IPEN 2025年5月9日
各国は有害なプラスチック化学物質の禁止に合意する一方で、
健康と環境を危険にさらす前例のない措置を講じている


ストックホルム条約は、有害なプラスチック化学物質である中鎖塩素化パラフィンを
世界的に禁止されている物質のリストに追加する一方で、過去の禁止措置を再検討し、
新たな免除を追加した。これは、我々の健康に深刻な影響を及ぼす可能性がある。

情報源:IPEN, 09 May 2025
Nations Agree to Ban Toxic Plastic Chemicals but Take
Unprecedented Action Putting Health and the Environment at Ris
k

The Stockholm Convention added the toxic plastic chemical group
medium-chain chlorinated paraffins to its list of globally banned
substances but also reopened a previous ban for the first time,
with potentially dire consequences for our health.

https://ipen.org/news/nations-agree-ban-toxic-plastic-
chemicals-take-unprecedented-action-putting-health-and


訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2025年5月14日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/eu/POPs/IPEN/250509_IPEN_Nations_
Agree_to_Ban_Toxic_Plastic_Chemicals_but_Take_Unprecedented_
Action_Putting_Health_and_the_Environment_at_Risk.html


【ジュネーブ発】本日、ストックホルム条約締約国会議(COP)は、残留性有機汚染物質(POPs)として知られる世界で最も有害な物質の一つであり、中鎖塩素化パラフィン(MCCP)として知られる有害な工業化学物質類の大きなグループを、世界的な廃絶の対象リストに載せるべきであることに合意した。MCCP は世界で最も生産量の多い化学物質類の一つであり、玩具、床材、台所用品などのプラスチック製品や金属加工油に広く使用されている。

(訳注:MCCPの化学的構造:炭素鎖長が C14-17 で塩素含有量が45wt%以上の塩素化パラフィン。2023年開催の POPRC19では、MCCPを附属書A(廃絶)に追加することと、[非常に広い範囲の]用途での適用除外を認める勧告がなされ、適用除外の用途の一部見直しとMCCPの定義が2025年の COP12 で勧告されることとなった。|月刊化学物質管理/情報機構 2025年1月10日

 IPENは、MCCPという大きな化学物質グループの禁止決定を歓迎する一方で、長い免除候補リスト(long list of exemptions)は有害性を永続させ、今後数十年にわたって大量の有害廃棄物の発生につながると警告している。

 残念ながら、COP は史上初めて、以前の決定を再検討し、2023年に決定した高毒性物質であるプラスチック化学物質 UV-328 の禁止に関して新たな免除を認めた。COP のこの決定は、産業界の影響力に屈し、その使命と前例を無視し、人々の健康と環境の保護という COP の明確な目的よりも産業界の利益を優先させたものである。

(訳注:UV-328の用途:主な用途は自動車産業で、例えば、「紫外線による劣化または変色から素材を保護するための自動車塗料、コーティング剤、封止剤、接着剤、プラスチックおよびゴム」並びに「冷却液/作動液およびモーターオイル中の潤滑油などの様々な自動車用流体」に使用されている。|EnviX

 IPENは、2023年の UV-328 禁止に関して新たな免除を認める COP の決定を強く批判した。この前例のない措置は、動物実験において肝臓や腎臓への損傷、内分泌かく乱、生体内蓄積との関連が示されているこの化学物質による汚染の継続と地球規模の汚染を許容することになる。

 ”条約の対象となる化学物質は、地球上で最も有害な物質である。科学によって、それらが我々の健康と環境に受け入れがたい脅威をもたらすことが実証された以上、その廃絶の決定は見直されるべきではない。COPは、既に禁止されている物質に新たな例外を認めることで、条約の完全性を危うくし、その科学的根拠を損ない、人々の健康と環境を守るという使命を裏切っている”と、IPEN の科学顧問であるテレーズ・カールソン博士は述べている。

 UV-328 や類似の紫外線安定剤に対する保護措置の拡大の必要性を浮き彫りにした最近のデータがあるにもかかわらず、条約締約国は産業界の利益に屈し、2023年に合意された保護措置を弱める決定を下した。この決定は、航空宇宙産業がこの有害化学物質の継続使用を要請したことを受けてのものである。締約国は、新たな例外を追加するという過去の決定を再検討することに合意した。これは、条約史上前例のない措置である。提案された新たな免除が認められただけでなく、COP はそれ以上の措置を講じた。COPは非公開の会議で業界の提案を超え、実質的な文書化された説明や証拠もなく、コーティングにおける UV-328 の追加用途を許可した。これにより、業界が当初要求した使用量の 200倍にまで使用量が増加する可能性がある。

 COP は新たな免除を承認するにあたり、この状況の特殊性に留意し、締約国に対し、既にリストに掲載されている物質に新たな免除を追加するために改正手続きを利用することを控えるよう強く求めた。また、COP は予防的アプローチの重要性と、人の健康と環境を保護するという条約の目的を改めて強調したが、そのアプローチと目的に反する決定を下した。

