどうか知る前にテスト費用が発生するということは、改善された化学物質の取り組みを妨げることになると述べ、新規化学物質のリスクを削減するために取られた措置の実績記録で十分であると主張した。

有害物質規制法(TSCA) 二つの措置

 新規化学物質に対する要求データが欠如していること、及び、GAO が自主的 HPV チャレンジ・プログラムの有効性が不確実であるとみなしていることを直視して、この報告書は議会に対し、化学会社が高生産量(HPV)化学物質に関するテストデータを作成し供給することを要求する権限を EPA に与えるよう勧告している。この勧告は、上院議員のフランク・ローテンバーグ(民主党:ニュージャージー)とジム・ジェフォーズ(独立:バーモント出)により今年の夏に議会への法案提出として具体化した。この法案では、使用されている全ての化学物質に対するデータを要求し、どの化学物質を産業側がテストしなくてはならないかの優先度を付ける権限を EPA に与えることになる。EPA のアウアーは、EPA はこの法案に対する立場をまだ決めていないと述べている。エンバイロンメンタル・ディフェンスはこの法案を支持しており、アメリカ化学協会(ACC)は同法案は TSCA の下の EPA の既存の権限と重複するとして反対している。

GAO はこの法を強化するために他に多くの勧告を提案している。それらには、化学物質のリスクを評価するために EPA が使用しているモデルの有効性の確認と改善、製造前届出(PMNs)とともに化学物質のテスト結果を化学会社に要求すること、化学物質が、もっときびしい”非現実的な”リスクよりむしろ健康と環境に”著しい”リスクを及ぼすなら、EPAにそれらを規制させること、そして有毒化学物質の全体的な使用を削減するための国家目標を設定すること、などがある。

 EPA のアウアーは、EPAは TSCA インベントリー更新ルールの改正の下にもっと良い曝露情報をもうすぐ入手するであろうと述べている。その改正とは、化学物質製造者が単一事業所で25,000ポンド(約11.34トン)以上を商業用途で製造又は輸入する化学物質について、4年毎に基本製造データを提出することを求めるものであるが、EPA によれば、この2003年改正は、レポート要求を EPA の情報必要性にもっと合わせるための報告要求を作成し、TSCA インベントリーにリストされている化学物質の潜在的な人と環境の曝露に関する更新された情報を EPA が得るための手段を供給し、このルールの下に報告された情報の活用を改善するものである。

 この改正で、”我々は消費者製品中に存在する化学物質を知るようになる”とアウアーは述べている。”我々は、化学物質に曝露している労働者の数を知るようになるであろう。我々は化学物質の使用についてより良い基本的な考えを持つであろう。そして16ヶ月したら EPA は高生産量(HPV)に関する基本的曝露情報を持つようになるであろう”。

 さらに、アウアーは、EPA が化学物質の使用がどのように変わっているのか、そしてより安全な代替物がその間に開発されているのかどうかを理解することができるよう、その情報は5年毎に更新されるよう求めるであろうと述べている。彼は、この情報は EPA が、もっと多くのテスト又は規制強化の候補である高生産量(HPV)化学物質を特定することを可能にするであろうと述べている。さらに、アメリカ化学協会(ACC)のウォールスは化学産業自身の取り組みが、1990年から2002年の間に高生産量の閾値に達した約500種の化学物質に関するハザード・データを EPA に供給するであろうと述べている。

 それにも関わらず、GAO のベネットは HPV チャレンジ・プログラムの有効性に関する判断を保留している。”プロセスが現在進行中であり、EPA は産業側が提出すると約束したデータの全てを受け取っていないのだから、それが成功しているかどうかを言うことは差し控える”と彼は述べている。

 エンバイロンメンタル・ディフェンスのフロリーニもまたこの見解をそのまま繰り返し、EPA は、今日までに提出された情報を公開するのに”すごく遅れている”と指摘している。”HPV チャレンジ・プログラムは6年やっているのに、いまだにデータベースが発表されないのは遺憾である。(2005が期限なのだから)今年の末までには出るのであろうが。”と彼女は述べている。

 施行後30年経過して、EPA、産業界、環境団体、そして議員ら全てが、この主要な法律(TSCA)を改正する道を探っているように、 有害物質規正法(TSCA)が意義深い検証を受けているということは適切である。しかし、この検証の後、改正 TSCA がどのようなものになるのかは定かではない。

ハーベイ・ブラック(Harvey Black)


訳注:関連情報



化学物質問題市民研究会
トップページに戻る