UNEP News Centre 2012年9月5日
化学物質により生じる増大する健康と 環境ハザードを減らすために緊急の行動が必要である 情報源:UNEP News Centre, Sep 5, 2012 Urgent Action Needed to Reduce Growing Health and Environmental Hazards from Chemicals: UN Report http://www.unep.org/newscentre/Default.aspx?DocumentID=2694&ArticleID=9266&l=en 訳:安間 武/化学物質問題市民研究会 http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/ 掲載日:2012年9月9日 このページへのリンク: http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/eu/UNEP/UNEP_News_120905_UN_Report.html 【ジュネーブ/ナイロビ/メキシコシティ/ニューヨーク 2012年9月5日】 国連環境計画(UNEP)による新たな報告書によれば、持続可能ではない化学物質管理により世界中で人の健康と環境に及ぼされている増大するリスクを削減するために政府と産業による調整された行動が緊急に必要である。 これらのリスクは、先進諸国から安全対策や規制がしばしば弱い発展途上諸国への化学物質製品の製造、使用、廃棄の絶え間ない移動により、いっそう悪化していると同レポートは述べている。 本日発表されたUNEPの『Global Chemicals Outlook(世界の化学物質の展望)』は、特に発展途上国における化学物質のハザードにより引き起こされる大きな経済的負担を強調している。 サブサハラ・アフリカにおける農薬被害により発生する推定コストは現在、この地域へのHIV/AIDSを除く基本的健康サービスのための海外開発援助の年間合計金額を超えていることを同レポートは明らかにした。 2005年から2020年の間に、サブサハラ・アフリカにおける小規模農場での農薬使用に関連する疾病と損傷は900億ドル(約7.2兆円)に達する。 適切な化学物質管理は、これらの財政的及び健康への負荷を低減し、さらに生計を改善し、生態系を守り、汚染を削減し、環境に適切な技術を開発することができる−と同報告書は述べている。 この種の初めての包括的な評価である同報告書の発表は、有害廃棄物の不法な投棄を防止し、製品中の有害化学物質に対するより安全な代替を開発し、とりわけ廃棄物のリサイクルを促進するために 6月のRio+20 サミットにおける参加国によりなされた新たな約束に続くものである。 世界の化学物質の傾向とそれらの経済的影響を検証することにより、同UNEP報告は、政策策定者がこれらの約束を果たすために最も効果的なアプローチを描き出している。 ”世界中の地域社会、特に新興国と発展途上国は、経済的な発展と生計を改善するために、肥料から石油化学製品、電子機器、プラスチックに至るまで、ますます化学製品に依存するようになってきている”と国連事務次長でありUNEP事務局長のアッヘム・シュタイナーは述べた。 ”しかし、化学物質が提供する利益は人の健康と環境を代償としてはならない。化学物質の持続可能でない製造、使用、廃棄に関連する汚染と疾病は実際に、水の供給、食品の安全、健康、労働者の生産性に影響を及ぼし、主要な開発目標に向けての進展を邪魔している。サプライチェーンの全ての段階でハザードを削減し化学物質管理を改善することは、低炭素社会、資源効率、包括的なグリーン・エコノミーの本質的な要素である”とシュタイナーは加えた。 2002年の持続可能な開発に関するヨハネスブルグ世界サミット(WSSD)において、国連加盟国は、2020年までに化学物質は人の健康や環境にもたらす著しい有害影響を2020年までに最小化する方法で製造され使用されるべきとする目標を設定することを述べている。 ”この報告書『世界の化学物質の展望』で示された経済分析は、適切な化学物質管理は、教育、輸送、インフラストラクチャー、直接的ヘルス・ケアー・サービス、その他重要な公共サービスなどの分野で有効である。これは、先進国及び発展途上国における多くのグリーンでまともで健康的な仕事と生計を促進することができる”とWHOの公衆保健環境ディレクター、マリア・ネイラ博士は述べた。 ”化学物質と廃棄物の効果的で長期的な管理は、繁栄するグリーン・エコノミーのための、より健康的な環境を確実にするための、そして開発の利益を社会の中でより公平に分配するための基礎を整える”とネイラ博士は述べた。 近年、国際的協定、政府、及び企業は、化学物質を安全に適切に管理するための国家の及び国際的な能力を開発することに著しい進展を見せた。しかし『世界の化学物質の展望』は、進捗のペースは遅く、結果は非常にしばしば不十分であると述べている。
