インダストリオール・グローバルユニオン 2024年2月28日
香港条約が批准された 次は何か?
情報源:IndustriALL Global Union, 28 February, 2024
The Hong Kong Convention is ratified - what next?
https://www.industriall-union.org/the-hong-kong-convention-is-ratified-what-next

訳:安間 武(化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2024年3月5日
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http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/basel/shipbreaking/IndustriALL_
240228_The_Hong_Kong_Convention_is_ratified-what_next.html


【2024年2月28日】インダストリオールとその関連団体による長期にわたるキャンペーンの末、船舶の安全で環境に配慮したリサイクルに関する香港条約が批准され、2025年6月26日に発効する。これは解体労働者にとって何を意味するのか?
訳注インダストリオール・グローバルユニオン(略称:インダストリオール、英語:IndustriALL Global Union、略称:IndustriALL)はスイスのジュネーブに本部を構える労働組合の国際組織である。組合員数 約5,000万人。国際金属労連(IMF)、国際化学エネルギー鉱山一般労連(ICEM)、国際繊維被服皮革労働組合同盟(ITGLWF)の3つの組織が統合して設立された。ウィキペディア
訳注2009年5月に採択された香港条約は、2023年6月26日のバングラデシュとリベリアの批准により発効条件が満たされ、24か月後に発効することとなった。IMO, 26 June 2023

 船舶解体は世界で最も危険な仕事と言われており、インダストリオールは業界を浄化するための最も現実的な第一歩として香港条約(HKC)の批准を求める運動を長期にわたって行ってきた。 我々は関連団体の支援を受けて、政府、船主、金融業者、その他の業界関係者に対し、条約を推進するよう圧力をかけ続けた。

 船舶解体場での死亡率は極めて高いため、第一の焦点は事故と産業病の両方から労働者の安全を改善することにあり、続いて不安定な労働、低賃金、劣悪な労働条件と生活条件に焦点が当てられてきた。 この条約は業界の変革を保証するものではないが、我々はその批准を出発点としてこれらの側面を改善できると信じている。

 2023 年は、船舶解体の世界において素晴らしいニュースが多い年であった。 バングラデシュとリベリアが昨夏この条約を批准したとき、それは発効のためのすべての条件が満たされたことを意味した。 パキスタンとマーシャル諸島も批准し、潜在的な抜け穴は塞がれた。これは、主要な船舶解体国と旗国がすべてこの条約を批准したことを意味する。 船舶解体を浄化し、平等な競争条件を作り出す必要性については、業界全体で大きな合意がある。

画像:アラン船舶解体場(クリック)

ガイドラインが正しく実施された場合、香港条約(HKC)は労働者の条件をどのように改善するのであろうか?

1. 解体場の所有者は、請負業者を含むすべての労働者の詳細を記録し、公開しなければならない

 船舶解体場が船舶を解体する許可を受けるには、対応する船舶リサイクル施設計画を管轄当局、つまり関連する政府部門に提示する必要がある。 これには、請負業者を含む船舶解体場で雇用されているすべての労働者の記録と、健康と安全の訓練プログラムが含まれなくてはならない。 訓練を修了しない限り、労働者は解体場で働くことはできない。

 これは、臨時雇い労働に依存している業界にとって重要な変化である。 解体場の所有者は通常、未登録の出稼ぎ労働者の集団に依存してきた。 大きな問題は、労働者が解体所で働いた後に病気になった時に、故郷の村に戻っても治療や補償を受けられないことであった。 この変更により、労働組合の組織化もまた容易になる。 船舶解体労働者を組織化しようとすると、雇用主は組合員を解雇する。 労働者は臨時労働者であるので、組合潰しを証明するために雇用者としての地位を証明することは困難である。 トレーニングを提供することは、より熟練した職場へのさらなる投資への移行にもつながるはずである。

