2017年12月 国連環境報告書
Frontiers 2017:
新たに生じている環境的懸念の問題


情報源:United Nations Environment Programme (UN Environment)
Report: Frontiers 2017: Emerging Issues of Environmental Concern
https://www.unenvironment.org/resources/
frontiers-2017-emerging-issues-environmental-concern


訳:安間 武/化学物質問題市民研究会
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2017年12月16日
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http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/eu/UN/UN_Env_
Frontiers_2017_Emerging_Issues_of_Environmental_Concern.html


薬剤耐性(AMR)から太陽光発電まで:Frontiers 2017(2027年最前線)は、地球が直面している最新の環境問題を探る

 我々の不注意な抗菌剤の廃棄が、どのようにそれらに耐性を持つ細菌を生み出すのであろうか? なぜ海洋保護区(MPA)は持続可能な開発目標を達成するために重要なのであろうか? オフグリッド太陽光発電は発展途上世界の都市のためにエネルギーギャップをふさぐことができるのか?

 国連環境の専門家らは、地球にかかわる最も新奇な環境的な挑戦に関する国連環境の年間報告書、Frontiers 2017 を発表して、これらの又はそ他の問題に対応するであろう。

 この報告書は6つの要となる新たに出現している問題取り上げている。すなわち、薬剤耐性(Antimicrobial Resistance)の環境的規模;ナノ物質;海洋保護区(MPA)及び持続可能な開発;砂及び砂塵嵐;オフグリッド太陽光発電;及び環境難民である。それぞれの問題の概要について以下に示す。

薬剤耐性(Antimicrobial Resistance)(訳注1:環境的規模を調べる

 21世紀における最大の世界的な公衆健康懸念のひとつとして、増大する抗生物質耐性(Aantibiotic Resistance)が新たに出現している。多くの研究が、この数十年間にわたる抗生物質の過剰で、しばしば不必要な投与を耐性に関連付けている一方で、耐性の出現と拡散における環境の役割についてはほとんど注意が払われていなかった。

 一旦体内に取り込まれると、ほとんどの抗生物質は尿や糞便を通じて、耐性菌と共に未代謝のまま排出される。家庭や病院からの排水中や農業排水中の様々な抗菌化合物の非致死レベルでの環境中への放出は、天然の細菌コミュニティと放出された耐性菌との直接的な接触と相まって、細菌の進化と耐性のより強い系統の生成を引き起こす。この問題の解決は、抗菌剤の放出と共に、抗生物質医薬品の使用と廃棄の問題に取り組むことであろう。このやり方で我々は新たな、そしてより多くの耐性が生じる速度を低下させることができるかもしれない。

ナノ物質訳注2:予防原則を適用する

 合成生物学と人工知能に加えて、ナノ物質の無数の応用の可能性のために、ナノ物質の周囲に新たな緊迫感が漂っている。我々はそれらについて、そしてそれらが我々のために何をすることができるのかについてもっと多くを知りたいと思う。しかし我々はまた、工業ナノ物質が将来脅威をもたらすことがあるのかどうかを知る必要がある。ナノサイズの物質は、驚くべき特性をもたらすことができるが、それはまた環境及び健康への影響を変えることができる。

 開発されるナノ物質の種類はますます増加しているので、それらを安全に利用するために、適切な安全措置が取られていない場合の、それらの長期的な影響について十分に理解されていないという深刻なリスクがある。致命的な結果をもたらしたアスベストの様な危険な物質への暴露についの過去の学習は、”害の証拠がない”ということは、”害がないことの証拠”ではないということを教えている。

海洋保護区(MPA)訳注3:持続可能な開発の利益を確実にする

 我々の海洋は、長年にわたり多くのストレスを受けている。魚の乱獲、石油掘削の様な採掘活動、ツーリズム、リクリエーション、海岸開発、汚染などは海洋生物種の生息場所を壊し、驚くべき速さで個体数を減少させている。我々は世界のサンゴ礁の半分を失っており、商業魚類資源のほとんど3分の1を持続可能でない速度で消費している。要するに、我々は海洋資源をそれらが自然に回復するより速い速度で使用している。とはいうものの、我々は健康な海洋なしには生きることができない。