 IPEN はまた、MCCP のリスト掲載に認められた免除リストの多さについても警告を発し、MCCPS は北極や南極といった遠隔地を含む環境中で既に高濃度で測定されているため、継続的な使用は特に懸念されると述べた。 IPENは、リストに化学物質の特定に関する明確な記載と追跡性の促進に関する注記が盛り込まれたことを歓迎したが、免除対象物質が多数存在するため、締約国は輸出時に追跡性性を確保することが不可欠であると強く訴えた。

(訳注:MCCP の用途を除外する規定については、経済産業省 2025年5月13日発表の「COP12 の結果の概要」を参照ください。適用除外項目数が非常に多い。

 IPENグローバル共同議長のパメラ・ミラーは、ジュネーブでの会合で、”MCCP は地球環境を汚染し、世界中の女性の母乳を汚染し、深刻な健康被害をもたらす。これらの有害化学物質の生産と使用を終わらせるべき時はとうに過ぎている。あらゆる用途により安全な代替物質があるにもかかわらず、MCCP に多くの免除が認められていることは極めて残念である。締約国に対し、MCCP のあらゆる使用を廃止し、我々の健康と健全な環境に同様の脅威をもたらす有害な代替物質の使用を防止するよう強く求める”と述べた。

 明るい材料として、ストックホルム条約締約国会議(COP)は、POP 汚染地の浄化に関する新たなガイドラインを採択した。9年間の策定を経て、IPEN のアドバイザーらが共同で起草した”残留性有機汚染物質汚染地の管理のための利用可能な最善の技術と環境に関する最良の慣行(BAT BEP)」に関するストックホルム条約ガイダンスは、COP 総会で歓迎された。

 ガイダンスの共著者であり、IPEN 技術・政策アドバイザーのリー・ベルは、”これは重要な取り組みであり、POP 汚染地の特定と浄化に関する数十年ぶりの包括的な国際ガイダンスとなった。条約発効から20年以上を経て、この大きなギャップがようやく埋められた。このガイダンスは、汚染地に関する技術、政策、法律、社会参加の側面に関する枠組みの構築に関する助言を提供し、開発途上国がこの巨大な問題に取り組むのを支援するとともに、最先端の非燃焼技術を用いた浄化プロジェクトへの資金提供の道を開くものである。このガイダンスの実施は、人命を救い、より健康的な環境を創造することにつながるであろう”と述べている。

 このガイダンスは、世界中の数十万もの POP 汚染地によって引き起こされる有害影響から、何百万人もの人々をより効果的に保護するための支援となる。このガイダンスにより、汚染地を特定、隔離、浄化することができ、人々への直接的な暴露を防ぎ、POPs による食物連鎖汚染による間接的な暴露を回避することができる。このガイダンスの重要な特徴は、従来の掘削・投棄方式や、排出物や残留物を通じて POP 汚染を拡散させる廃棄物の焼却といった手法を超えた、持続可能な浄化のための詳細な技術を提供していることである。

 ベルは、”これらの新しい技術は、排出物や廃棄物中に新たな POPs を生成することなく、PFAS を含む POPs を分解・破壊する。これは、POP 汚染土壌、堆積物、廃棄物を処理する際にさらに多くの POPs を放出する、焼却炉やセメント・キルンといった従来の汚染土壌焼却技術から大きく前進した技術であえう”と述べている。

 ストックホルム BAT BEP 専門家グループの多くの専門家らが、グループメンバーのリー・ベル(Lee Bell)とボゥデウィーン・フォッケ(Boudewijn Fokke)が起草したガイダンスに対し、意見を述べた。ガイダンスはこちらでご覧いただける。

背景

 2001年に採択された残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約は、地球規模の化学物質汚染に対処するために世界各国が締結した国際協定である。その目的は、世界で最も有害な物質から人々の健康と環境を保護することである。

 この条約は、POPs の生産、使用、排出を根絶するとともに、POPs に類似した特性を持つ新規化学物質の導入を防止し、POPs 廃棄物の環境上適正な廃棄を確保することを目的としている。この条約は、締約国がこれを達成するために講じるべき措置を規定している。また、締約国は副産物として POPs 化学物質の排出を削減し、実現可能な場合は全廃することも求められている。

UV-328 の背景

 UV-328 は、コーティング製品、接着剤・シーラント、食品接触材料、その他のプラスチックなど、数百もの消費者製品に使用されているプラスチック化学物質である。徹底的な科学的検討と専門家委員会の勧告を受け、ストックホルム条約締約国は 2023年、UV-328 が難分解性、生体蓄積性、毒性を有する化学物質であることから、世界的廃絶の対象に指定することに合意した。評価プロセスでは、UV-328 が海洋ごみなどを含む遠隔地まで長距離輸送されていることが明らかになった。UV-328 は内臓に悪影響を及ぼす可能性があり、内分泌かく乱物質としての作用も研究で指摘されている。

参考文献


化学物質問題市民研究会
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