2. すべての従業員は適切なレベルの安全トレーニングを受けなければならない

 安全衛生トレーニングは、特に船舶解体に関係する物質に具体的に対処し、アスベスト、ポリ塩化ビフェニル (PCB)、オゾン層破壊物質 (ODS)、防汚化合物およびシステム、カドミウム、 六価クロム、鉛、水銀、ポリ臭化ビフェニル(PBB)、ポリ臭化ジフェニルエーテル(PBDE)、ポリ塩化ナフタレン(PCN)、放射性物質、特定の短鎖塩素化パラフィンなどのような危険物質類の取り扱いのための指示と計画を含めなくてはならない。これらは労働者らが罹患する職業病の原因となる危険物質であるため、これにより大きな違いが生ずる。

 訓練プログラムは、個人防護具(PPE)の提供とその使用、火災安全、緊急対応と避難、安全と健康の訓練、環境意識と応急処置に関する訓練も含まなくてはならない。

3. 雇用主は、管理と責任の構造を示し、記録を維持しなくてはならない

 これは、危険性評価、予防戦略、立ち入り基準に対する安全性、および火気使用作業手順に対する安全性を担当する専任の安全責任者を置くこを含む。

 解体場の所有者はまた、以下も提供しなくてはならない。

4. 労働者が有害廃棄物を持ち帰るのを防ぐための、洗浄およびトイレ設備、きれいな水の提供、食事およびレクリエーションエリア、着替えおよび洗濯設備などの保健衛生設備

5. 職業病の医学的モニタリング

6. 緊急対応計画

7. 危険リストと治療手順


 香港条約(HKC)の発効は国内法の施行に依存する。 これは、船舶リサイクル国が船舶リサイクルや廃棄物管理などを対象とした国内法を策定する必要があることを意味する。 国際海事機関(IMO)は現在、バングラデシュ政府と協力して SENSREC(Safe and Environmentally Sound Ship Recycling in Bangladesh) と呼ばれるプロジェクトを通じて適切な法律と執行メカニズムの開発に取り組んでおり、インドはそのプロセスを完了しており、パキスタンでも同様の作業が計画されている。

画像:アラン船舶解体場(クリック)

公正な移行に向けて

 香港条約(HKC)の批准は、労働者の安全を向上させるための最小限かつ重要な第一歩である。 それが実際にどの程度効果的であるか、また特に危険物の処理に関するバーゼル条約に適合させるためにその要素を改善する必要があるかどうかを評価することが重要である。 しかし、現実と実際のリスクに対処するには、さらに前進し、南アジアの船舶解体業界における公正な移行に向けて取り組む必要がある。

 これには、労働組合を承認し、香港条約(HKC)の実施と業界の変革について交渉するために、労働組合、雇用主、政府の間で三者間の社会対話を創設することが含まれる。 関連する政府機関、船舶リサイクル業者、および現場の労働者を代表する労働組合の間の協力は、合同安全衛生委員会の設置、教育と訓練の提供、社会保障へのアクセスの確保、造船所の監視と検査、労働者の権利の確保に焦点を当てることになる。労働者とその組合は、業界の完全なパートナーとして認められる必要がある。

 船舶を安全にリサイクルし、グリーンスチール(訳注:生産時の二酸化炭素等の排出量を削減した鉄鋼材料のことであるが(三菱UFJリサーチ&コンサルティング)、ここでは安全で環境汚染がなく公正な手法で生産する鉄鋼材料の意。)を確実に供給することで、汚くて危険な産業を世界に純利益をもたらす産業に変える機会はたくさんある。

 これには、受託圧延機(rerolling mills)によるダウンサイクル(訳注:使わなくなったものや廃棄するものを、価値が低いものに生まれ変わらせること(SDGs message collection)ではなく、電気炉を使用して鉄鋼をリサイクルするように地元の鉄鋼産業を変革し、リサイクル産業を発展させるかもれない。 業界の他の利害関係者、特に船舶所有国および旗国、船主、金融業者、現金購入者などを議論に参加させ、財政的、技術的、政治的支援を提供する必要がある。

 しかし、公正な移行、そして影響を受ける労働者や地域社会の積極的な参加がなければ、この可能性はどれも達成できない。



化学物質問題市民研究会
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