BAN プレスリリース 2022年8月4日
有害な戦艦 ”クレマンンーII”:
ブラジルから地中海に向けて出港

バーゼル条約及びバルセロナ条約に違反−
NGOs はマクロン大統領に古いフランス空母に責任を取るよう要求

情報源:BAN Press Release, August 2, 2022
Toxic Warship "Clemenceau II": Starts Voyage from
Brazil to the Mediterranean Sea

In Violation of Basel and Barcelona Conventions --
NGOs call on President Macron to take responsibility for old French Aircraft Carrier
https://myemail.constantcontact.com/Toxic-Warship--Clemenceau-II
---Starts-Voyage-from--Brazil-to-the-Mediterranean-Sea.html?
soid=1114999858498&aid=MvHiixlMdYI


訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2022年8月8日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/basel/shipbreaking/
ban_220804_Toxic_Warship_Clemenceau_II.html


【2022年8月4日 リオデジャネイロ、ブリュッセル、イズミル】 ブラジルのリオデジャネイロからの報告によると、悪名高い空母クレマンソー号の姉妹船 (以前はフランスの軍艦 ファーシ(FOCH)として知られており、最近ではサンパウロ号と名付けられた)が廃棄される予定のトルコのアリアガへの 6,000 マイル(9,6000キロ)の旅に曳航されていることが確認された。世界中の環境保護団体は、ブラジルの輸出及びトルコでの廃棄計画を違法で安全でないと非難している。



【2022年8月4日、リオデジャネイロ】、トルコの船舶解体場への 6,000 マイル(9,600キロ)の旅に備えて、曳航船アルプセンターに係留された航空母艦サンパウロ
繰り返される歴史

 NGO 船舶解体プラットフォーム(The NGO Shipbreaking Platform)、バーゼル アクション ネットワーク (BAN)、アスベスト禁止フランス協会、アンリ ペゼラ協会 (労働、健康、環境)、国際アスベスト禁止事務局 (IBAS)、イスタンブール イシグ メクリシ、及びブラジルの ABREA は、マクロン大統領にこの船について責任を取り、 (フランスが 2006 年に姉妹船クレマンソー号に行ったように)安全で合法的なリサイクルまたは再利用を命令するよう求めた。当時、フランスはクレマンソー号をインドに輸出したが、EU 廃棄物輸送規制の下で輸出が違法であることを認め、その結果、ジャック・シラク大統領は同船のフランスへの返還を命した(訳注1)。

 「悲しいことに、歴史は繰り返されている。2006年、インド最高裁判所とフランス国務院(French Conseil d' Etat)は、フランスに対しクレマンソー号の解体に関する国際法を考慮するよう要求した」と、アスベスト禁止フランス協会のアニー・テボー=モニーは述べた。”関係する多くの国の市民運動は、国際法を尊重し、労働衛生と環境衛生を尊重するよう、2022 年に法廷で再び訴える必要があるのであろうか?”

違法な輸出

 今回、環境保護団体によると、サンパウロ号のブラジルからトルコへの移動は、バルセロナ条約の1996 年のイズミル議定書 (有害廃棄物の越境移動及び処分による地中海の汚染防止に関する議定書) 訳注2)に違反しており、違法である。同議定書は有害廃棄物がリサイクルまたは処分のために EU 加盟国に送られる場合を除き、有害廃棄物が地中海に入るのを許可しない。ブラジルはトルコに禁止を課すイズミル議定書を承認しておらず、ジブラルタル海峡における潜在的な通過国であるスペイン、モロッコ、及びイギリスに通知して同意を得ることができなかったため、船の輸出はバーゼル条約にも違反している。さらに、NGOs は、有害物質の在庫リスにト示めされる)アスベスト、PCB 類、及びその他の有害物質のレベルは かつてクレマンソー号で発見されたものよりもはるかに低く、それらは大幅に過小評価されている疑いがあると主張している。

