バーゼル条約の経緯
Basel Basics

情報源:The Secretariat of the Basel Convention(UNEP バーゼル条約 事務局)

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2002年5月29日


条約の発端

 1980年代の後半、先進工業国での環境規制が厳しくなったために、有害廃棄物処理のためのコストが大幅に増大した。廃棄物を安く処理するために、”有害物質取引”が行われ、有害廃棄物は発展途上国や東欧諸国に向けて船積みされるようになった。このような不法行為が明らかになり、バーゼル条約が起草され採択されることとなった。

 最初の10年間(1989年〜1999年)、この条約は主に”国境を越える”有害廃棄物の移動を管理するための枠組みを構築することに充てられた。

次の10年間について

 次の10年間(2000年〜2010年)は、枠組みの下に条約の使命を完全に実施し強化する。さらに他の側面として有害廃棄物の発生を最小限にすることに注力する。山積する有害廃棄物に対する長期的な解決策は、量的にも有害性についても、その発生を抑えることである。1999年の大臣級会議で、次の10年間の活動方針が示された。
  • クリーンな技術と製造方法の積極的な開発と活用
  • 有害物質及びその他の廃棄物の移動の更なる削減
  • 特に発展途上国及び経済的過渡期の諸国に対する技術を通じての制度及び専門的能力の向上
  • 研修と技術移転のための地域センターの展開

有害廃棄物の削減目標

 バーゼル条約の中心的目標は、”環境的に健全な管理(environmentally sound management” (ESM))であり、その目指すところは、可能な限り有害廃棄物の発生を削減し人間の健康と環境を守ることにある。EMSとは、廃棄物の発生から保管、輸送、処理、再利用、再生回収、そして最終処分までを強力に管理する”統合的ライフサイクル・アプローチ”により対処することである。

 有害物質の生成を除去するための”クリーン製造”技術は経済的にも、環境的にも有効であるということを多くの企業がすでに立証している。国連環境計画 (UNEP) の技術・産業・経済部門は”最良の方法”を見出し、それを広めるために活動している。

 次の10年間は、EMSに対する革新的なアプローチを創造するために、産業界と研究所がパートナーシップを結ぶことがより重要となるであろう。EMSにとって最も重要なことの一つは有害な副産物を生じるような製造とサービスへの需要を抑制することである。消費者は製造プロセス/方法について学び、日々、どの商品を購入すべきかよく考える必要がある。

実施と強制の概要

 バーゼル条約はその実施と遵守をモニターするために特別な用意がなされている。条約中のいくつかの条項は、条約に同意した国に対し、条約への背反行為を防ぎ、またこれを罰する処置を含む適切な実施措置と強制措置を取ることを義務付けている。

有害廃棄物の移動管理システム

 有害廃棄物は人間の健康と環境に対し脅威を与えるので、バーゼル条約の基本原則の一つは、その脅威を最小にするために、有害廃棄物は可能な限りその発生場所に近いところで処理されるべきであるということである。従って、この条約においては、有害廃棄物または他の廃棄物の国境を越えての移動は、輸出国から輸入国の輸入・輸送当局への書面による事前の通知がある場合にのみ行うことができる。
 有害廃棄物または他の廃棄物の各出荷には国境を越える地点から処分地点までの移動証明書類を添付しなければならない。移動証明書類のない出荷は違法である。さらに、これらの廃棄物をある特定の国に輸出することは全面的に禁止されている。
 ただし、もし輸出国に有害廃棄物を環境的に健全な方法で管理・処理する能力がない場合には、国境を越えての移動を行うことができる。

有害廃棄物の各国報告

 条約加盟国は有害は器物の発生と移動に関する情報を報告することが義務付けられている。毎年、質問票が加盟国に送られ、条約に規定される有害廃棄物の発生、輸出、輸入に関する情報を報告するよう求められる。この情報は事務局によって照査の上編集されされ、統計表やグラフを含む年次報告書で公表される。これらの資料はウェブサイト http://www.basel.int/ で入手することができる。

