NGO 船舶解体プラットフォーム
2020年2月4日 プレスリリース
世界中で2019年に解体された船舶のリストを発表
ほとんどの船会社は、(安全・環境を選ぶより)最悪の解体現場で最高価格を選び続ける

情報源:NGO Shipbreaking Platform, February 4th, 2020
Press Release
Platform publishes list of ships
dismantled worldwide in 2019
Most shipping companies continue to opt for the highest price at the worst scrapping yards
https://www.shipbreakingplatform.org/platform-publishes-list-2019/

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2020年3月6日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/basel/shipbreaking/NGO_Platform_200204_
Press_Release_Platform_publishes_list_of_ships_dismantled_worldwide_in_2019.html



 本日、NGO 船舶解体プラットフォーム(NGO Shipbreaking Platform)により発表された新たなデータによれば、2019年には 674 隻の外洋航行商業船舶と沖合(オフショア)施設船舶が船舶解体現場に売られた。これらの船舶のうち、469隻の大型タンカー、ばら積み貨物船(バルカー)、浮桟橋、及び貨客船は、バングラディシュ、インド、及びパキスタンの 3か所の浜辺で解体されており、世界で解体される船舶の総トン数の 90%近くを占める。

画像クリックで「2019年船舶解体記録 (2019 Shipbreaking Records)」へ

 ”バングラディシュは有害物質で汚染された寿命の尽きた船舶の解体のために好まれる場所である。干潟での汚くて危険な作業により引き起こされる取り返しのつかないダメージは広く知られているが、ほとんどの船主にとって、解体のために船舶を売る時には、(安全や環境ではなく)利益だけが決定的な要素である。”
 イングビル・ジェンセン− NGO 船舶解体プラットフォーム代表/創設者


 昨年、少なくとも26人の作業者が世界中の寿命の尽きた船舶を解体していて命を落とした。NGOプラットフォームはチッタゴンの浜で 24人の作業者が死亡した事故を報告したが、それは 2010年以来、死亡者数という点で 2019年はバングラディシュにとって最悪の年となった。少なくとも他の 34人の作業者が重傷を負った。インドの解体現場における死者総数は不明であるが、現地情報筋及びメディアは、安全に操業されていると主張する船舶解体現場で少なくとも 2人が死亡したとしているが、その施設は EU により承認された船舶リサイクル施設のリストには含まれていなかった(原注1)。


投棄国 2019年 − 最悪の解体方法

 アラブ首長国連邦(UAE)とギリシャは 2019年の投棄国リストの首位を占める。 UAE の船主は 2019年に南アジア船舶解体現場に売却された船舶の最高絶対数 45隻に責任があり、 ギリシャが 40隻で UAE に次いだ。’最悪の投棄会社’賞は、台湾の輸送船会社 エバーグリーン(長栄海運)に授与された。昨年、同社は劣悪な船舶解体手法で脚光を浴びた。2018年1月、ノルウェー中央銀行は、チッタゴンの浜で汚くて危険な解体をするのために繰り返し船舶を売却したとして、エバーグリーンへの投資を引き上げるという決定を発表した。それ以降も、同社はその方針を明確には変えていない。2019年にはバーグリーンへの 11隻の船舶が南アジアに送られた。7月23日、切断工シャヒドゥルは、バングラディシュのカビールスティールのハワヤ船舶解体現場で作業中に命を失った。シャヒドゥルはエバーグリーン社のエバーユニオン号を解体中に非常に高いところから転落し、その場で死亡した。

 ばら積み貨物船会社バージ・バルクは、最悪投棄会社の第2位である。バミューダを拠点とする船主が所有する 4隻の船が、汚くて危険な解体のためにバングラディシュに送られてきた。バージ・バルク社の解体手法は、同社が環境保護に貢献したとして最近受賞した”環境管理優秀賞”に値しないので、取り下げるようロイドのリスト・アジア・アワード(Lloyd’s List Asia Awards)に強く促すべきである。実際、作業者の命を重大なリスクにさらし、繊細な海浜環境を汚染するばかりで、賞賛すべきことは何もない。

 デンマークの巨大コンテナ海運会社マースクは、昨年、インドの海岸で 4隻の船舶を解体した。同社は、EUが承認した解体施設の使用を求める新しい EU の法律を回避するために、デンマークの船籍を捨てることを厭わなず、少なくとも 2隻の船舶が、有害廃棄物の発展途上国への輸出に関する国際的禁止及び EU の禁止に違反して EU 水域を離れた。11月には、バングラディシュの裁判所は、現金取引の GMS に売却され、2016年にイギリスから詐欺的に輸出されたマースク社の船舶 FPSO North Sea Producer の不法な解体に有罪判決を下した。

 2019年に有害物質で汚染された船舶を南アジアの海岸に投棄したその他の有名な船会社には:Costamare, CMA CGM, Diamond Offshore, ENSCO, MOL, MSC, NYK Line, Tidewater 及び Vale がある。