世界の化学物質傾向:環境と健康への影響 開発途上国及び新興経済国では、特に染料、洗剤、接着剤のような化学産業の製品が従来の植物、動物、セラミックベースの製品に置き換わっている。 UNEP報告書によれば、世界の化学物質販売は2050年まで年間約3%の成長を続けるとしている。 アフリカと中近東は2012年から2020年の間に化学物質製造は平均40%増大し、ラテンアメリカは33%の増加であるとしている。 このUNEP報告書の中で、経済の化学的”増大強化”名づけられていることの意味は、合成化学物質が急速に廃棄物と汚染物質の中で最大の構成をなし、したがって人と生物生息環境の化学的ハザードへの曝露を増大させているということである。
肥料と農薬からの排水は沿岸水域の酸素欠乏、又は”デッドゾーン”の増大の原因となっている。 2012年6月に発表されたUNEPの報告書『世界の化学物質の展望』によれば、世界の169の沿岸部”デッドゾーン”のうち、回復しつつあるのはわずかに13の”デッドゾーン”だけである。 残留性有機汚染物質(POPs)は、大気中を長距離移動し、その後、陸上や水源に堆積することがある。これらの化学物質は食物連鎖を通じて生物中に蓄積することがある。 例えば水銀は、水生生物により変換され、はじめに水中で見出された濃度の数万倍の化合物に水生生物中で濃縮される。 生物多様性を損なうとともに、世界中で数百万人の人々の重要な蛋白源と生計を支える漁業にも深刻な影響を及ぼす。 世界の化学物質傾向:経済的影響 化学物質の持続可能な製造、使用、及び廃棄への移行は、開発、貧困削減、及び人の健康と環境へのリスク削減という観点から著しい経済的利益をもたらすことができると『世界の化学物質の展望』は述べている。 化学物質の不適切な管理のために世界中で巨額ののコストがかかり、その多くは製造者又はサプライチェーンに関わる者による負担ではなく、社会の福祉システムや個人により負担されている。
このUNEPの報告書によれば、先進国においても発展途上国においても、サプライチェーンは長くて複雑であり、新たな化学物質化合物が導入されれば、安全基準から外れるケースが出てくる。 このことは、産業事故のリスクを増大させ、財政的にも健康にも重い負荷を課すことになる。例えば、アスベストとそれにより汚染されたへ壁板のために、世界中で1,250億ドル(約10兆円)のコストがかかり、それは現在も上昇している。 発展途上国及び新興国では、大きな経済的利益確保は、総合的害虫管理(IPM)のような持続可能な農業の実施を通じて実現することができる。 IPMには、化学物質の使用を減らし、作物の輪作のような代替手法の導入、害虫の天敵の導入、害虫の監視などが含まれる。 エクアドルのジャガイモ農場では高い農薬中毒と戦うためにIPM が導入された。このIPM農場は、化学的農薬を使用している農場よりもジャガイモの生産高が増大した上に、生産コストも20%以上低減した。報告された農薬に関連する神経系障害もまた低減した。 インドネシアは、1990年代の早い時期に、総合的害虫管理(IPM)プログラムを導入した結果、農民が農薬使用を50%以上減らし、生産高を約10%上げた。 同国の2001-2020国家IPM計画の実施により得られる経済的利益は2000年のインドネシGDPの3.65%に相当すると見積もられている。 19年の間の予測される利益は稲作農民の20,000件の急性中毒事故の回避を含み、合計累積GDP利益は2000年のインドネシアGDPの22%に相当すし、家計収入を最大5%増大させる。 加鉛燃料(ガソリン)の廃止から得られる世界の利益は、2兆4,500ドル(約200兆円)、又は世界の年間GDPの4%に達する。 よりよい化学物質廃棄物管理はまた、廃棄物からの価値のある物質の回収をもたらすことができる。これは特に電子廃棄物(e-waste)に関連しており、それらは金や銅のような貴重な金属のために回収や解体が行なわれる。 発展途上国における電子廃棄物のリサイクルは、多くが規制されていない分野で行なわれており、そこでは労働者らは、ケーブルの野焼きにより放出されるダイオキシンのような有害な化学物質に日常的に曝露している。 ガーナでは、燃焼を回避する、より安全で効率の良いリサイクル技術を導入して、リサイクルされるデスクトップ・コンピュータ1台当り45%の増収をもたらした。 さらに、電子廃棄物中に見出されるオゾン層破壊物質の90%が改善されたリサイクル技術を用いて回収された。 将来に向けての勧告 多くの諸国は過去40年間、化学物質のハザードを削減するための法的枠組み、規制及びその他の措置を実施してきた。 化学物質製造者等はまた、そのような取り組みを強化するための新たな手法とガイドラインを開発してきた。 国際的なレベルでは、UNEPが主催する国際的な化学物質管理のための戦略的アプローチ(SAICM)と国連の有害化学物質及び廃棄物条約が、適切な化学物質管理を促進するための規制的及び自主的枠組みを提供している。 しかし、そのような進展にもかかわらず、報告書『世界の化学物質の展望』は、ヨハネスブルグ実施計画の2020年目標が達成され、関連する経済的、環境的、及び健康的利益が実現されるためには、化学物質サプライチェーンの全ての段階でもっと多くの努力が必要であると述べている。 同報告書は、特に発展途上国及び新興経済国における改善された化学物質管理への世界的移行のための重要なアプローチを概観している。
