米化学会 C&EN 2015年1月12日
農薬産業は
不活性成分の開示圧力に抵抗


情報源:Chemical & Engineering News, January 12, 2015
Pesticide Industry Stands Firm Amid Pressure To Reveal Identity Of Inert Ingredients
By Britt E. Erickson
http://cen.acs.org/content/cen/articles/93/i2/Pesticide-Industry-Stands-Firm-Amid.html

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会
掲載日:2015年1月16日
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http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/eu/usa/C&EN/150112_Identity_of_Inert_Ingredients.html


 農薬製造会社と環境保護庁(EPA)は、昆虫、げっ歯類、又は雑草を殺す活性剤だけでなく、農薬製剤中の全ての化学物質を開示するよう求める消費者と環境団体からの熱気を感じている。とりわけ関心がもたれているのは、いわゆる不活性成分、すなわち、厄介者を駆除する以外の機能を果たす農薬中の化学物質である。

 不活性成分の例としては、乳化剤、溶剤、噴霧剤、芳香剤、染料、及びその他必ずしも良性ではない化学物質があると、農薬中の不活性成分の義務的な表示を求める人々は言う。しかし多くの会社は、情報は所有主のものであるとして、そのような成分の開示要求に反発している。

 要求団体の懸念の多くは、すでに市場にある化学物質、特に食品には使用されない農薬中の化学物質について健康と安全に関する情報が欠如していることにある。しかしEPAの新しいデータは、非食品用途のための新たな不活性成分の承認のための申請は2014年に殺到していることを示している。

       2013年 2014年
 食品用途  29件  29件
 非食品用途  5件  39件

 食品には使用されない農薬に添加される不活性成分は、食品に使用される農薬の不活性成分に比べて、EPAによる審査が緩く、また提出しなくてはならないデータも少ない。食品に使用されない農薬には、木材防腐剤、ボートの防汚コーティング、げっ歯類駆除剤、ノミ・ダニ忌避用ペット製品、そして観賞用植物の害虫駆除剤などがある。会社は食品用途の農薬中の不活性成分の公開は求められるが、非食品用途の農薬中の不活性成分の公開は求められない。

 議会は最近、農薬中の不活性成分のための規制システムを変更した。議会は、2013年会計年度から農薬中の新たな不活性成分の承認を求める会社から申請費用を徴収する権限をEPAに与えた。EPAはそれぞれの新たな成分に関連する健康と安全のリスク評価をするためにこの金を使用する。しかし議会はまた、不活性成分について異なる申請費用と異なるデータ要求を持つ10の分類を創設したことにより、承認プロセスをもっと複雑なものにした。

 これらの変更の後、非食品用農薬の新たな不活性成分の承認を求める会社からの提出が2014年に急激に上昇したことをEPAは見出した。このことが、不活性農薬成分の承認プロセスについて利害関係者の理解を高めるために、2014年12月にEPAに公開ワークショップを開催させることの一因となった。

 EPAは提出に当たり間違った分類を選択した会社のいくつかの不活性成分申請を却下したと、EPAの農薬局”不活性”チーム長、ケリー・レイファーはワークショップで参加者に述べた。会社が、新たな不活性成分のための不完全な承認用申請を提出すると、その化学物質に関するEPAの審査結果が遅れ、会社は費用として支払った金を失うことがあるとレイファーは述べた。これらの費用は、分類により数千ドルから1万ドル以上とかなりの額になる。EPAと産業は、”同じ見解を持ち、不活性成分の分類をよく理解している”ことが重要であると彼は付け加えた。

 産業側団体は、新たなシステムは舵を取るのが難しいと主張する。会社は様々な分類について混乱しており、新たな不活性成分のためのデータ要求についてEPAからのより良いガイダンスが必要であると彼らは述べている。

 昨年の非公開の不活性成分の申請の急上昇は、全ての農薬製剤中の全ての化学物質の公開という環境団体からの新たな要求をもたらした。2006年、環境団体の連合体と15人の州弁護士は、EPAに対して、会社に農薬中の371の不活性成分の存在を公開することを求めるよう要請する請願書を提出した。同団体らは、これら371の物質は人間に潜在的に有害であり、EPAはそれらを精査する必要があると主張している。

 2006年の請願に応えて、EPAは昨年、農薬製剤に加えることができるとして承認されている不活性成分のリストから72種の化学物質を外すことを提案した。EPAは、その72種の化学物質は現在、どのような農薬製品中でも不活性成分として使用されていないと主張している。そのリストはフタル酸エステル類誘導体、ノニルフェノール、及びいくつかの有機化合物とともに、メチルエチルケトンやテトラヒドロフランのような一般的な有機溶剤を含んでいる。

 その提案は、2006年に請願書を提出した団体のひとつであるビヨンド・ペスティサイド(Beyond Pesticides)を含む多くの環境団体を怒らせた。提案は、請願団体が会社に開示することを望んでいる”残りの300の不活性成分の開示の問題に対応するのを怠っている”と声明の中でビヨンド・ペスティサイドは述べた。それなのにEPAの行動計画は、”どのような農薬製剤でも不活性成分としてもはや使用されていない有害化学物質を目標にしている”と同グループは述べた。

 また、新たに提案された規則は、会社に農薬中の不活性成分を開示することを求めることになっていた2009年に提案された規則を置きかえることになるので、同グループを憤慨させた。EPAは、賛成及び反対両方の数百のコメントを受け取った後、昨年に2009年の提案を引っ込めた。EPAの化学物質安全・汚染防止局の次長ジム・ジョーンズは請願を提出した人々への2014年5月のレターの中で、なぜEPAは提案を撤回するのかを説明した。EPAは、”どのように情報は開示されるべきか、どのように情報は使用されるのか、又は不活性成分の開示の消費者行動への影響はどの様なものかに関する提案はほとんど受けなかった”とジョーンズは書いた。一方、EPAは、会社から、”不活性成分の開示は、貴重な企業秘密情報を明らかにし、競争相手が彼らの製品をコピーすることを可能とするので、彼らのビジネスにとって極めて有害である”と述べるコメントを受け取ったと、そのレターは述べた。

 不活性成分の義務的な開示を進める代わりに、EPAは”農薬中での使用のために現在リストされている不活性成分を見直し、そのリストを更新し、優先基準を確立し、更なる分析と潜在的な行動のために不活性成分の上位候補を選定するであろう”と、ジョーンズは書いた。

 ジョーンズによれば、EPAの優先リストの上位は、食品に使用されない農薬製剤中の不活性成分である。EPAはすでに、1996年食品品質保護法の下に食品用不活性成分を評価していると、彼は言及した。ジョーンズは、約230の非食品用不活性成分はまだ、潜在的な健康リスクについてEPAによりレビューされる必要があると見積もった。

 農薬製造者団体の代表もまた、EPAの最近の提案規則に満足していない。72の化学物質が市場にあるどのような農薬製品中でも不活性成分としてもはや使用されていないということを示すデータをEPAは持っていないと、彼らは述べている。これらの産業団体は、72の化学物質のどれかが彼らの農薬中で使用されているかどうか調べるために、もっと時間を持てるよう、コメント期間を延長するようEPAに求めた。

 EPAが提案中で対応しなかった数百の化学物質を会社に開示させるために、環境団体が今年再びEPAに請願するかどうかはわからない。EPAは、提案に対するコメントを1月20日まで延期することに同意しており、今年の後半にそれを最終的にまとめるであろう。


訳注:関連情報(EPA)
EPA Proposes to Remove 72 Chemicals from Approved Inert Ingredient List for Pesticide Products


化学物質問題市民研究会
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