 インドでは現在、多くの解体現場が、国際海事機関(IMO)の香港条約による要求を満たすために、ビーチング(浜乗り上げ解体)施設を改善したと自慢している。しかし欧州委員会による最近のアラン地区の検査訪問及びメディアの報告は、潮間帯の汚染に関連する深刻な懸念;医療施設の不在;労働者の権利の侵害;安全管理に対する能力不足;沖合の石油・ガス施設に典型的にみられる水銀や放射性汚染物質を含む多くの有害廃棄物の流れを報告している。南アジアには、EU 承認の安全及び環境への要求に対応できる施設は存在しない。

 全ての船は、現金買人として知られる解体業者を介してチッタゴン(バングラディシュ)、アラン(インド)、又はガダニ(パキスタン)に売られていく。彼らは、寿命の尽きた船舶のために最高額を支払い、本質的に海浜解体現場に関連している。現金買人は、買い取った船の最後の航海にあたり、船名を変え、再登録し、船籍を変える。ブラックリストに載っているパラオ(西太平洋の諸島からなる国)、コモロ(イスラム連邦共和国)、及びセントクリストファー・ネイビス(カリブ海の島の国)は、2019年には特に一般的であり、南アジアに売却される船舶のほとんど半分が、目的地の海岸に到達するほんの数週間前に、船籍をこれらの国のひとつに変更した。多くの船舶がヨーロッパの海運会社により売られているが、 EU 船籍の下に浜で解体される船はない。

 ”政策策定者は、船を EU によって承認されている解体現場に向かわせる効果的な措置を採用する必要がある。古い船が国際海事法の実施が不十分であることで知られている船籍の下に登録されているという事実は、 EU の船舶リサイクル規則を含んで、船籍国の司法権だけに基づく法律の効力に深刻な疑義を投げかける”。
イングビル・ジェンセン−NGO Shipbreaking Platform 代表/創設者

 今日、銀行、年金基金、及びその他の財務制度は、資産価値又は顧客を選択する時に、財務収益だけでなく、社会的及び環境的基準を考慮しつつ、どのようにして浜への乗り上げではない、もっと良い船舶リサイクルの実施に向けて貢献することができるかを積極的に注視している(原注2)。警察と環境当局もまた、寿命の尽きた船舶の動きの監視を強化している。インドの浜乗り上げ解体現場に 4隻の寿命の尽きた船舶を売却することを意図したとして、初めて船主が刑事責任を問われたオランダのシートレード社(訳注:国際輸送および海運会社)の裁判に続いて、いくつかの他の不法取引の事件が捜査中である(原注3)。  環境犯罪をほう助することと甘受することは等しく罰し得る。保険会社、仲介会社、及びマリンワランティーサーベイ会社もまた責任を問われる。船舶解体の恥ずべき実施方法を解明することにより、これらの裁判は、ビジネスパートナーを選ぶときに、事前に適切な注意義務を果たすことの重要性を強調している。

 ”きれいで安全な解決方法はすでに利用可能である。我々はオランダの Van Oord 社の様な会社を称賛する。同社は、責任ある船舶リサイクル方針’’浜を離れる(off the beach)”を長年持っている。他の船主は持続可能なリサイクルのための収容能力の欠如を嘆いており、わずか 31 隻の船舶が EU 承認施設でリサイクルされたことが記録されており、そのことはこれらの解体場が取り扱うことができるのは、ほんのわずかの船舶であることを示している。
 二コラ・ムリナリス− NGO 船舶解体プラットフォーム コミュニケーション及び政策担当

  • 2019年船舶解体記録の可視化データを見るためにはここをクリック
  • 2019年に世界中で解体された全ての船舶の完全なデータ(エクセル)を見るためにはここをクリック
* NGO 船舶解体プラットフォームにより収集されたデータは様々なアウトレットと利害関係者を出典とするが、可能な限りクロスチェックが行われている。この情報が拠り所とするデータは、プラットフォームが得ることのできる最良の知識に基づくが、プラットフォームは提供した情報の精度について責任を負うものではない。もし不正確なデータが見つかれば、完全なデータに修正するであろう。提供された全てのデータは公的に入手可能であり、どのような企業秘密をも暴露するものではない。

  • 原注[1]
     EU の船舶リサイクル規則(EU Ship Recycling Regulation)は2019年1月1日に適用が開始した。同規則によれば、EU 船籍の船舶は、現在 EU リストに含まれる世界中の 41 の施設のうちの、ひとつでリサイクルされなくてはならない。EU 承認の船舶リサイクル施設は環境保護と労働者の安全のための高い基準に従わなくてはならない。 この種のものとしては最初であるこの EU リストは、独立に監査された施設のリストであり;持続可能な船舶リサイクルにとって重要な基準を提供している。安全できれいな船舶リサイクルを選ぶことを望む船主のだれでも、現在そのリストに含まれる 41 の施設のひとつを簡単に選択することができる。

  • 原注[2]
     2018年の初めにスカンジナビアの年金基金 KLP と GPFG は、ビーチング(浜乗り上げ)方式の船舶解体を行なっているとして、コンテナー船運輸会社エバーグリーンを含む 4つの船会社から融資を率先して取り下げた。

  • 原注[3]
     スコットラドでは、ダイヤモンド・オフィショア社と現金買い入れ業者 GMS は、北海で操業していた汚染の激しい 3基のプラットフォームを不法に輸出しようと試みたとして捜査を受けている。そのプラットフォームは 2018年1月以来スコットランドで勾留されている。



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