ローウェル・センター報告 2006年1月17日
REACH の成立が近づいている・・・
REACH 最新の変更内容

アンドリュー・ファセイ

情報源:REACH is Getting Closer…
By Andrew Fasey, 17 January 2006
Protection Through Knowledge Ltd (http://www.ptkltd.com)
http://www.chemicalspolicy.org/downloads/LongSummaryREACH1-18-06.pdf
Lowell Center Chemicals Policy Initiative

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会
掲載日:2006年3月28日


 本稿は、新しいEUの化学物質戦略のための欧州委員会による2003年10月の提案に対し2005年12月に合意された変更について述べるものである。REACHとして知られる新しいEUの化学物質戦略は7年以上にわたり検討されている。REACHが現実のものとなるための主要なハードルのひとつを今、越えたところである。化学物質(化学物質そのもの、調剤、又は成形品中)のEU市場に関心を持つ全ての会社は潜在的に影響を受けるであろうし、その展開をフォローすべきである。化学物質の安全管理に関心を持つ全ての利害関係者は、化学物質管理のための世界で最も野心的で遠大なシステムの展開に関心を持つべきである。(REACHの詳細な説明はローウェル・センターのウェブサイト http://www.chemicalspolicy.org/reach.shtmlで得ることができる。)

 持続可能な製造のためのローウェル・センターは、REACHがアメリカの会社と利害関係者に及ぼす影響について探求するために2006年前半に産業界とともに一連のワークショップを開催する予定である。詳細については、Melissa Coffin (Melissa_Coffin@uml.edu)に問い合わせしていただきたい。


制定のプロセス

 REACH提案は、共同決議手続き(co-decision process)を通じて欧州連合(EU)の諸機関によって検討されている。共同決議手続きは、欧州議会と欧州連合閣僚理事会(以後、理事会)は法案の本文に合意しなくてはならないことを意味する。欧州議会の議員は欧州連合の市民によって直接選ばれるが、理事会は加盟国政府を代表する。欧州議会は2005年11月17日にREACHの第一読会を完了し、2003年10月の欧州委員会による立法提案に対し多くの修正案を提案した。
 理事会は2005年12月13日に欧州委員会の提案に関する審議を完了し、修正された本文に関し政治的合意に達した。この修正案は欧州議会が第一読会で合意したものと同一のものではない。政治的に合意された本文は、言語及び法律専門家によるチェックを受けた後に、”共通見解(Common Position)”として理事会により正式に採択される。
 ”共通見解”の本文は、全てのEU加盟国政府により公式に合意された見解であり、欧州議会の第二読会で検討されるREACH版となる。”共通見解”はオーストリア議長国の下に2006年春に理事会により公式に合意されると予測されている。
 第二読会において、欧州議会は、理事会が採用しなかった第一読会の修正案を再び提案するかもしれない。REACH最終案は2006年末までに欧州議会と理事会により採択され、2007年に発効することが予測される。


政治的合意

 政治的合意は、2005年12月にイギリス議長国の下でなされた(EU加盟国は6ヶ月毎に、順番に理事会の会合の議長務める)。政治的合意は加盟国により述べられた見解のバランスを考慮し、また欧州議会の第一読会の修正案も考慮したものである。その目的は公衆の健康、環境、及び産業の競争力を守るREACHに関する実行可能な妥協を達成することである。
 下記は12月13日に競争力理事会において政治的合意のベースとなった2003年10月の欧州委員会案に対する主要な変更を概説するものである。


登録

■一般
 REACHの下では、化学物質の製造者および輸入者(M/I)は、個別に又はコンソーシアムの下に、EUで(に)年間1トン以上製造又は輸入する各物質を、新設される欧州化学品機構に登録する一般的義務がある。登録しないと当該M/Iによるその物質の製造又は輸入は許されない。ほとんどの物質の登録は製造又は輸入される物質の量によって決められる期限までに実施しなくてはならない。