 2000年にフランス海軍は空母サンパウロ号をブラジルに売却した。昨年、ブラジル海軍はこの船を廃棄することを決定し、トルコの船舶解体場であるソックシッピング(Sok Denizcilik)及びトレード・リミッテド(Ticaret Limited)に競売にかけた。サンパウロ号は、クレマンソー号と同様に、その船内に大量のアスベスト、PCB 類、有毒塗料などの有害物質を含んでおり、国際法の下で有害廃棄物として認定されているため、特別な貿易管理の対象となっている。 NGOs は、トルコの環境都市化省とブラジルのバーゼル条約管轄当局 (IBAMA) に、トルコでの船舶解体に関連する法律上、環境上、及び健康上のリスクについて警告した。これまでのところ、両国政府は NGOs を素っ気なく拒絶し、法律違反の主張を無視してきた。昨日、NGO のバーゼル アクション ネットワークは IBAMA の公式回答に公開書簡で回答し、ブラジルに国際法を尊重し、合法的かつ安全な解決策が見つかるまで輸出を遅らせるよう求めた。

 バーゼル・アクション・ネットワーク(BAN)のディレクターであるジム・パケットは、”トルコとブラジルが行っていることは、国家支援の犯罪的な廃棄物取引と呼ぶのが最もふさわしい”と述べた。”我々は彼らの条約違反の章と節を引用したが、それでも彼らは肩をすくめるのに等しい官僚的な対応をした。我々はかつてクレマンソー号で行動することを余儀なくされたように、我々はトルコとブラジルに条約上の義務を履行させるために複数の国の市民と世界中の責任ある政府に頼らなければならない”。

廃棄物報告の不一致

 コンサルタント会社のグリーグ グリーンは、サンパウロ号の危険物リスト (IHM) を準備していた。現在、NGOs は、この危険物リストが大量のアスベスト、PCB 類、及び放射能汚染を特定できていないことに深刻な懸念を表明している。サンパウロ号の危険物リスト (IHM) をビューロー ヴェリタス(フランス拠点の試験、検査及び認証を行う企業)がクレマンソー号のために発行した危険物リストと比較すると、特定された有害物質の量だけでなく、サンプリングされた部屋とタンクの点でも大きな違いがある。クレマンソー号 の部屋の 82% がサンプリンされたことと比較して、サンパウロ号では部屋の 12% しかサンプリングされていない。

 サンパウロ号の危険物リストは、船内のアスベスト汚染物質をわずか 9.6 トンしか見積もっていない。しかし、サンパウロ号の姉妹船であるクレマンソー号には、少なくとも 600 トンのアスベストが含まれていた。サンパウロ号での以前にアスベスト除去作業が行われたという証拠がないため、同船には同様の量のアスベストが搭載されていると予想される。

 さらに、グリーグ グリーンによって提供された危険物リスト は、PCB 類 の存在を検出していなかった。しかし、クレマンソー号 のすべての電気ケーブルには PCB 類 が含まれていると推定されていたにもかかわらず、電気ケーブルのテストは行われず、船の床、ガスケット、ゴム部品、絶縁体、塗料などに PCB 類 が使用されることは両方の空母がフランスで建造された当時一般的であった。

 サンパウロ号はさらに、太平洋で大気圏核爆弾の実験に関与しており、放射能汚染を遮蔽できる 170 トンの鉛/カドミウム塗料の存在と、放射性機器の事前の撤去に関する情報の欠如が同船は汚染されているという懸念を、それを否定する主張にもかかわらず、引き起こしている。

強く反対するトルコ市民

 船体構造物に大量のアスベストやその他の危険物が埋め込まれていることを考慮して、トルコの地元の市民社会組織、政治指導者、技術専門家、及び労働組合は現在、トルコへの船舶の輸入への強い反対に踏み出している。 ALCEP、FOCEP、EGECEP、IA、イズミルの Polen Ecology などのトルコの環境団体は、サンパウロ号の解体を止めさせるるために、生命と環境に対する憲法上の権利を行使しようとしている。