条約による技術的支援

 加盟国のみならず関心のある組織、企業、産業団体、その他関係者が廃棄物を環境的に健全な方法で管理・処理できるよう支援するために、事務局は、各国の法体系の整備、有害廃棄物の在庫管理、研究機関の強化、有害廃棄物管理状況の評価、有害廃棄物管理と政策立案ツール計画について協力する。さらに有害廃棄物管理に関連する個別の問題を解決するために各国に対し法律的及び技術的なアドバイスを行う。有害廃棄物の漏洩など緊急事態の場合には、事務局は加盟国及び関係国際機関と協力して、専門家の派遣及び機器の供給などの形で迅速な支援を行う。

有害廃棄物の管理と削減に関する研修

 バーゼル条約を実施する上で、有害廃棄物の管理と処分に関する能力を培うことは不可欠である。研修と技術移転を通じて、発展途上国及び経済的過渡期の諸国は適切な有害廃棄物管理に必要な技術とツールを得ることができる。その実現のためにバーゼル条約は研修と技術移転のための地域センターを次の諸国に設立した。アルゼンチン、中国、エジプト、エルサルバドル、インド、インドネシア、ナイジェリア、セネガル、スロバキア、南アフリカ、ロシア、トリニダードトバゴ、ウルガイ。

 センターの役割は諸国がバーゼル条約を実施できるよう援助することである。重要な活動としては、条約の実施に関するアドバイスとともに専門的及び技術的課題に関するガイダンスを提供することである。

条約のたどったマイルストーン

1999年 責任と補償に関する議定書−輸出、輸入あるいは処分中の不慮の事故による有害廃棄物の漏洩による損害に対する責任と補償に関する議定書が1999年に採択された。

1999年 大臣宣言−COP-5会議で採択されたバーゼル宣言により次の10年間の議題が有害廃棄物を最小限にすることを強調しつつ設定された。

1998年 廃棄物の分類と特性−バーゼル条約の専門家ワーキンググループは個別の廃棄物に対し有害または非有害の特性を示したリストを承認した。これらのリストは後に加盟国により承認されたが、これにより条約の適用範囲が明確になった。

1995年 禁止条項に関する改定−改定案は、新たに条約に付加されたAnnex[ に示される諸国(EU 諸国、 OECD 諸国、及びリヒテンシュタイン)から他のすべての加盟国への有害廃棄物の輸出をいかなる理由があろうとも禁止するものである。この禁止条項を発効させるためには、採択時に62加盟国の批准が必要である。

1992年 バーゼル条約発効

1989年 採択−発展途上国における先進工業国による有害廃棄物の無差別投棄に対する世界中の抗議の後、スイスのバーゼルで外交官会議が開催されバーゼル条約が採択された。

よくある質問

バーゼル条約を必要とした当初の世界規模の問題とは何か?
 発展途上国での先進工業国の企業による不法投棄事件など無秩序な有害廃棄物の移動と投棄

なぜ有害廃棄物は問題なのか?
 無差別に投棄されたり、事故で漏洩したり、適切に管理されないと、深刻な健康問題を引き起こし、死をもたらし、水や土壌を数十年にわたって汚染する。

バーゼル条約とは何か
 有害廃棄物の問題解決をめざす世界的な条約で、2000年4月現在、135カ国とEUが批准している。スイスのジュネーブにある事務局が条約と関連協定の実施を促進している。事務局はまた法的及び専門的課題に関する支援と指針を提供し、統計的データを収集し、廃棄物の適切な管理のための研修を実施している。事務局は国連環境計画(UNEP)によって運営されている。

バーゼル条約の主要な目標は何か?
 −有害廃棄物の発生を量及び危険性双方の観点から最小限にすること
 −可能な限り発生源に近い場所で処理すること
 −有害廃棄物の移動を削減すること

どのような範疇の有害廃棄物が条約に適用されるのか?
 有毒性、有害性、爆発性、腐食性、可燃性、生体毒性、感染性

”環境的に健全な管理 environmentally sound management(ESM)”とは何か?
 ESMとは有害廃棄物の発生を最小限にするために、すべての現実的な措置をとり、その保管、輸送、処理、再使用、再生回収、最終処分を厳密に管理することであり、その目的は人間の健康と環境を守ることである。

(訳:安間 武)



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