■修正
 政治的合意文書には、登録の手続きを合理化しコストを削減することを意図した多くの修正がなされている。それらには下記が含まれる。
  • 廃棄物、繊維パルプ、鉱物・鉱石、セメント・クリンカー(cement clinker)、及び必要があれば防衛関連物質の免除。さらに、REACH発効後12ヵ月後に登録免除のレビューが行われる。

  • 合金の定義、及び特別な調剤(合金のような)の化学物質の安全評価(CSA)に関する説明。段階的導入物質の定義はEINECS (European Inventory of Existing Chemical Substances)リストされている全ての物質をカバーするということに修正。

  • 手続きを簡素化し、一物質一登録(OSOR)を容易にするための単一事前登録段階(single pre-registration phase)の導入。事前登録の期間はREACH発効後18ヶ月に延長。

  • REACHの発効後EU市場に参入する段階的導入物質の製造者/輸入者もやはり登録の段階的導入可。

  • 一物質一登録(OSOR)によるデータ共有の要求(イギリスの見積もりでは6億ユーロ(約700億円)のコスト削減)。OSOR登録には柔軟性がある。会社は次のことを示すことができる場合には、共同情報提出から抜けることができる。不釣合いなコスト;機密情報の漏洩;登録者間で合意に達せない。データの共有は必須である。非動物データの共有は、もし潜在的な登録者から要求があれば、必須である。

  • 機密情報の漏洩を避けるために、会社は、データの共同提出、データの共有、及びテストの共有のための第三者機関を利用することができる。しかしその機関はやはり登録者の身元を知っている必要がある。

  • 1−10トンの範囲の段階的導入物質でリスクが高いと認められ場合にのみ、追加データを要求することにより登録要求を低減する。これはこの範囲の物質の約70%に適用されることになる。中小企業は低生産量物質を不均衡に高い割合で輸入又は製造するので、これは中小企業にとって助けになる。リスクの低い物質については、最低限、基本的な物理化学データを提出しなくてはならない。リスクが高いと認められた物質、又は非段階的導入物質(すなわち新規物質)は Annex V のテスト要求を全て適用しなくてはならない。低リスク物質を特定する基準は、多くはリスク・ベースである。登録者の負荷を軽減するために、欧州化学品機構はこのデータの提出を容易にするためのツールを用意する。

  • 10−100トン帯以上の範囲について生殖毒性物質のデータ要求から主要テストを除くことによる登録コストの削減(イギリスによる見積もりでは8,000ユーロ(約100億円)のコスト削減)。さらに、Annex VI 中のあるテストの免除が、より高い生産量帯におけるテストの負荷削減に寄与する。

  • 成形品中の物質もそれ以外の物質と同様な登録要求に近づけること。第6条は、成形品から放出されることを意図された1トン以上の物質の登録を要求するだけに訂正すること。もしその成形品が非常に懸念の高い物質(SVHC)を含んでいるなら、輸入者は別途、当局に届け出る必要がある。成形品から意図的に放出される物質の登録期限は、物質そのもの又は調剤中の物質と同様な段階的導入期間を適用することによって整合性を確保する。

  • もしヒトの健康と環境にリスクを及ぼすなら、欧州化学品機構は成形品中のどのような物質の登録も要求することができる。

  • 革新を促進するために、会社が欧州化学品機構に研究開発プログラムを届けるという要求は除かれた。

評価

■一般
 評価の目的は、登録者によるテスト提案を欧州化学品機構に評価させて不必要なテストを防ぎ、登録の最低5%について要求への遵守をチェックすることを目的とする(もし遵守していなければ、会社に更なる情報を求めるか又は他の強制措置をとる)。評価はまた、欧州化学品機構が加盟国当局を使って、産業側に更なる情報を求めることによって潜在的なリスクを有する物質を調査することを可能とする。

■修正
  • 欧州化学品機構の役割が強化された。その目的は評価がもっと効率的に行われEU全体での一貫性を確保することである。同時に、その提案は評価作業における中心となる科学的作業はやはり必要な専門性を有する加盟国で実施される必要があることを認めている。