ブラジルは、政府機関間の調整を改善するために化学物質の安全に関する国家委員会を設立しており、コスタリカもまた同様な組織を設立した。 ウガンダでは、国連支援の取り組みが、化学物質管理優先事項を同国の国家開発5カ年計画に統合することを監督している。 ”持続可能な農業から、環境建築(green buildings)や廃棄物管理まで、適切な化学物質管理はグリーン・エコノミーへ移行中の全ての分野にとって本質的な要素である”とUNEP事務局長のアッヘム・シュタイナーは述べた。 ”しかし、適切な化学物質管理の経済的便益を活用するために、政府省庁、公共及び民間分野、そしてサプライ・チェーン中の関係者の間により緊密な協力とより良い計画が必要である”。 ”このことは戦略的な資金調達に支えられた広範で野心的な取り組みを求める。そのような行動は、化学物質管理を国際的な政策議題のトップに高め、包括的な持続可能な開発を生み出すことに役立つ”とシュタイナー氏は述べた。 『世界の化学物質の展望』は、諸国、企業、民間社会が2020年目標に向けて進捗を加速し、化学物質の適切な管理を確実にするために、その他の特定の勧告を提示している。それらは下記を含む。
記者へのノート
UNEP支援の下に開発された3つの条約が、ライフサイクルを通じて有害化学物質の環境的に適切な管理を統制する国際的な枠組みを提供している。 有害廃棄物の国境を越える移動及びその処分の規制に関するバーゼル条約は、先進国からの有害廃棄物が発展途上国及び移行経済国に投棄されることについての懸念に対応して、1989 に採択された。 国際貿易の対象となる特定の有害な化学物質及び駆除剤についての事前のかつ情報に基づく同意の手続に関するロッテルダム条約(PIC条約)は1998に採択された。過去30年間の間の化学物質製造と貿易の劇的な増加は有害化学物質と農薬により及ぼされる潜在的なリスクを明らかにした。 残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約(POPs条約)は、POPsから人の健康と環境を守るために世界的行動の緊急の必要性に対応して2001年に採択された。これらは環境中で生物蓄積し長距離を移動することができる高い有害性と残留性を持つ化学物質である。この条約は、国際的に製造される全てのPOPsの製造と使用の廃絶又は制限を求めるものである。 UNEPは、バーゼル条約とストックホルム条約のための事務局をジュネーブに置いている。UNEPと国連食糧農業機構(FAO)は共同で、ジュネーブとローマにロッテルダム条約事務局を置いている。 これらの3つの条約に関する更なる情報:www.pops.int SAICMについて UNEPが事務局を務める国際的な化学物質管理のための戦略的アプローチ(SAICM)は、世界中で化学物質の安全性を促進するための政策的枠組みである。SAICMは、化学物質は2020年までに人の健康と環境に及ぼす著しい有害影響を最小にするような方法で製造され使用されるよう、そのライフサイクルを通じて適切な化学物質管理を達成することをその全体目標としている。この2020年目標は、ヨハネスブルグ実施計画の一部として2002年に持続可能な開発に関する世界サミットで採択された。 目的は5つのテーマに分類される。リスク削減;知識と情報;統制(governance);能力構築と技術協力;違法な国際貿易。更なる情報:http://www.saicm.org/ メディアコンタクト Nick Nuttall, Acting Director, UNEP Division of Communications and Public Information on Tel. +254 733 632 755, E-mail: nick.nuttall@unep.org Shereen Zorba, Head, UNEP Newsdesk on Tel. +254 788 526 000, E-mail: unepnewsdesk@unep.org 関連情報:
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