 ”トルコの船舶解体場ではすべてが順調であるという主張にもかかわらず、大量のアスベスト、有毒な塗料、及び PCB 類 は、労働者とその家族、及び除去された有毒物質と塗料を含んだ鋼が製錬されている地域社会に致命的な影響を与えている”と、イスタンブール保健安全労働監視団のアスリ・オドマンは述べた。 ”アリアアとその周辺では、長期にわたる環境及び社会的権利の侵害が行われている。今回、アリアアとイズミルの人々は、この船舶の輸入と船舶解体部門での説明責任の欠如に反対して精力的に組織化している。”

マクロン大統領は責任を取るよう求めた

 ブラジルが船の輸出を停止する要求を拒否したため、NGOs はフランスのマクロン大統領に古い船を買い戻し、安全で合法的なリサイクルの責任を再び負うよう求めている。大統領への手紙全文はこちら

さらなる詳細:

BAN のエグゼクティブディレクター、ジム・パケット
電子メール: jpuckett@ban.org
電話: +1(206) 652-5555

NGO 船舶解体プラットフォーム
電子メール: info@shipbreakingplatform.org
電話: +32 (0)260.94.419

アニー・デボモニ、アスベスト禁止フランス協会 代表
メール: annie.mony@gmail.com

アスリ・オドマン、イスタンブール労働安全衛生労働監視
電子メール: asli.odman@msgsu.edu.tr

バーゼル・アクション・ネットワークについて

 1997 年に設立されたバーゼル アクション ネットワーク(BAN)は、ワシントン州シアトルに本拠を置く米国の 501(c)3 慈善団体(訳注:アメリカ内国歳入法 第501条C項3号の規定により、課税を免除される非営利団体)でる。 BAN は、世界的な環境正義と有害廃棄物貿易の経済的非効率性とその壊滅的な影響に立ち向かうことに焦点を当てた世界で唯一の組織である。今日、BAN は、ジャーナリスト、学者、及び一般大衆のための廃棄物取引に関する情報交換所としての役割を果たしている。 BAN はその調査を通じて、発展途上国における有害なな電子廃棄物の投棄の悲劇を明らかにした。詳細については、www.BAN.org をご覧ください。

NGO 船舶解体プラットフォームについて

 NGO Shipbreaking Platform は、ベルギーのブリュッセルに本部を置く、環境、人権、労働者の権利団体の連合体である。当組織は 10 年以上にわたり、船舶解体労働者が安全な仕事を得る権利、利用可能な最善の技術を使用する権利、及び同等に保護される環境基準を世界中で求めて戦ってきた。地理的にも方向性においても幅広いサポート基盤により、標準以下の慣行について責任を問われることのない強力な海運業界の主張に挑戦している。我々は、船舶体によって引き起こされる人権侵害と汚染に対する一般の認識を高め、悪名高い船舶解体海岸でのビジネスを止めさせるための政策と市場インセンティブの両方を促進するよう努めている。我々の目標は、人権、企業の説明責任、環境の原則を包含する持続可能な解決策を見つけることである。


訳注1:クレマンソー号関連情報
訳注2:バルセロナ条約/イズミル議定書
  • バルセロナ条約( EICネット)
     「汚染に対する地中海の保護に関する条約」あるいは「地中海汚染防止条約」とも呼ばれる。UNEP(国連環境計画)の主導で1975年に地域海計画が採択され翌1976年に本条約が採択された。1978年から発効している。21カ国とEUが締約国として名を連ねている。1995年の改定により「地中海の海洋環境と沿岸地域の保護に関する条約」と呼ぶようになった。2004年7月に発効したが、未だ全ての締約国が批准しているわけではない。
  • 周辺諸国との新秩序形成に関する調査研究事業報告書 ?海上保安国際紛争事例の研究
     バルセロナ条約のイズミル議定書(Protocol on the Prevention of Pollution of the Mediterranean Sea by Tranboundary Movements of Hazardous Wastes and Their Disposal, Izmir, 1996)は、地中海地域における有害廃棄物越境移動に関して、単に事前通報を規定するに止まっている(UN. Doc., UNEP(OCA)/MED/IG9/4, 11, October, 1996.)。


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