 海洋保護区は、海洋と海岸の生態系の健康を維持する又は修復するためのより広い管理システムの一環として、最良の選択肢の一つを提供する。海洋保護区から得られる生態学的、社会的、および経済的利益は、持続可能な開発のための2030アジェンダの17の目標(訳注4)の多くを支える。沿岸及び領海の10%を2020年までに守るという目標はすでに達成されているが、海洋環境を保護することもまた、効果的な管理及びコスト並びに利益の共有を必要とする。最終的には、持続可能なやりかたで海洋を管理するということは、海洋保護区を推進することであり、我々が世界の海洋から活力に満ちた経済的及び社会的利益を得ることの制限ではない。

砂及び砂塵嵐訳注5: 世界的な現象を克服する

 砂と砂塵嵐の堆積は、砂漠化の前衛である。強い変動風圧は、乾燥した土地の砂、沈泥、粘土粒子を浸食し、土壌を不毛にする。嵐は大量の粒子を高く大気中に捲き上げる。それらは大陸や海洋を横断して、途中で他の汚染物質を乗せて、発生場所からはるか離れたところに堆積させ、数千キロメートル移動することができる。砂ぼこりは人間と動物に有害である。細塵への慢性的暴露は、気管系及び心血管系の病気、肺がん、および急性下気道感染症により若年死をもたらす。

 砂及び砂塵嵐の人為的原因には、灌漑やその他の目的のための過剰な取水や水域の変更はもとより、森林の乱伐及び持続可能ではない農業実施等がある。砂及び砂塵の嵐はこのようにして、国家、地域、および大陸の境界を超えて拡大している環境的及び開発の問題と関連している。長期的には、砂と砂塵嵐による脅威を低減するためは、気候変動の緩和と適応に対応する農耕地、放牧地、砂漠、および都市を含む地域における持続可能な土地及び水管理を促進する措置を取り込む戦略に焦点を当てる必要がある。

太陽光発電による解決:オフグリッド(訳注5太陽光発電のためのエネルギーギャップに橋を架ける

 約10億の人々が電気なしに生活している。近年、著しい進展があるが、2030年になっても7億8,000万の人々はまだ、送電線網につながっていない。太陽光エネルギーは、特に過疎地で送電線網につながっていない人々の基本的な電気の必要性を満たすことを約束する世界的に採用されている第一の再生可能エネルギー技術である。

 太陽光発電技術はまた都市地域にも関連してる。現在、発展途上地域の都市人口の約 4分の1、あるいは約8億8,100万の人々が、非公式な居住地に住み、電気を使用できずに生活している。近年、アフリカやアジアの低所得者層に提供する小規模分散型太陽光エネルギーシステムの急増が見られるが、世界のオフグリッド人口の少なくとも95%がそれらの地域に住んでいる。 太陽光発電製品には、改善されたバッテリー、より低い投資コスト、手ごろな融資制度、利用しやすい従量制の長所があるので、その展開に成功している。再生可能なエネルギーに関する正しい政策と規制及び将来の可能性に対する明確な展望をもって、オフグリッド太陽光発電は、手ごろで信頼性があり、現代的なエネルギー・サービスに対するユニバーサルアクセスのための、そして貧困の撲滅のための2030年持続可能な開発目標を達成する鍵となるであろう。

環境難民:人新世/アントロポセン訳注6における人の移動

 我々は;アイディア、商品、お金、そして増大する人間移動を含んで、先例のない流動性の時代にいる。約2億5,000万の人々が自分が生まれた国の外で生活し働いている。他の7億5,000万人は彼ら自身の国の中で移住している。移住は、世界中にアイディアを拡散し、関係を作り出すことはもちろん、個人及び家族に機会を提供する開発と進歩の極めて重要な推進力である。

 人口は増大し、繁栄しているので、我々の活動は、国家の境界の範囲を超えて、時には自然の環境収容力を超えて、地球のシステムを通じて次々とつなげる環境的変化を生成する。環境的変化は非常にしばしば、大気、水、及び土壌汚染;乱伐、土壌浸食及び砂漠化;水不足及び多様性の喪失という形で環境悪化をもたらす。環境悪化は人間が住み、暮らすことができる場所に影響を及ぼす。気候変動、人口増加、消費の上昇、および環境悪化は、将来、もっと多くの難民と人々の移動をもたらすであろう。


訳注1:薬剤耐性
訳注2:ナノ物質
訳注3:海洋保護区(MPA) 訳注4;持続可能な開発のための2030アジェンダの17の目標
訳注5:砂及び砂塵嵐
訳注5:オフグリッド
訳注6:アントロポセン(Anthropocene)


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