  • 欧州化学品機構は、書類完備性評価と遵守性チェックの実施に責任がある。欧州化学品機構の書類完備性評価の役割は、Annexes VII 及び VIII の全てに対するテスト提案のチェックを含む。欧州化学品機構はまた、登録者に追加的テストを実施することを要求することができる。

  • 欧州化学品機構の物質評価に対する責任は、加盟国当局が評価を実施し決定の草稿を作成することに依存しつつ、EU全体のローリング・プランに基づき、物質が確実に評価されるようにすることである。

認可

■一般

 非常に高い懸念がある物質(SVHC)について、その用途と上市に対し認可が求められる。認可が求められる物質:
−発がん性、変異原性、又は有毒性物質(CMR)カテゴリー1及び2
−基準に従った残留性、生体蓄積性、及び有毒性、又は、非常に高い残留性及び非常に高い生体蓄積性(PBTs/vPvBs)
−上記の懸念と同等なレベル及びケース・バイ・ケースで特定されるヒト又は環境に対する確からしい深刻な影響の科学的証拠がある場合(例えば、内分泌かく乱物質)

 これらの物質は、実際の使用に関連するリスクが評価され、検討され、全EUベースで決定されることを確実にするメカニズムを通して中央で規制する必要があるような、高い懸念がある有害な特性を持つと考えられる。その正当性は、ヒトと環境に対する影響が非常に深刻で通常、非可逆的であることである。これらの範疇に入る物質はリソースが投入できるので認可システムにかけられる。それらの使用はデフォルトでは禁止されない。

■修正
  • 認可の範囲については変更提案はなかった。しかし、同等の懸念のある物質を捉えるための安全ネットを提供することを目的とする第54条(f)が明確化された。内分泌かく乱物質のような物質は、すでに定義されている非常に高い懸念のある物質と同等のレベルにあるヒトと環境に対する確からしい深刻な影響の科学的証拠がある場合には、ケース・バイ・ケースで認可の範囲に入る。

  • REACH 提案において、認可の可能性は適切な管理に基づくことを前提としている。PBTs、VPVPs 及び 閾値のないCMRs は、Annex I, section 6.4.に従って閾値を決定することは不可能なので、適切な管理を適用できないことが明確にされた。REACH 発効後12ヶ月以内に Annex I (いかに化学物質の安全評価(CSA)を実施するかに関する指示)の見直しが行われる。
  • 代替の役割が強化された。全ての認可申請にあたっては、そのリスクと代替の技術的経済的実行可能性を考慮しての可能性ある代替の分析を一緒に提出しなくてはならない。

  • 全ての認可を期限付きレビューの対象とする要求が導入された。これは、将来のある時点で代替の入手可能性をさらに検討することを可能とする。それに加えて、もし第三者機関が欧州化学品機構に可能性ある代替に関する新たな情報を提供したなら、認可はいつでも見直しができるような特定の要求が含まれている。

情報公開

■一般
 欧州化学品機構は、REACHの下に提出された全ての情報のデータベースを管理する。この情報のあるものはインターネットを通じて常に公開されるが、一方ある情報は商業的機密性のために当局のみが入手可能である。また、一般には公開されないが、EUの情報公開ルールに従って要求すれば入手可能となる情報のタイプもある。

■修正
  • 本文はどのような情報が欧州化学品機構のウェブサイトに公表されるのかを明確にするために修正された。しかし、会社は商業的機密を根拠に、調査概要と(テストに関する)調査概要、物質の純度及び製造量範囲をウェブサイトから削除することを要求できる。しかし、公衆はEUの情報公開条項の下に開示を求めることができ、欧州化学品機構はこれらの要求をオーフス条約に照らして考慮するであろう。

  • 欧州化学品機構が、会社の商業権益を侵すと通常みなす情報は、調剤の配合率、物質/調剤の正確な用途、正確な製造量、及び製造者と川下ユーザーの関連性−だけである。安全データシート(SDS)はサプライチェーンとの情報伝達に使用される会社名が含まれている。

アンドリュー・ファセイ (Andrew Fasey www.ptkltd.com17 January 2006)



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